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グランパレス -記憶辿る商人-  作者: イノモトタクマ
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飛行船内部にて

「皆さん!御覧の通り目的地は目の前ですんで、降車の準備をお願いします!」

 準備を促すような運転手の言葉等、一切耳には入っていなかった。それほどまでに私は目の前の光景に魅入っていたのだ。とにかくこの光景を、この先忘れること等できるはずがない素晴らしい光景を、脳裏に焼き付けるように。

 アリアスの入り口、目の前で見るとより巨大な鉄製の門だ。数メートル程離れただけではその全容を視界に収めることは出来ない程。

「トウカ!それじゃ行こうか!ほら準備しなよ!」

「は、はい!ライラさん!」

 ゆっくりと開き始めた扉が地面と擦れ、周辺に金属音が鈍く響いた。扉が完全に開くと同時に私たち乗員は城下町へと進む。町内にはハルジオンとは比べ物にならない程多くの家屋が並んでおり、その多くが道具や衣類などの売っている商店であるようだ。そんな町内の様子に思わず視線が右往左往としてしまう。

「見慣れない物ばかりだ…」

「まあね。アリアスは観光面でも多くの国から注目されているから、この辺りは商店街として観光客の注目を引いているんだよ。後でまた見に来るといいよ」

 自分達の荷物を抱えながら城下町の道を進む。まず私たちが目指すのはグランパレス船内にある"ギルド"と呼ばれる施設だ。まずはここで居住許可証を提出して、船内に生活環境を整える為の手続きをする。船内で商店や飲食店を構えるにはギルドにいる職員を通じる必要がある。更には船内にいる住人や、様々な国からの道具や鉱石等の納品依頼、つまりグランパレスを通しての国や個人での取引を行うことが出来るようだ。

「様々な場所から技術を目で見て盗んでいかないと、追いついていけないってことか……気になる場所は覚えておかないとっ!」

「お、そうそう!分かって来たね」

 そんな他愛のない話しをしてしばらくすると、目的地であるグランパレスの乗船口へとたどり着く。国の外から見た時でさえあんなにも壮大に見えたこのというのに、実際に目の前にしたら"圧巻"の一言だ。一つの国としても機能しているという言葉も自然と頷いてしまう程に。グランパレスを目の前に気圧されている私の背中を文字通り押してくれたのはライラだった。

「ほらほら胸張って!一歩踏み出せば私たちはここの住人だよ!」

 彼女の言葉に私は一呼吸置いた後、力強く、確かな一歩を踏み出した。船内の様子を一通り見渡した私は目を丸くしてしまう。金属と木材で構築された力強さを感じる外見とは裏腹に、船内はきらびやかに装飾されている。要所要所にあるソファーに使われている布は見るからに高級なものであり、確かめるまでも無くふわふわとした感触が想像できる。さらには床から、上に続く階段にまで敷き詰められた蒼色の絨毯は一歩一歩、歩を進めても草臥れる様子も無い。……本当に土足で踏んでいいのかこれ。

「ギルドは一つの上の階にあるらしい。早く行こう!」

「は、はい!」

 その様子に高揚しているのは私だけではないようで、先ほどまであんなにも心強く私に付き添ってくれていたライラも、一回り、いや二回りほど年齢が若返ったようにウキウキとした様子で船内をかけている。彼女が心の底から楽しんでいるのは当人の腰回りから生えているモフモフとした尻尾が常に左右に揺れていることからも容易に想像できるだろう。……あれ?

「ん?尻尾?……尻尾!?」


 入り口から歩いて数分、ここがギルドと呼ばれる施設なのだろう。ひと際広いこの部屋の中央には地球儀のようなものが浮遊しており、その更に奥の方にはギルドの職員と思われる者が数名カウンター越に座っている。

「すみません。私たち、こういう者なんですが……」

 私はカウンター中央に座っている女性に話しかけ、それぞれ持っていた居住許可証を荷物から取り出す。

「はい!新たにグランパレスの住人として旅する方々ですね!お待ちしておりました!ではお二人がこれから身を置く場所を案内させていただくとともに、飛行船全体の説明をいたします!」

 そういわれるがまま、私たちはその職員の後をついていく。


「まずはこちらが一階エントランスとなります!お二人も最初に通ったこの場所はグランパレスの停泊先の方も多く利用されますので、常に綺麗に保つようお願いいたします」

 なるほど、どおりでやけに装飾されていたわけだ。


「こちらが地下一階、居住エリアとなります!ここは三つのエリアに分かれていて、現在それぞれ約500人ほどが生活をしている状況となっております」

 500人!?そこまでいたら確かに国だ……しかも窮屈な訳でもなさそうだし、しっかりとパーソナルスペースが分けられている


「こちらが地下二階、主に船を動かす為の中枢的な部分になりますので、多くの方は立ち入り禁止となっていますので、ご注意ください」

 なるほど、ここにオーパーツとやらが眠っているのかな……


「こちらが二階になります!ここは私たちを初め、職員が身を置くエリアであるとともに、多くの住人同士のコミュニケーションの場としても利用いただいています」

 フゥ……地下の案内が大分長かったからかな、ちょっと疲れが……


「こちらが三階、主に商人の方が店を持ち販売、取引をする場となります。こちらも3つのエリアに分かれており、現在は合計300人ほどがいますね。お二人はこちらに身を置く形になるかなと思います」

 なる……ほど……。ち、ちょっと休憩にしまs……


「こちらが四階、屋上になります!ここから見る世界の景色は素晴らしいですよ!是非見に来てくださいね!そして屋上の後方部分にあるのが、多くの資源を蓄える倉庫となります!あれが無くなったら大変なことになっちゃいますね!」

 あの……ハァ、休憩……ゴㇹゴㇹッ!


 職員によるグランパレス全体の案内が終わる頃、外はすっかり日が落ちている。普段ここまでノンストップで体を動かすことが無いからか、体全体が危険信号を上げこの場にあるできるだけの酸素を取り込もうと必死になっている。そんな情けない様子に比べ、ライラはというと顔色を一切変えないどころか、部屋の前にまで私の大きな荷物を担いでくれている。

「ライラさ……ありがとうございます」

「いいのいいの!てか本当にダイジョブ?」

 息を整えながら、返事をする変わりに首を盾に振った。そんな様子はむしろ心配を加速させたのだろう。ライラは私の息が整うまで背中をさすってくれた。しばらくして落ち着いた頃、彼女にずっと気になっていたことを聞くことにした。ギルドに向かってからはそんな暇等無かったからだ。

「あ、あの、ライラさん。ずっと気になっていたんですが、その腰から生えている尻尾?って」

「ん?ああ言ってなかったっけ?私、獣人なんだ」

 彼女はそういうと髪を耳にかけた。その耳は私たちとは違い、黒い毛に覆われている。まさしく狼のような耳だった。獣人、聞いたことがある。一部の動物たちが人間と同じように進化をした存在であると。

「私だけじゃないぞ。獣人族、機械生命体。そんなやつらがここには沢山乗っているみたいだ。いちいち驚いてたらキリがないぞ~」

 まったく、ここにきてからワクワクが止まらない。小さく手を振りながら自分の部屋へと向かうライラの後ろ姿に小さく会釈をすると高揚感に身震いする体を落ち着かせ、新たに暮らすこととなる自分の部屋へと向かうのだった。

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