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ナガレメグル、私の物語  作者: 綿貫灯莉
第4章 ふたりのいる場所
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第68話 楽しい未来計画

「おはようございます」


 そう、幼い声でハキハキとあいさつしたのは、上半身を起こしたリアンだ。


 治安の回復に伴い交通網が復活して、ナイナイには、様々なものが入ってくるようになった。その中には、リアンの修理に必要な材料も含まれていた。

 注文してそれらが手に入ると、数日かけて、結人は祖父とともにリアンの修復作業にあたった。


 そして先ほど、無事に修理が完了したと、結人からメッセージを受け取った。それを見た有菊は、作業の手を止めて、急いで修理をしていた部屋を訪れた。


 そこには、いつも身につけていた服を着たリアンが寝かされていた。ウィーロに撃ち抜かれた部分も、綺麗に繕われている。

 緊張した様子の結人が起動操作をすると、すぐにリアンは目を開けた。一瞬、ピントでも合わせるかのような瞳の動きがあり、それから十秒ほど沈黙したのち、上半身を起こして、正面に立つ祖父に向かってあいさつをした。

 そして、周りを見渡すと、すぐに台の上から床にピョンと飛び降りて靴を履いた。そのまま、定位置である結人の隣におさまった。

 すると、それまでリアンの傍らにいた小雪が、使命を終えたとばかりに、有菊の肩に飛び乗ってくる。


「おはよう、リアンくん」


 小雪を肩に乗せたまま、有菊は目線を合わせるように屈んで、そう笑顔で話しかけてみた。するとリアンはニコッと笑って、「有菊ちゃん、おはようございます」と返してくれる。

 その反応は以前と変わらないもので、安心して顔を上げると、こちらを緊張した表情で見ていた結人と目があった。


「結人、よかったね。これでまた、リアンくんと一緒に過ごせるね」


 頬にすり寄ってくる小雪を撫でながら、有菊が笑いかける。その笑顔に釣られたように、結人は表情を緩めて小さく頷いた。

 そんなふたりの様子を見て、リアンは目をぱちくりする。


「有菊ちゃんも、お兄ちゃんのことを名前で呼ぶようになったんですね」


 透き通った黒い瞳で見つめられ、有菊は照れながらも、「うん。そうなんだ」と答える。そういえば、リアンは、結人を名前で呼ぶことを望んでいた。

 有菊のその返事に、リアンは嬉しそうに笑った。


「これで、ふたりは仲良しですね」


 そんな子供のような、邪気のないリアンの表情に、やっぱりアンドロイドには見えないなと、有菊は心の中で思った。


「よっ! みんな元気だったかー!」


 突然、部屋に入ってきたのはシェルムだ。

 マスタードイエローのカーゴパンツに、白いロングTシャツ姿というその格好は、今見ると、完全に祖父のコスプレだ。


「おお、悪戯好き(シェルム)か」


 リアンと有菊のやりとりを、嬉しそうに見ていた祖父は、そう言って片手を軽くあげた。


「まったく、師匠は人使いが荒いって。あの短期間で、あのアサインは無茶振りがすぎるって」

「いやー、オレのデバイスにちょくちょくアタックしてきてたから、暇なのかと思ってな」

「あれはちょっとしたイタズラだよー」


 その会話で、ふたりの親しさの程度がよくわかった。しかも、師匠といいつつ、ハッキングをしようとするあたり、シェルムらしい。

 有菊はそんなふたりに質問してみた。


「もしかして、シェルムって名前はおじいちゃんがつけたの?」

「そうだ」


 祖父は腕を組んで頷く。


「そーそー。最初に捕まった時に名前聞かれたけど、まさか捕まるなんて思ってなかったから、考えてなかったんだよねー」


 頭のうしろに手を組んで答えるシェルムは、当時のことを思い出しているようだ。


「本名まで調べるのも面倒だったから、悪戯好き(シェルム)と呼んだら、どうもそれを気に入ったらしくてな。アキクにも、そう名乗ってるんだろ?」

「うん。悪戯(いたずら)っ子ってニホン語では当て字をしてるけど、その名前しか知らない」

「いやー、何かとニックネームのほうが便利だからさー」


 この感じだと、本名は教えてもらえなさそうだ。


「でも、悪戯っ子と言いながら、悪戯のレベルは可愛くないよね」

「そこがまたいーんだよー」


 本当にやっていることは、全然可愛くないレベルだ。なんなら、国の防衛のあり方まで変えてしまうようなことをやってのける。

 しかし、相当この名前に愛着があるらしく、シェルムは満足げにそう答えた。


「あら? シェルムじゃない。こんなところにいたんだ」


 リアンの様子を見にきた祖母が、顔を覗かせた。

 それを見たシェルムは、何をやらかしたのか、怖いモノでも見たかのように顔を引き攣らせ、急いで腕をおろす。


「なるほどね。リアンも大丈夫そうだし、じゃあ行きましょうか」


 少し前に、ここの復興の景気付けとして、まずは雨発生装置(レインジェネレーター)の完成披露をしようという話になっていたのだ。

 そのため、最終調整に入っている祖母は少し気が立っていた。そのせいなのか、シェルムの姿を見るなり、いきなり襟首を掴んで連れて行ってしまった。


「仕方ない。到着予定は三日前だったのに、今日まで地上(このうえ)で遊んでいたらしいからな。しかも、先にあっちに顔を出さずに、いきなりこっちに来たとみえる。あれは完全に怒らせたな」


 祖母は、シェルムに依頼していたパーツを待っていたらしい。しかし、いつまでたっても来ないため、作業を進められず困っていたそうだ。

 引きずられるように連れ去られていくシェルムを、祖父は哀れみの目で見送っていた。




 そして、ついに完成披露を翌日に控えた日の午後、祖母は有菊に声をかけてきた。


「そういえば、アキクに送った手紙を、ここに持ってきてるって本当?」


 明日の準備も終わり、すっかり手が空いた有菊は、小雪を膝に置いてメガネ型のデバイスをいじっていた。なにやら、小雪の機能にアップデートがあったらしく、その内容を確認していたのだ。

 祖母の声かけに顔を上げると、「うん。リュックにあるよ」と頷く。


「それなら、このあたりが頃合いね。ちょっと見せてもらってもいい?」


 そう言われ、頃合いとは何のことだろうと思いつつ、有菊は一度祖母の部屋に戻った。そして、リュックから手紙の入った缶を取り出すと、そのまま祖母に手渡した。

 その様子を見ていた祖父が、部屋から出ていった。


「懐かしいわね。こういう古風な便箋って、手に入れるの大変だったけど、やっぱりやって良かったわ」


 缶のフタを開けて、中に丁寧に仕舞われている手紙の束を見つめ、祖母は懐かしそうに目を細めた。


「私もおばあちゃんからの手紙、すごく嬉しかったんだよ。字も綺麗だし、私、あんまり字が上手じゃないから、おばあちゃんの文字を真似して練習してたんだよ」


 そう言うと、祖母はきょとんとした顔で有菊を見た。


「あら? ユイトから聞いてないの?」


 そう祖母は結人を振り返ると、こちらの様子を見ていた結人は、そっぽを向いてしまった。


「何? 結人がどうしたの?」


 どうしてここで結人の名前が出てくるのか不思議で、祖母に尋ねる。


「この手紙はユイトが書いてくれていたのよ。ほら、私はニホン語、読むのも書くのも得意じゃないから」


 話をよくよく聞くと、ニホン語に書き起こすどころか、内容の大部分を結人に任せていたらしい。ふんわりと言いたいことを結人に口頭で伝え、それらを汲み取って、結人は有菊からの手紙を加味して文章にしていたという。


「え? じゃあ私は、結人と文通してたってこと?」

「まあ、実質そうね」


 祖母は頬に手をあてて頷く。

 自分が書いた文面をよく覚えていないが、どうでもいいつまらないことや、泣き言なんかも書いていた気がする。

 そう思うと、有菊は顔が赤くなる。


「何でそんなことしてたのよ!」


 恥ずかしさを紛らわそうと、祖母に強く言うと、祖母は手紙を封筒から出していた。


「もちろん、アキクの近況を知りたかったのが一番の動機よ。ただ、もう一個、このインクを使いたかったというのもあるわ」


 そう答えると、別室に行っていた祖父が、大きな箱と液体の入った重たそうなボトルを抱えてやってきた。その姿を見た結人は、急いで手伝いに走る。

 そして、部屋にあったテーブルの上の荷物を片付けると、そこに大きな箱を置いた。十センチくらいの深さの四角い箱は、一辺が一メートル以上あり、上はフタがない。


「試しに一枚だけ漬けてみるか」


 結人が運んでいた重たそうなボトルを、祖父が受け取ると、その容器に液体を流し込んだ。そして祖母は、いきなりその液体の中に手紙を一枚放り込む。


「ちょっと!」


 手紙がダメになってしまうと焦った有菊は、液体を覗き込む。


「ああ、大丈夫そうだ。元の文字も残しつつ、抽出もできてる」


 底に沈んだ手紙の文字は、液体に滲むことなくはっきり読める。しかし、それとは別に、文字の表面が剥がれ、発光した何かが浮かび上がってくる。


「じゃあ、全部入れましょう」


 そう言った祖母は、封筒から出し終えた手紙を全て、液体の中に沈めてしまった。

 有菊は手紙を濡らされたことよりも、これから起こることに興味をそそられて、静かにその様子を伺った。


「浮き上がってきたインクが、全然別の文字を形成してる!」


 それはニホン語ではなく、こちらで使用されているいくつかの言語だった。

 しかも、寄せ書きのように書かれているそれらの文字は、全て筆跡も異なる。


 また生きて、笑顔で会おう!

 砂嵐を防げるシールドを開発する

 私たちのような人々を救いたいです

 絶対に医者になる

 負けない

 この地を植物でいっぱいにする

 未来に向けて歩みを止めない!

 心はナイナイと共に……

 子供達が安心して暮らせる場所にしたい

 強い武器を作って、みんなを守るよ

 食べ物を無限に作れる工場を作りたいな

 ……


「これって……」


 ゆらゆらと液体の上で発光して浮かぶ文字は、どれも目標のような、希望のような言葉ばかりだ。中には、具体的な組織名を書いて、そこに潜入すると宣言しているものまである。

 筆跡の数は数人ではない。

 かなりの人数が参加しているのがわかる。言葉の横に書かれた名前を見ても、全て異なる名前だ。


「これは、楽しい未来計画よ」


 そう答える祖母の目は懐かしそうに、そして慈しむように、細められている。


「楽しい未来計画?」


 有菊の疑問に、祖父が答える。


「実は、ここが侵略された当時から、ここの復興を目指していたんだ」


 本当は誰もが、この地に留まって、自分たちの故郷を守りたがった。しかし、交戦が長引けば長引くほど、大切な命が失われるのもわかっていた。

 だから、まずは逃げ出したという。


「ここは、今から百年以上前に、あるたったひとりの人間の、思いつきから生まれたエコミュニティなんだ」

「当時、最貧困と言われていたこの土地が、いつかこんな未来になったら良いなと、楽しみながら作りはじめた場所なのよ」

「……」

「そして、その楽しそうな未来計画に、ひとり、またひとりと、国籍を問わず、色んな人たちが乗っかったんだ。現地に来られない人たちは、募金という形で応援をしてくれてな。その流れは、資源もなく、植物もまばらな荒廃した土地を、当時の最先端技術が集まる新世代型共同体(エコミュニティ)へと押し上げていった」


 初めて聞く、遠い昔にあったその話に、有菊は胸が熱くなるのを感じた。


「そんなエコミュニティが、楽しくない場所になるのが悲しくてね」


 そうして、理不尽に大切な故郷を追い出され、逃げ出した人々の中から有志が集まった。

 その数は百人を軽く超え、このはじまりの物語のような奇跡をもう一度と、奪還から復興までの、楽しい未来計画を作ることになったという。

 みんながバラバラになってしまうその前に、このエコミュニティの楽しく明るい未来を想像して、それを書いてもらったのだという。


「実現できそうなものは、すぐに分担して作業に取り掛かって。そうやって、少しずつ計画を進めていったの」


 懐かしむような祖母の言葉に、祖父も深く頷く。


「これは、その記念なの」


 自分たちがこれを持ち歩いていると、どこかで盗まれたり紛失する可能性がある。しかも、極秘で遂行する必要のある内容も書かれているため、隠す必要もあった。

 それならと、特殊な形状記憶インクでコピーして、そのインクを液体に戻し、バックアップとして持っていたという。しかし、計画が大詰めを迎え、自分たちの身の安全があやしくなってきたため、手紙という形で有菊に預けたらしい。


「オリジナルは?」


 祖母は少し悲しそうな顔で、首を横に振る。


「残念ながら、焼失したの」


 どうやら、信頼できる先に預けていたらしいが、事件なのか事故なのか、焼失してしまったらしい。


「もちろん、電子データでも残してあるのよ。秘匿性の高い部分は消してあるけれど。でも、こうやって完全なものを、実際の文字を見ると、当時の記憶が鮮明に蘇ってくるものなのね……」


 しみじみと液体に浮かぶ文字を見つめる祖母の目には、光るものが見える。そんな祖母の肩を、祖父はそっと抱いた。


「アキク、私たちの手紙を大切に持っていてくれて、本当にありがとう」


 祖父母の、泣き笑いのような優しい笑顔を見て、有菊はその裏に隠された、多くの苦悩のようなものを感じとった。

 すると、なんだかふたりに対する気持ちが抑えられなくなり、自分のキャラなどどうでも良くなり、湧きあがる気持ちを、そのまま口に出した。


「だって、私、ふたりのこと大好きだから」


 そう言って有菊は、ふたりに抱きついた。

 ふたりは、少し驚いたように顔を見合わせてから、小さな子供のように抱きついてきた有菊を、柔らかく抱きしめた。


「本当は一緒に暮らしたかったんだけど、危ない目に合わせたくなくて、ごめんね」

「わかってる」


 組織内部にさえ、裏切り者がいたのだ。

 安全なニホンで、のほほんと暮らしていた有菊が一緒にいたら、祖父母の命が危なかったかもしれない。


「アキクがオレたちの人生の中にいてくれて、本当に良かったよ」

「うん」

「大切なアキクと、この土地でこうしていられるなんて、夢みたいだわ」

「うん」

「これからは、ずっと一緒にいられるわね」


 そう笑いかける祖母に対して、有菊は少し気まずそうに下を向いた。


「あの……、私、そろそろ一度ニホンに帰らなきゃいけないの……」

「何かあるの?」


 実は、数日前に母親から連絡があったのだ。


「お母さんが顔を見せにこいって」

「何かあったの?」


 祖母が心配そうに、有菊の顔を覗き込む。


「ううん。特に何もないんだけど……。ただ、家を出る時に、年に一回以上は顔を見せに帰るように言われていて……」

「アキクは顔を見に帰りたいのか?」


 歯切れの悪い説明をする有菊に、祖父は不思議そうに尋ねる。


「うーん、私は別に会いたいとは思ってなくて」


 つい祖父母の前では、本音が出てしまう。

 正直、自分の話をしても、ケチをつけられるか、近所の人たちに面白おかしく触れまわるだけなので、自分から話すことはない。

 そして、家にいる間は、ひたすら噂話やあらゆる人の悪口を延々と聞かされるので、苦痛な時間なのは間違いない。


「じゃあ、無理に行かなくてもいいんじゃないの?」

「でも、お父さんからは、まだお金をもらってるし……」

「それは当然の権利だからもらえばいいのよ。それとこれを同じ問題にしてはダメよ」

「でも、そうしないのは親不孝だって言うし……」


 有菊の母親に対する態度に、祖母は眉を顰めた。


「アキクの親孝行は、もうここまで無事に育ったことで終わってるのよ。これ以上求めることに、無理に応える必要はアキクにはないのよ」

「でも……」

「もし、アキクの親がただの顔見知りだったとしたら、仲良くなろうとがんばる?」

「あー、それはないかな。多分一番近づきたくないタイプかも」


 母親のことを思い浮かべて、有菊は答える。

 その素直な返答に、祖母は一度目を閉じてから、有菊を見つめた。


「アキクとその両親の関係は、法律上、その縁を切ることが可能なの。ただし、生物学的には切ることはできない、そんな繋がりだわ。つまり、血の繋がりという縁があるだけなの」

「でも、一応ここまで育ててもらったし……」

「アキクは優しいのね。でも、そんな風に『育ててもらった』なんて、後ろめたく感じる必要はないの。子供を持つかどうかの判断をしたのは、親なのだから」

「でも……」

「アキクはもう自分で考えることができるわ。そのアキクが、友人にすらなりたくないような、そんな風に思わせる生き方をしているのは、あの子達自身よ。だから、関係を構築するのが難しいと感じているのなら、無理に合わせる必要はないわ」

「そう、なのかな……」

「あの子たちの人間としての問題点は、あの子達自身で解決するべきだから、アキクががんばらなくてもいいの」


 祖母の言葉に、祖父も頷いている。


「それに、私たちも家族なんだから、アキクが嫌でなければ、ここで一緒に暮らすこともできるのよ」


 そして、そんな未来を想像してみる。

 絶対的な味方で、尊敬できる祖父母がそばにいてくれて、ふたりから様々なことを学びながら成長していく。それは、有菊がずっと願っていた形だ。

 だけど、ニホンにいる母親との関係を、ここでいきなり縁を切るようなことはできない。

 ある日突然、音信不通になる人もいるらしいが、そんなことをした日には、地元のエコミュニティでなんと噂されるかわからない。

 親友と呼べるような子はいないが、友人や部品屋など親しい人も少なからずいるから、そんなことはしたくない。


「ありがとう、おじいちゃん、おばあちゃん。私、もう少し考えてみる」

「ええ、納得いくまで考えなさい」

「オレたちはここにいるから、一緒に暮らしたくなったら、いつでもおいで」

「うん、ありがとう。ふたりとも」


 すると、それまで静かにやりとりを見ていたリアンが、一歩前に出てきた。


「有菊ちゃんがニホンに帰るなら、僕も一緒に帰りたいです」

「突然どうした?」


 まさか、そんなことをリアンが言い出すと思っていなかった祖父は、驚いてリアンに尋ねる。


「ニホンに助けを求めてるAIがいるんです」

「リアンにか?」

「はい。僕に直接会いたいと言ってきています」

仮想空間(メタバース)上ではなく、直接というところが穏やかじゃないな」


 腕を組んでリアンの言葉に懸念を示す祖父は、険しい顔をする。


「じゃあ、私はリアンくんとニホンに帰ろうかな」

「俺も一緒に帰るよ」


 そう結人は手を挙げる。

 リアンが帰国するなら当然かと、そう思っていると、「ふぁあ……じゃあ俺もぉ」と、うしろから気の抜けた声が聞こえた。


 祖母に散々こき使われて、部屋の隅で爆睡していたシェルムが、いつの間にか近くまで来ていて、手を挙げている。

 そして、あくびをしながら同行を表明した。


「え? なんで? あ、ニホン食のために?」


 以前、ニホン食を食べたいと言って食べられなかったので、わざわざニホンまで行って、リベンジするのかなと有菊は首を傾げた。


「ちっがーう! なんでだよ! ソフィに前から頼まれてたんだよ。それに、家族がニホンにいるから、久々に会いに行こうかと思ってさー」

「あ、そうなんだ」


 シェルムの家族がニホンにいるなんて、全然知らなかった。しかし、それならニホンに同行する理由も納得だ。


「あらあら。若い子たちが一気にいなくなるのは寂しいわね。でも、今しかできないことを、いっぱいしてきなさい」


 みんなの顔を見てから、祖母はそう言って笑う。


「ああ、色んな経験をして、またオレたちに聞かせてくれ」


 祖父もニカッとした笑顔で、一人ひとりの顔を見渡す。


「うん、わかった」


 ニホンに行く理由は様々だが、有菊たちはその言葉に大きく頷いた。



 そうして、翌日の雨発生装置(レインジェネレーター)の完成披露が無事に終わると、慌ただしく出立の準備をはじめた。

 有菊たちの活躍を知る、ニジェア共和国の政府が、国内の空港からニホンまでのチケットを、人数分手配してくれた。

 そして、一ヶ月に満たないナイナイでの生活を終え、大好きなふたりのいるこの場所から、ニホンへと旅立ったのだった。




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