不人気ダンジョンと顔合わせ
会長との会談から数日後の土曜日、俺はまた会長のお宅へとやってきていた。
「すみません、態々また送ってもらって」
「いえ、お嬢様のお師匠となる御方ですからね。これぐらいはさせて貰います」
前回のようにセダンに乗せて貰ってやってきたわけだが、その運転手兼案内役をしてくれた黒服の女性……麻賀さんはにこやかに笑って答えてくれた。
「それで波見さん、今日が最初の訓練との事ですが、どういう感じにするおつもりで?」
「まぁ自己紹介のあとに、それぞれのスキルを確認したうえで判断ですかね」
会長と話し合った結果、基本的に俺が師匠として活動するのは火曜日と木曜日の三人の放課後数時間と、土日の午前もしくは午後、または丸一日使ってやるということにした。平日は三人が学校だったり俺が普段と同様にダンジョンに潜ったりしなければならないし、三人のメニューを考える為にはできる限り時間に余裕が欲しいからだ。
「しかし、前回も思いましたがこのお屋敷かなり広いですよね」
「ふふ、会長は先祖代々の大地主の一族でいらしてましたし、剣術の師範代でもいらっしゃいますからね。お屋敷の中には剣術用の道場もありますので、そういった鍛練もできますよ」
「そいつはありがたいですね」
俺が考えてるプランでは、そういったことができる場所があるだけで大分変わるからな。
「っと、こちらの部屋ですね」
そう言って麻賀さんに案内された部屋は前回とは違う場所で、襖を開くとそこにはあのときの三人娘が行儀良く正座して座っていた。
「お久しぶりです」
「その節はありがとうございました」
「これからの指導、よろしくお願いね~おじさん」
左端から会長のお孫さん、眼鏡っ娘、眠そうな目をした娘がそれぞれお礼を言ってくることに、少し嬉しくは思う。思うが少し待て、
「オイコラ、一応言っておくが俺はまだ21だからな?せめておじさんは止めろな」
「え、そんなに若かったの?」
「遠回しな老け顔アピールやめろや」
前回といい失礼なことを宣う奴に軽く鉄拳制裁しておき、改めて対面するように胡座をかいて座った。
「さて、前回は名乗ってなかったから自己紹介といこうか。俺は波見 結弦、冒険者ランクは一応銅級の三等冒険者だ。君達の師匠役として雇われたわけだが、まぁ一年間よろしく頼む」
俺がそう言うと、三人とも姿勢を正してよろしくお願いします、と返した。
「とりあえず簡単な自己紹介と、スキルについて教えて貰いたいんだが……とりあえず俺から見て左側から頼む」
すると会長の孫娘は驚いたような表情を一瞬浮かべるが、すぐにもとに戻して答え始める。
「あ、はい。佐久美 唯愛です。お爺ちゃんからお話は伺ってると思いますけど、スキルは『模倣』、触れた相手のスキルを任意で自分の物にできるスキルです」
「柊 茅音です。スキルは『武芸百般』と『最適化』です」
「星住カメリアだよ。フィリピン系のクォーターで、スキルは『錬成術』だね~」
それぞれの自己紹介を聞いてなるほど、たしかにこれは厄介なスキルばかりだと思うのも当然だと納得した。
「色々と言いたいことはまぁあるが、とりあえずそこは置いておくとして、だ。三人のスキルについてそれぞれ質問するから詳しく答えてくれ。まず唯愛」
「は、はい!!」
「触れた相手のスキルを自分で使えるらしいが、何かしら制約があったりするか?それとも何かしらの欠点があったりするのか聞かせてくれ」
その質問に、彼女はおどおどとしながら答える。
「えっと、制約って言えば良いのか分からないですけど、同じ相手のスキルは1つまでしか模倣できない……と思います」
「その根拠は?」
「茅音ちゃんのスキルをお願いしてコピーしてみたんですけど、そのとき片方のスキルはコピーできたんですけど、もう片方はコピーできませんでした」
「あぁ……早速やらかしてたか」
まぁこればかりはしょうがないとは思う。自分のスキルを知るのは誰でも通る基本だからだ。
「あ、けどコピーしたのは消したいって思えば消去できるんです。そうすれば、同じ人のスキルを取り直すことができます」
「なるほど……ちなみにコピーしたスキルはコピー元の人間と同じように使えるのか?」
「えっと……今はまだ無理かなっと思います。結弦師匠の空間収納がどれぐらい入るかは分かりませんけど、体感だと二段ベットのベット1つ分の要領ぐらいまでしかできませんでした」
「コピーはできるが現状出力不足、と。一応言っておくが、空間収納はあとで消しとけよ。こう言ったらなんだが、それも結構な数が居るとはいえ貴重なスキルなことには変わりないんだからな」
空間収納のような異次元にものを収納できるスキル持ちは、色々と犯罪に悪用できてしまうために、獲得したらダンジョン協会に申告することが義務付けられており、同時に冒険者の証であるステータスプレートと呼ばれる道具を常に携帯しなければならず、それを破れば下手すれば犯罪者として捕まることもある。車の免許証と似たようなものだ。
「ちなみに聞くが、コピーしたスキルはステータスプレートに映るのか?」
「えっと、映らないですけど、頭のなかにどんなスキルがあるのかがすぐ分かるんです」
「なるほど、その事はくれぐれも誰にも言うな。この場に居る他の奴らもだ……下手するとそれで得たスキルによっては暗殺される危険性もあるからな」
その一言に恐怖したのか、三人とも顔を青くしながらものすごい勢いで頭を縦に降っていた。
「よろしい。で、次だが……茅根のスキルは初期でそれなのか?」
「はい。珍しいですよね、二重技能持ちは」
「そうだな。普通最初に得られるスキルはランダムで1つってのが殆どだからな」
この娘のような二重技能持ちは、良くいえば運が良かったとなるが、逆にいえば、成長の方向性が決まってしまってるとも言える。
二重技能は文字通り、最初の魔石で得られるスキルが二つだった事を指す言葉だ。基本、それで得られる1つのスキルは完全にランダムで、それ次第で冒険者や技術者としてどう成長するかの指針になる。
が、二重技能持ちの場合、2つのスキルが相互作用する関係になっていることが殆どだ。茅根の場合、『武芸百般』と『最適化』……トップ層の冒険者に『武芸百般』と似たようなスキルを持っている人間を聞いたことはあるが、それと同じだとするのなら、つまりどんな武器を始めて使っても最適な動きができるという感じだろう。
「武器というが何でも大丈夫なのか?」
「はい。配布された短剣は勿論、唯愛のおじいさんにお願いして借りた槍や弓は勿論、草刈鎌やスコップ、フォークやステーキナイフでも自由自在になんでも武器として使えました」
「……念のために確認しておくが、銃は撃ったことないよな?」
俺の真剣な問いに茅根は当たり前ですと、強い口調で答える。冒険者が銃を持つことは規制されてない……というと嘘になるが、特殊な機能が付与された物のみ、限定的に許可されている。
当然値段が張るうえに、そもそもモンスター相手に銃が有効打になること事態が希なので、使う人間もかなり少ないが、それでもあれば助かるアイテムの1つにはなっている。
「分かってる。だが確認として聞くが、今この場で銃を渡されたとして、すぐに使いこなせたり、メンテナンスができたりはできると思うか?」
「……多分射つだけならできると思います。けど、実際にモンスターに当てられるかは分かんないです」
「それならそれで構わない。が、多分この中で将来的に銃を使うことになるのは、恐らく君だ。その事だけは頭の片隅のどこかに置いておいてくれ」
分かりましたと答えるその眼鏡の奥には、何とも言えない恐怖の色があった。当然だ、冒険者が使う特殊銃とはいえ、下手をすれば友達を射ってしまうかもしれないものを、将来的に使うかもしれないと言われれば怖くなったって仕方ない。
「じゃあ最後にカメリア……『錬成術』といっていたが、もしかしなくてもあの『錬成術』で良いのか?」
「そうだよ。冒険者関連の技術者の垂涎のスキルの1つ、好きなものと魔石を組み合わせることで色んなものを作り出せる、それがこのスキルだよ」
「だろうな。そして同時に、出たら冒険者としては大成しないといわれてるスキルでもある」
この一言に、カメリアは驚いてはいなかった。いや、正確には分かっていたが本当にそうなんだと諦めたような雰囲気は出ていた。
「……知ってたんだな」
「まぁお父さんから聞いてたからね~。スキル持ちで『錬成術』が出た人で、攻撃的なスキルを獲得した人は殆どいないって」
「あぁ、他の強力な魔石を食べたとしても大概が『錬成術』の派生である『薬液』・『合金』・『錬金』の作成スキルのいずれかが大半で、それも『錬成術』に比べたら汎用性が低いから、『錬成術』使いでそれ以上にスキルを取らない奴も居るくらいだしな」
だが逆に言えば、そのスキルだけで巨万の富を得ることもできる。冒険者としては大はずれだが、技術者としては大当たり、それが『錬成術』だ。
「正直聞くが、本当に冒険者になるのか?はっきり言って、茨の道なんてものじゃないぞ」
「なるよ。その方が面白そうだし」
軽口を、とも思ったがその眠そうな眼の奥にはどこか真剣さの見える光があった。
「……わかった。それなら文句はないが、実際どう戦うつもりだ?少なくとも『錬成術』使いで戦闘に出てる奴を見たことがないから、こればっかりは何ともいえん」
「うん、だからこれ」
そう言うとどこから取り出したのか、何やら色々なものが入った小さな巾着袋をテーブルの前に置いた。
「これがアタシの武器だよ」




