「冠位」と「冠位指定執行官」
凛ちゃんを家に迎えた翌日、私はいつも通り香織と翔さんと共に通学していた。昨晩はまだちゃんとした手続きが終わっていなかったので凛ちゃんは国防軍の本部の仮眠室に泊まることとなった。そして今日母さんが正式な手順で凛ちゃんを我が家へと招くそうだ。その事について私は香織立ちに相談した。
蓮斗「香織さんと翔さんに聞きたいんですけど、中学生位の女の子との距離感ってどれ位が適切なんでしょうか。」
香織「うーんそうだね〜、やっぱりあんまり過干渉はよくないと思うな〜。」
翔「俺も香織の意見に賛成だな。中学生って結構難しい年齢だし、慣れるまでは適切な距離感を保った方がいいと思うぞ。」
蓮斗「やっぱり、そうですよね。昨日はその場の勢いと私自身の考えで凛ちゃんを我が家で引き取るって言っちゃいましたけど、そこら辺は異性の兄妹である2人に聞いた方が分かりやすいと思いまして。」
翔「にしても、あの蓮斗がいきなり中学生の女の子を引き取る事になったって言った時は目ん玉飛びれるかと思ったぞ。」
そう言い翔さんは笑った。正直私もそう思う。あの時、私は凛ちゃんの境遇を聞いてどうしても助けたいと思った。だからといってあんな突拍子も無い提案をした事に自分でも驚く。
香織「でも、良いんじゃない?蓮斗が、自分の意思で助けたいと思ったんでしょ?なら私たちは反対なんかしないよ!」
蓮斗「香織さん...ありがとうございます。」
香織「いーのいーの!あっ!もう学校着いちゃったね。じゃぁお兄ちゃん、またお昼食堂でねー!!」
翔「おう。じゃぁまた後でな。蓮斗。」
蓮斗「はい。」
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今日の授業は生物を逸脱した存在、「冠位」についての授業だった。「冠位」、あの覇王や天廻龍が分類される頂上的な力を持つ者達の総称。
先生「えー、まず冠位とは何かと言うと、神と呼ばれる存在の更に上位に君臨するまさに神々の王達と呼ばれる程の力を持つ存在です。その力は生物である以上我らでは図ることが出来ないものです。」
蓮斗「(神々の王達か、確かに以前会ったことのある覇王や天廻龍からはとてつもない圧を感じた。あれって冠位の強さから来るものだったのか...)」
先生「そして、この世界に存在する冠位の数はこの冠位とは違いますが「冠位指定執行官」を含めると30体存在していると言われています。」
香織「はーい。先生質問がありまーす!」
先生「はい。美月和さん、質問をどうぞ。」
香織「冠位って本来の冠位が27体で冠位指定執行官が4人で31体だと思うんですけど、なんで30体って言ったんですか?」
先生「いい質問ですね美月和さん。厳密に言うと「冠位指定執行官」の人数は3体なんです。」
先生のその発言に授業を受けていた生徒は全員頭を傾げた。無論、私もだ。
先生「詳しく言うと「冠位指定執行官」のうちの一人、〝滅亡鬼神〟は冠位神威である〝滅亡神〟と同じと言われているんです。」
尚更頭が混乱する。何故、同一である存在が2つの枠組みに入っているのか分からない。二重人格なのだろうか?そう考えていると。
先生「皆さんの疑問もよく分かります。ではそこを分かりやすく説明すると、まず「冠位」とはこの世界に存在する「概念」がその時、世界に大きく影響を及ぼした際に出現するモノなのです。まぁ簡単に言ってしまえば冠位が生まれた時の世界に何があったのかを見れば簡単です。」
そう言うと先生はおもむろに黒板に何かを書き始めた。
先生「「冠位」の中で最も若いとされる〝英雄〟は現在から約700年前に出現しました。その時の世界では世界的な大戦争の真っ只中でした。そんな状況だったからこそ人々は希望を求めました。それに応えるように希望の概念を持つ「冠位」、英雄が生まれたのです。」
蓮斗「(なるほど、冠位とは世界に存在する者達が何かを求めた際、その願いに応え導く存在。故に世界大戦の真っ只中、誰もが救いを、希望を求めた事によって世界から発生し、世界に存在する者達に希望を与えた存在。なるほど、とても興味深くて面白いな。)」
先生「では「冠位指定執行官」の発生方法は、ただの人間である事です。」
蓮斗「ただの、」
天羽「人間である事...?」
ここに来て予想もしていなかった言葉が飛び出した。「冠位」は世界に望まれて生まれるに対して、「冠位指定執行官」はただの人間である事...?全くもって因果関係が分からない。
先生「皆さんが混乱するのもよく分かります。では分かりやすく言うと厳密には「冠位指定執行官」の発生方法は2通りあります。そのどちらにも共通してある条件が「ただの人間」がある事です。」
先生「1つ目の発生方法はただの人間が幾億回同じ時間をループし続けそれでも譲れない信念があった場合、2つ目はただの人間が命を落としてでも、成し遂げたい目標を持ち、最高位の神を打倒する方法。1つ目の方法で「執行官」になったのは〝廻拓者〟並界答求犠命廻鬼 、2つ目の方法で「執行官」になったのは〝空狐長〟赤月焼爛火葬狐、〝龍神王〟凍結炎獄殲双龍灯です。」
先生「「冠位指定執行官」とは本来であれば不可能とされていた人間からの冠位に「存在進化」と呼ばれる現象が起こった人間です。ですが、この3体は発生からまだ2年も経っておらず、現在では大体な居場所しか分かっていない状態です。そしてこの存在の最も特徴的で恐ろしい習性は、ある一定の場所に留まりそこを自身の領界とし、その場に存在する生命を守護するというものです。」
蓮斗「それは、守護者としての働きですよね?どこが恐ろしいのでしょうか?」
私はそう思った。何故その場を守る存在に対して恐ろしいという少し厳しい表現を?と思い質問した。すると先生は話し出した。
先生「なぜ恐ろしいと言ったのかは彼らの性質が関係しています。まず彼らは自身が「冠位」に至った場所と生命を守ります。ですが厄介な事にその領界内の生命に対して少しでも危害を加えればその圧倒的な力で殺しにくるからです。以前、この三体が居るであろう地域でパンデモニウムが騒動を起こし数百人規模の怪我人が出ました。その際彼らの逆鱗に触れてしまったのか彼らは激昂。瞬く間にパンデモニウムの構成員達は皆殺しにされました。」
天羽「そんな事が、、、」
香織「でもそれってパンデモニウムの数が少なかったからなんじゃ、」
先生「いえ、少なくとも各地に50名はいたそうですが、その全てが3秒前後で殲滅されたと記録には残っています。」
蓮斗「(3秒前後...!?どういう速度で行動したら50人をたった3秒で...)」
天羽「ですが、そんな事があればすぐにニュースになるんじゃ、、、」
天羽がそう先生に質問した。すると先生は
先生「何故これがニュースにならなかったのか。それは国防軍が無意味な被害を出さない為に情報を秘匿にしたからです。」
国防軍が情報を隠蔽。正直何故そこまでするのか私には分からなかったが先生が今の説明に付け加えて
話し始めた。
先生「もしこの情報が世に出てこれを面白がって真似しようものなら国家そのものに牙を剥く可能性があった為です。もしそうなれば、ここ日本はたったの5分で焦土に変えられ、国家が崩壊するからです。」
唖然。今先生はたったの5分で一国家が崩壊すると言ったのだ。つい先日魔力と属性についての授業で闇属性の持ち主が暴走し、数十万人規模で死者を出したと聞いたがそれでも圧倒的な絶望感だったのにも関わらず「冠位」とは比べ物にならない程被害が小さいと知り、冷や汗がでた。
先生「これ程の力を持っているため国防軍は彼らに冠位指定ノ獣〝不可侵領界之怪物〟と言う名を与えました。ですのでくれぐれも、冠位には近づいてはいけませんよ。」
先生はそう言うと小さくため息をついた。皆が呆然としていた時天羽が先生に質問した。
天羽「では先生、何故「冠位」である滅亡神が「冠位指定執行官」に名を連ねているんですか?」
天羽はそう質問した。確かに。なぜ純粋な「冠位」である滅亡神が彼らと同じく枠に名を連ねているのか、疑問しかない。すると、
先生「滅亡神が、彼らと同じ性質を持っているからだよ。」
先生は額に手を当てそう言った。全員が同時に動きを止めその話を固唾を飲んで聞いた。
先生「滅亡神は彼らと同じく〝不可侵領界之怪物〟の性質を持った「冠位」であり、絶望だ。数千年前、滅亡神には妻が居た。だが滅亡神はその時大災害と認識されており畏怖されていた。だが正面から立ち向かえば一瞬にして死ぬのは明白。だからその時代の存在は滅亡神ではなくその妻に矛先を向けた。だがしかし、滅亡神の妻である以上、人の手では殺せなく重症を与えるだけだった。そして滅亡神はその光景を目にした。」
先生はそこで一旦話を止めて水を飲んだ。先程から汗を凄くかいていた。それを見て何か違和感を感じた。
蓮斗「先生、大丈夫ですか?具合が悪いんですか?」
先生「いや、そういう訳では無い。これは一種の代償だよ。」
香織「代償...?」
先生「知っての通り滅亡神は「冠位」だ。それ故に彼らについて語れば代償として体調が悪くなるんだ。幾ら数千年前の事象でも「冠位」であれば時間なんてものは容易に突破して代償を支払わせる。それが「冠位」というものだ。幸い今来た代償は発汗と渇きだけだから良かったよ。」
その場にいた全員が驚愕した。冠位は時間すら超越しこちらを観測することが出来る。そう事実をまざまざと見せつけられた。水分補給が終わり先生が再び喋り始めた。
先生「その光景を目にした滅亡神は激昂。人間達を虐殺した。その怒りは3日3晩続き世界に大きな損害を出した。世界の98%が消失。人口が98億から1000万以下まで減少したらしい。それを止めたのが滅亡神の弟二人と滅亡神の妻だったとされる。もしこの3人が止めに入らなければこの星は消し飛ばされていた、らしい。」
天羽「惑星をほぼ破壊した、のか...?」
天羽のその言葉に先生は頷いた。それを見た他生徒は全員が身を震わせた。その時授業終了の鐘がなった。先生はこれが最後といいこういった。
先生「「冠位」に類する27体は「冠位指定執行官」よりも圧倒的に強い。その気になれば次元そのものを容易に破壊する化け物だ。その上で冠位にとって我ら人間は多くいるだけの存在。どれ程善良でも、彼らの逆鱗に触れれば待っているのは確実な死。痛い目逢いたくなければ冠位には関わるな。」
そう言い先生は授業を終えた。私は力無く椅子に座り天井を見上げた。
蓮斗「(私ってもしかして、とてつもなくヤバい世界に転生したんじゃ、、、)」
そう考えながら窓の外を見ると、以前までいた世界と同じ色の空が、どこまでも広がっていた。




