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ナガレメグル、私の物語  作者: 綿貫灯莉
第2章 おつかい
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第41話 地響きの原因

 その地響きはたった一回だけだったが、今まで感じたことのないものだったので有菊は不安に思った。室内の窓から外を眺めてみるが、ここからでは何も見えない。


「なんだろーね?」


 子供達も心当たりがないようで、首を傾げている。

 しかし、いくら待っても校内アナウンスはない。メガネを確認してもどこからも連絡が入ってこないので、気にするようなものではないのかもと授業の続きを行った。

 結局そのまま無事に授業を終えて、次の授業へ向かう子供達を小雪とともに見送っていると、メッセージの受信を知らせる通知が表示された。


「うわっ」


 それは地響きとはまったく関係のない、有菊の母親からだった。


「そういえば、最近全然連絡してなかったなぁ」


 その割にはかなり長い間、あちらから連絡がなかったのは良い兆候だ。メッセージはただ一言、「連絡をするように」とだけ書かれていた。

 その文面だけで有菊はげっそりする。


「はぁ、面倒だから今話しちゃえ」


 ため息をつきながら連絡した。

 もちろん今回も、音声通話に自分の笑顔バージョンのアバターを連動させての通話だ。

 最初は嫌味ばかり言われたが、それを素直に聞き流していると、すぐに支配欲が満たされたのか「生活が落ち着いているからって、連絡はちゃんとしなさいよね」とだけ言い捨てて、通話が切れた。


「生活が落ち着いてるなんて報告もしたことないけど、何を言ってるんだろう?」


 有菊は母親の言葉に引っ掛かりを覚えながらも、今のこの混迷を極めた状態を説明する気もないので、とりあえず気にしないことにした。


 そして、先ほどの地響きがニュースになっていないか、メガネ型のデバイスで確認をする。


「あれだけの地響き、絶対にニュースになりそうなのに、今のところはなにも上がってないな」


 地元のニュースサイトやSNSを漁ってみるが、「さっきの地震、何だろう?」という呟きはたくさんあがっているが、実際に何があったのかを記しているものはひとつもなかった。ダナメ共和国内だけでなく他国の地震情報などもあたってみるが、それらしいものは見当たらない。


「なんか変だよね」


 首を傾げながら小雪に話しかけると、小雪も有菊を真似して首を傾げる。そのつぶらな黒い瞳を見て微笑み、リアンならもしかしたら何か探し出しているかもと歩きはじめた。



 寄宿舎の作業部屋に戻ると、そこにはソフィがレースをあしらった白いシャツに黒色のスラックス、同じ色のジャケットを手に仁王立ちしていた。もしかしたら外出していたのかもしれない。

 いまだにソフィとこの学校の関係がよくわからないのだが、有菊と同じように寄宿舎で暮らしていることだけは確かだ。確実に学生ではないが、かといって教師をしているわけでもなさそうだ。


「戻ってくるの遅いわよ」


 眉を上げて不機嫌そうに言うので、有菊は内心ムッとしながらも、「すみませんでした」と謝った。さすがに母親と話していましたなんて言えないし、言うつもりもない。


「まあ、事情がありそうだからいいわ」


 何か有菊に関する情報が入ったのか、はたまた素直な態度に気をよくしたのか、ソフィはすぐに険のある表情を崩した。


「少し事情が変わったわ。キクにはすぐに行ってもらいたいところがあるの」

「私に?」


 突然のことに有菊は自分を指差して確認した。

 その後ろでは、心配そうにリアンがふたりのやりとりを見ている。


「そうよ」

「でも、まだやらなきゃいけないことが山積みで……」

「それは、後回しでいいわ」

「後回しって、それじゃあいつまで経っても終わらないんですが」


 有菊はあれもこれもと指図してくるソフィに対して、言い返す。

 なにせ賛助を得られそうな企業に対し、協賛するメリットを示すための資料作りや、今後組織が発展していく上で予想される利益計算など、とにかく目標金額を集めるために、手当たり次第ふたりで作業をしているのだ。

 本来ならもっとスマートにできるものも、説明できないものがあってはいけないため、いちいち理解してから進めるため時間がかかる。


「あら? その程度もこなせないで、この先やっていけるかしら?」


 含みのある言い方をするソフィは、微笑みながらも挑むような目つきで有菊を見る。その何かを知っているような雰囲気を嗅ぎ取って、有菊は尋ねる。


「もしかして、何か知ってるんですか?」


 その質問にソフィはただ笑みを深めるばかりで答えてはくれない。

 その代わりに、新たな課題を提示する。


「さっきの地響き、キクも感じたでしょ?」


 何だか嫌な予感がしつつ頷く。


「その震源になった場所へ行ってきてちょうだい」

「でも、情報が全然ないみたいですが」

「あら、もう調べたのね。それなら話が早いわ」


 目を細めて、肉食獣のような瞳で有菊を見つめる。


「情報統制してるのよ。だから、あそこに近づく人はいないはずよ」

「そこまでわかってるなら、私が行かなくてもいいんじゃないんですか?」

「何を言ってるの? 現場には足を運ぶのが鉄則よ」


 なぜかこの少女はアナログなことが好きなのだ。他人にもやらせるが、本人もとにかく自分の頭で理解することを好み、手を動かし足を運ぶことに労力を惜しむことがない。


「場所がわかってるなら、ドローン飛ばせば……」

「ダメに決まってるじゃない。すでにもうひとりが向かってるから、現場で落ち合えるはずよ」

「他にもいるんですか?」


 ソフィの被害者が他にもいるのかと思うと、すでに向かっているというまだ見ぬその人に同情した。


「ええ。だから、現場の指示はその人に聞いてちょうだい」


 了解以外の返事を許さない指示に、有菊はうんざりしながらも頷く。


「あ、それから今回はひとりで行ってきてね」


 優秀なリアンは置いていくようにと、言外ににおわせているようだ。


「了解です。で、何があったんですか?」


 場所までわかっていて、情報統制までしているのなら、ソフィには何があったのかわかっているのだろう。いいように使われて不機嫌になっている有菊の質問に、ソフィはまるで大したことではないように答える。


「軍事衛星で攻撃されたのよ」

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


第2章はここまでです。

閑話をいくつかはさみ、第3章へと続きます。


引き続きどうぞよろしくお願いします。

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