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ナガレメグル、私の物語  作者: 綿貫灯莉
第2章 おつかい
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第21話 捕まえたのは

 目の前を横切ったはずの小動物は、結局またどこかに隠れてしまった。近辺を探し回ったが、その日は見つけることができなかった。



 そして、翌日も朝食後から捜索をはじめることにした。


「どこかに巣を作ってたりしないのかな?」


 有菊は、食堂の片隅でサポートしてくれているリアンに声をかける。


「探しているんですが、どうも見つからないんですよね」


 その疑問に、リアンは貸し出された端末を巧みに扱い、カメラで映し出された複数の映像を見せてくれた。

 それらは、一瞬だけ白い動物の横切る姿を確認できるが、カメラの前では決して静止しない様子が映されている。


「乗船して間もないからかな?」

「そうかもしれません。フンや足跡、何かを齧った跡など、動物にありそうな痕跡がまだ見当たらないんです」

「そうなんだ」


 小動物の生態の知識は全くないが、それでも痕跡が一切ないというのはおかしい。


「もしかしたらカメラの死角にあるのかもしれませんが、今のところは確認できていません」


 リアンの言葉に有菊は頷く。


「わかった。じゃあ昨日姿を見かけたところを中心に、私も動物の痕跡がないかも探してみるね」


 もしかしたら、巣を発見したほうが捕獲も簡単かもしれないと、気合を入れて食堂を出ていく。


 そうして、二日目の捜索がはじまった。



「なんなのよ! もう!」


 こちらの動きを楽しむように逃げ回る小動物に、有菊はずっと振り回されていた。

 膝に手をついて息を整えると、再び有菊は広い船内を駆け回り、時々視界に入る白い小動物を追いかける。


「有菊ちゃん、その先のブリッジのほうに向かったみたいです」

「了解」


 リアンのガイドの通り進むと、ブリッジの端で鼻をヒクヒクとさせている立ち上がった白いオコジョのような動物が見えた。

 ずっと逃げ回っていたので、その姿をゆっくり見るのはこれが初めてだ。

 細長い体は二十センチくらいで、尻尾もスラリと長い。おもしろいことに体全体が白いのに、尻尾の先だけが黒い。耳は小さく黒いつぶらな瞳はぬいぐるみのように可愛いかった。


「あれ? もしかしてこれって近づくと逃げる?」


 近づこうとして立ち止まった有菊に、リアンの通信が入る。


「今着ているつなぎのポケットに、捕獲用のアイテムが入っているそうです」


 それを聞いて、有菊は左右のポケットに手を突っ込む。

 すると右手の先に何か小さいものがあたった。


「え? あ、これか」

「それを投げると、網が広がって捕まえられると聞いてます」


 ポケットの中に入っていたものを取り出すと、それは黒っぽい手のひらにおさまる塊だった。握ると柔らかい。

 よく見るとスイッチのようなものがある。


「これを押して、投げる、かな?」

「みたいです」

「よし」


 狙いを定めて、投げるために腕をあげる。

 すると、今まであさっての方角を見ていた白い生き物が、今度は有菊のほうをジッと見てきた。


「これって目を合わせたほうがいいのかな? いや合わせないほうがいいのか?」


 あと数歩という距離のところにいるので、どうしても目線を追ってしまう。

 ひとりごとをつぶやきながら、息を詰めてにじりよる。

 するとピクリと白く小さな体を動かした。

 これは逃げられるかもと、焦った有菊は捕獲用アイテムのスイッチを押して叩きつけるように投げた。

 しかし、投げる瞬間にその場からするりと逃げてしまい、床には縄だけが広がって落ちていた。


「む、むずかしい……」

「ドンマイです」


 結局、この日も終日船内を走り回り、二回捕獲チャンスがあったが、結局すべて逃げられて終わった。

 そして、探していた動物の痕跡も、やはり見つけることはできなかった。



 翌朝、六条は食堂で今日のスケジュールを伝えた。


「今日、上陸する。午後にはここを出るので、そのつもりでよろしく頼む」


 ふたりとも私物がほぼ無いので、準備も何もない。

 リアンとも話し合って、午前中いっぱい捕獲に費やすことにした。


「昨日惜しかったので、きっと今日は捕まえられますよ」

「うん。網も投げるコツ掴めてきたから、絶対に捕まえる」


 完全にふたりの娯楽となりつつある捕獲作戦は、最終局を迎えていた。

 リアンがいうには、追っている小動物の動作を分析すると、一定のパターンがあるとのことだ。そのパターンから、もしかしたらあの白いオコジョは生身の動物ではなく、ペット型のロボットの可能性があるらしい。

 それならフンなど見つからないのも納得できる。


「では、作戦通り有菊ちゃんは居住区の通路をゆっくり歩いてください」

「まかせて」


 どうやらこの生き物は人が歩いているのを見ると、それに反応するらしい。歩いている人が何もしないと、後ろをついてきたり、時には追い越したりしてくる。

 しかし、その歩いている人が捕獲の動作をすると、すぐにカメラのついていない死角に逃げ込むため、見つけられない。

 その様は、まるで遊んでいるように見えた。

 リアンと有菊はそれを薄々気がついていたので、この追いかけっこを楽しむことにしていた。


「あ、横切った」

「じゃあ、階段を登って船尾のほうへ歩いてください」

「OK」


 そうして有菊が船尾方面に歩くと、後ろから追いかけてくる。それを振り返らずリアンの指示に従い、さらに素知らぬ顔で前に進む。

 ここで振り返ると、また逃げ出すのがわかっているので、一定のテンポで歩きながら有菊を追わせる。


「今です」


 その言葉に、有菊は走り出す。

 

「ターゲット、走り出しました。三秒後に追いつきます」

「よし」


 心の中で三秒数え終わる直前に、有菊は自分にできる精一杯のジャンプをした。自ら改造したスニーカーの反重量アシスト機能も相まって、かなりの跳躍だ。

 ずっと同じ高さの天井が続いていた先の、ちょうど天井が一段高くなっている場所で飛んだので、小動物の視界から有菊の姿が消える形になった。


「えいっ」


 そして、有菊の視界では姿を現していない廊下の床に向かって、手に握りしめていた網を投げつける。

 すると、追いかける対象を失った小動物が速度を緩めながら走ってきて、投げた網に絡まった。


「確保!」

「すごいです!」


 リアンの少し興奮した賞賛に、有菊は満足げに降り立ち、網にかかった小動物を観察した。


「このまま持っていってもいいのかな?」

「万が一生物だった場合、噛まれると危険ですので、ゲージを持っていきますね」


 船員から預かっていたゲージを持って現れたリアンは、かがみ込んで小動物を観察しはじめた。しばらく色んな角度から見ていたリアンは、持ってきたゲージを床に置いて、網に入った小動物を持ち上げた。


「やっぱり、これはペットロボ(メカティア)ですね」

「なんでわかるの?」

「臭いがしないのと、威嚇行動がないのが不自然です。それに毛が合成繊維ですね」


 そんなことが見た目で判断できるのか謎だけど、確かに噛みついたりはしてこない。


「じゃあ、これは船員の方に引き渡しましょう」


 そうリアンが言うと、精巧な小動物型ロボットは暴れ出した。


「なんだろう? 言葉を理解してるみたいだけど、船員に引き渡すのはダメなのかな?」

「少し話したほうがいいかもしれないですね」

「あと少し時間もあるし、私の部屋で話してみようか」

「そうですね」


 その会話を理解してか、先ほどまで体をうねらせて暴れていたのが嘘のように大人しくなる。

 それを確認したふたりは、有菊の部屋へと向かった。

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