自身の本質
停止世界が発動されてからおよそ30時間。私はその間、宵ノ森さんと近接戦で張り合っていた。しかし、宵ノ森さんの提示した課題、「万象の拒絶を使い、停止世界を破る」は、未だにクリアできていなかった。
蓮斗「闇系統上位魔法・黒蛇絞殺」
宵ノ森「おっ、上位魔法も使えるようになって来たね。うん、成長してるね。」
そう軽口を叩きながら宵ノ森さんは私の放った上位魔法をいとも容易く蹴り破った。
蓮斗「なんか、そんな簡単に破られると、自信無くします。それはそうと、上位魔法くらい使えないと、宵ノ森さんに一方的にやられるって昨日分かったんで。」
宵ノ森「アッハッハ。確かにそうだね。それで?この停止世界を破る方法は思いついた?」
蓮斗「これといったヒントも無いんで、まだ全然分かりません。」
宵ノ森「そう。でも残り6日の間にこの停止世界を攻略してね。」
蓮斗「分かりました。」
〜6日後〜
蓮斗「ぜぇ、ぜぇ...」
蓮斗「(ダメだ、全く方法が今戦い始めてから何日たった...?ダメだ頭が回らない。)」
私が仰向けで倒れながらそんな事を考えてる姿を宵ノ森さんは静かに見ていた。
宵ノ森「(訓練を開始してから約165時間...その内、黒王戦鬼を発動している時間は約162時間。初めての通常下での発動にしては中々良いね。でも、やっぱりまだ完全じゃない。まだ、自分の力を正しく扱いきれてない。だったら、、、、)」
私が息を少し整え、体を起こすと宵ノ森さんが私を呼ぶ声が聞こえた。
蓮斗「どうしたんですか?龍灯さん。」
宵ノ森「一つ質問なんだが、君は自分に特殊異能をどこまで知っている?」
蓮斗「...?質問の意図が見えないんですけど...」
宵ノ森「聞き方を変えよう。君が持つその〝万象の拒絶〟がどう言った物か、君は正しく理解しているか?」
蓮斗「え、覇王の話によれば、ありとあらゆる魔法物理の影響を無効化するって聞いてます。」
私がそう答えると宵ノ森さんは驚いた表情をし、その場で固まった。
蓮斗「ど、どうしたんですか?龍灯さん。」
私すぐに立ち上がり宵ノ森さんの近くへ駆け寄った。瞬間、
宵ノ森「あんの、馬鹿!!!!」
蓮斗「うわぁ!?」
突如として宵ノ森さんが咆哮を上げた。私は突然の事で驚き、尻もちを着いてしまった。
蓮斗「どうしたんですか!?龍灯さん!?」
宵ノ森「どおりで、話が少し噛み合わないと思ったんだ!あの阿呆、肝心なことを伝えていないじゃないか!!!」
宵ノ森さんは私の声が聞こえていないのか誰かに向けた恨み言を吐き出していた。私がその姿を見て硬直していると、恨み言を吐き出しきった宵ノ森さんがハッとした顔で私に駆け寄る。
宵ノ森「ごめん蓮斗君!私ったら少し感情的になりすぎてしまったわ。体大丈夫?」
蓮斗「は、はい、大丈夫です。」
突然の事でまだ頭が情報を処理し切れていないが宵ノ森さんの話を聞く事にした。
宵ノ森「蓮斗君、君がさっき言った効果は君の特殊異能の一部に過ぎないの。本当の効果は、世界のルール内で起こる全ての事象を無効化、並びに反転させるの。その効果は実際、世界にすら干渉できるの。」
蓮斗「世界のルール内の全て?反転?世界に干渉?」
私は突然言われた真実に先程の出来事を処理していた脳が混乱を極めていた。その様子を察したのか、宵ノ森さんが苦笑いをしていた。
宵ノ森「順を追って説明するね。まず一つ目、世界のルール内って言うのはその言葉の通りの意味。世界のルール、または理の中で起きた事象を蓮斗君は問答無用で無効化するの。2つ目、反転って言うのは、害になりうるものを反転させる効果。でもこれはまだ、発動はしてないと思う。そして最後、世界に干渉するって言うのは、私が使う世界を塗り替える技なんかを、自身の周囲の空間ごと無効化するの。」
蓮斗「な、なるほど...?」
もはや私の脳内は上層の処理を放棄した。自身の持っていた能力の詳細を何一つ理解していなかった事実がグサグサと突き刺さる。
宵ノ森「それでこの最後の、世界に干渉する力は、おそらく蓮斗君の技に付与できると思うんだ。」
蓮斗「!!」
私はその一言を聞き少しだけ希望の光が見えた。
蓮斗「それが出来れば、もしかしたら...」
宵ノ森「そう、この停止世界を破ることが出来る。だから、その力が鍵になる。」
宵ノ森さんは言い終わったはその場に立ち、
宵ノ森「じゃあ、訓練を再開しようか。」
そう言い私に手を差し伸べた。
蓮斗「はい。」
私が手を取り立ち上がると同時に訓練は再開された。
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宵ノ森「蓮斗君、もっとイメージしろ!自身の能力の本質を!それを自分が使う魔法に合わせるイメージだ!!!」
話している時は普通なのに、訓練となると人が変わる。私は再び宵ノ森さんにボコボコにされていた。
蓮斗「イメージ、イメージ.....イメージの仕方が分かりません!!!!!」
宵ノ森「それを考えるのが君の仕事だ!!」
蓮斗「オボフゥッ!!!」
そう言い私は宵ノ森さんに殴り飛ばされた。
蓮斗「(自身の特殊異能を魔法に付与するってどうするんだ!?考えろ考えろ!)」
私が高速で脳を回転させているとふと思い当たるものがあった。それは、荒山厳十郎だった。それは私が初めて暴走を起こした時、荒山総司令官は自身の特殊異能を自分の肉体に付与していた。
蓮斗「(断片的とはいえ、黒王戦鬼が見た景色が見える...少しは制御出来てきてるって事かな?)」
私はその場で足を止め深く息を吸い吐く。そして思考加速によって思考速度を倍化、並列思考でのイメージ構築を開始した。
宵ノ森「まさか、使うのか?最上位魔法を!」
宵ノ森さんが何かを言っている。しかし私の耳には届かなかった。私は今まで幾度となく最上位魔法の発動に失敗している。しかし、今は不完全ながらも根源魔法を使えている。そこに賭けて、一か八かの発動を試みる。
宵ノ森「氷系統上位魔法・氷柱雨」
宵ノ森さんは私に容赦なく攻撃を加える。しかし、私はそれを根性で耐える。鼻や目、口からの出欠。明らかに私はまだ最上位魔法を扱うステージに至っていない。だが、今の私は諦めない。宵ノ森さんから得たヒント、滝壺さんの教え、楽海さんに教わった魔力操作。その全てを駆使して魔法を発動させた。
蓮斗「闇系統最上位魔法・死界黎滅」
瞬間周囲を青黒い光が包んだ。その光は変化するはずない世界を一瞬にして破壊し、風化させていく。その光景を見た宵ノ森さんは驚き、尚且つ笑っていた。
宵ノ森「すごいね、蓮斗くん...!!」
その光が収まると同時に停止世界は崩壊した。今まで結界に覆われ、外界と絶たれていた私たち二人は、訓練最終日終了の3時間前に元の世界に戻ってきたのだった。




