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ナガレメグル、私の物語  作者: 綿貫灯莉
第6章 初めての仕事
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第82話 小雪の意思

 自分の部屋の鏡に写った姿を見て、私はくるりと回ってみた。

 コットン素材のような柔らかいイエローの生地には、アクセントで細かな柄が刺繍っぽくエンボス加工されている。何色も使われているので、本物の刺繍のようだ。そして、それはディーディで着ていた服の幾何学模様をどこか彷彿させた。

 その華やかなチュニックの下には、ウォッシュタイプのデニム地のパンツを合わせている。そのパンツの下には、身体強化用のタイツを身につけているが、まったく気にならない。どうやら、お互いに干渉しないように、余裕のあるデザインになっているらしい。その割にもたついたりしないので、走りやすそうだ。

 チュニックの長い袖はふんわりとして、甘いデザインになっているが、ブルーのパンツで引き締まり、少しカッコいい装いになっている。

 その絶妙なバランスに、顔が緩んでしまう。

 最近、こんなにもときめく格好をしたことがなかったので、テンションが上がる。

 ディーディの民族衣装もよかったけど、やっぱり見慣れないものだったので、似合っているかどうかがよくわからなかったのだ。


「これ作ったから、よかったら着てみて」


 今日から仕事が始まるのだが、なぜか早朝からこの家で集合することになっていた。玄関を開けてみると、リアンと結人、そして仕事にはまったく関係ない美玲とシェルムもいた。

 みんな遠慮なく室内に入る中、玄関で結人はそう言って、先日リアンに渡した袋を差し出してきた。中を覗くと、貸していた服の他にもう一セット服が入っていた。

 それがこのチュニックとデニムだったのだ。

 何度も変なところがないか確認してから、リュックを背負った。すると、それまでベッドでくつろいでいた小雪が肩に乗ってきた。そして、もう一度鏡を見てから、みんなが待つリビングへ向かった。


「有菊ちゃん、可愛いです」

「いーじゃん、キク。そういう格好、もっとすればいいのに」

「アッキー、抱きしめていい?」

「ダメです」


 美玲にお断りを入れて、あとひとりの感想を待つ。しかし、この服を用意してくれた本人は、硬直したままこちらを見ているだけだった。


「あれ? もしかして似合ってない?」


 少し不安になって結人に尋ねると、結人はハッとしてから首を振った。久しぶりに目を逸らした結人は、耳を赤くしながらもう一度こちらを見た。


「よく似合ってる。……本当はカチューシャも合わせて作りたかったんだけど、間に合わなくて」


 まさかアクセサリーまで用意してくれようとしていたとは思わず、私は髪を留めている蝶のヘアクリップを触った。


「充分だよ。というか、わざわざ私のために作ってくれてありがとう」


 これから始まる任務は、危険を伴うものだというのは共通認識だった。しかし、行き帰りの道のりも注意しなければならないとは考えていなかった。

 結人はパーカーだけだと、いざという時に下半身が守れないと、上下セットの防護服を作ってくれたのだ。パーカーに搭載されていたいくつかの機能に加え、衝撃吸収の機能も新たに搭載したらしい。


「検証が充分じゃないから、あくまでも保険のつもりでいてほしい」


 そう結人は、自信なさそうに説明した。


「わかった」

「じゃあ、早速行くかー」


 シェルムがそう言って、立ち上がった。


「え? シェルムも行くの?」

「当たり前だろ?」


 確かに国会議事堂は観光スポットのひとつだ。それを見るために、ついてくるのかと思っていると、美玲がダメ出しをした。


「アッキーたちは仕事なんだから、邪魔しちゃダメでーす。それに、シェルムは今日ここに引っ越してくるんでしょ? 誰が荷物を受け取るのよ?」

「え? なにそれ? シェルムここに引っ越してくるの?」

「もー、勝手に言うなよ。サプライズにするつもりだったのにさー」

「いや、俺も仕事の前に伝えるつもりだったけど」


 昨日、この町に来たシェルムは、結人のところに泊まっていたらしい。そこで、結人たちはシェルムの引っ越しを知ったという。

 ここのマンションのオーナーではないと思うが、美玲もそのことを知っていた。いつの間にか連絡先を交換していたようで、その展開の早さに驚かされる。

 色々と取り残されている気がして、少し寂しい。


「ここって言っても、一階の空いてる部屋だよ? さすがにこの部屋じゃないからね」


 美玲は言い訳をするように階下を指差す。


「俺はこの部屋でも良いんだけど。キク、どう?」

「ダメ」


 私がハッキリと断ると、シェルムはがっかりした表情で、今度は美玲に確認する。


「じゃあ、せめて同じ階にしてくれよ? 空いてるんだろ?」

「ざんねーん。こう見えても、全部埋まってるのよ」


 美玲はニヤリとしてシェルムの懇願を一蹴した。「人の気配がないのに満室ってなんだよっ」と文句を言っているが、美玲はムフムフと笑って答えない。

 見たわけではないが、美玲の部屋に溢れていたような本やキャラクターのグッズ、パネルなどが他の部屋を陣取っているのではと思った。


「お兄ちゃん、有菊ちゃん。そろそろ出ないと遅刻します」


 リアンが椅子から降りると、私たちに声をかける。時間を確認すると、本当にいい時間になっていた。


「じゃあ、解散!」


 美玲が手を叩いて合図をする。

 なんとかして部屋に居残ろうとするシェルムを、結人が引っ張っていく。美玲とリアンもそれに続いて玄関から外に出る。

 しっかりロックされたのを確認して、初仕事へ向かった。




 リアンの案内で先日と同じ入口から入ったが、通された部屋は少し違った。地下までは同じだったが、この前の部屋ではなく、その反対側の部屋に入った。

 そこにはナイナイ潜入前のシミュレーションに使用したような、チェアタイプのデバイスが二台置かれていた。


「僕はこの部屋で、ダイブ中のふたりを護衛します」


 一緒にAIの集う仮想空間メタバースに入れないのはわかっていたが、護衛と聞いて驚いた。


「そんなに危険なの?」

「大丈夫だと思いますが、政府側にも内通者がいるので、念の為です」


 慧定が管理しているので、勝手に扉すら開けることはできない。だが、この混乱を引き起こしている犯人がわからない上、協力するAIもいるので油断はできない。

 気を引き締めていると、小雪がリアンの肩に飛び乗って、耳元で鼻をヒクヒクさせている。てっきり一緒に見守ってくれるかと思っていたのだが、リアンが困惑している。


「小雪がどうかしたの?」


 言葉を話さないので、なぜリアンが小雪の顔を見て困っているのかわからない。それを解説するように、リアンは私のほうを向いた。


「あの、小雪が一緒に行きたいと言っています」

「え? でもAIにとっては危険な場所なんでしょ? ダメだよ」


 すると、抗議をするように有菊の肩に飛び乗る。そして、頬に小さな顔を寄せてきて、何かを訴えるように頬ずりをする。

 リアンは少し言いづらそうに、小雪を見てから説明をする。


「小雪は、自分が量産型のペットロボ(メカティア)だから、もし感染しても、今現在のデータを別のボディにダウンロードすればいいと言っています」

「それは嫌なんだけど……」


 いくら替えが利くとはいえ、使い捨てみたいなことはしたくない。だからディーディでもそれを避けたのだ。しかし、小雪は反対側の肩に移動して同じように頬を寄せる。


「しかも、AIの集う仮想空間メタバースなら行ったことがあるから道案内もできるし、もし感染しなければ有用なデータを持ち帰ることができると主張しています。しかも、ここにいる僕の声を、小雪には直接伝えることができるので、現実で何かあった時に、すぐにログアウトさせることができると言っています」


 仕組みはよくわからないが、AI同士だとそういうことも可能らしい。そして、いつの間に仮想空間メタバースに行っていたのか。全然気が付かなかった。


「僕としても、小雪が有菊ちゃんと行動してくれることは助かりますが、有菊ちゃんの気持ちを優先します」


 そう言われて、私は悩んでしまった。

 ここまで一緒に行きたがっている小雪を置いていっても、知らないところで危険な場所に行っていたら同じじゃないだろうか?

 それなら一緒にいたほうが、何か起きた時に知ることができる。よくわからないうちに感染して暴走してしまうより、マシかもしれない。

 私は決心した。


「わかった。小雪を連れて行くよ。リアンくん、データのバックアップをお願いしていい?」

「はい」


 小雪は一度、私の首をくるりと一周してから、リアンの肩へと移動した。

 そうして、私たちは小雪という味方を伴って、ダイブすることになった。

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