黒王再来
気がつくと私は仰向けに倒れていた。何があったのかか全く分からない。そして、この状況を作った人物はゆっくりとこちらに歩いて来ていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
滝壺「稽古と言ってもまず君の正確な実力を知りたいから初めは模擬戦をしようか。」
滝壺さんは訓練の準備をしている私にそう言った。滝壺さんが言うには力量は正確に見極めることで訓練の内容を調整するため、らしい。ごもっともな意見なので私は模擬戦を承諾した。
滝壺「蓮斗君は今使える魔法を全部使っていいよ。ハンデとして俺は下位魔法しか使わない。それでいいかな?」
蓮斗「問題ありません。では、新島さん開始の合図をお願いします。」
新島「分かった。....それでは、開始!」
私はその掛け声が聞こえた瞬間、滝壺さんに急接近し低い位置から顔を蹴り上げた。しかし滝壺さんはそれを完璧に避けた。それならば
蓮斗「雷系統中位魔法・黒雷掃射」
無数の黒い雷が滝壺さんを襲う。20発の黒い落雷が滝壺さんを同時に襲うが、これも無傷。
蓮斗「強化系統魔法・身体強化」
私は魔法ではダメージを与えられないと踏み近接戦を試みた。私の猛追を滝壺さんは軽く躱し、反撃を放つ。その反撃は私の腹部を狙ったただのパンチ。しかし、私は吹っ飛ばされた。ダメージはないが、異常なまでに強い。
蓮斗「(分かってたけど、この人攻守共に隙が一切ない上に身体能力も異常に高い...!)」
滝壺「敵を前にして考え込むのは、戦場じゃ悪手だ。気をつけて。」
その声がしたのは私の頭上からだった。声が聞こえた瞬間防御魔法を展開したが呆気なく魔法は砕かれ私は蹴り飛ばされた。
蓮斗「(嘘だろ?今私は滝壺さんから目を離してなかった...!なのに、気づいたら頭上にいた...!?)」
先程からどれだけ攻撃しても無傷or躱すの二択。私は滝壺さんに仕掛けながら思考を巡らせていた。
蓮斗「(何か、なにか違和感がある!どこだ?この違和感は何処から来てる?....まさか!)」
蓮斗「水系統上位魔法・深淵峡谷」
滝壺「...!深海の地形をこの場所に顕現させたのか、なるほど、考えたね!」
蓮斗「雷系統上位魔法・雷竜電爪!」
滝壺「(深海の環境で動きを鈍らせてからの水と相性のいい雷魔法での追撃!いいね!)」
滝壺「火系統下位魔法・火球連弾」
滝壺さんが放った魔法は強かった。私の上位魔法と相殺するほど強かった。だが、その相殺するのを待っていた。
蓮斗「貰った!」
月柳「上手い!」
蓮斗「風系統上位魔法・斬風鏖刃!」
滝壺「やるね、君。」
魔法同士が相殺した時に生じる煙を利用し私は滝壺さんの背後を取った。間髪入れずに0距離から上位魔法を叩き込んだ。
蓮斗「少しはダメージが有ると良いんですけど。」
願望に近いモノを呟きながらその場から距離を置く。滝壺さんの姿は依然として舞い上がった砂煙で見えない。時間にして10秒ほどが経った時、
蓮斗「!?」
ナニかが飛んできた。魔法かと思ったが、アレには魔力が一切籠っていなかった。今の攻撃で砂煙が晴れてきて、滝壺さんの姿が見えた。そこには大きな炎の鎌を持った滝壺さんが立っていた。
蓮斗「一応聞いておきますけど、怪我は...?」
滝壺「見ての通り無傷だよ。まぁ一瞬焦ったけどね。今の攻撃は良かった。」
蓮斗「分かってはいましたけど今ので無傷だと少し凹みますね。」
滝壺「はは、そう悲観しなくて良いよ。コレ、本来抜く気なかったけど、案外君が強くて、出しちゃったよ。」
そう言いながら滝壺さんは大鎌をクルクルと回している。しかし、無傷なのは予想通り。
蓮斗「今やり合って分かったことがあります。」
滝壺「分かった事?」
蓮斗「えぇ。滝壺さん、貴方魔法に対しては絶対的な防御を持っているが、物理攻撃に弱い。違いますか?」
滝壺「正解、よく分かったね。どうして分かったのか聞いてもいいかな?」
蓮斗「簡単な事です。貴方は私が魔法を放った時は一切防御行動を行っていなかった。なのに物理の蹴りやパンチだけは躱していた。だからそこから憶測を立てたまでです。」
滝壺「なるほど、頭の回転は早いのか。これなら稽古も早めに始められそうだ。」
蓮斗「そうですか、良かったです。では模擬戦は終了ですね。」
滝壺「いや、まだだよ?」
蓮斗「へ?」
滝壺「久々に体を動かしてたら楽しくなってきた。ここからは俺も上位魔法を解禁するとしよう。」
月柳「待て間宮!殺すつもりか!?」
滝壺「大丈夫だよ月柳。蓮斗君は怪我をしない。それに致命傷でも俺なら治せる。」
新島「ストップ、ストップ!流石に貴方が上位魔法使うのはまずいですよ!さっき見てましたけど蓮斗くんの上位魔法を下位魔法で相殺してましたよね?流石に危険です!」
蓮斗「新島さん大丈夫です。私も上位魔法を使う滝壺さんと戦ってみたいです。」
新島「で、でも...」
月柳「(間宮の奴、まさか黒王戦鬼を...?)」
月柳「(間宮よ、お主まさか黒王戦鬼をここで出させるつもりか?)」
滝壺「(さっき言ったのも本当だけどそれが目的だ。ここまで動ける蓮斗君が黒王戦鬼を出したらどこまで強いのかここで見ておきたい。)」
月柳「(....分かった。しかし黒王戦鬼となれば妾の結界が破られるやもしれん。お主も結界を張れるか?)」
滝壺「(余裕だよ。じゃあ話はまた後で。)」
滝壺「蓮斗君!君も本気でこい。怪我させるとかの心配はいらない。正真正銘の本気で掛かってこい。いいね!?」
蓮斗「はいっ!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
滝壺「土系統上位魔法・土龍双牙」
蓮斗「強化系統魔法・脚力/思考加速」
2人の戦闘が始まった。先程までは模擬戦という事で少し力をセーブしていたのだろうが今は一切の遠慮のない本当の戦いがそこにはあった。滝壺さんの魔法の強さも凄まじいがそれよりも蓮斗くんに目が向く。今使っている魔法は学園都市で学んだ「地脈接続」を応用して大量の魔力を利用して行う思考加速だ。認識速度を何十倍にも引きあげてその認識速度に体がついて行けるように身体能力も底上げしている。確実に以前よりも強くなっている。
月柳「凄まじいな、童よ。その歳でもうその領域にいるのか。」
月柳さんがそう言う。目を見張り食い入るように2人の戦闘を見ている。
滝壺「風系統上位魔法・乱風崩災」
魔法発動と同時に複数の大きな竜巻が出現し境内の地面を引き剥がし破壊していく。それに対し蓮斗くんは
蓮斗「雷系統上位魔法・雷速閃光」
自身を雷とし、音速の壁を突破。そのスピードは凄まじく魔法を破壊しながら滝壺さんに突っ込む。
蓮斗「雷速閃光・回蹴」
雷の速度で回転しながら突っ込んだ。綺麗に腹に入ったと思ったが滝壺さんは大鎌の柄の部分で受け止めていた。蓮斗くんを弾き返すと滝壺さんは大鎌を大きく振り上げ蓮斗くんに振り下ろした。
蓮斗「ぐぅぅぅ!!!」
そう蓮斗くんは唸り声を上げながら地面に叩き付けられながら50m程吹き飛ばされた。
新島「なんで、なんで?なんで蓮斗くん、怪我してるの...?魔力がある限りどんな攻撃も聞かないはずじゃ....?」
蓮斗くんの腕は皮膚が斬られ夥しい量の血が流れていた。
蓮斗「(間一髪で防御魔法が間に合った...!でも、なんで私は怪我をした!?魔力は一切減ってないのに、くそっ、分からない!)」
蓮斗「水系統上位魔法・仙水ノ恵」
蓮斗くんはすぐに回復を図った。傷を治している間滝壺さんは1歩も動かなかった。
新島「月柳さん!なんで蓮斗くんが怪我したのか、原因が分かりますか?」
月柳「原因か、おそらくではあるが、あの童の特殊異能は無条件に防御できないのかもしれん。」
新島「と、いいますと...?」
月柳「これは妾の憶測でしかないが、あの童の能力は何かしらの条件を満たすと攻撃が無効化される。しかし、その条件を突破した時、あの童に傷を負わせられる。と、思うのじゃ。」
新島「何かしらの条件...そう言えば、以前蓮斗くんは覇王様との戦いでも傷を負ってました。あの時は魔力が切れて意識を失ってから黒王戦鬼が出てきました。その際にとてつもないスピードで魔力が回復してました。」
月柳「つまり覇王は魔力があるあの童に傷をつけたと...覇王と間宮の共通点か...なるほど、そういう事か。」
新島「何か分かったんですか...?」
月柳「ああ。おそらく、奴の特殊異能の本質は世界のルール内で起きる事象の拒絶じゃ。」
新島「世界のルール内で起きる事象の拒絶...?」
月柳「そうじゃ。おそらく今まで魔力ありの童に傷をつけたのがあの二人だとすると、そうなのではないかと妾は思うのじゃ。」
蓮斗「火系統上位魔法・爆炎樹林!」
滝壺「雷系統上位魔法・雷獣跋扈」
月柳さんと話していると戦闘が激化していく。互いに魔法を放ち近接戦でやり合う。正直、私は戦いの余波だけで体が震えてしまう。
月柳「覇王もそうだが間宮も言ってしまえば世界の枠から飛び出した異端者。童に傷を負わせるのも訳ないといという事じゃ。」
新島「............!」
私はその話を聞きながら2人の戦いを見守る。正直言ってここまでの戦いが起きるとは想像もしていなかった。
滝壺「貰ったよ、蓮斗君。」
蓮斗「がはっ........!!」
その瞬間蓮斗くんは滝壺さんによって袈裟に斬られ、その場に力無く倒れた。2人が戦っていた時間はおよそ23分。もう十分だろうと思い結界の中に入ろうとした時空気が変わった。以前体験したあの、暗く冷たいモノを感じた。
新島「ひっ....!」
月柳「まさか本当に出てくるとはな....」
蓮斗くんからどす黒い何かが溢れてくる。そして蓮斗くんはその場に立ち上がった。
蓮斗「.........」
言葉は発さない。ただ、とてつもなく嫌なモノを纏い始めた。徐々に姿が変化していく。四肢が黒く異形化し、黒い角が2本生え、両目の色が反転した。間違いなくそこには黒王戦鬼が立っていた。私が恐怖で震えていると月柳さんが私を抱き寄せた。
月柳「大丈夫じゃ。童は間宮が何とかする。」
そう言いながら私の頭を優しく撫でてくれた。
滝壺「君が、黒王戦鬼か。うん、確かに今までの蓮斗君とは比べ物にならないほど強いね。」
そう滝壺さんは言った。ダメだ。早くそこから逃げて、と言おうとした瞬間黒王戦鬼が滝壺さんに攻撃を仕掛けた。直撃だ。即死したと思ったその時。
滝壺「いやー、パワーもめっちゃ上がってるじゃん。でも、これで俺も少しは本気出せそうだ。」
黒王戦鬼「........!」
黒王戦鬼は滝壺さんから何かを感じとったのか後ろに飛び距離をとった。すると滝壺さんがこう呟いた
滝壺「祟炎魔法...」
黒王戦鬼「kjoshuhakkanojpdkpnab」
新島「最上位魔法...!滝壺さん避けて!」
月柳「いや、間宮の方が早い。」
滝壺「火神焼却之祟呪・壱〝血狂い〟」
両者の魔法がぶつかり合った。互角かと思った時黒王戦鬼に異変が生じた。
黒王戦鬼「ゴフォッ.......?」
黒王戦鬼がその場に膝をつき吐血したのだ。私は何が起きているのか分からず月柳さんに視線を向けると説明を始めた。
月柳「間宮の魔法、祟炎魔法は発動したした瞬間自身の取り決めた範囲に無条件の出血、衰弱、発狂の祟りを起こす。それは段階を追うごとに効果が強まるのじゃ。今は1段階目の状態じゃ。倒れるなら今が1番楽なんじゃ。」
滝壺「弐〝衰弱地獄〟」
新島「す、すごい。あの黒王戦鬼が何も出来ずに」
月柳「大抵の者はここで倒れるが、どう出る?黒王戦鬼。」
そう言いながら黒王戦鬼を見ると、立ち上がり滝壺さんに向かっていく。しかしその手は滝壺さんに届くことは無かった。
黒王戦鬼「jijojojekpkplaudhijpas」
黒王戦鬼がその場で詠唱を始めた。彼はまだ戦いをやめるつもりは無いらしい。しかし最上位魔法を放とうとした瞬間魔法が燃えた。黒王戦鬼は何が起こったのか分からないと言った表情を浮かべた。無論、私も分からない。そして滝壺さんが最後の段階を発動する。
滝壺「参〝心狂いし者〟」
そう唱えた瞬間、黒王戦鬼が絶叫した。その声はとても暗く、怒りを孕んで自身の倒れる大地に頭をうちつけた。
月柳「あの者、3つ目の祟りに抗っておるのか...ああまでして何故あの者は戦おうとするのじゃ...?」
月柳さんは黒王戦鬼のまさに狂気と言った姿に絶句していた。しかしそれを目の前にしている滝壺さんは一切表情を変えない。
黒王戦鬼「ガァァァァァァァァァァァ!!!」
黒王戦鬼は咆哮を上げ滝壺さんに突っ込む。3つの祟りを受けているのにも関わらずその気迫は一切衰えていなかった。しかし、黒王戦鬼は滝壺さんに地面へと叩き付けられた。それでも滝壺さんに向かい手を伸ばす。まさに異常だ。
滝壺「なるほど、十分わかった。もう、いいよ。」
そう言うと滝壺さんは掌印を結んだ。
滝壺「今は眠れ、黒王戦鬼。」
「祟炎魔法・崇拝信仰焼爛火月」
そういった途端黒王戦鬼の体に火がついた。私は驚愕したが何故か黒王戦鬼は一言も発さない。ものの数分で火は消えそこにはいつもの蓮斗くんが眠っていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
気がついた私はその場に起き上がった。こちらに向かって来ていたのは滝壺さんだった。
蓮斗「もしかして私、寝てました?」
滝壺「うん、ぐっすり寝てたよ。眠かった?」
蓮斗「さぁ?何かいきなり意識が飛んだような...」
滝壺「まぁそんな日もたまにはあるよ。じゃあ今日はここでおしまいだね。」
蓮斗「え、もう終わりですか?」
滝壺「おーわーりー。ご飯持っていかせるから君は社の方で休んでな。」
蓮斗「分かりました。」
私はちょっとした違和感を感じたが滝壺さんの言う通り社の方へ行き休むことにした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
滝壺「2人とも、ここであったことは他言無用だ。いいね?あと、いきなりごめんね新島さん。」
新島「い、いえ。すごくびっくりしましたけど、大丈夫です。あと、他言無用ですね、分かりました」
月柳「あいわかった。」
そう短く話すと今日のところはお開きとなった。
新島「(それにしても、あの黒王戦鬼をあんな一方的に、、、それに最後の焼爛火月って、まさ、かね...?)」
そんなことを思いながら私と月柳さんは社の方にいる蓮斗くんの元へ行くことにした。




