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ナガレメグル、私の物語  作者: 綿貫灯莉
第2章 おつかい
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第36話 早朝の探しもの

 逃げ出した猫の画像を受け取ったり、最後に見かけた場所を確認しているうちに外はすっかり暗くなっていたので、翌朝から不破とふたりで捜索を開始することになった。


 内心、不破は六条と違って、「待っているから行ってこい」と言って有菊を放り出すと思っていた。しかし、昨日も一緒に警官に色々確認をして、今日の捜索にも前向きに参加してくれている。

 最初の印象は良くなかったが、クロステックストアでの様子を見ても、実は面倒見が良いのかもしれない。


「しかし、防犯カメラのデータが役に立たないなんて、信じられんな」


 猫が映り込んでいたということで、警官が見せてくれた防犯カメラの画像はひどいものだった。まるでアテにならないということを確認したようなものだ。

 どうやら外に据え付けられているカメラは古いものが多いらしく、砂塵で壊れているものも多いようだった。ただ、この辺りは特に治安が良いため、その交換は後回しになってしまっているらしい。


「まったく、生体のペットとは贅沢だな」

「確かに」


 不破の呆れたような言葉に、有菊も思わず同意する。

 生体のペットを維持するのは、それなりに資金が必要だ。しかも、ニホンでは飼うのに様々なハードルがある。資金面がクリアできたとしても、ペットの飼育を責任もってできる人でなければ許可が降りないのだ。

 ペットロボ(メカティア)の手軽さに、多くの人はそちらへ流れてしまい、ますますペットは貴重な存在となったのだ。

 それらのハードルを全てクリアして、生体の猫を飼っているというのだ。きっと、依頼主は裕福で余裕のある暮らしをしているのだろう。


 そんな依頼主が猫を脱走させてしまったのは、本当に予想外の出来事があったようだ。

 絶対にそのドアは開けられないと思っていたドアを、どういう方法でかわからないが、こじ開けて脱走したという。どうやらその依頼主は、継続的に数匹の猫を飼っているらしく、今までそんなことをする猫がいなかったから、今回は本当に想定外だったらしい。

 慌てふためき警官に捜索願いを出すと、すぐにドアの交換を終え、依頼主本人も探しながら家に帰ってきてくれるのを待っているという。


 ペットホルダーで丸まっている白い毛並みをのぞき、もし突然小雪が逃げ出してしまったらと想像すると、早く依頼主の元へ返してあげたいと思う。


「じゃあ、飛ばしますね」


 有菊はターバンの中に入り込んでいる蝶形ドローンを取り出して、それを飛ばした。

 警官の許可を得ているので、狙撃されたりはしないはずだが、念のためステルスモードにしておいた。


「こんな便利なものを、こんな子供が持っているのは問題だな」


 有菊の持っている高性能な蝶形ドローンを最初に見た時は、本当に悔しそうに歯噛みしていた。

 そして、今も不破は口をへの字にして腕組みしている。


「これは子供とか大人とか関係ないじゃないですか」

「いや、これを盗もうと襲いかかる人間がいないとも限らん」


 てっきりこのドローンが欲しいだけなのだと思っていたが、有菊の身を案じてくれているのだと気付いた。やはり不破は良い人なのかもと、少しだけ評価を修正する。


「じゃあ、データ共有しますね」


 有菊はメガネに軽く触れ、立ち上げたアプリで不破のデバイスを認証する。そして、不破にドローンの映像を共有した。


「なんだこれ? すごい高解像度だな」


 不破の驚きに、有菊はふふっと誇らしげになる。


「おい、これ、一体どこで手に入れた?」

「おばあちゃんの手作りです」

「信じられん。こんなものを手作りする人がいるのか」


 険しい顔でその映像を見ていた不破は、何か納得したように頷くと「やるぞ」と言って、捜索を開始した。


 まずはドローンの設定を人間を除く生物追跡に変更する。すると、表示されていたポイントの数がぐっと減った。そして、一番近い場所で、ここから五ブロック先の区画にそれらしい動きがある。


「行ってみましょう」


 まだ早朝ということもあり、気温が上がりきっていないので動きやすい。通りを歩く人も、日中に比べれば多いのかもしれないが、それでもまばらだ。

 猫探しにはちょうど良いかもしれない。


 有菊は例の身体強化用のタイツを身につけて、外ということもあり出力も少し上げている。ジャンプしたりとアクティブストレッチを軽くするとすぐに走り出した。

 弾力のある地面は走りやすく、いつもよりも早く走れる気がする。

 不破はそんなやる気に満ちて走る有菊の隣を、音もなくついてくる。


「前から気になっていたんですが、不破さんの靴って音しませんよね」


 有菊の知らない機能を備えた靴かと思い、好奇心を隠さずに聞く。しかし、不破はただ首をひねるだけだった。


「そうか? 普通の靴だが」

「嘘! 普通にしてて、そんなに音しないなんてあり得ないですよ」

「訓練すれば誰だってできるだろ」


 不破は当然のように、息も切らさず答える。

 その様子は本当にそう思っているようで、誰にでもできる芸当ではないことを理解していない。


「六条さんが成績優秀って言ってたの、やっぱり本当なんだ。知識もだけど、こんなこと普通にできるなんて、どう考えてもおかしい……」


 性格は少し変わっているが、見た目も身体能力も、そして恐らく頭脳も兼ね備えている。有菊はここまで突出した人物を知らない。まあ、有菊の狭いコミュニティの範囲ではそんなに比較できないのだが、それにしてもだ。

 身体強化用のタイツでいつもより早いペースで走っているのに、悠々とそれについてくる不破を横目に見ながら、有菊は小さくため息をつく。

 自分が不破くらいの年齢になった時、同じような能力を兼ね備えることはできるのか。いや、不破が男性なら体力に関してはもう少し下でもいい。

 いまだに進路も決まっていない有菊は、どうしたら不破のような多才な人物になれるかあれこれ考えてみるが、その道のりを思うとすぐに考えを放棄した。


「まずは目の前の問題をどうにかしよう」


 そうして目的地に到着してドローンの画面を見ると、まだその生体反応はこの辺りにある。しかし、ドローンのカメラでは映らない死角にいるらしく、姿はわからない。


「自分はあちらからまわる。アキはこっちから頼む」


 今まで名前で呼ばれていなかったので、突然「アキ」と呼ばれて有菊は驚いた。つい、まじまじと不破を見ると、嫌そうな顔をして答えてくれた。


「いざという時に、名前を呼ばないと動けないだろう。先輩がアキくんと読んでいるから、あまり変えないほうがいいと思ったんだが」


 何か不服でもあるのかと、腰に手をあてて見下ろす。

 しかし、その顔は少し照れているのか赤い気もする。有菊はまたすぐに不破の評価を書き換える。


「すごく嬉しいです。アキでお願いします」


 そして、ふたりはその場を別れて、両方向から追い詰める。そうしてジリジリと距離を詰めると、そこには物陰に隠れたネズミが残飯のようなものをかじっているのが見えた。

 普段の生活で見ることのない大きく薄汚れたネズミに、思わず有菊は後退りをした。

 その足音にネズミは振り返ると、逃げもしないでそのまま食事を続ける。有菊はそのふてぶてしいネズミの姿を見て、思わずうわずった声で叫ぶ。


「ふ、不破さん! 違いました! ネズミです!」


 ピアスからは「了解」という冷静な声がして、すぐに先ほど別れた場所で合流することになった。

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