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弟子達と実戦訓練

 抜かれた刀を見た瞬間、私はすぐに鞭を腰から抜いて二人の後ろに回る。二人も驚きはしたものの、すぐに各々の武器を構えて対峙する。


「うん、驚きながらもすぐに戦闘態勢になれてる。ちゃんと教えてもらってることを生かしてるね」


 葛さんは笑っているが、素人の私達から見ても一切の隙がない。どちらも刀身そのものは下を向いているはずなのに、むしろ威圧感はとんでもなく濃い。


「ねぇ二人とも、ししょーよりも圧強くない?」

「カメリアもそう思う?」

「うん、けど少し違うかも」


 茅音もカメリアも小さく呟いてるけど、二人の予想は多分合ってるし外れてる。おそらくだけど、師匠が訓練の時に発する圧は素人の私達の事を考えてわざと弱くしてるだろうから、ここまで圧倒的な実力差が分かる程の圧を私達に向けてなかったんだと思う。


「ただ圧は発してるのに攻めてこないってことは、私達がどう動くかを見定めてるんだと思う」

「ならやることはいつもと同じね」

「うん、唯愛ちゃんが指示出し、アタシが遊撃して、茅音が引き付ける。ししょーに習った通りやればいいんでしょ」


 その言葉にコクりと頷くと、それを見ていた葛さんの目がニヤリと笑った。


「っ、茅音ちゃんは前衛で守りを固めて!!私とカメリアでできる限り動いて戦うよ!!」

「わかった!!」

「了解!!」


 嫌な予感がした私はそう指示を出すと、返事と共にそれぞれが一斉に動き出す。


「せいやっ!!」


 まずは円盾を構えた茅音ちゃんが一直線に突撃する。葛さんはそれを見た瞬間に左手の長刀を逆手に持ち変えるとその刃で円盾を防ぐようにぶつけた。


盾突撃(シールドバッシュ)ね、いきなりヘビィな択を選んだわね」

「その刀をまともに受けたら、まずいと思ったので」

「うん、観察力は良いわね。でも」


 次の瞬間、受けていた左手の刀がスルリと動き、円盾が流されるように崩されて体勢も崩れた。


「うわっ!?」

「格上相手に円盾で突撃したら、受け流されて隙を晒すことになるわよ!!」


 そして流れるように左足を軸に放たれる蹴りの一撃を背中に直撃された茅音が簡単に吹き飛ばされる。


「っ!!いけっ!!」


 すぐさま私は鞭を振るう。巻き付くように伸びたそれを葛さんは簡単なステップだけで避け、躱せなさそうなものは弾いて防いでくる。


「うん、使ったことがないにしてはギリギリまともな動きね。けど鞭は基本的に見られてない時に使うものよ」

「は、はい!!」

「それと、出来る限り足は止めない。的にしてって言ってるようなものよ」


 すると左手に持っていた刀を私目掛けて勢いよく投げてきた。いきなりの事に慌てて弾いてしまった私だが、その一瞬の間にたった一歩で葛さんは目の前に来ていた。


「っ!!」

「お・そ・い」


 そして次の瞬間、開かれた手のひらが私のお腹に触れたと思った瞬間、私の体が勢いよく吹き飛ばされて何もない壁に直撃した。


「かはっ!!」

「唯愛!?」

「こんの!!」


 途轍もない痛みに立ち上がるのも辛く思ったが、すぐに視線だけは葛さんに向ける。何をされたのかは全く分からないけど、指示役が機能不全になったパーティーに生き残れる可能性はないと師匠の教えは忘れてなかった。


「っ!!二人で連携して葛さんを囲んで!!いくら上位ランクの冒険者でも、視界は普通の人間と同じ筈、両方を同時に見たり後ろに視線があったりするわけがない!!」

「わかった!!」

「りょーかい!!」


 指示通り挟んで攻撃を仕掛ける二人。だが、葛さんはまるでそれが見えてるとでも言うように全て捌いていく。


「狙いは悪くないけど、相手のスキルが分かってないのに攻めるのはかなり危険だって、彼から学ばなかったのかしら?」

「そんなの、分かってるよ!!」


 カメリアが右手の籠手から剣を抜いてさらに加速する。戦うためのスキルは持ってないカメリアだけど、今の私達三人の中では一番、戦うのがうまい彼女の拳打剣撃を、葛さんはいとも簡単に避けて捌いて、そして


「格闘戦は光るものがあるけど、やっぱり継戦能力に落ちるわね」


 いつの間にか立ってることすらままならないほどに疲弊してしまっていたところに、私と同じように吹き飛ばされた。

 慌ててカメリアのそばに寄った私が見たのは、意識を飛ばして気絶する友人の姿。復活するのにはかなりの時間がかかるのは私でも分かった。


「カメリア!!この!!」

「猪みたいな突撃は、熟練の冒険者には通じないわ」


 茅音ちゃんの怒りの突撃も、葛さんには全く通じず投げ飛ばされてカメリアと同じく気絶してしまった。


「っ、強い」

「当然ね。元とはいえ協会所属の冒険者、それもBランク相手に素人の攻撃がまともに当たると思う?」


 その質問の答えは知っている。ソロのDランク冒険者である師匠相手、しかも普段あまり使わない剣の状態ですら30回に1回ぐらいしか攻撃を当てられない私達に、そのさらに上のレベルの冒険者に攻撃を当てるのは不可能だ。

 さらに師匠が言っていたのが本当だとすれば、葛さんは戦闘ではなく後方支援が専門の冒険者だ。それでこの実力というのなら戦闘専門の冒険者の実力はどれだけの強さなのだろう。


(けど、なんで茅音ちゃんの攻撃が通用しなかったんだろ)


 茅音のスキルは『武芸百般』と『最適化』、その効果はどんな武器でも常に自由自在に操ることができ、また相手に対しての最善の選択肢を導くものらしい。

 その言葉が本当なら、少なくとも葛さんは慌てて避けたりといった、どう見ても不自然な動きが出てくる筈なのにそれが全く出てこなかった。


「……スキルで攻撃を回避してるんですか?」

「そんなものはないわ。私のスキルは『調理』と『解体』と『空間収納』だけ。戦闘向きのスキルは強いていうなら『解体』ぐらい。けどさすがに人間相手には使えないから今は使ってないわ」

「そんな!?」


 まさかの言葉に嘘だと私は思いたくなった。あそこまで強い冒険者なのに、戦闘スキルを全く使ってないという現実は、驚きとともに疑惑が浮かんでいた。


「なんで……どうやってそんなに強くなれたんですか」

「そうね……これについては彼が私に頼ってきたのも当然ね。()()()()()()()()()()()()()

「え?」


 師匠が教えられない技術という言葉に私は首を傾げる。


「明日からはそこのところを解説してあげるわ。それを学んで、活かせるようになれば、少なくともCランク冒険者と同等の戦い方の基礎はできる筈よ」

「Cランク冒険者と同等……」


 その響きに、早く知りたいという欲求が止められなかった。けども


「まずは二人を起こさなきゃ」


 未だに気絶する二人の仲間を、私は無理矢理に叩き起こす事にした。

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