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グランパレス -記憶辿る商人-  作者: イノモトタクマ
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巨大飛行貿易船グランパレス

「まずは窓を開けて、お客さんを呼びこまないとね。」

 私が借りているこの家は家の側面に大きな窓がついており、そこが直接お客さんと取引をする窓口となっている。

「やっぱりここから見えるハルジオンの海は綺麗だなー!」

 商人の街、"ハルジオン"。

 とある大陸の海に面する小さなこの街は近隣に大きな国がいくつかある為か、多くの商人が居住している。私は街の周辺にある森で、この家の持ち主である「ミラ」という女性に拾われた。その時に私が手に握っていた小さな紙きれに、私が生まれた日、そして私の名前が刻まれていたみたいだ。私が持っているペンダントもその時からこの首にかけられていたようだった。それ以前の記憶について知りたくないのかと聞かれれば……知りたいと思う。夢に出てきた老人は?このペンダントは誰から?そんな疑念は日に日に私の中で大きくなっている。

「あ、トウカちゃん!おはよう!」

「ミラさん!おはようございます!」

 窓を開けると、同じように潮風に当てられていたのか同じ家屋の二階から育ての親であるミラが顔を覗かせている。彼女の一つに纏められた白く美しい髪と、新緑の宝石のような瞳を見ると同じ女である私でさえも頬を緩めてしまう。可愛い。

「そろそろ開店しちゃいますね!」

 私は彼女への恩返しとして、自身の手で造った道具や装飾品をここで旅人や他の住人に販売して、売り上げのほとんどを彼女に渡している。どこの誰とも知らない子どもだった私をここまで育ててくれているんだ。私の記憶なんかよりも、彼女が出来るだけ楽をできるようにする。それが今、私がするべきことなのだ。

「あんまり無理しないでね。……そうだ!トウカちゃん、そろそろここで暮して10年でしょう?トウカちゃんにはいつも頑張ってもらっているから、あとでちょっと恩返しさせて!」

 そんなことなんて気にしなくてもいいのに。そんな言葉がのど元にまで出かかったが、彼女の気遣いを無下にするわけのも失礼だろう。彼女に一言だけお礼を伝え、自身の店の開店準備を進める。


「よし!準備おっけい!」

 店頭に商品を幾つか並べて、客を待つ。この時間はとにかく待つことしか出来ない。商品という餌をぶら下げて、顧客という魚を待つ。釣りのようなものだ。待つ時間というのは退屈で仕方がないものの……

「お?これ売り物?すごい綺麗だね」

 獲物がかかった瞬間の高揚感はたまらない!

「その通り!とある動物の体内で造られた結晶を削りだした物で…」

 幸いこの家の立地は良い。というのもこの街、さらにこの家が面している通りには近隣の大国「アリアス」への中継場所として多くの人物が通る為、一度商品に興味を持つものが居れば、そこからは入れ食い状態だ。

「そこのお兄さん!お姉さんも!見ていってください!」

 私が持つ、所謂"モノづくり"の技術は何年もの積み重ねによって相当な技術になっているようだ。そんなことを思っていると、とある商人が口にした言葉が私の耳に入った。

「若いのに高い技術力を持っているな。"グランパレス"にいる商人ともいい勝負だ。」

「グランパレス……?」

 どこか聞き覚えのあるようなその言葉に思わず商品を売る手が止まってしまった。

「ん?お嬢さんのような若い人は知らなくても無理はないが、商人ならば知っておいて損は無いぞ」

 巨大飛行貿易船"グランパレス"

 世界中の海を渡り、複数の大陸同士を繋げるこの船は一つの国としても機能している。船内には多種多様な種族が在住しており、ある者は人類未踏の地を目指す冒険家として、ある者は自らの見聞を広める為に、それぞれが思惑を抱えている。

「そんなものが……」

「そう。そんな船に乗れる商人は数が限られている分、高い技術力を求められる。しかしグランパレスを拠点にすることが出来れば、各大陸特有の素材を自らの力で得ることが出来る上、種族を超えた者達を顧客にすることが出来る訳だ」

 確かに、わざわざ各国から商品を造る為の素材を輸入するよりも、貿易船として空を渡るグランパレスを拠点とするメリットはありそう。だけど……

「それでもわざわざ船に乗船する人は居るの?貿易船という以上、船が着いた先でわざわざ新しいお客さんを獲得しなきゃいけない訳でしょ?それなら私みたく、一つの街に留まった方が…」

 そんな疑問を商人に投げかけるも、本人は小さく笑いながら首を振った。なんだかなめられているで少し頭にきたが、次に彼が話した内容はそんな気持ち等、すぐに心から消え去った。変わりに私の心を支配したのは"浪漫"だった。

「勿論それだけじゃない。彼らが求めるのはこれよりずっと前の時代の産物。"オーパーツ"だ。オーパーツを手にしたある者は莫大な富を……またある者は名声を……この世界のどこかに散りばめられたそれらは、ありとあらゆる者たちを魅了する」

「オーパーツ……そんな物が?」

 彼もそんな遺物に浪漫を求める人物の一人なのだろう。彼は話しを続ける最中にも興奮からか、息を荒げ、鼓動が早くなっていくようだった。

「何でも、グランパレスの動力源もオーパーツが元になっているという噂がある。私たちが今、この時代に生きている以上、この心を動かし続ける浪漫を追い求めずなにになる?私は数日後、アリアスに停泊するというグランパレスを目指してここに来た訳だ」

 オーパーツと呼ばれる遺物。そんな身も蓋もない話しは、そんな物を追い求めてどうするのかと一蹴することもできるだろう。それでも、私は、心惹かれていた。今あるどんな宝よりも価値のある物が過去の時代に?それはどんな構造物なのか?私も商人であり、モノづくりを生業にしている人間だ。興味を持たずしてどうする?

「そんなオーパーツの中でもひと際価値があるとされている物がある。その名も大地の記憶(テラ・メモリア)。万物の記憶が記されているという書物だ」

「万物の記憶……?」

 この時、この瞬間、心の奥底に眠る赤くさび付いた記憶が小さく音を上げて目を覚まし始めた。

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