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不人気ダンジョンとヤクザ

 ヤクザ……一昔前だと暴力団とか呼ばれる半グレと同じ扱いでいた彼らは、このダンジョンが溢れる世界でも生き残っている。いや、正確に言うのなら、ダンジョンのおかげで存在を許されたと言うべき存在だった。

 というのもダンジョンが誕生してすぐの頃、まだ冒険者という制度ができる前の話だが、日本各地でスタンピードが発生した事件があった。


 当時の政府および自衛隊の上層部はあまりの広い範囲で起こるモンスターの地上流入にてんやわんやで、対応がほとんどできなかったという。

 そんなおり、自衛隊が駆けつけるまでモンスターに対応したのが各地のヤクザ組織の人間だった。いわゆる自警団としての役割で参戦した彼らは、ナイフや長ドス、密輸品の拳銃や、はては包丁やスコップなどを片手にモンスターに防具も無しに挑み、なんとか均衡を保たせる事に成功した。

 モンスターが溢れる緊急時、それも自警団としての役割とは言え法律を無視して刀や拳銃を抜いたことで逮捕される自体も覚悟した彼らだったが、政府はこれについてのお咎めは全く無かった。


 その後とある大規模ヤクザ組織の長等と協議した政府は、ヤクザ組織に幾つかの条件を飲むことでその存在を保証するようになった。

 1つは緊急時の自警団としての活動。もともとその側面も持っていたからか、彼らはその件について文句を言う組織はほとんど居なかった。

 1つは冒険者用の特殊な銃の作成及び市場への流通を担うこと。これは元から密輸などでルートを開拓してきた銃などの武器ブラックマーケット市場を表に出すことを許可する代わりに、彼らはそれを冒険者用の特殊な仕様……緊急時を除き市街地でのロックを解除できなくするための特殊セーフティを取り付けた特殊仕様に改造して販売することを求めた。多数の組織から若干渋られはしたものの、ほとんどが何も言わずにこれをも受け入れた。


 そしてもう1つ重要な役目として、違法冒険者の取り締まりを行うこと……早い話がダンジョン内での殺人や強盗、強姦といった犯罪を抑止する側に回れということだ。

 はっきり言うとアレだが、政府からすればダンジョン内での違法行為を取り締まるために、警察官や自衛隊員を常駐させられるほど人材に余裕がなかった。スタンピードで多数の警察及び自衛隊員が亡くなり、組織の再編をしなければ成り立たなくなっていた時期だ。使えるものなら猫の手どころか、ヤクザのような反社勢力の手も借りなければ間に合わなかったのだ。

 そういったこともあって、ヤクザという存在は文字通り裏家業であることは違いないのだが、現在では冒険者用の銃器の輸入業者兼ダンジョンでの治安維持組織として運営されているのが大半だった。


 そんな彼らが、しかもシマにしているだろう郡山ダンジョンで態々他人に声をかけていること自体が、それだけで退っ引きならない状況でもあると言えた。


「そのいい口だと、あのふざけたゴーレムについて何か知ってると思っても良いんだよな」

「あぁ。といっても発生した経緯ぐらいだがな」


 そう言って目の前のヤクザは懐から名刺ケースを取り出すと、俺らにそれぞれ渡してきた。そこには『Bランク冒険者・片平組若頭 嘉藤邦昌』と書かれていた。


「……まさか組のNo.2自ら来てるとは思わなかったな」

「親父は別のヤマを張ってるからな、冒険者としても活動してる俺らにお鉢が回ってきただけよ」


 そう言ってタバコを咥えて火をつけると、一息ついてそもそも、と話し始めた。


「あのふざけたゴーレムは、どうやらうちのシマを狙おうとしたバカな半グレが用意したみたいでな、人工的に特殊個体を生み出したんだよ」

「人工的に……ですか」

「あぁ、俺ら『片平組』のシノギ……つまり稼ぎは基本的に銃の仕入れ、ダンジョン内でのふざけたバカの取り締まり、そして俺らみたいな冒険者として稼いでってな形の3つなんだが、その半グレどもは俺らが独占してる狩場を奪おうと画策しやがったんだよ」

「うわ、命知らずな」


 狩場の独占というが、事がヤクザの場合はその意味がまるっきり変わり、独占しなければ他に被害が出ると分かるようなモンスターばかりが存在するという証なのだ。


「俺らが独占してるのはここの18階層でな、ドロップ品がかなり特殊な金属で、1インゴットで50万で買い取られるんだが、そこのモンスターは並みのBランクじゃすぐに死ぬような場所さ。それを知らずに連中はなんとしても奪おうと考えた」

「けど、そんな簡単に奪うことなんてできます?こう言ったらあれですけど、ダンジョンヤクザで冒険者ってことは後ろに居る連中も相当ランクは上の筈では?」

「あぁ、最低でもDランク、Cランクも何人か居るからな、純粋なガチンコじゃ勝てねぇだろ」


 が、そこで半グレは面倒なことを考えたのだ。


「純粋な戦いじゃ勝てねぇと踏んだ連中は、あろうことかモンスターにわざと武器を与えて特殊個体に進化させやがったんだよ」

「んな!?」

「……バカだろそいつら」


 康成は驚いてるが、俺からすれば呆れるしかなかった。嘉藤さんも言いたいことは分かると言いたいように渋い顔をしてるし、その後ろの組員達も似たような表情だ。

 ただでさえ普通のモンスターですら下手しなくても死ぬ危険性があるのに、特殊個体ともなればそれだけで大規模討伐隊が組まれることすらあるし、そもそも人為的に特殊個体にすることはかなり難しいと、やるだけでかなり損が出ると少し考えれば分かる筈だ。


「俺もそう思うんだがな……その半グレの1人のスキルが厄介すぎたんだよ」

「……というと?」

「『眷属化』……冒険者でいうところのモンスターテイムができる物珍しすぎるスキルでな。一時的にモンスターを自分の僕にして戦わせるスキルなんだが……それを悪用しやがったんだよ」


 曰く、そのテイマーはテイムしたカッパーゴーレムに銃器を大量に与えてから眷属化を解除させたところ、その大量の銃を取り込んで特殊個体へと進化したのが、件のガトリング持ちゴーレムとのことだ。


「おかげで今、第7階層以降に降りることもできなきゃ、それより下の連中は戻る手段もない。面倒なことをしてくれたもんだよホント」


 若頭の言うとおり、関係のない冒険者にまで被害を出してることを考えれば頭痛を覚えても仕方ないとはおもう。


「で、俺らも奴さんと相対したわけなんだが、はっきり言ってあの弾幕量じゃ、俺はともかく部下は死にかねねぇ」

「あぁ、俺らも避けられはするだろうが、二人じゃ倒すのは不可能だろうな」


 康成の一言に俺は頷く。俺のスタイル的に攻撃時は体がその場に留まってしまう都合上、体に蜂の巣ができるのは確定してしまう。康成にしても接近戦主体の都合上俺とほぼ同じで、弾幕を避けるのは可能だろうがその状態で倒すのはほぼ不可能だ。


「だから手を借りたい。俺は手数は出せるが決定打がねぇ。そっちは手数はねぇが二人でダンジョンに潜れるだけの決定打はある。違うか?」

「それはそうだが……どうする康成」


 一応今回のメインは康成だ。そういう意味では俺が決定するのは筋違いだ。なので視線を向ければ康成は笑っていた。


「嘉藤さん、報酬の割合は?」

「そうだな……ドロップアイテムの換金額にもよるが、一応こっちが6で、そっちが4を考えてる」

「ならこっちが3でいい。代わりに、そっちが独占してるモンスターの素材を幾つか買い取りたい」

「素材……あぁ、お前さん鍛冶屋なのか」

「鍛冶屋は鍛冶屋でも、『魔剣鍛冶』屋だがな」


 その一言に組員達が騒がしくなったが、若頭が手を上げた瞬間ピタッと静かになった。


「なるほど、確かにそれなら素材は欲しいだろうな。が、さすがに俺達も他人に簡単に売るわけにはいかねぇ」

「まぁ、だよな」

「だがお前らがその階層に行って勝手に狩るなら文句はねぇ。それでも良いか?」

「それは、独占してる狩場に入っても構わねぇって事で良いんだな」

「あぁ。組員には俺から話をしておく。ただしずっととはいかねぇが、そこら辺は後で確り話し合いとさせてもらうぜ」


 そう言ってニヤリと笑いながら差し出す手に、康成は同じく笑いながら握り返した。

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