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ナガレメグル、私の物語  作者: 綿貫灯莉
第3章 前進
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第45話 観光日和

 結局、昨晩の夕飯は、近くのお店でテイクアウトしたものを食べた。シェルムは文句を言いつつも、テーブルに並んだ地元料理を手に、スパイシーな調味料を大量にかけたりと様々な魔改造のやり方を、楽しそうにみんなにレクチャーしていた。

 そして翌朝は、まだ気温が上がりきらないうちに出かけることになった。


「あれ? クロネコの兄弟子あにでしも行くのか?」


 フードを目深に被った結人が玄関にやってくるのを見て、シェルムは意地悪そうに聞く。


「リアンが行くから」


 なんて事ないように答える結人だったが、ふたりの間の空気は険悪なものを感じる。


「さ、さあ、出かけよっか」


 有菊はその空気をできるだけ読まないように、みんなに向かって話しかけた。


「タヌキの弟弟子おとうとでしが、わざわざ一晩ここに泊まってまで連れて行ってくれるところだから、さぞ素晴らしいところなんだろ」


 普段なら絶対にそんなことを言わない結人が、少しタレ目のシェルムを煽る。昨夜、クロネコと揶揄われた結人は、タヌキを知らないシェルムに、わざわざタブレットで描いて見せてシェルムにやり返していたのだ。しかし、全く動じていないシェルムは、自分の目尻を指でさらに下げるような動作をして、結人を揶揄う。


「まあ、出来の悪い兄弟子には、ちょっともったいないところだけど、仕方がないから連れてってやるよ」


 どうやらふたりの相性はあまり良くないようだ。だけど、なぜかお互いに距離を取ろうとしないせいでピリピリしている。


「これって、いつまで続くんでしょうか?」


 六条にこそこそと有菊が聞く。


「どうだろうな。しかし、まさかふたりともがアキくんのおじいさんの弟子だったとはね」


 昨晩のこと、シェルムが有菊の祖父のことを知っているという話になり、そこでシェルムが自分は祖父の弟子だと言い出したのだ。それを聞いた結人も、自分こそが弟子だと言って対抗しだしたのだ。そして、いつから弟子をやっているのかというので、張り合った結果がこれだ。


「しかし、おじいちゃんが弟子をとっているなんて知らなかったなー。しかもふたりとも結構前からの知り合いみたいだし」


 兄弟子の結人はなんと七年近く前から知り合いらしい。ちなみにシェルムは五年前からだという。

 どうやって知り合ったのか、どんなことを教えてもらっているのかは、ふたりとも秘密だといって教えてくれなかった。


「今度、おじいちゃんに会えたら、こっそり教えてもらおう」


 そうふたりを眺めながら密かに思っていると、シェルムがみんなのほうを見て、「じゃあ、出発しようぜ」と、玄関のドアを開けて、先頭に立って歩きはじめた。

 一応、有菊がシェルムの友人なので、追いかけて隣を歩こうとしたら、なぜか結人がシェルムの隣を陣取る。

 それならいいかと、その後ろをリアンと並んで歩くことにした。

 ちなみに負傷した足は、ソフィのくれた薬が効いたようで、すでに普通の筋肉痛レベルにまで戻っていた。この程度なら全く問題ないので、有菊はソフィに感謝しつつ観光を楽しむことにした。


「リアンくんは弟子じゃないの?」

「僕はおじいちゃんには育ててもらった、というのが正確かもしれません」

「そうなんだ」

「はい」

「じゃあ、リアンくんがおじいちゃんの子供なら、私とは家族だね」


 そう言うと、リアンはキョトンとしたあとに、花が咲いたような笑顔を見せた。


「そうですね。有菊ちゃんとは家族ですね」


 リアンの嬉しそうな態度は、普段のしっかり者のリアンとは少し雰囲気が違い可愛らしかった。そんな姿をニコニコと有菊が見ていると、シェルムが歩きながら振り返った。


「ちょっとー。そこ、イチャイチャしない」

「だってー、私たち家族だから」


 ふふっと有菊が笑うと、リアンも照れくさそうに笑ってみせる。


「まあ、リアンならいいか」


 何がいいのかは分からないが、シェルムはまた前を向いて歩き始める。


「もしかして、シェルムとリアンくんも知り合いだったりするの?」

「僕は知らないんですが、シェルムさんは僕のことを知っているみたいですね。昨夜、声をかけてもらいました」

「そうなんだ」


 いまいち結人とリアン、シェルムの関係が見えないが、あまり聞くと、今よりも雰囲気が悪くなりそうなので、あとで個々に聞こうと思った。

 特に弟であるリアンについて、もしシェルムも詳しいとなると、結人の態度がどう変わるのか想像できない。


 ゾロゾロと歩く集団は目を引きそうなものだが、すでにこのディーディのエコミュニティにも三ヶ月近く暮らしているだけあって、六条と結人は見慣れた顔になっているようだ。

 有菊とリアンは、寄宿舎に詰めていたので新顔に等しいのだが、シェルムといるからか、あまりジロジロと観察はされない。


「どこ行くの?」

「せっかくだし、このエコミュニティ最大の収入源を見にいこうと思ってさ」


 そうして、乗降場でシェルムが手配した大型のエアカーに乗り込んだ。大型ということもあり、座席の配置は何パターンかあるようだ。せっかくなので、全員の顔が見られるようなロの字型の配置にしてみた。


 実は有菊は、このエコミュニティの全体像がよくわかっていない。有菊が暮らしていたところより面積が大きいことは知っているが、いくつ町があるのか、どんな施設があるかなどは調べていなかったのだ。

 そういう点でも、シェルムの誘いはありがたかった。


 有菊たちが現在生活している町は、ディーディの中でも賑やかな場所のようで、エアカーでそこから離れると閑散としてくる。しかし、人が住んでいないわけではなく、町の外では熱に強い植物など様々なものが栽培されているようだった。路地だけでなく透明な建物の中でも、見たことのない植物が、まだらに植えられている。どうやら生徒による実験も行われているのか、農家の屋号以外に、昨日までいた学校名も、拡張現実(AR)の看板で読むことができた。

 他にも工場のような建物もあり、そこでは食品や暮らしていく上で必要な家電やインテリアなどが出力されているらしい。

 それらの農工業地帯を抜けると、隣町が見えた。しかし隣町は今暮らしている町より小さいようで、すぐに通り過ぎてしまった。


 そうやってエアカーで進んでいくと、遠目に木立が見えてきた。

 その中でも巨木は、ずいぶんと特徴的なフォルムをしているので、有菊は何の木かすぐにピンときた。木々の中で存在感を放つその巨木はバオバブだ。大地から力強く生えているその姿は圧巻だった。


「すごい。バオバブの木なんて初めて見た」


 有菊は窓にへばりついて、その風景に見入った。


「すごいだろ」


 その反応に、シェルムはなぜか腕を組んで、ニヤニヤしながら頷く。


「あっちの木はなんて言うの?」


 バオバブ以外は名前がわからなくて、有菊はシェルムに尋ねる。


「ああ、あれはアカシア。あっちはシアバター」

「へー。本当にここすごいね」


 乾燥した灼熱の大地に広がる森林は、立ち枯れすることもなく青々と茂っている。有菊はその豊かな景色に感心しつつ、違和感を感じた。

 確かシェルムは、このエコミュニティ最大の収入源に行くと言っていた。しかし、もしここが観光地だとしたら、木立の中に観光客も分身ロボット(シンクロパペット)の姿も、とにかく人影がまったく見えないのは不自然だ。


「ここって観光地じゃないの?」

「観光はやってない。もうちょい近付かないとわからないか」


 そうして、エアカーはさらに木が立ち並ぶ区域へと近付いていった。途中検問らしきものがあったが、エアカーが近づくとゲートは自動で開いた。


「ここまで近づけばわかるだろ?」


 シェルムはそう言うが、有菊には何を言っているのかわからなかった。木と木の間を走るエアカーの窓から見上げるように観察するが、これらの樹木にどんな特徴があるのか見つけられない。


「もしかして、ここはソーラーパワープラントか?」


 窓の外を見ていた六条が、シューティンググラスを持ち上げ、肉眼で見ている。有菊もそれに倣ってメガネを外して肉眼でその景色を見た。


「え? 葉っぱが……黒い?」

「正解。ここにある木は全部、生物模倣(バイオミミクリー)したソーラーパネルなんだぜ」

「えー!」


 そうして有菊は確認するように、メガネをかけ直した。

 どうやらウェラブルデバイスを通すと、拡張現実(AR)で補正されるため、完全な植物に見えるようだ。

 何度もメガネをかけ直している有菊を見て、シェルムは満足したように笑った。


「驚いただろ?」

「うん。こんなソーラーパネルもあるんだね。樹木っていうのが、また素敵だよ」

「だろ?」


 話を聞くと、それぞれの木で集めた電力は、地下に張り巡らされた「根っこ」を通って、貯蔵場所へ運ばれるらしい。ここではかなり量の電力がとれるため、海外へ輸出もしているという。

 また、この生物模倣(バイオミミクリー)自体も商品として販売しているらしく、そちらは小さな鉢に植えたバオバブが人気商品らしい。他にもアカシアなど、ここで見られる種類の樹木をデザインしたものが売られている。


「こんな状況じゃなかったら、鉢植えのバオバブ欲しかったなぁ」


 有菊は、ここで売っているという、上下逆さまのようなフォルムの鉢植えを販売サイトで見ながら肩を落とした。


「じゃあ、落ち着いたらプレゼントしてやるよ。せっかくここに来たんだから、記念にさ」


 シェルムが前のめりに来たので、有菊は急いで首を横に振った。


「ありがとう。でも、自分で買うから大丈夫。気持ちだけ貰っとくよ」


 そう言って両手を前に断ると、シェルムは頬を膨らませて拗ねた。


「そういう好意は素直に受け取るモノだろー」

「じゃあ、俺が受け取るよ」


 横から結人が入ってくると、「それは嫌」とシェルムはそっぽを向いてしまった。


 その後は、降車して見学できる場所まで移動した。

 そして、少し時間はかかるが、透明の素材で覆われたチューブウォークで、間近にそびえ立つバオバブの木々を見学できると聞き、みんなで見学することになったのだ。

 このタイプのソーラー発電はまだ珍しいらしく、視察に来る企業や国も多いという。そのため、こうした見学施設が設けられているらしい。

 ここで見られる景色は、車窓から見えた木立とはまた違い、より自然に近い配置で巨大なバオバブの木が点々と展示されている。乾いた大地にそびえ立つ、ぽってりとした太い幹の巨木は青空によく映える。ここだけでも、観光客を受け入れたらいいのにと思うくらい美しい風景だった。


 どうやらここの景色は、結人のスケッチ魂に火をつけてしまったらしく、歩道部分から降りては立ち止まり、何枚も絵を描くを繰り返していた。

 いつまで経っても出口に現れない結人に、痺れを切らしたシェルムは逆走して姿を消した。しばらくすると、シェルムに引っ張られて、名残惜しそうに何度もうしろを振り返っている結人が出てきた。

 そうして、この施設の見学を終えたのだった。

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