第77話 予想外の歓迎
地上部分に比べると人通りは少ないが、それでも賑わっている。しかも、上空部分に店舗を構えているだけあって、ディスプレイも雲や雨粒、虹などを使ったものなどあり可愛らしい。
キョロキョロと見学しながらさらに上昇していくと、だんだんと静かになってくる。
上空に到達すると、そこには高級感の漂う、広い面積の店舗が数えるほどしかないのがわかった。その中のひとつにEchoWave LLCを見つけた。
「これがトーさんのいるお店、かな」
あまりにも場違いな気がして、思わず自分のユラユラと揺らめくアバターを見下ろす。
きっとこんなところで買い物する人は、キャラクターのアバターなんて使わないだろうなと、店舗前の歩道に降り立った。
「このまま入る勇気はないけど、せっかくここまで来たから、あいさつだけはしたいな」
少し考えてから、もう一度データで取り込んだ名刺を呼び出す。そこにはトーと連絡が取れる店頭IDが書かれていた。
それを店頭に置かれているディスプレイにコピペして入力してみる。送信ボタンを押してしばらくすると、中からドヤドヤと人型のアバターが現れた。ユニホームなのか、みんなノーカラーの白いシャツに、濃紺のチェックの綺麗めなボトムスを身につけている。
「さあさあ、こちらへどうぞ」
「お待ちしておりました」
「おい! 早く囲め!」
突然取り囲むようにして、その人たちは私を店の中へと連れ込んだ。
「え? あの。私はトーさんにごあいさつしたかっただけなんですが……」
戸惑いながら声をあげると、その中のひとりが前に出てきた。
「空港では大変お世話になりました」
「もしかして……、トーさんですか?」
「はい」
見た目がかなり異なり、みんなと同じユニホームで、黒の短髪に丸メガネをかけている。
「よかった。それで、私、何かやらかしましたか?」
ジリジリと囲まれていることに不安を覚えて、トーに確認する。
「いいえ。ただお礼をいたしたく、歓迎しているだけですが?」
不思議そうに首を傾げるが、これが歓迎のための行動なのだとしたら、ちょっと怖い。
「こちらではどのようにお呼びしたらよろしいですか?」
空港では一方的に名前を聞いていたので、自分の名前を名乗っていなかった。
「ここではウミという名前で過ごしています」
「ウミ様ですね。わかりました」
どういうわけか、様付けをされてさらに奥へと通される。そして、置かれていた椅子に座らされると、その周りをぐるりと取り囲む。
一斉に両膝をついて、真ん中にいる私に向かって両手をヒラヒラとさせると、上からスポットライトで照らされる。
「え? え?」
それが終わると、全員が膝をついたまま胸に手をあてる。そして、その中のリーダーらしいひとりがおもむろに話しはじめた。
「空港で我が社の荷物を救出いただき、誠にありがとうございます」
「「「ありがとうございます」」」
トーを含む店員全員が、胸の前で手を合わせて見事に唱和する。
「救出って……」
そんな仰々しいものではない。
しかもこの状況は、怪しい集団みたいで今すぐ逃げ出したい。どうにかしてここから脱出する突破口を見つけられないか考えていると、リーダーらしき人はさらに言葉を続ける。
「あの時探し出していただいた荷物には、我が社にとって社運を左右するものが入っていました。それを素晴らしい判断力と、見事な行動力で助けられました。そのお礼を社をあげてしたいと考えておりました」
あの時の荷物が、そんなにも大切なものだったとは初耳だ。しかし、取り囲んでいる店員たちの本気が伝わってくる。
「もしよろしければ、ウミ様が希望される我が社の製品を好きなだけ用意させていただきます」
「いや、そんなことしなくても大丈夫です……」
正直、ここの会社の製品は一般ユーザーを対象としたものではないので、使いどころがよくわからないのだ。
断ると、跪いている店員のひとりが、どこからともなく小さなオブジェクトを取り出して捧げるように見せる。
「ウミ様は、こちらのキャラクターをお好きなようですので、よろしければこちらをどうぞ」
そう差し出してきたのは、ファンの間では幻と言われている虹色のキャラクターのペットだった。もともと販売数が少数だった上、高額だったので、私ははなから諦めていたものだ。連れて歩いている人を見たことも無かったので、その存在を疑っていたくらいだ。
そのペットの飼い主であろう店員は、ふるふると震えながら涙目で手のひらに乗せている。それを見て、私は思いっきり首を振ってお断りをした。
「そんな大切なものは受け取れないですし、私もすでに別の子を連れているので必要ないです」
そう言うと、涙目の店員はホッとしたようにそのペットを消した。
「しかし、それではお礼ができないですね……」
困りました、と店員たちは悩みはじめた。
「あの、本当にお礼とかいらないので……」
あの時は偶然その場に居合わせて、走りたくて気分転換にやっただけなのだ。それでこんなに感謝されても、ただただ居心地が悪い。
しばらくは店員たちがあれこれ案をあげていたが、結局いいアイデアが出なかったようで、リーダーらしき人が頷いた。
「ウミ様をこれ以上、困らせるのは我々の本意ではありません。しかし、いつか機会があれば、ぜひお礼をさせてください」
そう言うと、私を取り囲み跪いていた店員たちは、残念そうにしながらも解散してくれた。そして、トーだけがその場に残った。
「ご迷惑をおかけしました。私もあの荷物がこれほど重要なものだと、あの時はわかっていなかったんです」
口の前に人差し指を立てて、これは内緒なんですがと、トーは笑った。
「そして、空港での一件を皆に話したら大騒ぎになって。それで、ウミ様になんとかお礼がしたいと、社員一同考えていたんです」
この人はなかなかマイペースな人だなと、頭を掻いているトーを見て思った。
「そうだったんですね。あの時とあまりにも熱量が違ったのでびっくりしました。でも、本当にお礼は大丈夫ですから。今日は久しぶりに仮想空間に入ったので、寄ってみただけなんです」
最初からこんなことになるとわかっていたなら、近寄らなかったかもしれないと思いつつ、トーとの約束が果たせたことに満足した。
「わざわざお越しいただいたのに、驚かせてしまいましたね」
「でも、ちょっと面白かったからいいですよ」
「そう言ってもらえて安心しました。みんな、前のめりになっていて止められなかったもので、心配していたんです」
そうして、笑顔のトーに見送られながら、私はその場をウネウネと離れた。




