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ナガレメグル、私の物語  作者: 綿貫灯莉
第4章 ふたりのいる場所
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第55話 錯綜

 シェルムの鋭い声に、五人は一斉に伏せた。

 すると、上空を巡回していた複数のドローンが、次々と撃ち落とされ、煙をあげながら墜落していくのが見えた。


「何があった?」


 予想外の出来事に、不破がシェルムに確認をする。


「たぶんだけど、ルシオ共和国の連中が強硬手段に出た、と思う」

「どういうことだ?」

「ちょっと待て? ん? 人影はまだ近辺にないよな……。いやっ、クソッ、いつの間に? は? アイツら、あんなところで爆弾も使っていやがる」


 シェルムの焦った声が続く。それに対し、不破は努めて冷静に聞く。


「落ち着け、シェルム。正確な情報を」

「あー、悪い。えっ……と、ルシオ共和国の部隊がナイナイの近くまできていて、手当たり次第ドローンやら警備ロボを破壊してるんだよ。あと十分程度でエコミュニティ内にも侵入すると思う。連中、パーソナルビークル(PMV)も使っているから、その辺りにもすぐに到達するぜ。気をつけろよ」

「わかった。また新しい情報があったら伝えてくれ」


 その通信を聞いた不破は、「急いだほうがよさそうだ」と言って、有菊と同じように上空を見上げた。多分考えていることは同じようで、ドローンの巡回パターンが変わったことを確認したのだろう。

 そうして、また周囲の様子に目を配りながら、目的の建物に向かって注意深く移動する。


「これだけ外側で派手にやっているんだ。混乱に乗じて、いっそ走って例の建物に駆け込むのもアリだと思うが」


 監視カメラのない細い路地のような場所で、一旦落ち着くと、六条はそう提案した。

 ドローンが墜落する音で建物内にいた人々が、何事かと窓から顔を出しているのが見える。

 上空を巡回していたドローンは、エコミュニティの中心部ではなく、外からの攻撃に備えているのか、外側へと移動している。

 確かにこれは好機かもしれない。


「では自分が先に走るので、合図をしたら合流してください」


 六条の言葉に、不破が露払いの役を買ってでた。


「それだと、私たちの光学迷彩の機能は停止しといたほうがいいですよね?」


 有菊は潜入時から、いまだにふたりだけが光学迷彩でいることが気になっていたのだ。

 今まではみんなで行動していたので、このままでいても問題なかった。しかし走るとなると話は別だ。みんなの視界から外れてしまうのは、できれば避けたい。


「そうだな。一度機能を停止して、必要に応じてモードを切り替えよう」


 少し考えていたが、同意するように不破は頷いた。そしてふたりとも光学迷彩の機能を停止した。

 すると、目の前に現れたのはライオンの着ぐるみだった。そう、初めてシェルムに会った時に着ていた、あの着ぐるみだ。


「何度見ても笑っちゃう」

「今からでも、アキの着ている服と交換してもらってもいいんだが?」


 うっかり心の声が漏れてしまっていたようだ。

 不破はずいっと、ライオンのつぶらな瞳で有菊に近づいた。それが余計に面白くて、有菊は吹き出してしまった。それを抗議するように、ライオンの手の肉球が有菊の鼻にぽふっと飛んできた。全然痛くないその手をよけて、笑いをこらえながら答える。


「いやいや。この服は私くらいの身長じゃないと、小さくて着れませんよ」


 用意されていた高性能のアーマードウェアは、有菊が着ることが決まっていたとしか思えないほど、有菊にピッタリだった。そのため、背の高い不破にはこの服の袖や裾は短く、手足をカバーできないのだ。


「それでも構わないんだが」

「あ、そういえば、リアンくんリュックありがとう」


 さらに迫ってきていた不破をあえて無視して、リアンを振り返る。そして、今までリアンに預けていたリュックを受け取った。

 大したものは入っていないのだが、ここまでもずっと持ち歩いていたので、今回も持ってきてもらった。また、いつかのように戻れないかもしれないと思うと、ついつい用心をしてしまう。

 すると、それまで肩に乗っていた小雪が、わずかな隙間からリュックの中に入り込んでしまった。さすがにこの状態でペットホルダーはつけられないので、リュックの中で丸まっているのを確認すると、出られる隙間を作ってから背負った。

 そして、鬱陶しかったフードをうしろに脱ぎ、口のあたりを隠していたマスクも下におろす。髪を手ぐしで整えると、蝶のヘアクリップを付け直した。


 不破は服の交換を諦めたようで、着ぐるみの姿で周りを確認しはじめた。その動作に、みんなもすぐに続けるように身構える。

 周囲に問題がないと判断できたのか、「行くぞ」と言って走りはじめた。そして、ある程度まで行って物陰に入ると、こちらに向かって手招きをする。


「よし、行くぞ」


 六条に促されて、みんなも走り出す。

 そして同じ物陰に入るや否や、再び不破は数十メートル走り物陰に隠れる。そこに全員たどり着くと、それまで周りを観察していた不破は再び走りだす。

 それを何度か繰り返すうちに、目的の建物が見えてきた。


「あれだな」


 二階建ての白い土壁で作られた建物は、昔作られたものなのか、同じ白を基調とした建物に囲まれているのに、周りからは浮いていた。

 大きめの民家といっても差し障りのない大きさで、塀などもなく不用心だ。とても祖父母たちが潜んでいる場所には思えなかった。


 もう一度、その手前の物陰に潜んだ不破は、周りを確認して再び走り出した。そして、その白い建物の開け放たれた入り口の脇に背中をつけて中を確認する。どうやら中は安全なようで、こちらに合図を送ってきた。それを見て、有菊たちも続いた。

 本当に警備ロボが出払っているようで、どこからも攻撃されることはなかった。そうして、全員が無事に建物内に入ることができた。


 どうやらこの建物には扉がもともとついていないようだ。そして、現在は使われていないのか、人が動いても電気はつかない。入った場所はエントランスにあたる部分のようで、開放感のある作りになっている。

 正面と左右に廊下が伸びていて、左奥には二階へあがる階段も見える。

 なんとなくではあるが、昔の病院や学校の様な雰囲気がある。


「外観もだが、中も随分と古い建物だな」

「このエコミュニティの中でも、初期のものかもしれないですね」


 何度も塗りなおしたのか、剥がれ落ちた壁の様子などを見た六条がそう感想をいうと、不破も天井の照明のレトロ具合を認めて同意する。

 と、そこにシェルムからの通信が入る。


「よくわかんねーけど、高速でその建物に向かう物体がある!」

「爆弾か?」


 不破がすぐさま確認する。


「違う。は? 人間? か? あんな高速で移動なんて意味わかんねー!」

「とりあえず、どこかに隠れよう」


 シェルムの不確かな情報に、六条はみんなを促し、エントランスを駆け抜ける。


「あの部屋へ……」


 六条がそう言った瞬間、建物の正面に何かが衝突したような大きな音がした。そして激しい揺れとともに、土煙のようなものが一気に立ちこめる。


「なに?」


 有菊がうしろを見ようとした、その時──

 誰かに腕を引っ張られ、正面から抱き寄せられた。頭を守るようにがっしりと抱えられ、有菊は身動きが取れない。

 そして、どこかで何かが蹴り飛ばされるような音がした。


「え?」


 何が起きているのか分からないまま、どこかの部屋へと雪崩れ込んだ。


「なっ……!」


 有菊は声をあげようとしたが、すぐに口を手で塞がれる。

 それと同時に、子供部屋のトークルームが立ち上がる。そこに表示されたのは、「静かに」という結人からのメッセージだった。

 それを見た有菊は、今自分を抱きしめているのが結人だとわかり、ドキドキを通り越して腰が抜けそうになった。

 勢いよくわかったと頷くと、パッとすぐに口元の手が離れた。そして、先ほどまで力強く背中に回されていた手も、おずおずと離される。

 解放された有菊は、ヨロヨロと後退りながら顔を上げると、降参するように両手を挙げた結人の姿があった。しかし相変わらずパーカーを被り、さらにゴーグルをしているので、表情までは見えない。


 瞬間的とはいえ、抱きしめられていたことに対し混乱していると、今度はリアンがトークルームに現れた。


「有菊ちゃん、こちらへ」


 その言葉に少し冷静になった有菊は、今いる部屋の中を見渡した。すると、そこは部屋ではなく踊り場のような場所だった。

 少し奥に、地下へと続く階段を指しているリアンがいる。

 どうやらこの階段を使って、下へと逃げることを提案しているようだ。

 有菊は頷いて、リアンの待つ階段まで行くと、階段わきの壁に何かが設置されているのがわかった。

 そして結人もあとからついてきて、三人が階下へおりはじめると、うしろで何かが展開した。

 もしかしたら、入り口を隠すためのフェーズベールかもしれない。こちら側からは、空間が少し波打っているのが見えるが、恐らくあちら側からは階段の存在が隠されているのだろう。

 あのシミュレーションの中で、こういった類のものをいくつも見てきたので、すぐにピンときた。


 有菊はふたりに導かれるまま、音を立てないように地下へとおりていく。地階は深い場所にあるのか、折り返し階段はかなり下まで続いていた。

 ぼんやり明かりが見えてきたかと思うと、そこで階段が終わった。そこを出ると、左右に明かりがついた廊下が伸びていた。


 特に警戒することなく、リアンが足を踏み入れるので、続いてふたりも廊下に出る。

 そして、どこかに向かって歩きはじめた。

 途中、いくつかの分岐があったが、前を歩くリアンは迷いなく進んでいく。

 うしろを歩く結人は追手を警戒してか、何度も後方を確認しながらついてくる。

 しばらく黙って歩いていると、リアンは足を止めずにこちらを振り向いた。


「有菊ちゃん。もう、声を出しても大丈夫ですよ」


 いつものようにニコッと笑って、リアンはそう言った。

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