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ナガレメグル、私の物語  作者: 綿貫灯莉
第5章 色んな再会
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第70話 お迎え

 空港の高い天井には様々なニュースが流れており、その中にニジェア共和国の文字を見つけた。私は急いでそのニュースをピックアップした。

 その動画には、宇宙に浮かぶ軍事衛星が映し出されている。そして、アフール大陸の西に位置する複数の国が同盟を結んだとテロップが出ている。

 それは、シェルムがハッキングしたナイナイ上空にあった軍事衛星を、広域防衛に利用する取り決めをしたというニュースだった。

 表向きは隣国の軍事衛星だったので、裏で糸を引いていたルシオ共和国は表立った抗議ができなかったようだ。

 名実ともに隣国の所有となったのを期に、今回の同盟を結んだようだが、それも随分前から用意されていた筋書きだったのかもしれない。

 あの時に液体に浮かんでいた、楽しい未来計画には、隣国へ移住する計画も書き込まれていた。そういった人々が、暗躍しているのかもしれない。


「あれ、ホント大変だったんだぜ。ハッキングだけじゃなくて、権限をこちらに付与して、さらにアクセス方法の変更やらなんやらを、あの短期間でやれっていうんだから。師匠も困ったもんだよ」


 シェルムはやれやれと首をすくめている。


「でも、おじいちゃんのデバイスにアクセスしようとしてたんでしょ?」

「あれは楽しいからいいんだよ」

「ふーん」

「それより、キクもユイトもやることあるんだろ?」

「あ、そうだ。ちょっと行ってくる」

「髪なんて伸ばしっぱなしでいいじゃん」

「ダメなんだよ。長いの似合わないし、みっともないから」


 ディーディでも一度切りに行ったのだが、また伸びてしまっているので空港内のヘアカットルームに行くのだ。

 肩につくくらいの長さの髪を、今はそのままにしている。しかし、今からエコミュニティに帰るのなら、できるだけ短くしておきたい。


「有菊ちゃん、髪は長くても似合いますよ。今の長さもかわいいです」

「うん。短いのもいいけど、長くても似合うから、好きな髪型にしたほうがいいよ」


 リアンどころか、結人まで頷きながら同意してくるので、私は顔が熱くなった。

 どうもナイナイを出てから、やたらシェルムと結人のふたりが絡んでくるようになった。シェルムは前からなので気にならないが、結人は開いていた距離をグッと縮めてきた。

 その距離感にまだ慣れなくて、戸惑ってしまう。


「お〜、やってるね〜」


 そこに懐かしい声がした。

 振り返ると、そこにはベージュのチノパンに桜色の柔らかなニットを着た美玲がいた。黒髪ロングは相変わらず艶があり、ニコニコと笑っている顔にはメガネ型デバイスがかけられている。


「美玲さん!」

「やっほー」

「え? 誰?」


 初めて美玲と会うシェルムは、少しだけ警戒する。


「そっか。シェルムは美玲さんに会うの初めてだっけ? えーっと……こちらはうちのお隣さんの王美玲さん。で、こっちがシェルムで、私の友達、かな?」


 ふたりをどう紹介していいかわからず、とりあえずニホンでの関係を紹介する。美玲に関しては、あそこから引っ越しているかもと思っていると、美玲は私の肩を抱いてきた。


「そうそう。アッキーはワタシのお隣さんだよー。一緒に寝たこともある仲良しさん」

「へー。まあ、俺のほうが昔からの友達だけどな」


 そう対抗するように返事をすると、シェルムは私に向かって聞いてくる。


「で、どうすんの? そのまま行くの?」

「いや、切ってくる。結人もどこかで待ち合わせしてるんでしょ? 合流はここでいい?」

「うん。じゃあ待ち合わせはここで。有菊、途中まで方向同じだから、一緒に行こう」


 そう言って、結人は私に行き先を示す。

 するとシェルムがその間に入ってくる。


「ちょいちょい待った。そんなら俺も行く」

「なんだか楽しそうなことになってるわね。じゃあ、みんなで行きましょう」


 ムフフと笑っている美玲は、私のリュックを背負った肩をうしろから掴んで前へと歩かせる。


「というか、美玲さんはなんでここにいるんですか?」

「そりゃあ、アッキーを迎えにきたんだよー」


 うしろから顔をのぞかせる美玲は、上機嫌に私の頬をつつく。


「えっと……、実は私たち、これからシェルムのご家族と、私のいたエコミュニティに行くんです」

「え? そうなの?」

「はい」

「じゃあ、ワタシもついて行こうかな」

「え?」

「定員オーバーだよ」


 不機嫌そうにシェルムが横からそう伝える。


「じゃあ別のライドユニットをレンタルするから、アッキーはワタシと行こうよ」

「え? あの」

「いやいや、キクは俺たちと一緒に行くんだよ。妹も楽しみにしてるし」

「じゃあ、シェルムとユイティーがここで借りたライドユニットに乗りなよ。で、アッキーとワタシとリャンくんがお迎えのに乗ると」

「意味わかんねーよ。だー。ちょっと待ってろ」


 そう言ってシェルムはどこかに連絡をとりはじめた。しばらくやりとりをしてから、こちらを向いた。


「まだ乗れるらしいから、アンタもいいってさ」

「やったー」


 そうして、私は髪を切りにいき、結人もリアンとともにどこかに消えていった。

 ヘアカットルームはガラガラで、ほとんどの部屋が空室を示すグリーンのランプだった。部屋に入ると、いつもオーダーしている顎のラインまで切ってもらった。終わるとすぐに蝶のヘアクリップをつけ直す。結人と祖母が協力して作ってくれたと知って、私は前よりもこのプレゼントを意識するようになった。鏡を見ながら、できるだけ可愛く見える角度に動かす。

 合流した時、結人はずっと被っていたパーカーのフードを脱いでいて、頭にあった猫耳が消えていた。


「もしかして、クマみたいな人に会ってたの?」

「うん。ニホンに入ったら取ってもらえる約束だったから」


 晴れ晴れした表情の結人は、髪の毛を手で払って整えた。


「じゃあ揃ったし、あっちもそろそろ着くみたいだから行くぞー」


 どうやら、シェルムの家族が乗ったライドユニットが到着するらしい。賑やかに地下にある乗降場まで歩いて行くと、すでに飛行船からの荷物が到着していた。大半はシェルムのもので、次いで結人の荷物があった。とは言っても、その荷物も多くはない。私の荷物もほとんどなかったのだが、持ち歩くのも面倒だったので、それらと一緒にまとめてもらっていた。


「あ、お兄ちゃん」


 そう言って少し長いポテっとした楕円体のライドユニットから出てきたのは、リアンと同じくらいの年の女の子だった。


「よー、カタリン。久しぶり。もしかして来たのはお前だけか?」

「うん。ふたりは家にいる。でも、もう車内の通信では繋がってるよ」

「じゃあ、先に顔だけ見せとくか」


 やる気はなさそうに振る舞っているが、久々の家族に会う嬉しさが、そこはかとなく滲み出ている。


「もしかして、カタリンってあの時の?」

「アキクさん、学校ではお世話になりました。今もみんなと仲良くしています」


 そう白い歯を見せて笑う女の子は、在学中にいじめから助けた女の子だった。まさかその子がシェルムの妹とは驚きだ。


「兄はご迷惑お掛けしていませんか?」

「大丈夫だよ。むしろ私たちが助けられたくらいだよ」


 しっかりとした受け答えのカタリンに、私は慌てて答える。随分とニホン語も上達したようで、以前の自信のない内気な女の子から印象がかなり変わった。


「荷物、全部入れました」


 リアンがそう言って、車体のうしろから顔を出した。立ち話をしている間に、大量の荷物がすっかり消えていた。中にいたシェルムが窓から顔を出す。


「じゃあ行こうぜー」


 その言葉に、みんなはライドユニットに乗り込んだ。中ではディスプレイに映っているシェルムの両親にあいさつをして、それからエコミュニティ到着までの数時間はゲーム大会で盛り上がった。

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