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ナガレメグル、私の物語  作者: 綿貫灯莉
第4章 ふたりのいる場所
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第66話 子供のイタズラ

 そのやりとりを遡っていくと、どうやらシェルムが実況中継をしているらしいことがわかった。音声入力をしているようで、ところどころ奇声らしきものも入っている。

 そのシェルムの言葉に、結人が時々突っ込んでいるようだ。

 そういえば、ここに突入した時以来、シェルムとの通信が途絶えていた。地下に入ったため、途絶えたのだと勝手に思っていたが、なにか別の任務で忙しかったようだ。


「おーっと、ついに奴ら、最終手段にでやがった」

「やっぱりウィーロがやられたのが痛かったんだろうねー」

「そういえば、ウィーロって遺伝子農場(ジーンファーム)って呼ばれてる、かなりヤバイ事業をやってるらしいぜ。ユイト知ってた?」


「知らない。それより早く」


「しかし、リアンはすげーな」

「アレ使うと、アンドロイドとしての機能がかなりダメになるのに、ウィーロを行動不能にするために、あの粒子を撒き散らしたんだろ?」


「うん。でもその話は今はいいから」


「あ、できたできた。よっしゃ、これが第一段階」

「やっぱりさー、カウントダウンって痺れるよな。今、そっちで流れてるの、俺が作ったやつなんだぜ。この声も、実は俺の声を加工したやつ。カウント自体は正確かどうかちょっと微妙だけど、まあ、大まかには合ってると思うんだよなー」


「ちょっと待てよ。だったら余計に急げよ」


「まーまーまー」

「しかし、俺もそちら側でドキドキ感を味わってみたかったなー。なんか、別の非常事態も発生してるみたいで面白そうじゃん」

「こう、ヒリついた現場っていうか、ギリギリまで追い詰められる場面って、なかなか遭遇しないじゃん。生きてるって感じが味わえそうだよなー」


「じゃあ、今から来いよ」


「いやいや。孤高の天才は、ここでやらなきゃならないことがあーる。だから、ひとりでもがんばる」


「寂しいなら、寂しいって言えよ」


「うるさい。寂しくないやい。なんせ師匠たちに、この超重要なミッションを託されているわけだからな」


「だったら、早く」


「鋭意、遠隔操作中。これで第二段階終了」

「あとは師匠、まかせた!」

「っていうかさ、キクはどうしたの? 最近子供部屋にいないじゃん」


「別の任務で、このアプリ入れてるデバイス外してるから」


「あー、そうなんだ。俺の勇姿を見届けてもらいたかったなー」

「こんなにも活躍する俺、輝いている俺、サイコーな俺を見たら……」


「あ、メガネかけた」


「え? キクくる?」


「たぶん」


「イェーイ! キク、待ってたよー」


「え? なにこれ?」


 非常事態の最中というのに、シェルムのやたら緊張感のない会話に、有菊は唖然とする。

 そして、自分のデバイスもいじって、音声入出力に変更する。どうせ今ここで会話をしていても、誰も気に留めないだろう。


「これから、俺の最高傑作を見せるからさ」


「師匠との、だろ?」


「まあねー。本当はひとりでやりたかったんだけど、どうしても詰めが甘いみたいで、最終調整は師匠がやってくれてるよ」


「おじいちゃんがどうしたの?」


「師匠はすごいって話」


「そーなんだよーって、え? もうできたの? さすが師匠!」


「じゃあ、よろしく」


 結人の言葉にシェルムは「まかせろー!」と答える。そして、大声で叫んだのだろう。


「どーん!」


 そう勢いよく表示された文字には、エフェクトまでかかっている。


「え? 何が起こるの?」


 なにやら壮大なことが起きそうなやりとりに、有菊はソワソワと周りを見渡した。

 しかし、一向に何も起こらない。


「?」


 しばらく待ってみるが、やはり何も起こらない。


「やったー! 成功だー!」


 子供部屋では、シェルムは大はしゃぎをしている。

 しかし、こちらでは何も変化がない。


「え? 何が成功なの?」


 相変わらず警報が鳴り響く施設内で、有菊は首を傾げる。すると、祖母と話し込んでいた美玲に通信が入ったのが見えた。

 そして、少し言葉を交わしたあとに、「なんですって? それほんと? すごいじゃん」と驚いていた。


「ねえ、何があったの?」


 子供部屋のシェルムは興奮しているのか、意味不明な奇声をあげているので要領を得ない。仕方がないので、シェルムに聞くのは諦めて、結人に直接聞くことにした。

 何かを噛み締めるような表情をしている結人は、有菊と目が合うと微笑んだ。いつもは目を逸らすくせに、今はまっすぐ見つめてくるので、思わずこちらが目を逸らしてしまった。

 そして、ドキドキしながら近付いていくと、安堵の表情を浮かべた結人は、嬉しそうに口を開いた。


「落下地点を変更したんだ」

「え?」


 ふたりが話しているところに、梶田もやってきた。

 そして、結人の言葉を拾って確認をする。


「落下地点って、まさか神の槍のか?」

「そうです」


 すると、完全に解放された不破も、有菊たちの会話を聞きつけてやってきた。


「まさか、宇宙にある他国の衛星にアクセスしたのか?」


 訝しげな顔で質問してきた不破に対し、結人はコクリと頷く。


「シェルムたちがやってくれました」

「あのシェルムが、か?」


 シミュレーションで散々足を引っ張っていたシェルムが、そんなことをやってのけると想像していなかった不破は、驚きを隠そうともしない。


「ちなみに、今の落下兵器の照準は、ナイナイの外で包囲しているルシオ共和国の部隊の本営にしてて、もうひとつある軍事衛星のレーザー兵器は、ルシオ共和国の大統領にターゲットを固定してるって」


 まさか、ひとつだけでなくふたつの軍事衛星をハッキングしていたなんてと、三人は結人の顔を見る。しかも、それぞれの衛星に、別の種類の兵器を積んでいたとは初耳だ。

 それを聞いた梶田は、次の瞬間に笑い声をあげた。


「そりゃあ、いい。傑作だ」


 スキンヘッドに手を当てて笑っている梶田を横目に、有菊は子供部屋のシェルムに声をかける。


「ねえ、シェルム。もしかして、結構前からここの上空の衛星をハッキングしてた?」

「お? ばれた?」


 どうやら興奮がおさまったらしいシェルムは、いつもの調子でそう答えた。

 やっぱりそうかと、有菊はシェルムと初めて会った時のことを振り返った。


「だからあの時、あんなことしたんだ」

「そーなんだよ」


 見つからないように全速力で走り、謎のデバイスのスイッチをオンにした理由が、今ならはっきりわかる。

 あの時、確かにシェルムは言っていたのだ。

 有菊がデバイスを起動させたことで、あそこに施設があったように見えると。それは、シェルムが軍事衛星側に差し込んだ映像と、地表の映像を合わせる必要があったということだ。

 かなり前からハッキングして、あの場所に施設があるようにダミー映像を見せていたのだろう。そして、わざと落下兵器を使わせて、その威力や精度を調べていたのだ。

 ただ、あの場所には元々なにもないので、あたかも施設があったかのような拡張現実(AR)を見せる必要があった。わざわざ、破壊された建物を見せるあたりは、手が込んでいる。


 ずっと流れていたカウントダウンと警報が止まったと思ったら、無機質な音声でアナウンスが流れた。


「兵器の緊急停止が確認されました。施設内の皆様は続報をお待ちください。安全が確認されるまでは、引き続き身を守る行動を続けてください」


 どうやら、照準を変更したまま、ルシオ共和国の部隊に神の槍を撃ちおろすことはしなかったようだ。さすがに、そこまで対立を悪化させるようなことは、こちら側も望んでいないのだろう。


 アナウンスを聞いた不破は、有菊たちに対し不満そうに顔を顰めた。


「以前から、コソコソと何かやっていると思っていたが、まさかこんな危険なことをしていたとはな」

「まあ、これは子供のイタズラですから」


 頬をかきながら、結人はそう不破に伝える。

 それを聞いた不破は、なんとも言えない顔で、結人と有菊の顔を交互に見た。そして、「そうか、子供のイタズラか」と、ため息を吐くように返事をすると、やれやれと肩をすくめた。

 しかし、その横顔は笑っていた。


「あーあ、結局ワタシは無駄足だったかー」


 そう言って、祖母と話し込んでいた美玲は大きく伸びをした。


「なんか、勘違いで色々ご迷惑をおかけしました」


 ペコリとお辞儀をする美玲に、祖母は少女のように笑いかける。


「いいのよー。楽しかったし。また、お薦めがあったら貸してね」


 それを聞いた美玲は、握り拳を作って祖母にグータッチを求める。祖母はそれにノリノリで拳を優しくぶつける。


「任せてよー。まだまだ読んで欲しいの、いっぱいあるから」

「それは楽しみね」


 そんなやりとりをして、華国の部隊を引き連れて去っていった。


「これで、ひとまずは一件落着ね」


 最初から、この結末がわかっていたかのような様子の祖母は、そう言って有菊のところにやってきた。

 問い詰めようかとも思ったが、無事にシェルムと祖父がこの危機を回避してくれたのだから、まあいいかと思った。

 それに、もし自分があらかじめ作戦を知っていたら、どうせ顔に出てしまって、美玲たちに勘づかれてしまっていただろう。

 それなら、今の結果になったことを肯定的に受け止めようと、有菊はひとりであれこれ思いを巡らせて、納得することにした。


「じゃあ、作業を再開しましょうか」


 その言葉に、有菊は作業がまだ途中だったことを思い出した。実際にはそんなに時間は経っていないはずだが、ずいぶん前に作業していた錯覚に陥っていた。

 今までは言われたことを、ただ黙々とこなしていたが、あの装置が雨発生装置(レインジェネレーター)と判明した今は、やる気に満ち溢れている。もし、これが完成すれば、大旱魃の後遺症で苦しむ人々の暮らしが上向きそうだ。

 それを想像すると、気持ちが前向きになる。


「うん」


 そう頷いて、先ほど作業していた場所に戻ろうとすると、いつものように小雪から映像が送られてきた。

 しかし、いつもの人の顔を映したものではなく、画面の大部分が黒いものに覆われていて、下部に人間の足らしきものが映っている映像だった。

 まるで布のようなモノで、突然覆われたかのような、そんなワンシーンだ。そして、ライブ映像も共有してきたが、こちらは真っ暗だ。正しく受信できているかもわからない。


「小雪? え? どうしたの? リアンくんに何かあった?」


 その言葉を聞いた結人は、勢いよく廊下に向かって走り出した。

 その姿を見て、すぐに有菊も追いかけるが、小雪の位置情報が、電波を遮断するもので覆われているのか確認できない。


 リアンが寝かされていた部屋に辿り着くと、すでに結人が中にいた。しかし、そこにリアンの姿はない。


「どうしよう」


 寝かされていた台の前で、呆然とふたりで立ち尽くしているところに、廊下から足音が聞こえた。

 敵だったらどうしようと、有菊が室内から廊下を覗くように確認すると、足音の主は祖父だった。グッタリとしているリアンを横抱きにして、廊下の奥からこちらに向かって歩いてくるのが見えた。

 そのうしろには、見覚えのある美少女の姿があった。

 さらにうしろには、初めて見る長身の美青年がついてきている。その手には、不破の被っていたライオンの着ぐるみの頭があった。

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