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ナガレメグル、私の物語  作者: 綿貫灯莉
第2章 おつかい
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第28話 大人と子供

 エアカーは有菊が想像していたより快適だった。


 空中を飛ぶといっても、数十センチ浮いているだけで、墜落するような不安もなく、安定感があった。

 舗装された道路はないのだが、進路がわかるようにエコカー内部のフロントガラスには、架空の道が表示されていたので安心して委ねることができた。


 外の景色を見ていると、この辺りは乾燥した地域だということがよくわかる。

 国全体が緑豊かなニホンと異なり、木々はポツリポツリとあるだけで、あとは土埃が舞う硬い大地だった。


 しかし、ゴール地点であるディーディに近づくにつれ、少しずつだが緑が増えてくる。それに伴い、平屋の建物群が増えてきた。

 それらの建物は、よく見ると土でできており、どんな技術を使っているのか、カラフルに色づけされている。

 目的地のほうに目を向けると、いくつもの高層ビルが夕方の光を反射していた。


 約二時間のドライブだったが、あっという間に目的のエコミュニティ・ディーディに到着した。

 車が入れる区域まではエアカーで行き、この先は乗り入れ禁止というところで降りた。全員荷物を下ろすと、エアカーは無人でどこかに走り去っていった。

 それを見送っていると、大きな黒のカバンを肩にかけた六条が行先を示した。


「待ち合わせ場所はすぐ近くだ」


 夕方とはいえまだ気温は高く、早く屋内に避難したかったので、急いで六条について歩き出した。エコミュニティ内はしっかりと舗装されており、足元の地面は弾力性があって不思議な踏み心地だ。


 熱を帯びた乾いた風が、有菊たちに吹きつける。


 ディーディはこの国では二番目に古いエコミュニティで、かなり歴史ある場所だ。しかし経済的にはまだまだ伸び盛りらしく、ニホンと比べても活気に溢れている。


 この近辺の国々は、リープフロッグ型発展により、いきなり最先端技術を導入することによって、既存技術で成長を遂げてきた先進国よりも、さらなる発展を遂げていた。


 しかし、そんな最新技術が導入されている地域にも関わらず、町中で目につくのは若者たちの姿だ。

 ニホンでは暑い日は室内にこもって、デバイスを通じて人と会うことが多い。

 だけど、ここではなぜか暑い中でも、木陰で直接顔を合わせて楽しそうに話している姿をよく見かける。


 そんな人々を横目に六条のあとをついていくと、エアカーを降りた場所から数分の場所にある飲食店の前に到着した。どうやらここが待ち合わせ場所のようだ。

 本当にすぐ近くだったのでホッとしていると、どこからか見覚えのある人物が現れた。


「もしかしてコンテナ船まで操縦してくれた……」


 六条に連れられて堤防を越えた夜、コンテナ船まで黙々と船を操縦をしていた人物だ。顔はほとんど隠れていたから確信は持てないが、印象的な一重の瞳は間違いない。


 見た目は六条よりも若く細身だが、体幹の強そうな体躯をしている。センターパートの髪は黒色で、同じ色の涼やかな一重の瞳は黒ぶちメガネの奥で鋭く光っている。

 中性的な整った顔立ちで、パッと見では男性か女性かわからない。しかし、夕陽を浴びてたたずむ姿は美しかった。

 身長は結人と同じくらいで、六条よりも高い。

 そんな麗しい容姿とは裏腹に、こちらで買ったと思われる派手な民族衣装は、サイズもデザインもまったく似合っていない。


「紹介する。私の同僚で、これから行動を共にする不破(ふわ)マコトだ」


 六条がそう言うと、西陽が眩しいのか眉間にシワを寄せた不破は、ゆらっと有菊たちの前に立った。そして「よろしく」と、小さな声であいさつをした。

 声を聞いてもやはり性別不明だ。

 その不破は、六条のほうを向くとケチをつけはじめた。


「待ち合わせ、屋外はナイでしょ。せめて建物の中にしてくださいよ」

「お前なぁ、それを言うなら同乗しろよ」

「いや、子供は無理なんで」


 その不機嫌そうな不破の言葉に、有菊はキョトンとした。

 子供と一緒に過ごすのが嫌だという理由で、同じ場所に向かうのに、ひとりでわざわざ他のエアカーに乗ってきたらしい。


「リアンくんは子供じゃないですよ。すごくしっかりしてるし、私より大人かも」


 リアンのフォローをするように言うと、不破は首を横に降った。


「いや、その子だけじゃなくて、君たちが、だよ」

「それって、私もってこと?」


 まさか自分まで子供扱いされるとは思っていなかったので、有菊は鼻息荒く反論した。


「私はもう十六歳なんですけど?」

「それで?」

「ちゃんと義務教育も終えてます!」

「で?」

「だから、子供じゃないです!」

「ほら」


 肩をすくめた不破は、げんなりしたように六条を見た。


「不破、お前は先にレンタルハウスへ行って部屋の確認をしてこい」


 これ以上、一緒にいると面倒なことになると、六条は追い払うように、不破に指示を出す。

 

「了解」


 音もなくその場を去っていく不破に、有菊は腹を立てて、結人のほうを見た。


「子供扱いされて、悔しくないの?」


 何をそんなに怒っているのかわからない様子で、結人は首を傾げる。


「いや、本当のことだし」

「だってアナタ、私より年上でしょ?」

「十七歳」

「十七なんて、もういい大人じゃない」

「いや、まだ子供なんで」

「何それ」


 同意を得られなくてひとりで悔しがっていると、六条がすまなそうに声をかけてきた。


「あいつが一番子供だから、許してやってくれないか」

「まったくですよ」


 有菊は、不破の去っていった方向を睨みながら同意する。


「仕事はできるんだが、対人関係に難があってな」

「あれで仕事できるんですか?」

「ああ、成績は優秀だ。だからその辺は安心してほしい」

「……」


 護衛をしてもらう立場なので注文はつけられないが、できればもっと普通にコミュニケーションがとれる人がよかった。なんて口が裂けても言えないので、有菊は六条の「あいつが一番子供」という言葉で、溜飲を下げることにした。


「じゃあ、まずは滞在する家に行こうか」


 三人は頷いて、六条に従ってついていった。

 レンタルハウスは一軒家だった。

 建物の外観は、ここに来るまでに見た土のような素材でできた平屋だった。この辺りでは一般的な住宅なのかもしれない。唯一の違いは、周りがカラフルな壁色なのに対し、シンプルなベージュだということだろう。

 ニホンと同様、玄関で靴を脱ぐようで、脱いだ靴を据え付けのクリーナーボックスに収納する。

 靴専用のクリーナーボックスはニホンでは珍しいので、ついどんな機能があるのか確認してしまう。


「中庭ですか?」


 リアンの声に、有菊は顔を上げる。

 玄関を入った廊下の、正面突き当たりには中庭があり、そこに太陽の光が降り注いでいるのが見えた。

 玄関を入ってすぐ左手にリビングルームがあり、右手にはキッチン。中庭を囲む廊下から、各ゲストルームへアクセスできるようだ。

 ゲストルームは四部屋で、結人とリアンはふたりで一室使うとのことで、奥の少し広めの部屋が割り当てられた。

 残りの三部屋で、どの部屋がいいか聞かれたので、なんとなくリアン達の隣にしてもらった。


「ここでの滞在は長くなるだろうから、必要なものがあれば言ってくれ」


 その言葉に、有菊はエアカーに乗っている間のことを思い出した。




 美玲たちに話を聞かれないために、例のトークルームに入っての会話だったのだが、そこで六条から祖父母の安否について教えられた。


「最新の情報によると、ふたりの生存は確認されているようで、現在は彼らの故郷の国に潜入しているとのことだ」

「故郷の国って、ニジェア共和国?」

「そうだ。この国の北に位置するニジェア共和国だ」

「だったら、すぐに会いに行けるんじゃないんですか?」

「いや、今あそこはテロリストが入り込んでいて、危険な状態が続いている」

「それなら早く助けに行かないと」


 そんな危険な場所にいるなら、すぐにでも救出に向かわなければと、有菊はぎゅっと手を握りしめた。


「それに関して、どうやらアキくんのおじいさん、おばあさんから指示がきているらしいんだ」


 その流れで、なぜかリアンが会話に参加してきた。

 

「有菊ちゃんにおつかいを頼まれて欲しいと、連絡があったんです」

「おつかい?」

「はい。まずこの国、つまりダナメ共和国のトップの人間、もしくはそれに近しい立場の人間とコネクションを作って欲しいそうです」

「え?」


 おつかいとは名ばかりの、ミッションの難易度に有菊は唖然とした。


「恐らくそのコネクションを使って、テロリストに対抗するための支援を求めるのかと」


 リアンは丁寧に説明してくれるが、有菊は首を横に振る。


「そんなの無理よ」

「確かに厳しい注文だな」


 六条はトークルームにそう打ち込むと、腕を組んで少し険しい顔をした。

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