表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ナガレメグル、私の物語  作者: 綿貫灯莉
第5章 色んな再会
82/114

第75話 祖父母の家

 相変わらず美玲の作る料理は、豪華で美味しかった。

 今まで料理というものに触れてこなかったが、自らこんなにも美味しいものを作れるのはすごく楽しそうだ。ここで暮らすことになるし、美玲に料理のやり方を教えてもらうのもいい。

 そんなことを考えながらも、今日は仮想空間メタバースへ行くと決めていたので、一緒に片付けをするとすぐに部屋に戻った。


「寝る準備も整ったし、あとは寝落ち直前まで遊ぼうっと」


 頭に装着して目を瞑る。

 初期設定をして、今まで使用していたデバイスのデータも移していく。メガネ型デバイスと連携させていたものも、すべてコンタクトのほうに移行した。


「スポーン地点はふたりの家にしてみようかな」


 すでに登録されている、祖父母の家の座標を選択してログインした。すると、今まで自分の周りを取り囲んでいたベールが一気に取り払われる。

 目の前には、今いるマンションのリビングと似たような部屋が広がっていた。


「まさか、ここがおじいちゃんとおばあちゃんの家?」


 もう少しオシャレな部屋を想像していたので、現実と同じような空間に戸惑った。隣接しているキッチンの壁紙や棚も全く同じに見える。窓からの風景はさすがに異なるが、玄関へと続く廊下のフローリングも見覚えがあるものだ。


「ちょっと意外だったなぁ」

「何が意外なの?」


 突然うしろから声をかけられて、私は飛び上がるほど驚いた。恐る恐る振り返ると、そこには見たことのない人物が立っていた。

 背が高いその青年は、少し日に焼けた肌をしている。そして、黒髪がベースに銀のメッシュが入った髪で、前髪は左右に少し落ちているが、真ん中で分けた髪の毛は、ギリギリうしろでまとめられる長さらしく、紐で結んでいる。

 白いパーカーに黒いハーフコートを羽織り、デニムのような素材のパンツを身につけている。斜めにかけられたボディバックはバイオレザーでできたような質感で、よく使い込まれているように見えた。

 そして、室内ということだからか、靴は脱いでいる。

 ここは祖父母の家と聞いていたので、まさかそれ以外の人物がいると考えもしなかった。いや、まさかこれが祖父のアバターなのか?

 ちょっとかっこいいなと思ってしまったので、悟られないよう表情を引き締める。


「おじいちゃん……なの?」


 確認するように私が尋ねると、その青年はきょとんとした顔をした。それから、口元に手を持っていくと、黒い瞳を細めて少し笑った。


「え? おじいちゃんじゃないの?」

「ごめん。俺、結人」


 そう微笑みながら、私を見つめてきたのは結人のアバターだったようだ。すぐにプロフィールが送られてきて、そこにはちゃんと結人のリアルの顔も貼られている。

 普段は目にかかるくらいの前髪だからわからないが、前髪を上げるとこんな顔立ちなのかもしれない。多少は変えているようだけど、アバターのベースが結人なら納得できる。

 結人は祖父母に育てられたのだった。それなら、ここに出入りしていても不思議ではない。


「なんだ、結人かー。びっくりした」

「それを言うなら、俺もびっくりした。そのキャラが好きだって聞いてたけど、まさかそれをアバターにしてるとは思わなかった」


 そう言われて、自分の姿を見た。

 ウネウネと波打つ表皮は淡いパープルで、白色で縁取られている。触覚のような黄色ツノも生えていて、ユラユラと揺れている。

 これは軟体動物をモチーフにしたキャラクターのアバターなのだ。


「これ、期間限定で販売していたやつなんだ」


 なけなしのお小遣いを注ぎ込んで買った、愛着のあるキャラクターだ。

 自分の姿をそのままアバターにする人もいるし、まったく異なるアバターを設定している人もいる。

 私は自分の容姿を基にアバターを作成することに抵抗があった。個人を特定されるのも嫌だけど、そもそも自分の見た目に自信がない。だから好きなキャラにしているのだ。

 他にもいくつか無料で配布されていたアバターを持っているが、どれも人の形ではなく、企業のマスコットだったりする。


「いいんじゃないかな」


 現実より感情が表に出やすいこの世界で、前髪をあげた結人の笑顔は可愛らしかった。

 思わず心臓が高鳴った。


「あ、ありがとう。結人はあまり変えてないんだね」


 少し大人びていて、髪の色と長さを変えているだけに見える。


「一応、目や鼻の配置とかも変えているんだけど、じい……、師匠たちもそんなに見た目を変えてないから、俺もこんな感じになったんだ」

「じいちゃんでもいいよ」


 この家にいるからか、シェルムがいないからか、祖父母に対する距離感が近いようだ。

 なかなか定着しない師匠呼びと、親しげなじいちゃんという呼び方にクスクスと笑うと、結人も釣られて笑う。


「人の呼び方って、すぐには変えられないもんだね」

「うん。でも、おじいちゃんもおばあちゃんも、今まで通り呼んだほうが絶対に喜ぶから、前のままでいいと思うよ」

「そうかな」

「そうだよ」

「ところで、何していたの?」

「ああ、今から用事があるから、ここに置いてある道具を取りに来てたんだ」


 そう言って結人はバイオレザーのカバンを手で押さえる。

 アイテムの装備数は決まっているので、自分用のボックスを拠点に作る人は多い。私はアイテムをほとんど持っていないので、まだインベントリに余裕がある。

 どうやら結人はここにアイテムボックスを置いているらしい。


「有菊のボックスもあるから、好きに使っていいって、じいちゃんが言ってたよ」


 呼び方を戻して、奥の部屋を指差す。


「え? だってボックスって無料で作れないでしょ? 私のために買ってくれたってこと?」

「そうだと思う。俺も昔買ってもらったし」

「そうなんだ……」

「場所、教えるね」


 そう言って、普段は祖父の寝室になっている場所を案内してくれた。中にはかなりの数のアイテムボックスが置かれている。その中のひとつを開けてみせる。


「これ。パスワードとか設定するなら、ここからできるから」


 ボックスの開閉部に設置された黒い小さなセンサーのような場所を示した。


「わかった。ありがとう」


 そうして、ボックスにアクセスをして、タダでもらったおもちゃのアイテムなどを入れてみる。ここに出入りしているのは祖父母と結人だけなので、パスワードは要らないだろう。


「じゃあ、俺は待ち合わせ時間だから、もう行くね。何かわからないことがあったら、メッセージして」

「うん、わかった。ありがとう」


 どこへ行くのかはわからないが、友人と会うのかもしれない。少し興味はあるが、マナー違反なので詳しく聞くことはしない。

 行くところが決まっているからだろう。その場所でしばらくフリーズすると、パッと消えてしまった。


「私も移動しようかな」


 どうやら祖父母はいなさそうだし、誰もいない家を探索するのも居心地が悪い。

 ドアから外に出て、家の周囲がどんな風になっているのか確認すると、すぐにアバター友達とよく集まっていた広場へと向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ