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ナガレメグル、私の物語  作者: 綿貫灯莉
第5章 色んな再会
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第78話 慧定

 久しぶりの仮想空間メタバースは楽しかったというより、知らない情報や思いもよらない状況に少し疲れた。

 頭に被っていたデバイスを外してベッド脇のテーブルに置いていると、ポップアップが表示された。


「あれ? 珍しい。リアンくんから連絡だ」


 コンタクトのほうにリアンからのメッセージが表示される。


「明日一緒についてきて欲しいところがあるのですが、十時頃に迎えに行ってもいいですか?って、なんだろう?」


 特に用事もないので、「いいよー」と返事をすると、「ありがとうございます」とすぐに返ってきた。

 時刻を見ると、もう夜更けといっていい時間だ。明日も用事があることを考えると、そろそろ寝たほうが良さそうだ。


「じゃあ寝ようか」


 そう小雪に呼びかけると、私の枕元にやってきて丸くなった。部屋の明かりが徐々に暗くなり、そのままベッドで横になる。ほんのり温かい小雪の毛並みに鼻を突っ込んでいるうちに眠りについた。




「おはようございます」


 きっちり十時に現れたリアンは、結人も連れていた。


「あれ? 結人も一緒に行くの?」

「うん。一緒に来て欲しいって頼まれたから」


 付き添いというわけではなく、私と同じように誘われたらしい。


「もしかして、他にもメンバーがいるの?」


 私が靴を履きながら尋ねると、リアンは首を横に振る。


「いえ。お兄ちゃんと有菊ちゃんのふたりだけです」


 どういう理由で呼ばれているのかわからないが、なんとなくリアンが厳しい表情をしている気がする。どうせすぐに理由はわかるだろうと、私は詳しく聞かないままリアンについていくことにした。

 今日は昨日より暖かくて、パーカーの袖を少し捲り上げた。空を見上げると、ところどころ雲が浮かんでいていい陽気だ。


「そういえば、昨日、何が意外だったの?」


 黙って先を歩くリアンについていきながら、結人はこちらを見て首を傾げた。昨日、祖父母の家で会った時の話だとわかりすぐに答える。


「まさか、あのマンションの間取りを、仮想空間メタバースでそのまま再現しているなんて思わなかったから驚いてたんだよね」

「ああ、確かに」


 結人は納得したように頷く。

 仮想空間メタバース上に住居を構える場合、現実ではできないような凝った内装にする人が多いと聞く。カタログも見たことあるけれど、深海をイメージしたものや、木をふんだんに使ったもの、雲のような質感の内装など、ありとあらゆる部屋にできることは知っている。

 それなのに、変わり映えしない部屋だったので驚いたのだ。


「慣れた空間のほうが作業がしやすいって言ってた気がする」


 いつもと同じパーカーを着た結人は、前を歩くリアンを見ながらそう答える。

 祖父母は現実だけでなく、仮想空間メタバースでも発明などをしていたらしい。そちらは完全に趣味のようで、現実で行き詰まるとあの部屋に逃げ込んで作業をしていたという。

 どんなものを作っていたのかは、結人も全部は知らないようだが、本当にオモチャのようなものを作っていたらしい。

 デバイスを被って息抜きをしているなと眺めていると、突然起き上がって、現実世界のほうで作業をはじめたりすることも多々あったという。

 そんなふたりのことを教えてくれる結人を、私はチラチラと横目で観察した。

 やっぱり前髪をあげると、あの顔になりそうだなと、昨日のアバターを思い出しながら重ね合わせる。個人的には前髪を分けた髪型のほうが好きかもと思いつつ、また仮想空間メタバースで会えるのを楽しみにしている自分に気がついた。




「リアン。もしかして、ここに用事が?」

「はい。この中で待ち合わせをしています」


 途中、電動モビリティを利用して移動したのだが、案内されたのは古めかしい建物だった。

 それは、国の中枢機能があると言われている国会議事堂だった。昔はここで国会が行われていたらしいが、今は建物だけが残っており、内部は国家運営のためのAIシステムがあると言われている。


「ちょっと待って。私なんかが入ってもいいの?」


 あまりにも場違いすぎて、怖気付く。


「はい。お願いします」


 そんな私の後退りを見て、リアンは丁寧に頭を下げる。もちろんリアンのことを疑っているわけではないが、自分がこんなところに呼ばれる意味がわからない。

 少し前まで学生で、地元を出てからは流されるように他国に流れ着き、やっとニホンに帰ってきたばかりだ。

 特に取り柄がある訳でもないのに、突然国の中枢の建物に入ることに抵抗感しかない。

 隣に立つ結人を見ると、同じように戸惑っているのがわかる。しかし、リアンの兄という意識があるからか、意を決したように頷いた。


「行こうか」


 そう声をかけられ、ここからひとりだけ帰るのも嫌なので、私は結人に並んで前を歩くリアンについて行くことにした。

 さすがに正面から入るわけではないらしい。通用口らしき扉から中に入る。時代を感じる建物の中は、やけに近代的な内装になっていた。特殊な床材は各フロアへの道筋を示している。左右の壁面も、見たことのない素材で、歩くたびにさざなみが立つようにディスプレイが揺れている。

 高い天井の廊下を進むと、重厚な木製の扉が見えた。その前でリアンが立ち止まるので、私たちもその両脇に立つ。すると音もなくその扉は奥に向かって開いていく。

 広い室内は、過去は会議室か何かだった名残を残しているが、今は地下へと降りる階段だけが見える。


「この先が待ち合わせです」


 迷いなく進んでいくリアンに続く。下からはひんやりとした空気が上がってきて、捲っていた袖をそっと戻した。

 階段を降りた先には真っ暗な廊下が続いている。人感センサーで照らされた廊下には人の姿はなく、自分たちの足音だけが響く。左右にある扉には、なんのプレートもかかっていない。


「こちらです」


 どんな目印があるのか、リアンは迷いなくひとつの扉の前で立ち止まった。すると、その扉は音もなく左右に開いた。

 中にはホログラムで立体的に投影された人物がいた。中性的な美しい顔立ちのその人は、黒髪に黒い瞳をしていて、手首足首まであるピッタリとしたシルバーのボディスーツを着ている。身体の凹凸がないところを見ると、本当に性別が無いのだろう。背中まである長い髪は重力に逆らって少し宙に浮いているように見える。

 室内に入った私たちを見ると、微笑みを浮かべた。


「お待ちしておりました。どうぞ、そちらにお座りください」


 そう言うと床が開き、下からスツールが三つ出てきた。

 まるで面接でも受けるかのように、間隔をあけてセットされたスツールの真ん中にリアンが座った。それを見て、私たちは左右に分かれ、リアンを挟む形で座った。


「この度は召集に応じていただき、誠にありがとうございます。私はここのシステムを管理しているAI・慧定 (エイテイ)です」


 丁寧にお辞儀をしてみせる慧定の振る舞いは、わざとらしさがなく美しかった。

 その姿に見惚れていると、静かに話を続ける。


「リアンにお願いをして、こうしてここに来ていただいたのは、おふたりにお願いしたいことがあるからです」


 ふたりというのは、結人と私のことらしい。

 何か知っているか結人のほうを見ると、結人は私を見て首を小さく横に振る。


「今、AIに関連するもので、現実と仮想空間メタバースで起きている事象をどれくらいご存知でしょうか?」


 仮想空間メタバースの話は、昨日みんなから聞いたものかもしれない。しかし、現実に起きている出来事については知らない。これは何も知らないに等しいなと気付き、自分の情報弱者っぷりに項垂れた。


「ごめんなさい。何も知らないです」


 素直にそう白状すると、結人も「俺もほとんど知らないです」と答えた。慧定はそれを受けて、私たちの目の前に大量の映像を映し出した。

 そこには、警備ロボが通行人に対して攻撃をしている様子が複数あった。場所がバラバラなところを見ると、様々なところでこの事件があったらしい。その後の警備ロボの破棄される様子や、怪我人に対する補償などのニュースも流れている。


「こちらは、昨年の十一月六日から順次発生した事案です。突然、警備ロボがウイルスに侵されて、一般人を襲うようになりました。誰によって感染させられたかはわかっていませんが、治安維持のためネットワークが繋がっていた警備ロボは、ほとんどが感染していました。除染して、今は復帰しているものも多いですが、実際に人間を傷つけた個体は、人々の強い要望でスクラップ処分となりました。しかし、また最近、似たような事象が確認されています。まるで意図的に、誰かが警備ロボの信用を失わせるために行なっているかのようなタイミングです」


 人がその事件を忘れないうちに、同じ事件を起こす。それは、人々に信用を失わせるのに充分なキッカケとなる。


「今回は、まだ感染の程度が低い状態での発見でしたが、少なくとも一件は傷害事件となっています。さらにこちらをご覧ください」


 今まで映し出されていた映像の中身がガラリと変わった。

 今度は仮想空間メタバース上でのアバター消失事件の数々が流れる。映像によっては、消える瞬間を捉えたものもあった。


「こちらは仮想空間メタバースで頻発しているアバターの消失事件です。AIに批判的な発言をした人物のアバターが削除されるという事象です。ニホン国内のみで確認されているため、犯人はニホンをターゲットにしていることがわかります。仮想空間メタバース自体はAIが管理運営を行っていますが、強制的にアバターをデリートする権限は持っていません。こちらはウイルス感染によるものではなく、人為的な事件として捉えています」

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