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ナガレメグル、私の物語  作者: 綿貫灯莉
第5章 色んな再会
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第80話 つかの間の息抜き

 その夜、これから忙しくなることを見越して、小雪を連れてペットロボ(メカティア)と遊べるゲームをやることにした。

 小雪のデータから、絵奈とハンさんがログインしていることがわかり、メッセージを送ると、すぐに「一緒に遊ぼー」と返信がきた。

 自然豊かなフィールドには、数多くのプレイヤーが自分のペットを連れて遊んでいるのが見える。ログハウスがある場所では待ち合わせをしている人が多いようだ。

 その中で紛れるように立っていると、「有菊ちゃん?」と声をかける女の子がいた。年齢は現実世界の自分と同じくらいに見える。


「もしかして絵奈さんですか?」

「うん」


 青緑色のオーバーオールに白いブラウス、長い髪をまとめるように青色のリボンをヘアバンドのように巻いている。

 顔は現実の顔よりすこし西洋的で、オレンジの瞳とそばかすが可愛らしい。空港でも思ったが、小柄でふっくらとした頬のラインなど、げっ歯類の動物を彷彿とさせる。

 肩にはハンさんらしき鳥が、絵奈の華奢な肩を掴んで乗っている。ハンさんだとは思うが、その大きさは空港で見たサイズよりかなり大きい。


「有菊ちゃんは人型じゃないんだねー」

「そうなんですよ」


 私のうねうねした軟体動物モチーフのアバターを見て、面白そうに微笑む。


「そのアバターだと、少し不便じゃない?」

「友達と話したり、ウィンドウショッピングをする程度なので、不便を感じたことはないですね」


 サイズは人型よりひと回り以上大きいが、今まで問題はなかった。なんせお金がないので、やることは限られているのだ。


「ああ、確かにー。有菊ちゃんくらいの年だとそうだよね。ところで、ここのチュートリアルはやった?」

「まだ、来たばかりなのでやってなくて……」

「そっか。じゃあ、一度チュートリアルをやってくるといいよ。すごく感慨深いものがあるから。それで、もし遊びづらそうなら、アバターをもう一個用意してもいいしね」


 そう言って、絵奈は私を送り出してくれた。


「ゲームサイトにも、人型のほうがより楽しめるって書いてあったけど、そんなに違うのかな」


 不安になりながらも、チュートリアルを開始した。

 遮断された宇宙のような場所へ移動すると、それまで私の頭に乗っていた小雪が、目の前に浮きはじめた。

 そして、私にもわかるように音声が流れてくる。


「あなたの希望するサイズを指定してください」


 すると、小雪がどんどんと大きくなっていく。

 一度、私のアバターと同じくらいの大きさになった。それはかなり巨大で、先ほどのフィールドでも見なかったサイズだ。そこから、なぜか今度は小さくなっていき、最終的には大型犬くらいの大きさで止まった。


「飛行機能は付与しますか?」


 今度はペガサスのような羽根が背中に生えた。しかし、すぐにその羽根は消えてしまった。


「水棲生物としての機能は付与しますか?」


 エラやヒレなどが生えるが、それもすぐに却下したようだ。

 どうやら小雪が自らのアバターを作成しているらしい。そう思うとなんだか可愛くて、愛おしくて、目が離せなかった。

 様々な能力を付与できるようだが、なぜか小雪はことごとくそれを却下していく。そこで、ハッと気がついた。


「小雪。もしかしてだけど、私のアバターのせいで、好きなフォルムになれなかったりする?」


 そう聞くと、小雪はこちらを向いて、ジトっとした目つきで大きく頷いた。この空間では、小雪の表情が豊かで楽しい。そして、どうやら小雪は私のアバターが気に食わないようだ。

 その素直な反応に、小雪の性格がよく現れている気がした。


「だからあんな風に言ってたのかぁ」


 絵奈がアバターについて気にしていたのは、そういうことだったのだ。


「どうしよう。今から自分のアバターを変えたりしてたら、時間がかかりすぎちゃうかも」


 どうせなら、別の人型のアバターを買って、結人や絵奈のように色々と設定したい。


「これって、またイチから設定し直せる?」


 その質問にはシステム側が答えてくれた。


「はい。ただし、本日の経験値は新しいアバターには引き継げませんので、その点はご注意ください」


 今日は味見みたいなものだから、全く問題ない。


「じゃあ、今度やり直すから、今日は体験だと思って適当でいいよ」


 小雪にそう伝えると、やれやれと首を横に振って、仕方ないという雰囲気を醸し出してから、サッサと設定を終わらせていた。

 その後のチュートリアルも順調に消化して、元の場所に戻ってきた。


「おつかれさま」


 どこかに行っていたのか、絵奈は先ほどの場所から離れていたようで、こちらに向かって歩いてきた。


「どうだった?」

「絵奈さんの言ってた通り、人型のほうが良さそうですね」


 話しながらプレイゾーンへと歩きはじめる。

 大型犬サイズの小雪は、私のすぐ横をしずしずとついてくる。その様子が、普段のやんちゃな性格を繕っているようでおもしろい。


「でしょ? セルフアバターならすぐに呼び出せるから、それで遊ぶ?」

「いえ、別のやつを買いたいから、当分はこのアバターで遊びます」

「そうなの? セルフデータならお金もかからないし、いじるのも簡単だし、雰囲気変えるなら髪の色とか年齢ですぐだよ」

「あー、できれば自分ベースのアバターはちょっと……」

「もしかして、防犯のため?」

「それもありますが、どちらかと言うと、自分の容姿があまり好きじゃないから、全く別のアバターがいいなって」


 それを聞いた絵奈は、髪を揺らしながら私を見上げた。ぷくっと頬を膨らませる姿は、リスのようだ。


「有菊ちゃん、多分自分が思っている以上に可愛いよ。むしろ、そんな風に卑下すると感じ悪いまであるから」


 冗談なのか本気なのかわからない口調で言われて、私は戸惑う。


「もしかして、誰かに容姿のことで何か言われたことある?」


 やっぱり本気だと感じて、私は俯いてしまった。人には話したことがないのだが、ほとんど他人と言っても差し障りのない絵奈になら、逆に話してもいい気がした。


「実は……、昔からお母さんに『みっともない』って言われることが多くて……」


 絵奈はその話を、立ち止まって静かに聞いてくれた。


「すごく小さい頃は『かわいいね』って、笑顔で話しかけられたこともあったんですが……」


 それは幼い頃の微かな記憶だ。ただ、本当に微かなので、もしかしたら、ただ願望が作り出した偽の記憶かもしれない。今となっては確認する方法もない。

 父親との関係が悪化してきた頃から、私を見る目が厳しいものになっていった気がする。特に父親に似た肌色やくせっ毛は、どうやら母親の神経に触ったようだ。髪が伸びてくると、「みっともないから切りなさい」と、よく注意された。

 そして、母親には似合うリボンやフリルがついた可愛らしいデザインの服も、スカートやワンピースも「似合わないわね」と言われていたので、機会があっても着られなかった。

 特にここ数年は、なぜかあたりが強くなって苦しかった。原因がわからないので、どうしていいかわからずに、ただ機嫌を損ねないように接していた。

 少なくとも、悪口や噂話を黙って聞いている間は、母親の機嫌が良かったので、なんとなく惰性でそれを続けていた。


「そんなわけで、仮想空間メタバースくらいは自分以外の人間になりたいなって思ってて……」


 そこまで黙って聞いていた絵奈は、急に私の手の部分をぎゅっと握った。そして、大の字になって抱きついてきた。

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