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ナガレメグル、私の物語  作者: 綿貫灯莉
第2章 おつかい
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第22話 疑惑のペット

 有菊の部屋に入ると、網に捕らえたままのペットロボ(メカティア)をテーブル型デバイスの上に優しく置いた。


「この子は喋れるタイプなのかな?」


 有菊は床にぺたんと座り、テーブルに頬杖をつく。

 そして、網の隙間からこちらを見てくる精巧な小動物のロボットを観察する。

 かわいそうだが、また逃げられても困るので解放することはできない。


「どうでしょうか。否定するのに暴れていたところを見ると、もしかしたら言葉は発しないのかもしれません」


 リアンはソファに座って、少し身を乗り出している。


「そうだよね。じゃあイエスかノーで答えられる質問をしていけばいいのかな」

「端末に繋ぐ方法もありますが、今すぐに使えそうな端末はないんですよね」


 安易にこの船のデバイスに接続して、万が一、ウイルスを保有していた場合、船のシステムがクラッシュすることも想定される。そんなことになったら目も当てられない。


 そこでアナログだが、右を「イエス」、左を「ノー」、わからない場合は真ん中から動かないようにと説明した。「これでわかるかな?」と有菊が確認すると、小動物はイエスを指す右へ移動したので、早速対話を開始した。


「この船に飼い主はいる?」


 有菊の質問に対し小動物は網の中を動いて、左の「ノー」に移動する。


「残念。いれば万事解決したのに」


 肩をすくめた有菊は、次の質問を促すようにリアンを見る。


「じゃあ……、ニホンから乗船したんですか?」


 リアンの質問に対しては右に移動する。

 有菊はそれを見て、「イエスかー。この子、やっぱりニホンで紛れ込んじゃったんだ」とヒクヒクさせている小動物の鼻をつついた。


 それからも次々とふたりで質問していった。

 しかし、答えられないことが意外に多く、真ん中にいることも数多くあった。


「どこかには行きたいけれど、飼い主はこの船にいない。できれば私たちに同行したい、と」

「ニホンに戻されるのは困るらしいですね」

「この子は一体何のためのロボットなんだろ? あ、もしかして、私を追っている組織のやつなんじゃない?」


 疑心暗鬼になっている有菊は、ジトっとした目で小動物を見つめる。すると、焦ったように「ノー」を指す左へ移動する。


「そうは言っても、本当のことなんて答えるわけないし」


 引き続き疑いの眼差しを向けているせいで、小動物は困ったように首を傾げる。

 見かねたリアンが間に入ってきた。


「もしそうだとしたら、こんな人前に出てきたりしないですし、そのノーの回答は信用しても良さそうです」

「リアンくんがそういうなら、まあそこは信用しようかな」


 完全に周りを疑っている有菊は、現時点でもっとも信頼できるリアンのいうことに、ひとまず同意することにした。


「でも、同行したいっていっても、私たちがこの子を勝手に船外に連れ出すのは問題ありそうじゃない?」


 その言葉に反応して、小動物は自分も連れていくようにと暴れはじめた。


「いやいや、一応このまま船に置き去りにするつもりはないよ」


 連れていってもらえる確信が持てないのか、忙しく網の中で往復して、脱出を試みようとしはじめた。


「せっかく捕まえたのに、今ここで網を破って逃げられるのは面倒だよね」


 その忙しない様子を見て、有菊はジタバタとしている網を持ち上げ、中を覗き込む。

 リアンもその様子を見て同意する。


「そうですね。網に入れたままですが、ひとまず一緒に行動したほうが安心ですね」


 リアンの言葉を聞いて、小動物はひとまず暴れるのをやめたようだ。網の中で大人しく丸まった。


「では、六条さんに確認しにいきましょうか」

「うん。あ、でもそろそろ出発だよね。先に着替えたいから、五分後に六条さんの部屋の前に集合ね」

「わかりました」


 そうして着替え終わった有菊は、網に入った状態の小動物を抱えて六条の個室へ向かった。

 すでに部屋の前で待っていたリアンと六条を訪ね、ふたりで今回の経緯を話すと、意外にも六条は同行を許可してくれた。


「え? いいんですか? 怪しくないですか?」


 有菊はてっきり置いていくようにと言われると思い込んでいたので、つい言葉を返してしまった。


「多分大丈夫だ。それにこのペットロボ(メカティア)をこの船に引き渡しても、船員たちを困らせるだけになりそうだからな」

「だからって、この船に乗っていたものを勝手に持ち出すなんて……」

「いや、案外持ち込んだのは我々かもしれないんだ」

「え?」


 どうやらこの小動物の姿を見かけるようになったのは、有菊たちが乗り込んだあとからだったらしい。

 それまでは、そんな不審な影などもなかったと、どの船員も答えたという。カメラに映り出したのも有菊たちが乗船したあとかららしい。


「もしかして、私のリュックに入っていたとか?」


 自分では入れた覚えはないが、勝手に入っていたのなら話は別だ。

 祖父母の部屋にはほとんど帰っていなかったので、正直なところ、最初から部屋にいたと言われても、肯定することも否定することもできない。


「その可能性もありそうだな」


 六条とリアンは頷き、有菊は頭を抱えた。


「こんな子があの家にいたなんて知らなかったし、ついてきてるなんて気がつかなかったよ」

「まあ、ロボットは動かないでいることは得意ですし、有菊ちゃんが気がつかなくても仕方ないですよ」

「まあ、旅の道連れとしては可愛くていいんじゃないか」


 ふたりに慰められ、有菊はいじけつつも網の中の小動物に伝える。


「また逃げ出すと困るから、しばらくは網の中にいてもらうからね」


 すると、小動物は小さく頭を了解したように動かした。


 結論が出たところで、そろそろ下船の準備をお願いしますと船員からメッセージが届いた。


 それを受けて、それぞれ自室へ荷物を取りに戻り、食堂へ集まった。先に食堂に到着していた六条は、捕獲した小動物の持ち出しの件や、これまでの同乗の謝意を船員に伝えていた。

 そしてそれが終わると、有菊の前に来て、胸のポケットから小さなカードを取り出す。


「パスポートだ。無くさないように気をつけて持っているように」


 本来、パスポートというのは自分のデバイスに登録して利用するものだが、事情があってそれができない人のために、カード型のパスポートがあると聞いたことがある。


「薄々気づいてましたけど、やっぱり海外なんですね」

「ああ。必要だろうと、事前に用意してあったようだ」


 その祖父母たちの用意周到さの中に、自分への説明も入れて欲しかったと有菊は強く思った。しかし、文句をいう相手は今はいない。

 無くさないようにと、普段から身につけているインナータイプのバックにそれをしまった。そこには細々としたメモリや充電シート、補修用の部品などを入れている。


「ここなら落とさないしすぐに出せるし、いいよね」


 ひとりで納得しながら、有菊はこれからの予定を聞いた。


「これからどこに行くんですか?」

「船を降りたあとは、空港へ向かう」

「もしかして、飛行船に乗るんですか?」

「そうだ」


 海外と聞いて、少しだけ期待していたのだが、やはりこれからの移動は飛行船らしい。

 故郷のエコミュニティにいた時、空を飛ぶ飛行船を見上げては、一度は乗ってみたいと思っていたのだ。しかし、搭乗にはかなりお金がかかると知っていたので、もっと先の話だと思っていた。

 仮想現実(メタバース)内でも乗ることは可能だが、そちらでもまだだったので、本当にこれが初めての飛行船だった。

 嬉しさを噛みしめていると、六条はリアンに向かって微笑みかける。


「その飛行船内で、結人くんとも合流する予定だ」


 それを聞いて、リアンは大きく頷いた。

 ずっと心のどこかで気になっていた結人が、無事に合流してくると聞いて、有菊もホッとした。


「それでは下船をお願いします」


 その言葉に、有菊たちは三日間お世話になった船を降りていったのだった。

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