表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ナガレメグル、私の物語  作者: 綿貫灯莉
第4章 ふたりのいる場所
56/114

第51話 待ち合わせ場所

「え? 一体どういうこと?」


 嵌められただの内部分裂だのの不穏な言葉に、有菊は眉根を寄せた。

 シェルムはそんな国内の状況を苦々しく思っているのか、珍しく無表情で淡々と説明をしはじめた。


 旱魃発生前の話だが、ナイナイと呼ばれる地域は様々な奇跡が重なり、当時の最先端技術を保有していたという。

 そして、その地域が生み出した新世代型共同体エコミュニティをモデルに、国内のみならず近隣諸国も次々とエコミュニティを作っては発展させていったらしい。

 さらには、国境を越えた技術や知識の共有で、素晴らしい相乗効果を生み出した。そうして、近隣諸国とともに経済的・科学的発展をしていったという。

 しかし五十年前の大旱魃と、その後の隣国の侵略が引き金となり、ニジェア共和国のそれまでの安定した社会は崩壊し、衰退の一途を辿ったという。


「しかし、よくよく調べてみると、その衰退のキッカケを人為的に作ったヤツらがいたことがわかったんだ」

「人為的に? 誰がそんなことを?」

「北方の国のヤツらだ」


 その組織は、特定の国の組織というより、同じ思想を持った集団らしい。


「ヤツらは、俺たちのような人間が躍進するのが許せないらしい」

「俺たちのような人間って?」

「平たくいうと、有色の肌の人種さ」


 そう言ってシェルムは、小麦色の自分の頬を擦ってみせた。


「え?」


 シェルムと似たような皮膚の色を持つ有菊は、自分の腕をさする。

 すでに世界中で多くの民族の血が混ざり、ルーツを辿ることすら億劫なほど人々の混血は進んでいるのだ。そんな時代に、まだそんなことを言う人間がいることに驚きを隠せない。


「それって人種差別ってやつ?」


 すでに歴史の授業でしか使われない言葉を、有菊は口にする。


「それだよ」


 シェルムは頷く。


「時代錯誤にもほどがあるね」

「だろ?」

「うん。それで、その人たちが隣国を操って侵略してきたの?」

「いや、隣国はルシオ共和国とその同盟国が背後にいる」

「え? ちょっと待って。複雑だね」


 有菊はデバイスを立ち上げて、もう一度シェルムに確認しながら状況を整理した。


 四つの勢力の内訳として


 ①隣国の侵略部隊

 →ルシオ共和国とその同盟国が背後にいる


 ②ニジェア共和国の自国民

 →エコミュニティによっては自警団がいる


 ③ニジェア共和国の反テロリスト組織

 →シェルムや祖父母たち


 ④ニジェア共和国内のテロリスト

 →人種差別組織が背後にいる


 ということになる。


 五十年前の大旱魃による隣国の侵攻に乗じて、人種差別組織の手先も潜入したという。そして、隣国の部隊の影に隠れて、ニジェア共和国の中にいる不穏分子をナイナイに集め、テロリスト化したらしい。

 そして、隣国の部隊と、作り上げられたテロリストが入り乱れて、五十年に渡りこの状況を慢性化させているのだという。


「アキの祖父母たちは、自国民とも対立しているのか?」


 有菊のまとめたものを見ながら、不破は確認をする。そこは有菊も気になっていた。同じニジェア国民だし、ここは仲間で括ってもよさそうだが。


「あー、対立はしてない。でも、仲間でもない、かな」

「え? なんで?」


 ぽりぽりと頬をかくシェルムの発言に、有菊は理解できない。


「自国民たちは、あくまでも自分たちの今の生活を守ることに重きを置いているからさ。まあ、火の粉が自分たちのところにこないよう、ただ静観しているって感じだな」


 確かに、ただでさえ少ない資源を差し出して協力するとなると、エコミュニティ自体が立ち行かなくなるのだろう。


「ま、それがこの国の現状だ」

「政府はどうしたの?」


 国内のこの状況を、政府が黙って見ているとは思えない。


「政府? ここから西に百キロの場所が首都だぜ」

「え?」


 そんな近さに首都があるにも関わらず、これだけの違法ゲートがあるということだ。つまり、国全体を束ねるだけの国力が、現状はないということになる。その状況は、まさに人種差別組織が望んだ結果なのだろう。


「ま、そんなわけだ」


 この話はこれで終わりと言わんばかりに、シェルムは目を閉じて眠ってしまった。それから車内は静かに時間が過ぎていった。




 食事など車内でとりながら、エアカーは千キロを一日で走り切った。

 そして、夜にはニジェア共和国の北部最大のエコミュニティに到着した。


「ここで、師匠たちとは待ち合わせの予定だ」


 ずっとゲームをやっていたらしいシェルムは、目を擦りながらあくびをした。


「ここってナイナイじゃないよね?」

「違うぜ」

「でも、交戦中って」


 確かソフィは、祖父母はナイナイでテロリストと交戦中だと言っていた。ここはナイナイという名前のエコミュニティではないし、そもそもエアカーの窓から見える景色は平和そうだ。


「ああ、ソフィがそう言ったのか。まあ、そうだな、こことナイナイと行き来してるんだよ」


 どうやらあまり聞かれたくないのか、小声で有菊に向かって話す。


「そんな簡単にナイナイを出られるの?」

「簡単じゃないが、できる」


 結人も少し落ち着きなく、有菊たちから遠い場所に席を移していた。それを見て、この話は切り上げたほうがいいかもと判断し、有菊は話題を変える。


「それじゃあ、ここにもテロリストはいるの?」

「いるかもしれないが、ここで襲ってきたりはしないな」


 前屈みで話していたシェルムは、伸びをしながらシートに背中を預けた。


「どうして?」

「ここはかなり厳格な条例がいくつもあるから、ここでことを起こすと、収監されてから出るのに相当の年月がかかる」


 それを聞いて、ディーディの二の舞にならないよう、有菊は急いでここの条例を調べはじめた。


「それに、ここの警備ロボは世界でも有数のものが配備されているからな」


 シェルムの言葉を補うように、六条は会話に入ってくる。有菊の知らない情報に「そうなんですか?」と、広げた条例のデータから顔を上げ、六条のほうを見る。


「ああ。非常に精度が高く威力も強力なので、ここの警備ロボを採用している国も多いと聞く」

「へぇ」


 五十年前にナイナイが侵略されたにも関わらず、テロリストたちがそこを出ないのは、ここが砦になっているのかもしれない。

 有菊が感心していると、シェルムは頭の後ろで手を組んで話を急転換する。


「で、今日はソフィが用意してくれたトコに宿泊するぜ。でも、その前に行きたいところがある」


 どうやら、以前ここに住んでいたことがあるらしいシェルムは、鼻歌まで歌い出して楽しそうだ。

 エコミュニティに入ってからしばらくは静かな場所を走っていたが、徐々に明るく賑やかな場所へと侵入していく。そして、一旦シェルムの行きたいという場所の近くの駐車場にエアカーを停めた。


 蓄光成分を含んだ街路樹は、街灯の代わりにほのかに光り、道を照らしている。

 日中の熱が消え、少し涼しいくらいの夜道を、ゾロゾロと歩いていく。六条と不破のどちらか、エアカーに残るかと話していたが、駐車場の強固な警備システムを見て、ふたりともシェルムに着いていくことになった。




「ここだ。ししょー!」


 夜だというのに、大声でドーンと玄関の扉を開ける。近所迷惑になったりしないか、有菊はハラハラしながら、シェルムの背中越しに室内を覗く。すると、センサーライトで明るくなった奥の部屋が見え、そこがめちゃくちゃに荒らされているのがわかった。


「って、嘘だろ?」


 シェルムが声を固くして中へ入っていく。それに続いて結人とリアンも早足で続く。有菊は、ニホンで祖父母の家を訪れた時の光景を思い出し、恐る恐る室内へ足を踏み入れる。


「まさか、またルシオ共和国の人たちが?」


 祖父母の部屋を荒らした梶田は、ルシオ共和国に籍をおく軍人だと知らされたのは、比較的最近のことだった。

 あの時と同じように侵入したのかもと、ドアの前で佇む結人とリアンの後ろに立つ。

 すると、ふたりも緊張した様子で荒らされた部屋を見つめているので、これが予定外の出来事だったということが伝わってきた。


 祖父母たちは砂を持ち込むのを嫌っていたのだろう。玄関のスリッパが蹴飛ばされているところをみると、土足禁止なのがわかる。

 しかし、誰かに踏み込まれたのか、床には複数の足跡がついている。


「誰かに拉致されたのかもしれないな」


 有菊の後ろからその室内を見て、六条は呟く。


「数日前までは連絡取れてたのに……」


 シェルムは緊張して硬くなった声でそう言う。


「おじいちゃん、おばあちゃん……」


 元気な姿が見れると思っていた有菊は、最悪の事態を想像してしまう。


「何か手がかりが無いか、確認しよう。シェルムくん、無くなっているものはわかるか?」


 荒らされた室内に足を踏み入れた六条は、冷静にそう尋ね、シェルムはそれに頷く。


「ああ、ここにあった解析用のデバイスがごっそり無くなっている」


 もともと何かが置かれていたであろう床を指さす。


「あとは、師匠たちのウェアリングデバイスが無い」


 部屋中を見てまわりながら、シェルムはないものをひとつずつ上げていく。


「これは、逃げたのか拉致されたのかは分からないな」


 すると不破が「拉致の可能性が高いな」と、隣の部屋で血らしきものが床に飛び散っていたことを報告する。


「もう、嫌だ」


 有菊はその場で頭を抱えてしゃがみ込んだ。


「有菊ちゃん、大丈夫ですか?」


 リアンは心配そうに、有菊の横にしゃがみ込む。


「ごめんね。リアンくん」


 膝に頬をのせて、リアンのほうを見る。

 すると、リアンは目をパチパチさせた。

 その瞬間、子供部屋のトークルームにメッセージが届いた。

 こんなタイミングでなんだろうと、不思議に思って子供部屋を開くと、そこには結人からのメッセージが入っていた。


「ふたりはきっと無事だ」


 それを読んで、有菊はチラリと結人を見る。

 しかし、視線を感じないのか敢えて無視しているのか、部屋の中に入っていた結人はジッと棚に並んだ小物を見ていた。

 そこの棚の小物は民芸品ばかりで、実用性がないものばかりだった。さすがにこんなものに用がなかったのか、綺麗に置かれたままだった。


 そこに結人は何を見出したのかは分からない。けれど、その「無事」という言葉に縋りたくて、有菊は「詳しく教えて」とメッセージを送り、リアンとふたり小さく頷いて立ち上がった。すると、結人もこちらにやってきた。


「先に外にいます」


 そう言って、有菊はリアンと結人とともに建物の外に出ることにした。シェルムは六条たちと話し込んでいる。

 二階建ての集合住宅の一室である部屋から外に出て、階段を降りた。

 すると突然道路のほうから声をかけられる。


「あれー? 佐野さんじゃないよね?」


 そう言って、淡い光で照らされた外で待ち構えていたのは、艶のある黒髪をなびかせた美玲だった。


「美玲さん!」


 懐かしい顔に幻を見ているのかと、ついメガネを外してみる。しかし、そこにはちゃんと存在する美玲の笑顔があった。

 しかし、ニホンのお隣さんだった美玲とは少し違う。なぜなら服装が普段着ではない。アーマースーツではないが、明らかに戦闘を前提とした服装なのだ。


「アッキー。久しぶりね」


 そう片手をあげると、こちらへ近づいてきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ