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ナガレメグル、私の物語  作者: 綿貫灯莉
第3章 前進
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第48話 橋渡し

 翌朝は、絶対に遅れるわけにはいかないと、日の出前から準備をして、教えてもらった面会場所へ向かった。そこは、ソフィが手配したという大きなレンタルハウスだった。

 今回は相手が要人ということもあり、不破も念入りに周囲を確認していた。その不破が、この建物は見た目以上に警備がしやすいと述べていたので、その辺りもきっちり考慮しているのは、さすがソフィと言うべきだろう。


 そのソフィは少し遅れてやってきた。とはいっても予定時刻のずいぶん前だ。すでに待ち構えていた有菊たちを見つけて、ソフィは微笑みながら歩いてきた。


「さすがニホン仕込みの慎重さね。その心掛けは評価するわ」


 今日は、有菊たちと同じような民族衣装に身を包んでいるソフィは、相変わらずカタログから飛び出したかのような美少女ぶりを発揮している。

 着ている衣装のパターンが、どことなく有菊のものに似ているので、もしかしたら、同じところで購入したのかもしれない。


「じゃあ揃ったし、中で待ちましょう」


 建物の前にはシンプルな門扉があり、そちらでまずはスキャンされる。すると、事前に登録された人物だと認識されたようで、門扉の鍵が解錠された。音なく左右に開いた柵を確認して、三人揃って中へと進む。庭にあたる部分には、大臣側が手配したのかはわからないが、警備ロボが巡回しているのが見える。きっと、他にもドローンなど飛んでいるのだろうが、有菊の目には見えなかった。


 建物は、今暮らしているレンタルハウスとは異なる間取りで、中庭はなかった。広めのホールを土足のまま進み、突き当たりで左右に分かれた廊下を左に入り、ふたつ目の部屋で立ち止まる。その部屋はすでにドアが開いてるので、中の様子が廊下からでもよくわかった。

 そこは非常にシンプルな部屋で、余計なものが排除された、面会のためだけに用意されたような場所だった。会議室のようなその部屋に入ると、少し薄暗かった室内が調光され、空調のパターンも切り替わったようだった。

 ソフィの仕切りで席を決めると、あらかじめ用意された椅子に、三人横並びで座って待った。



 予定していた時間を十五分ほど過ぎた頃、外から物音がしたかと思うと、廊下を歩く音が聞こえた。そして開け放した扉から、「待たせたね。前の会議が長引いてね」と部屋に入ってきたのが、宗教省の大臣だ。

 有菊たちは、すでに立ち上がって待っていて、入室した人物と対面をした。その人は四十代くらいの女性で、濃い褐色の肌に、黒い髪は細かく編み込まれて、後ろで丸くまとめられている。澄んだ黒い瞳はゴールドのフレームのウェラブルデバイスの奥で輝いている。


「ずいぶんと華やかだな」


 目を少し細めて有菊たちを見た大臣は、大柄で不破と同じくらいの身長だが、横にもボリュームがあり、堂々とした立ち姿は頼れる女性という印象を与える。着ている服は有菊たちと似たようなものだが、身体が大きいこともあり、違う民族衣装に見える。むしろ、大臣のほうが本来の自然な着こなしなのかもしれない。


「話は聞いているから、本題から頼むよ」


 どうやら忙しいらしく、椅子に座るとすぐに本題に入るよう促した。それを受けて三人も再び座り、ソフィが話を切り出した。


「こちらが事前に伝えていたサニ博士の孫です」


 ソフィに紹介され、有菊は「雨宮有菊(あまみやあきく)です」と名乗り、お辞儀をする。

 サニというのは祖母の母国の名字だ。ニホンでは当て字で佐野と名乗っていたのだ。


「ああ、君が」


 顔に穴が開くんじゃ無いかというくらい、宝石のような黒い瞳で見られた。


「現在、サニ博士達はニジェア共和国内で、テロリスト達と交戦しています。大臣には、その支援をお願いしたいんです」

「え?」


 ソフィの言葉に、思わず有菊は声を上げた。


「おや? お孫さんは知らないようだね」

「ええ、そうです。ここまで極秘に進められていたので、今が情報解禁のタイミングでした」

「え?」


 認識していない祖父母の危機的状況を、この場で知ることになり、有菊は混乱してソフィを見る。しかし、ソフィは大臣を見つめたままだ。


「なるほどな。まあ、交戦中の情報はこちらも掴んでいる」


 大臣はそう言うと、テーブルの上で手を組んだ。


「彼らは諦めていなかったんだな」

「ええ、今はテロリストに占領されていますが、ナイナイは私たちの大切な故郷ですから」


 ソフィの言葉に、不破は小さく「ナイナイ……」と呟いた。有菊は文脈から、ナイナイが地域の名前とすぐに察し、それと同時に、昔、祖父母の口から聞いたことがあった場面を思い出した。

 確かあれは祖父母の家に行った時だ。祖父母と父親が話している中で、「ナイナイ」という単語を言っていたのだ。しかし、話の内容までは覚えていない。

 それでも、ここまでの話の流れから、なぜ祖父母がこの国のトップに近い人間と、コネクションを作るように指示したのかわかってきた。


「なるほど」


 大臣は対等に話を進めるソフィを試すように見つめる。十四歳のソフィは負けじと笑みを浮かべ対峙する。

 そんな様子をしばらく観察していた大臣は、小さくため息をついた。


「しかし、君たちには申し訳ないが、他国の内戦に我が国が介入することはできないんだ」

「承知しています。ですから、軍事的な支援でなくてもいいんです」


 大臣の言葉に、ソフィはなんとか食い下がる。

 その真剣な眼差しに、有菊はソフィのことを何もわかっていなかったのだと胸がチリチリ痛んだ。無茶振りばかりするソフィは、何も考えずに周りの人間を振り回しているだけのお嬢様だと思っていた。

 しかし、こうやって大臣とやりとりをする姿を見ていると、私利私欲のためではなく、誰かのために必死で尽くそうとしているのが伝わってくる。


「すまないが、国として対応しては、今のパワーバランスが崩れてしまうことになりかねない」


 ゆっくりと首を横に振って、残念そうにする大臣に、ソフィはテーブルの下の手のひらを握り締める。その悔しさが、有菊まで伝わってくる。


「しかし、今回のチャンスを逃すと、次の機会がいつになるか分からないんです」


 表情をさらに引き締めて、大臣の目をまっすぐ見つめるが、大臣は動かずに、しばらく沈黙が流れた。


「そうだな。キミの取り組みも、キミの父上から聞き及んでいる。しかし、ダナメ共和国としては非常に難しいということは理解して欲しい」


 そこで有菊は、ふと先ほどから大臣が口にしている言葉に引っ掛かりを覚える。


「あのー、()()()()難しいってことは、個人的になら何かご協力いただけるんでしょうか?」


 おずおずと、なぜか挙手をした有菊は、そう発言をしてみる。するとソフィは有菊に視線を投げてから、すぐに大臣を食い入るように見た。


「そうだね。私個人として、私の友人を紹介することなら可能だ」


 先ほどより少し表情を緩めた大臣は、有菊に向かって微かに頷いたように見えた。


「友人……?」


 ソフィは大臣の言葉になにか思い当たる節があるのか、口に手を当てる。その答えをすぐに大臣は伝える。


「ああ、この地域の宗教指導者なら紹介可能だ」

「それって……、もしかして?」

「そうだ、シェイク・イッサカ・アリユだ」


 有菊は初めて聞く名前だったが、隣に座るソフィは違うようだった。その名前を聞いたソフィは、少し震えた小声で何か呟いたが、それは聞き取れなかった。


「ありがとうございます!」


 突然立ち上がってお辞儀をするソフィに驚き、つられたように有菊と不破も立ち上がり、同じようにお辞儀した。

 頭を下げながら、隣で頭を下げているソフィを見ると、ギュッと口角を上げて、心から喜んでいるのが伝わってくる。

 きっと、今回のミッションは成功なのだろう。


「さあ、顔をあげなさい」


 明るい声で大臣がそう言い、三人とも頭を上げる。すると、もう次の仕事があるのか立ち上がって出口へ向かおうとしていた。


「すぐに連絡をしておく。オンラインでの会談になるだろうから認証用のパスも渡すよう手配しておこう。ただし、あちらも立て込んでいるようだから、会談はいつになるかわからない」

「いえ、そんな……。なんとお礼を言ったらいいか」


 ソフィは上気した頬で大臣に重ねて頭を下げる。

 すると、部屋を出ていく大臣は感慨深そうに頷いた。


「私もナイナイのエコミュニティの現状は放っておけないんだよ。この辺りに住むものなら皆そうだろう?」


 その言葉に、再び顔を上げたソフィはクッと歯を食いしばった。その目は涙を湛えているように見えた。


「できることはこれくらいだが、応援しているよ」


 やはり次の仕事が迫っているのだろう。その言葉を残すと早足で去っていった。

 三人は建物の外まで見送ろうとしたのだが、大臣は微笑みながら手で静止していたので、部屋に取り残される形になった。

 すると緊張が解けたのか、ソフィはおもむろに腕を上げてストレッチをしはじめた。そして、有菊たちに向かって話しかける。


「ふたりとも朝早かったから、何も食べてないでしょ」


 それに頷くと、ソフィは朝食が食べられる店へ案内すると言い出した。てっきりここで解散だと思っていた有菊がまごついていると、ソフィは腰に手をおいた。


「ほら、さっさと行くわよ」


 その強気な言い方はいつものソフィで、有菊はちょっと安心したのだった。

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