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ナガレメグル、私の物語  作者: 綿貫灯莉
第2章 おつかい
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第29話 あの時はうまくいったけど

 六条さえ難しいと感じるのだ。何の準備もなく、身ひとつでこの地に降りたった有菊には無理な話だ。


「この国のこともよく知らないのに、いきなり国のトップの人間となんて会えるわけないじゃない」


 さすがにこれはできないと、断る方向で進めようとした。


「でも、有菊ちゃんならきっとできると、ふたりは言っていました」


 リアンは後ろ向きな有菊に対し、鼓舞するように祖父母の言葉を伝える。


「嘘!」


 祖父母がそんなこと言うだろうかと、有菊は半信半疑でリアンをチラリと見た。

 すると、車窓を眺めている結人がトークルームに入ってきた。


「リアンの言うとおり、確かにふたりはそう言っていた」

 

 もしそれが事実なら、完全に過大評価だ。

 祖父母とは、会うこともなく遠く離れて暮らしていたから、なにか勘違いをしているのだと有菊は思った。

 しかし、その根拠を示すように、結人は言葉を続ける。


「手紙をやり取りしていたと思うけど、ふたりはそこに書かれていた内容を嬉しそうに俺たちに話していた。いつもまっすぐで、目標に立ち向かう強さと優しさがあると誇らしそうに褒めていた」


 祖母からの手紙には、必ず返信用の便箋と封筒が同封されていた。それは有菊のリクエストだった。母親に話すと難癖つけられそうな、有菊にとっては嬉しかった出来事を祖父母には知ってもらいたくて、手紙に綴って送っていたのだ。


「いくらなんでも、手紙だけで私のことわかるのかな……」


 そんな心のうちを見透かしたかのように、リアンはきっかけとなった手紙を教えてくれる。


「一番そう思わせたのが、有菊ちゃんが差別的な発言をする子たちに対して行動を起こして、ちゃんと解決できたって報告してきた件です。あの出来事は本当に嬉しかったみたいで、何度も話していました」


 確かに在学中にそんなこともあった。


「自分の正義を一方的にふりかざすことは簡単だけど、それを安易にしないのは素晴らしい。当事者たちにとってのより良い着地点を探し、誘導するのが上手だと褒めていた」


 リアンを補足するように、結人がそう続ける。




 学校では色々な子供が集まっていて、その中には海外からの移住者も多くいる。特に、有菊のいたエコミュニティは受け入れも積極的だったので、そういう人たちが多くいた。

 そんな中で、移住して二年以上たってもニホン語があまり話せずに、いつも翻訳機で話す女の子がいた。その子は年齢の割に背も低くて、自信なさそうにおどおどしていたので、いじめのターゲットになりやすかった。


 ある日、その子に対して複数人が絡んでいた。


「ニホン語もまともに話せないなら、母国に帰ったほうがいいんじゃないか?」

「どうせ、ここの学費がタダになるから越してきたんだろ?」

「知ってるか? こいつの兄弟、犯罪者なんだぜ」

「マジかよ」


 何も言えずに、ただ真ん中で下を向いて震えている女の子に対して、見て見ぬふりをする子たちが通り過ぎる。そんな様子を有菊はこっそり録画していたのだ。


 学校ではいじめは禁止されている。

 もしもいじめが発覚した場合、加害者は問答無用で学校から追放される。そして、加害者は別の学校へ移るのだが、いじめの加害者という情報も転校先へ伝えられるため、社会的に厳しい道を歩むことになる。

 だから、いじめは表面的にはないものとなっているが、防犯カメラのない場所でこういった行為を行うものは少なからずいる。

 そして、そういうことをする人間は用意周到で、認識阻害するデバイスを使用する。すると、証拠となる現場をカメラに納めようとしても、ノイズが入り鮮明に映らない。本来は。


「ふふ。そんな古い型のデバイス、このカメラならくっきりはっきりだよー」


 部品屋に手伝ってもらって改造したカメラで、有菊はがっちり現場をおさえた。そして、撮影した音声付きの映像を見せながら、いじめっ子たちに通告したのだ。


「あなたたちの悪事は全部録画させてもらったから。これを学校側に提出すれば、あなたたちは家族ごと引越しね。その後の生活も、今まで通りにいかないのは理解してる?」


 顔を青くして謝るいじめっ子たちを一瞥すると、有菊はいじめられていた女の子を一旦その場から連れ出し、意向を確認した。


「あなたにはあの子たちを裁く権利がある」


 すると女の子は、ふるふると首を振る。


「そんなに酷いことはされてないから大丈夫。あの子たちが言ってることも、そんなに間違ってないから」


 か弱いと思っていた年下の小さな女の子は、か弱くはなかった。

 その発言を受け、有菊は少し考えた。


「わかった。でも告発したくなったら、いつでもこれを学校側に提出して」


 そう言って、有菊はその女の子にデータをドロップする。女の子は突然のデータのやり取りに焦りながらも、そのデータを受け取った。

 遠くでは、いじめっ子たちが不安そうにこちらを見ている。


「もしも……、もしもあの子たちと仲良くなれるなら、仲良くなりたい?」


 有菊の言葉に、女の子は驚いたように有菊を見上げた。

 そして、一度いじめっ子たちのほうを振り返り、再び有菊の目をまっすぐ見つめた。


「なりたい。少なくともあの子たちは私に声をかけてくれるから。仲良くなれるならなりたい」


 思っていたより女の子の器は大きかったようだ。

 有菊はその真摯な瞳を受け止めて、大きく頷く。

 そして、再びいじめっ子たちのところへ戻った。


「今後この子にも、そしてそれ以外の子たちにも、同じことをしたら、すぐに証拠を学校に提出するから」


 コトの重大さを認識したいじめっ子たちは、もう二度としないと泣きそうな声で誓った。それが演技でないことを、AI判定で確認すると、有菊はニッコリと笑って提案をした。


「じゃあ、みんなでゲームをしよう」


 あたかも今思いついたかのように両手をぽんっと打って、いじめっ子たちと女の子を引き連れ、寄宿舎のゲームブースへ向かった。

 そして、予約しておいたブースを使い、有菊は満を辞してゲーム大会を開いたのだ。


「これは友達になるための対戦ね。仲良くなるためには決闘が良いって、昔の本に書いてあったんだ」


 そう上機嫌に説明する有菊に、いじめっ子たちは何事かと顔を見合わせていた。女の子は少し目を輝かせている。

 どちらも抗議の声をあげることなく、言われるがままにゲームをはじめた。


 実は有菊は少し前からいじめのことを認識しており、カメラの改造を進めつつ、女の子のことを観察していたのだ。

 すると、女の子は時々ひとりでゲームをしているのを知った。そこで、ある日その子がゲームを終えて去ったあとで、そのログを確認したのだ。もしかして見るデバイスを間違えたかと思うほど、女の子の対戦成績はすごかった。

 そこにはニホンどころか世界ランクに食い込む勢いの成績が並んでいた。あんなにもおとなしそうで、無口な子にこんな才能があったなんてと有菊は驚きつつ、これは使えるとそのログを眺めた。


 そして、有菊が指定したゲームは、好きなキャラクターを使った対戦型のバトルゲームだった。

 そう、女の子がやっていたゲームだ。


 ゲームの仕様上、やろうと思えば複数人でひとりを相手に戦うこともできる。

 しかし、さすがにそれはプライドが許さなかったのか、いじめっ子たちはひとりずつ女の子と戦うことになった。


 すると、いじめっ子たちは瞬殺でやられていく。

 首を傾げながら交代をするいじめっ子たちの中で、腕に覚えがあるらしいひとりが腕まくりをして挑んだ。

 しかし、その子すらまったく見せ場もないままやられてしまう。その圧倒的な強さは、対戦を勧めた有菊も興奮するほどだった。

 いじめっ子たちは最初は悔しそうに女の子を睨むシーンもあったが、歴然とした差を感じると、徐々に尊敬の眼差しへと変わっていった。


 そして女の子は、今まで見せたことないような可愛い笑顔でその対戦を楽しんでいた。その笑顔に魅せられたのか、元から実は好きだったのか、いじめっ子たちはコロッと態度を改めた。


 それからは、よく一緒に遊ぶようになったのか、女の子もニホン語が上手になっていった。

 すっかり取り巻きとなった元いじめっ子たちと、笑って歩いている女の子の姿を見かけた時に、もう安心かなと思った覚えがある。




「あの時は、本当に奇跡的にうまくいったから嬉しかったんだよね」


 有菊は懐かしそうにそのことを思い出した。

 自分の中で作りあげたストーリーを、思い描いたとおりに進められた嬉しさをしたためたのだ。


 でも、あの程度のことができたところで、今回の課題である、国のトップとコネクションを作る、なんてことできるとは思えない。


「でも、私がここでやれることは、それ以外ないんだよね」


 有菊はそれに気づいた。


「どうせ長期で滞在するのなら、試行錯誤してそれを攻略するのもいいかもしれない」


 失敗したところで、何か罰が与えられるわけではないし、明日までにどうにかしろというわけではないのだ。

 それなら、一度くらいは挑戦してみてもいいかもしれない。

 それで万が一にも成功すればめっけものだ。

 方法はまるでわからないし、今のところは何も思いついていない。

 それでも、祖父母の気持ちに応えてみたい。


「わかった。私、やってみる」


 有菊は自分の中の考えをまとめて、トークルームに返答した。

 

 こうして、ディーディでの有菊の挑戦がはじまった。

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