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不人気ダンジョンと『理不尽』

「この巾着袋がか……もしかしてブラックジャックか?」


 なんとも渋い得物を選んだと思ったが、鎖分銅使いの俺がいうのも何かちがうか。


「そんなわけなじゃん。中身だよ」

「中身?」


 はて何だろう、と思い開けてみれば、そこに入っていたのは何やら黒いラインの模様が入った石ころが、少なく見積もっても30は入っていた。


「これは?」

「近所に落ちてた石と、ゴブリンの魔石を錬成して作った手榴弾」

「まさかの危険物!」


 なんつーもん作ってんだよこの小娘!?


「普通に触ってたら爆発はしないよ。ただ時速60㎞以上で投げてぶつかると爆発するようにはなってるけど」

「……それ、お前が投げて爆発するのか?」

「大丈夫!!お父さんに色々教わってるから!!」


 不安しかなくて前の二人に視線を向けてみると、


「えっと、カメリアちゃんのお父さん、現役の冒険者自衛官なので」

「実際カメリアはお父さんから格闘技とか色々教わってますね。お父さんもお父さんで無類の格闘技好きで、趣味で幾つもの格闘技をマスターしてるそうですよ。最近はCQCだっけ?」

「それは近接格闘の総称だよ~。でもアタシが習ってるのは自衛隊式の格闘術とジークンドー、足技のためのサバットだけだよ」

「それはそれで充分だと思うが……でもだったら、そのお父さんに指導を頼めば良かったんじゃないか?」


 むしろ指導者としては俺以上の適任者なのではと思うのだが、


「今お父さん、配属先が富士駐屯地なんだよ?できると思う?」

「あー、そりゃ無理だな」


 片道約5時間かけては流石に無理があるし、何より冒険者自衛官は現在は大規模ダンジョンの一つ、富士山地下ダンジョンの攻略に忙しいと聞く。娘がヤバいスキルを手にしてしまったからと言って、簡単に動き回るのは不可能だ。


「ところで唯愛と茅音のご両親は今は何を?唯愛の場合はどっちかが社長をやってるんだとは思うけど」

「はい、パパが社長をやってます。お母さんは料理研究家で本も出してます」

「うちはごくごく普通のサラリーマン夫婦よ。あんまりダンジョンに良い感情は無いみたいだけど」

「なるほど、うん。とりあえず聞くことは一先ずこれで全部かな」


 俺はそう言って立ち上がると少しだけ肩を回す。


「三人とも、動きやすい服装に着替えて道場に集合な」

「な、何かやるんですか?」

「ん?まぁ今日の訓練かな、武器は要らないからそのつもりでな」


 それだけ言って部屋を出ると、待機していた麻賀さんにあることを頼む。


「すみません、訓練をやるんで準備して欲しいものがあるんですが」


 そして俺が伝えた内容に彼女は疑問に思ったが、すぐに理由に納得して準備に向かった。


「さて、三人はどこまでやれるのやら」


 そう思いながら道場に向かえば、そこには道着を着て座禅を組む会長の姿があった。


「む、もうこっちに来たのかね波見君」

「ええ、早速訓練をと思いまして……瞑想中でしたか?」

「ふむ、年寄になってからというもの、心を無にするのが昔と比べて難しくなりましてな。たまにこうして座禅の真似事をしとるのです」

「今の方が……ですか?」


 逆じゃないかと思ったものだが、どうやら会長にとっては違うらしい。


「若い頃は若い頃で難しいでしょうが、年老いてからはそれとは別の意味で難しくなるものよ」

「そういうもの……なんですね」

「そういうものじゃな」


 そんな会話をしていると、足音を立てて三人が道場へと入ってきた。その姿はダンジョンで着ていた防具に、プロテクターを外した状態という簡素なものだ。


「着替えましたけど……あ、お爺ちゃん!!」

「フォッフォ、どうやら年寄は邪魔になりそうですから、席を外させて貰いましょうかの」

「あ、いえ。むしろ会長にいて貰った方があとあと助かるので、そのままでお願いします」


 不思議そうにする会長を他所に、入り口から重たいなにかが複数置かれる音が聞こえた。


「お待たせしました、これで良いですか?」


 頼んでいたものを運んできてくれた麻賀さんは軽く肩を回しているが、頼んだ内容を知ってる身からすれば、それを一人で持ってきた事に苦笑いしか出なかった。


「随分と早かったですね……もしかして予想してました?」

「いえ、ですが似たような訓練は私たちもやりますから、それをお嬢様たち用に移し変えれば良かっただけなので」


 俺が頼んだもの、それは冒険者用の大型バックパックだった。


「それじゃ3人とも、まずはこれを各自背負ってくれ」


 俺の指示に元気良く返事する彼女たちだが、その元気は一瞬で驚きに変わった。


「え、うそ」

「お、重たい……」

「せ、背負ってるだけで一苦労だよ~」


 そう三人が悲鳴をあげるのも無理はない。何故なら約15kg近い重りが、バックパックのなかには仕込まれているからだ。


「これは一般的な新米冒険者が、ダンジョン帰りに持ち歩くバックパックのだいたい平均的な重さだ。これに防具用のプロテクターやそれぞれの武器が腰や体についてくるが、それはまぁ今は関係ないから置いておく」


 実際はこれ以上に重たくなることも珍しくないし、冒険者の筋力ならばこれぐらいは余裕で持てるものが多い。


「えっと、つまりどういうことでしょうか?」

「今回の訓練は単純明快、それを背負った状態で、かつ不慮によって武器がない状態でモンスターと出くわしたという想定で、三人には俺に格闘戦を挑んで貰う」

「「「格闘戦!?」」」


 いきなりそんなことを言われて吃驚するだろうが、最初にこれを選んだのには理由がある。


「ダンジョンってのは本当に何があるか分からない場所だ。例えばレアモンスターと戦って勝ったはいいが武器も防具もぼろぼろで地上に戻らなきゃならないなんてこともあるし、戦いの途中で運悪く武器が壊れるかもしれない。そんなときに迫られる判断は二つ、素手で戦うか、戦闘を避けて逃げるかだ」


 実際、これの判断を間違ったせいで死んだ冒険者は少なくない。1つの判断ミスが、結果として払う代償は基本的に自分と仲間の命、ゆえに、


「『冒険者は常に臆病であれ』、冒険者は常に英雄願望が強い連中ばかりが集まる場所だからこそ、その場の熱気や雰囲気に飲まれず、常に冷静に、かつリスクに臆病であることこそ、長く冒険者をやっていくには重要なことだ」


 もっとも、これは俺としても受け売りの言葉だが、個人的には俺の信念とも呼べるものでもある。


「そういうわけで、今回は仮に戦うことを選んだ場合の想定で、三人は俺と戦ってもらう」

「それは分かりましたけど、師匠は背負わないんですか?」

「俺はモンスター想定だから背負わんぞ。そしてついでにこれも使う」


 そう言って空間収納から取り出したのは、コボルドが良く使う直剣……と、ほぼ同じ大きさと重さの木剣だった。


「『福島』だと手斧のコボルドやライカンが主流だが、全体的には剣を使うモンスターは多いからな。剣の間合いも知る訓練も同時に行う」

「ず、ずるい!!それじゃアタシ達の勝ち目ないじゃん!!」

「……無礼るなよ小娘」


 自分でも退くぐらいの低い声で、かつ殺気を全開でそう呟くと、その迫力のせいか三人とも怯えるような表情でこっちを見た。


「勝ち目がない?当たり前だ。これからの訓練、暫くの間の三人への課題は『理不尽への慣れ』だ」

「な、なにそれ……」

「これは警察学校や防衛大でもそうだが、最初の一月から数ヵ月は新人は理不尽を強制させられる。なんでか分かるか?理不尽を知らなければ理不尽に対処できないからだ」


 人間ってのは慣れの生き物だと誰かが言った。事実人は何かを知り、学ぶことでそれに対する解決策を慣れという形で解決する生き物だからだ。


「だが俺は警察学校や防衛大と違う。はっきり言って俺は師匠としては素人、パーティだって殆ど組んだことの無い俺が、三人パーティを組むお前らに教えてやれることは存外少ない。だが、冒険者としての修羅場を越えた数は山程ある。だからこそ俺は訓練メニューの意図を話した、その意図を確りと理解してもらうためだ」

「理解……」


 唯愛の呟くような一言に俺はそうだ、と答える。


「俺が言う理不尽は、基本的にダンジョン内で起こりうる可能性のあるものしか言わない。どこかの不良漫画みたいに、どっかでタバコとか焼きそばパン買ってこいみたいなことは言わない。が、ダンジョンで起こる可能性がほんの少しでもあるのものなら、その全てをお前達に教えるし、それへの対処法も教える」


 だからこそ、だからこそだ。


「お前達はこの期間で理不尽の可能性を学べ。そして理不尽を知れば知るほど、土壇場の理不尽な場面でそれが必ず生きてくる」

「……ッ」

「具体的に言おう、夏休み直前までは『理不尽』の期間だ。そして成長と武器の扱い方次第ではあるが……夏休みにダンジョンでの実践を行うつもりだ」


 その一言で三人の表情がガラリと変わった。やはり小学生というか、目標があるだけで意識が変わるのが子供という生き物だ。


「さて、それじゃ最初の理不尽な訓練の開始だ」

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