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ナガレメグル、私の物語  作者: 綿貫灯莉
第6章 初めての仕事
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第87話 ファンクラブ会員

 方針が決まったのでライヤンに連絡すると、どうやら私のファンクラブ会員がすでに勢ぞろいしているという。

 なぜこんなことになっているのかわからないが、協力してもらう以上、今すぐファンクラブとやらを解散してもらうこともできない。

 送ってもらった座標に移動する前、服装を変えるか結人と揉めたが、「どうせこの格好で正体がバレたんだから、このままのほうが都合がいいと思うよ。違う格好や他のアバターにするほうが、みんなは有菊のことを知れて喜ぶだろうけど、そっちのほうがいい?」と言われて、私はムッとしながらも、確かにプライベートな部分を晒すのは抵抗があったので、その進言に従った。



「お、来たか」


 そう出迎えたのはライヤンだ。

 場所は、先ほど逃げ込んだふたりの家ではなく、登録ユーザーのみが入ることのできる、広めのプライベートエリアだった。屋外なのだが、白と水色が基調のインテリアでまとめられており、人が集まって少し話すことができるような落ち着いた場所である。もちろん、外側からこの中の様子は知ることはできない。

 そこに置かれているローテーブルとローソファはどこか見覚えがある。

 そして、私たちが立っているところから、少し離れた場所で、何人もの人たちがソワソワとこちらを見ている。ライヤンと違って、みんな素顔とは異なるアバターで、誰が誰か正確にはわからなかった。


「やっぱりアキクちゃんだ」

「言ったとおりだろ?」

「あの姿も可愛い……」


 ヒソヒソと話している声が聞こえてくる。それを聞いて、ナイナイでの場面が蘇ってきた。確か、あの時はローテーブルを挟んでいたから、手を握られずに済んだはずだ。

 だから、なんとなくローテーブルを隔てて、あちらとこちらで分かれるように立つ位置を調整する。


「あの……、この度は助けていただきありがとうございました」


 私がそう言うと、うしろに控えている結人と小雪は頭を下げて礼を示す。ローテーブルの向こう側のみんなは、嬉しそうに笑顔でこちらを見て頷いている。


「実は、みなさんにお願いしたいことがありまして……」


 現在人探しをしていることを伝え、手を貸して欲しいとお願いをした。それを聞いた瞬間、「よっしゃ! やるぞーっ!」と、異常な盛り上がりを見せた。

 その光景に若干引きつつも、私は話を続ける。


「ちなみに、こちらにニホン国籍を持っているか、ニホン在住の方っていますか?」


 その質問に、手を挙げた人物がひとりだけいた。

 その人は、長い真っ白な髪をきっちりと三つ編みした男性のアバターだった。クリーム色の古い華国の民族衣装を身につけているからか、周りから「シロさん」と呼ばれている。

 しかし、その首を前に突き出した姿勢と、白い歯を見せる独特の笑い方に既視感があった。


「あなた、まさかとは思うけどマンションの一階の……?」


 すると周りの人たちがざわついた。


「マジで知り合いだったんだ」

「しかも同じところに住んでるってスゲェ」

「じゃあ、写真の件も本当なのか?」

「写真?」


 その言葉を聞いて、私は眉をピクリと動かした。少し前に、その単語を聞いたことを思い出す。


「写真って、まさか美玲さんから受け取ってたりしないですよね?」


 写真と美玲という組み合わせは、つい最近の話だったので、私はジリっと動いた。そして、ローテーブルを越えて問い詰めようとする私を、結人と小雪が左右から止める。


「いや……」


 動揺しながらも、小さく首を横に振る男は、わかりやすく目を逸らした。


「今度、美玲さんを連れて部屋を確認させてもらうから」


 駅でぶつかってきたこの男は、美玲の知り合いだった。あの頃はよくわかっていなかったが、梶田が私のスニーカーから取った虫は、この目の前の男が付けた発信機か何かだろう。

 そして、確実に私を狙っていたということは、私の容姿を知っていたのだ。美玲が何かで連携していた可能性は高い。

 しかし、そんな仏頂面の私を差し置いて、シロと呼ばれる男をみんなで取り囲み、「いいなぁ」、「オレも今度遊びに行っていいか?」、「嘘じゃなかったんだな」とワイワイ楽しそうにしている。


「おいおい、平和だな」


 ライヤンはその中には入らず、呆れたように眺めている。もしかしたらこのやりとりが、ナイナイの捕虜の部屋で行われていたのかもしれない。そう思うと、ライヤンのあの時の苦悩に気付いてあげられなかったのが申し訳なかったなと思った。


「で? 一応ニホン在住者がいるようだが、あいつに任せるか?」


 ライヤンのその言葉に、私はウッと言葉に詰まった。

 確かにニホン在住だが、華国の組織の人間だ。そんな人に、ニホンの国家運営を左右する事件に関わらせるのは大問題だ。

 どうしようかと結人を見ると、それまで静かにうしろにいた小雪が、突然私の横にしゃしゃり出てきた。


「ほんなら、兄さんにリーダーをお願いしますわ」


 今まで言葉を発しなかった白いデカい獣が、いきなり話し出したことにみんな驚いて静かになった。


「実はうちらは、ニホンからアクセスしてるアバターが消失する事件の犯人を追ってるんや」


 今追いかけているAIが、その件に関わっているとは確認できていないはずだが、小雪は堂々と説明している。そして、その事件を知っていた数人が、「ああ」と納得したように頷く。シロも知っているようだ。


「実は、知り合いのアバターが消されて、めっちゃ困ってるんや。そいつを見つけ出して、話をつけたろう思っとるんや」


 スラスラと出てくる嘘の数々に、私も結人も唖然とする。


「事情はわかった。被害者も多数いるし、犯人が捕まえられるなら、それに越したことはないな。特徴はわかるのか?」


 駅での乱暴な様子とは打って変わって、シロの話し方は普通だった。あれは演技だったのかもしれない。


「前回見かけた時はこんな感じやったんやけど、もうアバター変えとるかもしれへん」


 そう言って、慧定のようなアバターをシロたちに見せる。


「他に特徴は?」

「なんや、時々AIみたいな話し方とか動きをするって聞いとる。AIに憧れとるんかなぁ?」

「なるほど。あとはAIの悪口を言うことがトリガーだったよな」


 さすがにそれは有名な話のようだ。

 シロは小雪の話を受けて、早速他の人たちと作戦会議をはじめようとした。私はそれを見て、急いで手持ちのデータを呼び出した。


「よかったら、このデータも参考にしてください」


 実はここ数日、帰宅してからデータをまとめていたのだ。慧定がくれたアバター消失関連のデータは余剰なものも多く、人間が参考にするには煩雑だった。そのため、自分用にだが、すぐにこの件も動けるように準備していたのだ。

 事件発生の予測地点や、その行動シミュレーションも、不完全性や人間性を加えたものも作成しておいた。

 これは学校では習得していないが、祖母を手伝った時に、シミュレーションのやり方などをこっそり勉強させてもらったのだ。さすがにそのままでは使えなかったので、自分なりに応用して作ってみた。

 しかし、ファンクラブのメンバーは色めき立って、なかなか受け取らない。すると、横からライヤンがさっさと受領して、みんなにシェアしてくれた。


「なにこれ? すごくわかりやすい」

「アキクちゃん、可愛いだけじゃないんだ」

「マジかー。女神じゃん」


 褒めてもらえるのは嬉しいが、なんだかむず痒い。

 その輪からすぐに離れると、小雪の脇へと移動する。


「ねえ、小雪っていつもこんな嘘吐くの? ちょっと怖いんだけど」


 先ほどのことを指摘すると、小雪を挟んで反対側に立っている結人も同意して頷く。そんな私たちに対し、小雪は人間っぽくため息をついた。


「これは嘘やない。必要な結論を得るための創造的な表現や」


 ものすごく屁理屈っぽいことを言って誤魔化そうとしているようで、ちょっと吹き出してしまった。


「あんたたちも、こちらの作戦に参加するのか?」


 シロたちの外側で話を聞いていたライヤンが、こちらに確認してきた。そのセリフに他の人たちも振り向く。期待に満ちたような眼差しに後退りすると、小雪が再び口を開く。


「実は、他にも怪しい奴がおるから、ウチらはそっちを追うことになっとるんや」


 その言い方で、犯人が複数いることを匂わせる。今のところはひとりだと聞いているが、AIのみが集まる仮想空間メタバースの存在は話せないため、そういう説明になるのは仕方がない。


「複数を追うなら手分けしたほうが早いな。もっと人手が必要なら、他にも声をかけるが?」

「いや、あまり大ごとにすると逃げられるかもしれへんから、できれば少人数がありがたい」

「わかった」


 そうして話はあっという間にまとまり、ライヤンたちは人間の仮想空間メタバースをパトロールしてくれることになった。


 それから一日一回は、ライヤンの呼びかけに応じて、人間側のプライベートエリアで進捗を確認することになった。

 その際、私は集まっているメンバーの士気を高めるために、ひとり五秒ずつあいさつをするグリーティングというのをやらされた。一応、左右に結人と小雪が見守ってくれているので問題はない。

 これはライヤンが提案してきたのだが、あまり距離がありすぎると、彼らの妄想が膨らみすぎて、受け止めるこちらがツラいと言われたからだ。

 私には、それをやって意味があるのかわからなかったが、みんな嬉しそうだったので文句は言わないようにした。

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