弟子達と学ぶべきこと
「はぁ……!!」
お夕飯を頂いたあと、私は地下の訓練場で一人、自分の武器となった鞭を片手に師匠から教わった技の練習をしていた。
「……やっぱり、あの人の技は凄いな」
師匠も気づいてると思うけど、私は師匠にずっと憧れてきた。あの仙台の日、私を守りながら一人で鎖を振るい、次々と迫るモンスターの群れを相手に怪我をしながらも戦う姿に憧れた。
『私、あの人みたいな冒険者になりたい!!誰かを守って戦える強い冒険者になりたい!!』
普段あんまり自己主張しない私の、数少ない望みをパパとママに打ち明けたのは、仙台のスタンピードからそう時間が経たない頃だった。
最初は二人とも驚いていたけど、お父さんは冒険者と関わる仕事をしているからか、私の言葉が曲がるものじゃないと分かったなのかは私には分からないけど、最後は仕方ないとお母さんを説得してくれた。
冒険者になることを決めた私はそれからというと、ほぼ毎日のようにお祖父ちゃんの家の道場に通い始めた。当時はまだ私のスキルが何かを知らなかったけど、冒険者になるには体力ともしもの時の自衛の手段が必須だと思ったからだ。
『唯愛、孫相手にこういうのもアレじゃが……とんでもなく戦いの才能がないの』
お祖父ちゃんの言う通り、私には戦うことの才能がなかった。道場で習った合気道以外の武器術や体術が、昔冒険者だったお祖父ちゃんの目からも、そして自分でも使い物にならないと分かるくらいには下手だった。
勿論それはそれで悔しかったけど、ならばと私は知識を詰め込んだ。幸い本を読んだりすることは大好きだったし、それに戦術を考える司令塔というのは、真面目だけど頑固な茅音と、自由奔放でまるでネコみたいなカメリアという友達といた私にはいつもの日常と同じように思えた。
その頃だったか、私が冒険者になりたいと二人が知ったのは。二人とも驚いていたけど、なんと二人も二人で冒険者になりたいと思っていたと聞いたときには思わず私も耳を疑った。
まさか身近に冒険者になりたいと思ってる人間が居るとは思わなかった私たちは、もうその流れでパーティを組むことを決めた。
けど私には分かっていた。私たち三人のなかで私が一番足手まといだってことに。
私はカメリアちゃんのように格闘技もできて、フォローに回れるような視野はない。茅音ちゃんのように誰に対しても臆せず前に出れるような度胸もない。
三人で冒険者の資格を取って、スキルを得てからはさらに差が広がった。
周りは私のスキルが一番凄いって言うけど、私自身がそうじゃないと気づいていた。私ができるのは、精々が誰かの物真似で、それが他の人より少しだけうまいってだけだから。
『唯愛、基本戦いに技なんてものは存在しない。勿論技術は必要だけど、ゲームみたいな技とか型なんてものは結局は基本、極論を言っちまえば誰かに見せるための演舞でしかないって俺は考えてる。実戦じゃクソの役にもたたないだろうな』
師匠はこの技を教えるときにそう言っていた。
『技は基本、技術は応用、技能は実戦、されど技能はいずれ技になる。昔、俺が暮らしていた孤児院にたまに来ていた剣術の先生が言っていた』
『剣術の先生が?』
『あぁ。剣において、技や型と呼ばれるものは基礎であり、その基礎の利点を活かし活用できての技術、そしてその技術を実戦で使い物になるように高めたものが技能になり、そしてその技能はいずれ技に昇華し、それを繰り返すって言ってた。剣術が殺人術から始まり、競技のための活人術へと変化し、そしてこのダンジョンが現れたことでまた殺人術へと変化したようにって』
師匠の言うことは少し難しかったけど、言いたいことは何となくだけど分かった気がする。
『正直、俺の技はまだ技能の域には至ってない。けどもし唯愛がこの技を習得したとき、その技は新しい可能性に至ると思う』
だから教える、そう言って見せてくれたその技は、まだ完成してないというのが嘘だと思うぐらいに凄かった。コツは教えてもらったけど、それでも見様見真似で再現できる技じゃなかった。
「でも、当たり前だよね」
何て言ったって、私の憧れの冒険者が二年の歳月をかけて編み出した技だ。弟子になって一月そこらの私がすぐに完成させられるはずもない。
「っ、せい!!」
私は再び鞭を素振りする。地道にコツコツと、私にできるのはただそれだけの努力だけだから。
「唯愛、もうお風呂空いたよ」
「え、もう?」
が、そんな私の決意に水を差すように茅音ちゃんが声をかけてきた。
「それ、あの人から教わった技の練習?」
「うん。けどやっぱり難しいよ、師匠の技は」
「ふーん、どんな技なの?」
茅音ちゃんが興味深そうに聞いてきたので、私は簡単に教えてあげたら、その表情がドン引きに変わった。
「それ、確かに出来たら凄いけど……正直覚えるほどのもの?」
「えぇ!!覚えるほどのものだよ。なんたって師匠の唯一の技だし」
「いや確かに凄いわよ。利点も何となくだけど分かる気がするし……でも、たった三日で習得できる?」
その一言に言葉が詰まる。確かに師匠も、五つある行程の第2段階までいければ合格だとは言っていたけど、
「しょ、将来的には使えるようになる……つもりだよ」
「まぁ絶対に習得しろって事じゃないならいいけど……」
ジト目を向けてくる茅音ちゃんの視線がとてつもなく痛かった。
「でもそうね、唯愛が私の『武芸百般』を模倣すれば少しは上達するかも」
「ーーーそれだけはダメなの」
せっかくの言葉だけど、それだけは飲むわけにはいかなかった。
「二人みたいにしっかり戦えない私が、茅音ちゃんのスキルを使ってもうまく扱えないよ、多分」
「それは……」
「それに、この技だけは私が自力で習得しなきゃダメだと思う。憧れた人が教えてくれた唯一の技だし」
そういうと私は再び鞭を握って素振りを始める。今はお風呂に入る時間も惜しかった。
「はぁ、あまり遅くまでやらないようにね」
茅音ちゃんは呆れたように、けどどこか面白そうな表情でそう言ってるのを聞きながら、私はひたすらに得物を振るう。
「努力しなきゃ……一番弱い私が、一番努力しなきゃ」
師匠が私に託してくれた技。なら、私にできるのはそれを習得するための努力をすることなんだ。
「そろそろ武器のメンテナンスしたいんだけど……まぁ仕方ないか」
途中、雲雀ちゃんのそんな言葉が聞こえた気がするけど、集中していた私には聞こえてなかった。




