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ナガレメグル、私の物語  作者: 綿貫灯莉
第2章 おつかい
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第30話 お買い物

 とは言え、ここまでの移動の疲れもあり、その日はそのままレンタルハウスでゆっくり過ごすことになった。

 実際のところ何をするかも考えていないので、とりあえず翌日から動くことになったのだ。


 しかし、翌朝になると六条と不破で揉めていた。


「だーかーらー、子供と一緒はイヤだって言ってるじゃないですか」

「これは任務だから駄目だ」

「だったら先輩が行ってくださいよ」

「俺は別の任務があるから無理だ」

「交換しましょうよ」

「それだと、子供ふたりと行動することになるがいいのか?」

「……それはちょっと」

「だったらアキくんの護衛を任せるからな」


 六条と不破で有菊の護衛について揉めていたのだ。

 しかし、六条は別任務で結人とリアンとで行動するらしく、有菊は不破に護衛をしてもらうことになってしまったのだ。


「あのー、私ひとりでも大丈夫ですよ?」

「それはダメですよ。有菊ちゃん」


 嫌がっている不破とふたりになるくらいなら、ひとりのほうがマシだ。そう思って単独行動を提案してみたのだが、リアンからダメ出しされてしまった。


「ここが安全だなんて思わないほうがいいですよ。大体僕たちは海外で過ごすのはじめてなんだから、慣れた人と行動しないと何があるかわかりませんよ」

「うっ……、そんな正論を言われると、何も言い返せないよ」

「有菊ちゃんに何かあったら、僕悲しいです」


 そんなことを言われたら、わがままは言えない。


「仕事はちゃんとするから大丈夫だ」


 六条からは何のフォローにもならない言葉をもらい、子供ふたりよりはひとりのほうがマシだと判断を下した不破の護衛のもと、有菊は外出をした。


 有菊が最初に向かったのはオーダーした服を出力してくれるクロステックストアだった。


 今着ている服のほうが様々な性能があって便利なのだが、快適さでは一歩劣る。しかも、ここでの生活が長くなるのなら、馴染むような服装のほうが何かと良さそうだと考えたのだ。

 しかし先立つものがないので六条に相談すると、全て経費で落とせるから、好きなものを買って大丈夫だと言われた。


 クロステックストアに入ると、ホログラムではなく本物の衣装を着せたマネキンが正面に置かれている。あとは天井まで囲まれた打ち合わせ用のブースがあるだけだった。


「こんにちは」


 店の奥から出てきたのは、存在感のある魅力的な女性だった。

 身に纏っているカラフルな衣装は、褐色のハリのある肌によく似合っている。

 細かく編み込まれたボリュームのある髪は、暖色系の民族衣装に合わせているのだろう。オレンジ色のエクステも混ざっている。

 肉厚な唇は柔らかく笑みを浮かべており、好奇心の強そうなキラキラ光る瞳はこちらに好意的だ。

 その艶のある生命力溢れる姿に、有菊は思わず見惚れてしまった。


「あら、あなたは昨日ぶりね」

「今日はこの子の衣装をお願いしたい」


 どうやら昨日、すでに不破はここを訪れていたらしい。


「わかった。この子の衣装はどうする?」

「オーダーで」

「あら。じゃあ、あなたもオーダーしたほうがいいわよ。もっと似合うデザインを用意できるわ」

「いや、自分はこれで十分なので」

「あら、そう。それは残念ね」


 不破と店員のやりとりを聞いて、不破の衣装が似合っていない理由がわかった。有菊たちと合流するために急いでいたから、サイズの合っていない既製のものをとりあえず買ったのだろう。


「どうせ私のを作るのに時間かかるんだから、不破さんも一緒に作りましょうよ」


 突然の有菊の提案に、不破は面食らったように瞬きをした。


「二着くらいなら、そんなに時間変わらないですよね?」

「ええ、今なら機械も空いてるし、同時に出力できるわよ」


 店員は有菊の提案に乗っかって、不破を口説き始める。


「しかも複数注文なら割引も効くわよ」

「いや、でもこれがあるから」

「一日しか着てないんでしょ? それならいい値段で下取りできるわよ」


 その言葉にピクリと反応した。

 それを見逃さなかった店員は、畳みかける。


「今着てるのは、中古だから旧式の空調システムだけど、新調すると最新になるから、快適性もかなり上がるし軽いわよ」


 不破の反応を見ながら、さらに続ける。


「しかも、ここで出力した服なら汚れてても買い取るよ。きっとそんなに長く着る予定じゃないんだろ?」


 ダメ押しの一言に不破は白旗をあげて、有菊と一緒に注文することにした。


 最初は全身を採寸するために、ひとりずつブースに入ってスキャンする。服を着たままでいいのであっという間だ。

 そこからが本番で、カタログでは生地の種類、柄、標準装備以外のオプションを選ぶ。

 生地はサンプルも持ってきてくれて、手触りを確認しながら選んでいく。

 色や柄に関しては無限にあるため、店員がそれぞれに似合うパターンを絞ってくれて、その中から選んだ。


「完成までには三十分程度かかるから、外出してもらってもいいし、ここでくつろいでもらってもいいよ」


 全てのオプション選択が終わると、有菊たちに店員はそう伝え店の奥へ入っていった。

 太陽が高くなった店外は、ジリジリと照りつけて蜃気楼が見える。みんな屋内に避難しているのか、人通りもほぼない。それを見て、ふたりとも言葉を交わすことなく店内に留まった。




「先にその子の分の出力が終わったから、そこで着てみて」


 三十分と言っていたが、実際はもっと早く完成したようで、出来たての衣装を有菊に手渡した。


「じゃあ、借りますね」


 ブースに入り、有菊はまだほんのり温かい民族衣装に袖を通した。


 ピンク色が基調のデザインで、そこに黄色などで幾何学の模様が描かれている。

 派手だなと生地を選んでいる時は内心思っていたけれど、実際に着て鏡で見ると、有菊の小麦色の肌に馴染んで有菊の魅力を引き立てるデザインになっていた。

 そして同じ柄のターバンは、その布自体に加工がされているのか、頭に巻き付けると心地よい涼しさがある。

 小雪はターバンの中は窮屈なので、オプションでつけてもらった斜めがけのペットホルダーに入ってもらった。


「あんたのもできたよ」


 ブースの外でそんなやりとりが聞こえて、有菊は不破の姿を見ようと、いそいそとブースから出て待ち構えた。


 不破は少し色味を抑えた水色が基調で、幾何学の模様もそれほど複数の色を使わずに、シンプルなものであった。それが色白で長身の不破によく似合っていた。有菊と同じように頭にはターバンを巻き付ける。

 先ほどまで着ていたものと同じ民族衣装とは思えないほど、不破の魅力を引き出していた。


「ふたりともよく似合ってるわよ」


 満足げに笑う店員とは裏腹に、不破はオプションで選んだ機能に夢中になっていた。それを見た有菊は、自分の服にも搭載されている様々な機能を確認しはじめた。

 どうやら、今まで着ていた服とは全く異なるシステムで冷却しているらしく、ものすごく快適なのがわかった。

 きっとこの辺りの乾燥した暑さに適したものなのだろう。

 他にも面白そうな機能がありそうだ。


「これはすごいですね。気に入りました」


 有菊はその性能に感動しつつお礼を言うと、店員は肩をすくめて少しがっかりしたような顔をした。

 不破もオーダーした服に満足したのか、二着分の代金を機嫌良く支払った。


「あんたたちは見た目は違うけどそっくりだね」


 会計の手続きをした店員はふたりを残念そうに見て、店外へふたりを送り出した。

 しかし、なぜそんなことを言われたかわからないふたりは、首を傾げつつ次の目的地へ向かった。

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