第68話 楽しい未来計画
「おはようございます」
そう、幼い声でハキハキとあいさつしたのは、上半身を起こしたリアンだ。
治安の回復に伴い交通網が復活して、ナイナイには、様々なものが入ってくるようになった。その中には、リアンの修理に必要な材料も含まれていた。
注文してそれらが手に入ると、数日かけて、結人は祖父とともにリアンの修復作業にあたった。
そして先ほど、無事に修理が完了したと、結人からメッセージを受け取った。それを見た有菊は、作業の手を止めて、急いで修理をしていた部屋を訪れた。
そこには、いつも身につけていた服を着たリアンが寝かされていた。ウィーロに撃ち抜かれた部分も、綺麗に繕われている。
緊張した様子の結人が起動操作をすると、すぐにリアンは目を開けた。一瞬、ピントでも合わせるかのような瞳の動きがあり、それから十秒ほど沈黙したのち、上半身を起こして、正面に立つ祖父に向かってあいさつをした。
そして、周りを見渡すと、すぐに台の上から床にピョンと飛び降りて靴を履いた。そのまま、定位置である結人の隣におさまった。
すると、それまでリアンの傍らにいた小雪が、使命を終えたとばかりに、有菊の肩に飛び乗ってくる。
「おはよう、リアンくん」
小雪を肩に乗せたまま、有菊は目線を合わせるように屈んで、そう笑顔で話しかけてみた。するとリアンはニコッと笑って、「有菊ちゃん、おはようございます」と返してくれる。
その反応は以前と変わらないもので、安心して顔を上げると、こちらを緊張した表情で見ていた結人と目があった。
「結人、よかったね。これでまた、リアンくんと一緒に過ごせるね」
頬にすり寄ってくる小雪を撫でながら、有菊が笑いかける。その笑顔に釣られたように、結人は表情を緩めて小さく頷いた。
そんなふたりの様子を見て、リアンは目をぱちくりする。
「有菊ちゃんも、お兄ちゃんのことを名前で呼ぶようになったんですね」
透き通った黒い瞳で見つめられ、有菊は照れながらも、「うん。そうなんだ」と答える。そういえば、リアンは、結人を名前で呼ぶことを望んでいた。
有菊のその返事に、リアンは嬉しそうに笑った。
「これで、ふたりは仲良しですね」
そんな子供のような、邪気のないリアンの表情に、やっぱりアンドロイドには見えないなと、有菊は心の中で思った。
「よっ! みんな元気だったかー!」
突然、部屋に入ってきたのはシェルムだ。
マスタードイエローのカーゴパンツに、白いロングTシャツ姿というその格好は、今見ると、完全に祖父のコスプレだ。
「おお、悪戯好きか」
リアンと有菊のやりとりを、嬉しそうに見ていた祖父は、そう言って片手を軽くあげた。
「まったく、師匠は人使いが荒いって。あの短期間で、あのアサインは無茶振りがすぎるって」
「いやー、オレのデバイスにちょくちょくアタックしてきてたから、暇なのかと思ってな」
「あれはちょっとしたイタズラだよー」
その会話で、ふたりの親しさの程度がよくわかった。しかも、師匠といいつつ、ハッキングをしようとするあたり、シェルムらしい。
有菊はそんなふたりに質問してみた。
「もしかして、シェルムって名前はおじいちゃんがつけたの?」
「そうだ」
祖父は腕を組んで頷く。
「そーそー。最初に捕まった時に名前聞かれたけど、まさか捕まるなんて思ってなかったから、考えてなかったんだよねー」
頭のうしろに手を組んで答えるシェルムは、当時のことを思い出しているようだ。
「本名まで調べるのも面倒だったから、悪戯好きと呼んだら、どうもそれを気に入ったらしくてな。アキクにも、そう名乗ってるんだろ?」
「うん。悪戯っ子ってニホン語では当て字をしてるけど、その名前しか知らない」
「いやー、何かとニックネームのほうが便利だからさー」
この感じだと、本名は教えてもらえなさそうだ。
「でも、悪戯っ子と言いながら、悪戯のレベルは可愛くないよね」
「そこがまたいーんだよー」
本当にやっていることは、全然可愛くないレベルだ。なんなら、国の防衛のあり方まで変えてしまうようなことをやってのける。
しかし、相当この名前に愛着があるらしく、シェルムは満足げにそう答えた。
「あら? シェルムじゃない。こんなところにいたんだ」
リアンの様子を見にきた祖母が、顔を覗かせた。
それを見たシェルムは、何をやらかしたのか、怖いモノでも見たかのように顔を引き攣らせ、急いで腕をおろす。
「なるほどね。リアンも大丈夫そうだし、じゃあ行きましょうか」
少し前に、ここの復興の景気付けとして、まずは雨発生装置の完成披露をしようという話になっていたのだ。
そのため、最終調整に入っている祖母は少し気が立っていた。そのせいなのか、シェルムの姿を見るなり、いきなり襟首を掴んで連れて行ってしまった。
「仕方ない。到着予定は三日前だったのに、今日まで地上で遊んでいたらしいからな。しかも、先にあっちに顔を出さずに、いきなりこっちに来たとみえる。あれは完全に怒らせたな」
祖母は、シェルムに依頼していたパーツを待っていたらしい。しかし、いつまでたっても来ないため、作業を進められず困っていたそうだ。
引きずられるように連れ去られていくシェルムを、祖父は哀れみの目で見送っていた。
そして、ついに完成披露を翌日に控えた日の午後、祖母は有菊に声をかけてきた。
「そういえば、アキクに送った手紙を、ここに持ってきてるって本当?」
明日の準備も終わり、すっかり手が空いた有菊は、小雪を膝に置いてメガネ型のデバイスをいじっていた。なにやら、小雪の機能にアップデートがあったらしく、その内容を確認していたのだ。
祖母の声かけに顔を上げると、「うん。リュックにあるよ」と頷く。
「それなら、このあたりが頃合いね。ちょっと見せてもらってもいい?」
そう言われ、頃合いとは何のことだろうと思いつつ、有菊は一度祖母の部屋に戻った。そして、リュックから手紙の入った缶を取り出すと、そのまま祖母に手渡した。
その様子を見ていた祖父が、部屋から出ていった。
「懐かしいわね。こういう古風な便箋って、手に入れるの大変だったけど、やっぱりやって良かったわ」
缶のフタを開けて、中に丁寧に仕舞われている手紙の束を見つめ、祖母は懐かしそうに目を細めた。
「私もおばあちゃんからの手紙、すごく嬉しかったんだよ。字も綺麗だし、私、あんまり字が上手じゃないから、おばあちゃんの文字を真似して練習してたんだよ」
そう言うと、祖母はきょとんとした顔で有菊を見た。
「あら? ユイトから聞いてないの?」
そう祖母は結人を振り返ると、こちらの様子を見ていた結人は、そっぽを向いてしまった。
「何? 結人がどうしたの?」
どうしてここで結人の名前が出てくるのか不思議で、祖母に尋ねる。
「この手紙はユイトが書いてくれていたのよ。ほら、私はニホン語、読むのも書くのも得意じゃないから」
話をよくよく聞くと、ニホン語に書き起こすどころか、内容の大部分を結人に任せていたらしい。ふんわりと言いたいことを結人に口頭で伝え、それらを汲み取って、結人は有菊からの手紙を加味して文章にしていたという。
「え? じゃあ私は、結人と文通してたってこと?」
「まあ、実質そうね」
祖母は頬に手をあてて頷く。
自分が書いた文面をよく覚えていないが、どうでもいいつまらないことや、泣き言なんかも書いていた気がする。
そう思うと、有菊は顔が赤くなる。
「何でそんなことしてたのよ!」
恥ずかしさを紛らわそうと、祖母に強く言うと、祖母は手紙を封筒から出していた。
「もちろん、アキクの近況を知りたかったのが一番の動機よ。ただ、もう一個、このインクを使いたかったというのもあるわ」
そう答えると、別室に行っていた祖父が、大きな箱と液体の入った重たそうなボトルを抱えてやってきた。その姿を見た結人は、急いで手伝いに走る。
そして、部屋にあったテーブルの上の荷物を片付けると、そこに大きな箱を置いた。十センチくらいの深さの四角い箱は、一辺が一メートル以上あり、上はフタがない。
「試しに一枚だけ漬けてみるか」
結人が運んでいた重たそうなボトルを、祖父が受け取ると、その容器に液体を流し込んだ。そして祖母は、いきなりその液体の中に手紙を一枚放り込む。
「ちょっと!」
手紙がダメになってしまうと焦った有菊は、液体を覗き込む。
「ああ、大丈夫そうだ。元の文字も残しつつ、抽出もできてる」
底に沈んだ手紙の文字は、液体に滲むことなくはっきり読める。しかし、それとは別に、文字の表面が剥がれ、発光した何かが浮かび上がってくる。
「じゃあ、全部入れましょう」
そう言った祖母は、封筒から出し終えた手紙を全て、液体の中に沈めてしまった。
有菊は手紙を濡らされたことよりも、これから起こることに興味をそそられて、静かにその様子を伺った。
「浮き上がってきたインクが、全然別の文字を形成してる!」
それはニホン語ではなく、こちらで使用されているいくつかの言語だった。
しかも、寄せ書きのように書かれているそれらの文字は、全て筆跡も異なる。
また生きて、笑顔で会おう!
砂嵐を防げるシールドを開発する
私たちのような人々を救いたいです
絶対に医者になる
負けない
この地を植物でいっぱいにする
未来に向けて歩みを止めない!
心はナイナイと共に……
子供達が安心して暮らせる場所にしたい
強い武器を作って、みんなを守るよ
食べ物を無限に作れる工場を作りたいな
……
「これって……」
ゆらゆらと液体の上で発光して浮かぶ文字は、どれも目標のような、希望のような言葉ばかりだ。中には、具体的な組織名を書いて、そこに潜入すると宣言しているものまである。
筆跡の数は数人ではない。
かなりの人数が参加しているのがわかる。言葉の横に書かれた名前を見ても、全て異なる名前だ。
「これは、楽しい未来計画よ」
そう答える祖母の目は懐かしそうに、そして慈しむように、細められている。
「楽しい未来計画?」
有菊の疑問に、祖父が答える。
「実は、ここが侵略された当時から、ここの復興を目指していたんだ」
本当は誰もが、この地に留まって、自分たちの故郷を守りたがった。しかし、交戦が長引けば長引くほど、大切な命が失われるのもわかっていた。
だから、まずは逃げ出したという。
「ここは、今から百年以上前に、あるたったひとりの人間の、思いつきから生まれたエコミュニティなんだ」
「当時、最貧困と言われていたこの土地が、いつかこんな未来になったら良いなと、楽しみながら作りはじめた場所なのよ」
「……」
「そして、その楽しそうな未来計画に、ひとり、またひとりと、国籍を問わず、色んな人たちが乗っかったんだ。現地に来られない人たちは、募金という形で応援をしてくれてな。その流れは、資源もなく、植物もまばらな荒廃した土地を、当時の最先端技術が集まる新世代型共同体へと押し上げていった」
初めて聞く、遠い昔にあったその話に、有菊は胸が熱くなるのを感じた。
「そんなエコミュニティが、楽しくない場所になるのが悲しくてね」
そうして、理不尽に大切な故郷を追い出され、逃げ出した人々の中から有志が集まった。
その数は百人を軽く超え、このはじまりの物語のような奇跡をもう一度と、奪還から復興までの、楽しい未来計画を作ることになったという。
みんながバラバラになってしまうその前に、このエコミュニティの楽しく明るい未来を想像して、それを書いてもらったのだという。
「実現できそうなものは、すぐに分担して作業に取り掛かって。そうやって、少しずつ計画を進めていったの」
懐かしむような祖母の言葉に、祖父も深く頷く。
「これは、その記念なの」
自分たちがこれを持ち歩いていると、どこかで盗まれたり紛失する可能性がある。しかも、極秘で遂行する必要のある内容も書かれているため、隠す必要もあった。
それならと、特殊な形状記憶インクでコピーして、そのインクを液体に戻し、バックアップとして持っていたという。しかし、計画が大詰めを迎え、自分たちの身の安全があやしくなってきたため、手紙という形で有菊に預けたらしい。
「オリジナルは?」
祖母は少し悲しそうな顔で、首を横に振る。
「残念ながら、焼失したの」
どうやら、信頼できる先に預けていたらしいが、事件なのか事故なのか、焼失してしまったらしい。
「もちろん、電子データでも残してあるのよ。秘匿性の高い部分は消してあるけれど。でも、こうやって完全なものを、実際の文字を見ると、当時の記憶が鮮明に蘇ってくるものなのね……」
しみじみと液体に浮かぶ文字を見つめる祖母の目には、光るものが見える。そんな祖母の肩を、祖父はそっと抱いた。
「アキク、私たちの手紙を大切に持っていてくれて、本当にありがとう」
祖父母の、泣き笑いのような優しい笑顔を見て、有菊はその裏に隠された、多くの苦悩のようなものを感じとった。
すると、なんだかふたりに対する気持ちが抑えられなくなり、自分のキャラなどどうでも良くなり、湧きあがる気持ちを、そのまま口に出した。
「だって、私、ふたりのこと大好きだから」
そう言って有菊は、ふたりに抱きついた。
ふたりは、少し驚いたように顔を見合わせてから、小さな子供のように抱きついてきた有菊を、柔らかく抱きしめた。
「本当は一緒に暮らしたかったんだけど、危ない目に合わせたくなくて、ごめんね」
「わかってる」
組織内部にさえ、裏切り者がいたのだ。
安全なニホンで、のほほんと暮らしていた有菊が一緒にいたら、祖父母の命が危なかったかもしれない。
「アキクがオレたちの人生の中にいてくれて、本当に良かったよ」
「うん」
「大切なアキクと、この土地でこうしていられるなんて、夢みたいだわ」
「うん」
「これからは、ずっと一緒にいられるわね」
そう笑いかける祖母に対して、有菊は少し気まずそうに下を向いた。
「あの……、私、そろそろ一度ニホンに帰らなきゃいけないの……」
「何かあるの?」
実は、数日前に母親から連絡があったのだ。
「お母さんが顔を見せにこいって」
「何かあったの?」
祖母が心配そうに、有菊の顔を覗き込む。
「ううん。特に何もないんだけど……。ただ、家を出る時に、年に一回以上は顔を見せに帰るように言われていて……」
「アキクは顔を見に帰りたいのか?」
歯切れの悪い説明をする有菊に、祖父は不思議そうに尋ねる。
「うーん、私は別に会いたいとは思ってなくて」
つい祖父母の前では、本音が出てしまう。
正直、自分の話をしても、ケチをつけられるか、近所の人たちに面白おかしく触れまわるだけなので、自分から話すことはない。
そして、家にいる間は、ひたすら噂話やあらゆる人の悪口を延々と聞かされるので、苦痛な時間なのは間違いない。
「じゃあ、無理に行かなくてもいいんじゃないの?」
「でも、お父さんからは、まだお金をもらってるし……」
「それは当然の権利だからもらえばいいのよ。それとこれを同じ問題にしてはダメよ」
「でも、そうしないのは親不孝だって言うし……」
有菊の母親に対する態度に、祖母は眉を顰めた。
「アキクの親孝行は、もうここまで無事に育ったことで終わってるのよ。これ以上求めることに、無理に応える必要はアキクにはないのよ」
「でも……」
「もし、アキクの親がただの顔見知りだったとしたら、仲良くなろうとがんばる?」
「あー、それはないかな。多分一番近づきたくないタイプかも」
母親のことを思い浮かべて、有菊は答える。
その素直な返答に、祖母は一度目を閉じてから、有菊を見つめた。
「アキクとその両親の関係は、法律上、その縁を切ることが可能なの。ただし、生物学的には切ることはできない、そんな繋がりだわ。つまり、血の繋がりという縁があるだけなの」
「でも、一応ここまで育ててもらったし……」
「アキクは優しいのね。でも、そんな風に『育ててもらった』なんて、後ろめたく感じる必要はないの。子供を持つかどうかの判断をしたのは、親なのだから」
「でも……」
「アキクはもう自分で考えることができるわ。そのアキクが、友人にすらなりたくないような、そんな風に思わせる生き方をしているのは、あの子達自身よ。だから、関係を構築するのが難しいと感じているのなら、無理に合わせる必要はないわ」
「そう、なのかな……」
「あの子たちの人間としての問題点は、あの子達自身で解決するべきだから、アキクががんばらなくてもいいの」
祖母の言葉に、祖父も頷いている。
「それに、私たちも家族なんだから、アキクが嫌でなければ、ここで一緒に暮らすこともできるのよ」
そして、そんな未来を想像してみる。
絶対的な味方で、尊敬できる祖父母がそばにいてくれて、ふたりから様々なことを学びながら成長していく。それは、有菊がずっと願っていた形だ。
だけど、ニホンにいる母親との関係を、ここでいきなり縁を切るようなことはできない。
ある日突然、音信不通になる人もいるらしいが、そんなことをした日には、地元のエコミュニティでなんと噂されるかわからない。
親友と呼べるような子はいないが、友人や部品屋など親しい人も少なからずいるから、そんなことはしたくない。
「ありがとう、おじいちゃん、おばあちゃん。私、もう少し考えてみる」
「ええ、納得いくまで考えなさい」
「オレたちはここにいるから、一緒に暮らしたくなったら、いつでもおいで」
「うん、ありがとう。ふたりとも」
すると、それまで静かにやりとりを見ていたリアンが、一歩前に出てきた。
「有菊ちゃんがニホンに帰るなら、僕も一緒に帰りたいです」
「突然どうした?」
まさか、そんなことをリアンが言い出すと思っていなかった祖父は、驚いてリアンに尋ねる。
「ニホンに助けを求めてるAIがいるんです」
「リアンにか?」
「はい。僕に直接会いたいと言ってきています」
「仮想空間上ではなく、直接というところが穏やかじゃないな」
腕を組んでリアンの言葉に懸念を示す祖父は、険しい顔をする。
「じゃあ、私はリアンくんとニホンに帰ろうかな」
「俺も一緒に帰るよ」
そう結人は手を挙げる。
リアンが帰国するなら当然かと、そう思っていると、「ふぁあ……じゃあ俺もぉ」と、うしろから気の抜けた声が聞こえた。
祖母に散々こき使われて、部屋の隅で爆睡していたシェルムが、いつの間にか近くまで来ていて、手を挙げている。
そして、あくびをしながら同行を表明した。
「え? なんで? あ、ニホン食のために?」
以前、ニホン食を食べたいと言って食べられなかったので、わざわざニホンまで行って、リベンジするのかなと有菊は首を傾げた。
「ちっがーう! なんでだよ! ソフィに前から頼まれてたんだよ。それに、家族がニホンにいるから、久々に会いに行こうかと思ってさー」
「あ、そうなんだ」
シェルムの家族がニホンにいるなんて、全然知らなかった。しかし、それならニホンに同行する理由も納得だ。
「あらあら。若い子たちが一気にいなくなるのは寂しいわね。でも、今しかできないことを、いっぱいしてきなさい」
みんなの顔を見てから、祖母はそう言って笑う。
「ああ、色んな経験をして、またオレたちに聞かせてくれ」
祖父もニカッとした笑顔で、一人ひとりの顔を見渡す。
「うん、わかった」
ニホンに行く理由は様々だが、有菊たちはその言葉に大きく頷いた。
そうして、翌日の雨発生装置の完成披露が無事に終わると、慌ただしく出立の準備をはじめた。
有菊たちの活躍を知る、ニジェア共和国の政府が、国内の空港からニホンまでのチケットを、人数分手配してくれた。
そして、一ヶ月に満たないナイナイでの生活を終え、大好きなふたりのいるこの場所から、ニホンへと旅立ったのだった。




