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ナガレメグル、私の物語  作者: 綿貫灯莉
第6章 初めての仕事
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第86話 協力者

 そんなライヤンの態度に私は首を傾げた。


「やっぱりって何ですか?」

「あんたを助けるんだって、アイツらが騒いでいたから手伝ったんだよ」

「アイツらって?」


 まったく話が見えてこない。


「ほら、あの時俺と同じように、あの部屋で話した奴らだよ」

「え? あの時の?」


 祖父母に頼まれて、ナイナイの地下の一室で、当時捕虜だった人たちとひとりずつ対話をした。ただ、ライヤンと違い、他の人たちは、なぜか私に対する好感度が高くなりすぎたため、結局一回ずつしか話をしていない。

 やっぱり話が見えない。


「どうしてあの人たちが私を?」

「あのステージに派手に登場したあんたを見て、やっと見つけたって最初は喜んでいたらしい。多少容姿は変えているが、間違いないって言ってな。なんせ、あんたのファンクラブを作ったのに、本人に会えなくて悲しんでいたからな」

「ファンクラブ?」

「そうだ。で、様子を見ていると、どうやら逃げているらしいことがわかって、俺にまで連絡してきたんだよ。言っておくが、俺はファンクラブの会員じゃないからな」


 それで、たまたま近くにいたライヤンが私たちを救出したらしい。

 それを聞いて、何から突っ込むべきか悩んだが、とりあえずはお礼を言うことにした。

 小雪から部屋の床に飛び降りる。


「助けてくれてありがとうございます。すごく困っていたので助かりました」


 結人もすぐに小雪から滑り降りて頭を下げた。


「ありがとうございます」


 ライヤンはそんな結人の顔を見て、少し目を細めた。


「あんたもナイナイを去る前に見たことあるな。少し違うけど、若い人間はそこまで多くなかったから印象に残ってる」

「はい。俺もあそこに居ました」

「そうか」

「あんた達には借りがあるから、いつか返したいと思っていたんだ」

「借り?」


 そんなものあっただろうかと、私が首を傾げていると、女性の声が小雪のうしろから聞こえた。


「ライヤン。こちらはお客様?」


 大きな白い獣が、突然自分たちの部屋にいるのだから驚くのも仕方がない。小雪はここでは話さないと決めているのか、口を開かない。

 戸惑いを隠せずに、小雪のうしろから現れたのは、優しそうな女性だった。ビビッドな色のサマーニットに白のロングスカートがよく似合っている。

 その女性が姿を現す前に、ライヤンはアバターを少し変化させた。そちらは清潔感があり、無精髭も無くなっていた。多分、こちらがいつもの格好なのだろう。

 私がすぐに判断できるように、わざわざあの時の格好を再現してくれていたようだ。


「ああ。前に話した人たちだ」

「ナイナイの? こんなに若い子たちだったんだ」


 女性は驚いてこちらを見ている。


「紹介する。こちらは俺の伴侶のセイナだ。そちらが俺たちを助けてくれたアキクと……」

「結人です」

「アキクさんにユイトさん。この度はライヤンたちを助けていただき、本当にありがとうございました。こうして無事に伴侶となれたのも、おふたりのおかげです」


 キラキラと目を輝かせて、嬉しそうに私たちを交互に見る。歓迎されているのはわかったが、いまいち理由がわからない。少し困っていると、ライヤンがこれまでのことを話してくれた。


「ナイナイを去った後、俺たちはすぐに国に戻ったんだが、当然そのまま家に帰れるわけもなく、国の収容施設に入ったんだ」


 数年にわたって、他国を侵略していたわけだから、そうなるのだろう。もちろん、それがよくわからない者の口車に乗せられた果ての行為だとしても、やったという事実は変わらない。


「そのまま、罪を償うための労働などを覚悟していたんだが、リーダー格の人間を除いて釈放されたんだよ」


 一応しばらくの間は監視がつく条件だったが、前科もなく一般市民として復帰できたらしい。すでにその観察期間も終わったらしく、今は普通の生活を送っているという。


「あまりにも不思議だったので確認してみたら、アキクという少女が我々の罪を軽くするようにと、あの人に、シェイク・イッサカ・アリユに掛け合ってくれたと聞いた。そして、その話が大統領を動かしたらしいと」


 確かに宗教指導者の秘書に、そんな内容のメッセージを送った記憶はある。それがちゃんと届いて、しかも伝言に従って動いてくれていたことにちょっと感動した。


「ダメ元で送ってみたんですが、ちゃんと伝わっていたみたいでよかったです」


 大したことはしていないが、確かに自分がやったことなので否定はしない。


「嘘はついていないとわかっていたが、本当にあんた、あの人の知り合いだったんだな」


 ライヤンのその言葉に、セイナも尊敬の眼差しで見てくる。しかし、祖父母の課題の一貫で、たまたま顔を合わせることになっただけなので、自分は尊敬されるような立場ではない。

 それでも他人というわけでもないので、とりあえず曖昧に頷いた。


「それで、あんたたちはそんな派手な格好をして何やってるんだ?」


 少し呆れたように、ライヤンは私たちの衣装を見る。


「あら? とっても素敵じゃない。ニホンではそういうのが流行っているの?」


 笑顔で聞いてくるセイナに、衣装を作った結人は「いえ、そういう訳ではないんですが」と、少し困ったように答える。


「私たち、人探しをしていて……」


 内容は言えないが、いい言い訳も思いつかないので素直にそれだけ答えた。すると、ライヤンは腰に手を当てて聞いてくる。


「それなら、人手があったほうがよくないか?」

「え? いえ……」


 返答に窮していると、結人が私の前に出てきた。


「他の人の依頼で探しているので、お手伝いをお願いできるか、一度確認してみてもいいですか?」

「ああ、こちらは構わない。ただ、あいつらもあんたたちの役に立ちたいと思っているから、できるなら手伝わせてほしい」


 ライヤンは少し首をすくめて、私たちを見た。

 しかし、たった今助けてもらったばかりだ。こんなことまで手伝ってもらうのは申し訳ないと断ろうとすると、結人は小さく手を上げてそれを制した。

 そして、ライヤンの正面に立って話を進める。


「ありがとうございます。もし可能ならその時はお願いします。連絡先を交換してもいいでしょうか?」

「もちろんだ」


 そうふたりは連絡先を交換した。

 そして、そのまま一度祖父母の家に戻り、慧定たちに確認することになった。


「どうして、あんなこと言ったの?」


 祖父母の家に着くなり、私は結人を睨んだ。

 不必要に人の手を借りるのは嫌なのに、勝手にライヤンと話を進めた結人に文句を言いたかった。しかし、結人はそれに対して、しっかりとした口調で返してきた。


「あの人たちは、自分たちの受けた恩を、まだ返したいと思っているんだ。その機会が目の前にあるのに、奪うのはよくない。有菊は人に頼るのは嫌かもしれないけど、もし手伝ってもらえるなら、お願いしたほうがお互いにいいと思う」


 そうすることで、手伝いたいと言っている人たちも満足するし、こちらも問題を早く解決できるかもしれないと、結人は私を諭す。


「それは、そうかもしれないけど……」


 どうしても、祖父母以外の人間に頼るのは抵抗があるので、結人の言うことが正論だとわかっていても、モゴモゴしてしまう。


「俺たちは、どうやっても自分ひとりじゃ生きられない」


 結人は真っ直ぐ私を見つめる。

 その言葉に私は少し動揺した。できるだけ人の手を借りずに生きていきたいと思っていることを、結人に見透かされているような気がした。


「じいちゃんたちでさえ、色んな人の手を借りて生きているんだ。頼れるものには頼ろう」


 真剣に訴えていることが伝わってきて、私はキュッと自分の手を握りしめた。


「俺も、有菊のことを頼りにしているし」


 そう少し照れたように視線を外す結人からは、心からそう思っているという感情が伝わってくる。その思いがけない言葉に、それまで反発していた私の心がくるっと変化した。

 結人が自分を頼りにしてくれる。そう思うだけで、嬉しくて頬が緩む。頼りにしてくれているなら、私も頼ってもいいのかもしれない。


「そ、そうだね。うん……、わかった。そうするよ。私も、ゆ、結人のこと、頼りにしてるから、あの……」


 つい、結人と対等になりたくてそう口にしてみたものの、急に恥ずかしくなってしどろもどろになってしまった。

 結人はそんな私をジッと見つめて、何かを言おうとした。しかし、躊躇っている様子を見せてから出てきた言葉は、「まずは慧定のところへ戻ろう」だった。本当は何を言おうとしたのか知りたかったが、目の前の問題を片付けないといけないので、聞き出すのはやめた。


 そして、現実に戻って慧定とリアンも加わり話し合った結果、人間側の仮想空間メタバースはライヤンたちにお願いをして、AI側を私たちが探すことにした。

 そうすれば、どちらに逃げ込んでもわざわざ移動しないでスムーズに探すことができる。


「ただ、人間側のリーダーをニホン以外の人にお願いするのはいささか不都合があるので、ニホン国籍を持っているか、ニホン在住の方がいるといいのですが……」


 そう慧定は懸念点を私たちに伝えた。

 ただ、私たちもあちらの協力してもらえそうなメンバーを全員は把握していないので、まずはどの人が協力してくれるか確認することにした。

 もし、リーダーをお願いできる人がいない場合は、外から連れてくることで話はついた。

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