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グランパレス -記憶辿る商人-  作者: イノモトタクマ
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目指すは探求心滾る飛行船

 再びドアノブに手をかけ、勢いよく街へと飛び出す。先日までの恩人への感謝の心と自身の内に秘めた気持ちの間で揺れていた私のちっぽけな心は、濁りの無い清々しい物へと変わっていた。

「なんかいつも以上に街からの景色が綺麗に感じるな」

 見慣れた風景を足早に駆けていくと多くの人々が使う街の正門が見えてくる。

「お!あれがアリアスに進む為の移動手段"蒸気機関自動車"ってやつ!?」

 正門には複数人の乗客が乗っている見慣れない構造をした乗り物が停まっている。

 蒸気機関式自動車。スチームエンジンと呼ばれる特殊な機構によって貯蔵された水を沸騰させ発生した蒸気によって車輪を動かす自動車。この時代では一般的に使用されている移動手段だ。一昔前まで主流だった馬車に比べて乗り心地もスピードも段違いなようだ。

「すみません。私も乗ります」

「はいよ~、ってトウカちゃんか!おいでおいで!ミラちゃんから話しは聞いてるよ」

 乗車してしばらくすると、自動車が走り始めた。車内には私と同じように複数の商人が乗っていることが確認できる。それぞれ大きな荷物を足元や荷台に置いていたようだったけど、後で商品を見せてくれたりするだろうか。……やはり初めて、しかも一人での旅だ。先ほどまでの曇りのない心の中に不安という名の疑念が滲む。自動者が進むごとに10年という時を過ごした街が小さくなっていくたびに深く、より広くそんな気持ちが滲んでいくようだ。

「やっぱり見慣れた街を離れるのは不安?」

「え?あ、あはは。そうですね。やっぱりちょっと不安になっちゃいますね」

 そう話しかけてくれたのは右隣に座っている女性だった。大柄な体系に黒く短い髪。他の座席に座っている男性と比べても目立っている隆起した筋肉と、一見その風貌は人を寄せ付けないように感じるものの私に目線を合わせ問いかける彼女はミラ同様暖かさと優しさに溢れている。

「私は"ライラ"って言うんだ。短い時間だけどよろしく」

「あ、私はトウカって言います。よろしくお願いしますライラさん」

 彼女の名前はライラというらしい。私と同じくアリアスを目指し、ハルジオンの街に居たこと。歳の離れた兄弟が二人いること。そして何より、私と同じようにグランパレスへの居住権利を持っていること。

「なるほどね。初めての旅、それに一人ってのを考えると不安になっちゃうのも仕方ないか」

「はい。ついさっきまではこれから始まる冒険にワクワクしていたハズなのに、離れていく街を見るとなんだか心細くなっちゃって」

 初対面であり、顔を合わせてから間もない彼女に対し自分の気持ちを打ち明けることが出来るのは彼女が発するどこか心地の良い空気が関係しているのだろう。彼女がの暮していた兄弟たちはきっと幸せだったに違いない。

「そうだね……じゃあそんな不安よりもこれから訪れる楽しみなこと、それから商人としてグランパレスに乗るんだったら、色々なところから技術を盗んでいくことも大事なんじゃないか?何が自分の商売に繋がる要因になるかは分からないんだから」

「な、なるほど……!」

 どうやら彼女は人格だけでなく彼女自身を形成する経験も豊富なようだった。ミラという恩人から託された言葉、私が世界に求める浪漫。心の底にたまっていた不安は、徐々に高揚感へと変わっていく。

「そう、ですね!ありがとうございます!」

「いいのいいの。グランパレスの住人同士でしょう?私はね、船内でレストランを開店するつもりなんだ。機会があったら是非来てよ」

 それからしばらくライラとの談笑を楽しみながら、目的地アリアスへの道を進んでいく。不安や寂しさといった気持ちが晴れると、自然に辺りの情景が見えてくるというもので、広大な自然や肌を撫でる心地の良い風を感じる……ハルジオンの外は、世界はこんなにも綺麗なんだと思う。全能感というか私が世界の中心に居るようだった。

「それに、何が自分の商売に繋がるかは分からないか……あっ!そういえばこの車って蒸気以外に何かエンジンに組み込まれていたりするのかな」

 自身を含め6人程、これだけの人数を乗せて走る自動車。ハルジオンを出てから数時間経っても走り続けるこの機会の構造はどうなっているのだろうか、他に何か車輪を動かす為のエネルギー源となっているものがあるのだろうか?そんな疑問が浮かぶと気になって仕方が無い。そんな私の様子に気付いたのか運転主がこちらに顔を向ける。

「ん?いやいやエネルギー源は水だけだよ!原油や上質な石炭なんかは少量しか取れないからね、一部の富裕層なんかはよく使うらしいけど、やっぱり今は蒸気機関が多くを占めているよ」

「ということは、エンジン自体の構造に何か秘密があるのかな……」

 そんなことを考えているとライラが興奮した様子で鼻息を荒げながら私の肩をゆする。そんな彼女の行動に驚愕するも、そんな私の様子を気に掛けること無く、彼女はまくしたてるように話すのだった。

「トウカ!ほら、あれ!」

 彼女は自動車から身を乗り出し進行方向を指差す。私はライラがここまで興奮している理由をすぐに知ることになる。彼女が指をさしたその先にあるのは、幾つにもそびえたつ巨大な施設、その頂点から空に向かって流れ続ける真っ白な蒸気。そしてその中心にある城……だろうか、きらびやかに装飾されたひと際目立つ建物。そんな物よりも何よりすぐに目に入ったのは空を覆う巨大な飛行船だった。そんな圧巻の光景に私は息を呑む。

「あれが私たちの目的地、大国アリアス!そしてその上に鎮座するのが飛行貿易船グランパレスだ!」

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