不人気ダンジョンと郡山第6階層
ダンジョンを攻略する場合、基本的には楽なショートカットなんてものは存在しない。行ったことのある階層にワープできたり、逆に瞬間移動して入り口に戻るなんてことは基本不可能だ。
だから冒険者は全員、挑むダンジョンの地形を頭に叩き込む。ダンジョン内では携帯なんて当然圏外……というか、当たり前だがネット環境なんてあるわけがない。地図もベテラン冒険者が、有料で公開している手書きの簡易地図しか存在しないのがこの現代ダンジョンだ。必然的に地図を書くスキルも必須になってくる。
そしてこれまた基本的な話として、よっぽどの例外が起こらない限り、10階層までのダンジョンは変化せず、階層のどこかにはラペリングやクライミングを駆使すれば数階層分を移動することが出きる場所が必ず一ヵ所は存在している。
今回、俺達が6階層まで移動する方法も、まさしくそれで、第3階層入口すぐそばにある崖から俺達二人はラペリングしていた。
「しっかし、ショートカットのためにこんなことをしなきゃならんのは面倒だよなホント」
「それは言うなって」
俺の呟きに康成は苦笑こそするが否定はしない。洞窟の中でわざわざハーケン打って崖を降りるという、冒険者じゃなくて登山家かクライマーにでもなったのではないかと思いたくもなる行動に、わかってるとはいえなにも思わない冒険者は少なくない。
「たく、毎度思うが、こんなことやらせるくらいなら、協会でリフトなりを整備してくれても良いだろ」
「無理だろうな。そんなことしても、ダンジョンの特性で取り込まれて終わりだろ」
「知ってるよ。分かってて言ってるんだよ」
ダンジョンは死体を食らうが、食らうのはなにも人だけではない。
武器は大概モンスターのものになったり、特殊個体に進化してしまったりと分かりやすいが、それだけでなくダンジョンの地面や壁に突き刺したりしたハーケンや、汚い話になるが排泄物といった汚物も文字通り綺麗に食ってしまう。時間はある程度かかるが。
いや、正確にはダンジョンという存在に取り込まれてるといった方が正しいのかもしれないが、そこはどうでもいい。問題を簡単に言えばダンジョン内を工事しようとしても、工事したそのものを食われてしまうから、設置しても意味がないということだ。
だから冒険者は自分の足でショートカットしなければならず、俺達が使ったハーケンのようなものを使ってラペリングやらをするのは必須の技能なのだ。
「で、とりあえずサンドゴーレムの砂はどれぐらい必要なんだ」
「うーん、一先ず20袋は欲しいな」
「……さっき、5袋もあれば一年は大丈夫って言ってなかったか?」
「半分は葛さんが畑に使うからな。畑の砂に混ぜると魔力が程よく肥料の役割をしてくれるらしいし、害獣が近づかなくなるんだよ」
なるほどと納得し、ふと視線が壁から通路へと変わった瞬間、着地してすぐに命綱を外してロープを回収してしまう。
「……見える範囲でモンスターは居ないな」
「まぁサンドゴーレム含めゴーレム系のは徘徊型のモンスターじゃなくてエリア型だから当然っちゃ当然だけどな」
ここ一応エリア外だし、と答える康成にジトりとした視線を向ける。
「俺らを見てた連中がラペリングしてくる気配もないし、どうする、普通にゴーレム狩りするか?」
「そうだな。俺としては久しぶりのこれの振りを確かめたいしな」
そういって空間から取り出したのはいつもの鎖だが、普段とは違いその先端には人の頭ほどの大きさの棘付き鉄球が連結され、簡易なモーニングスターにしていた。
「なら暫くは前衛頼む」
「了解」
簡単に打ち合わせをした俺らは階層を巡る。第6階層はサンドゴーレムの生息地だけあって、通路のあちらこちらに砂が天井から砂時計のように落ちてくる場所を避けながら歩いていると、さっそく少し大きい広場のような場所に抜ける。
「居たな、サンドゴーレム」
大型のドラゴンやゴーレムのようなエリア型のモンスターは広場のような場所にしか現れない。どちらも番人という側面があったからなのかは分からないが、その代わりに同ランクのモンスターの中でも高い攻撃力は冒険者にとって厄介な存在でもある。
「数は3体か……余裕だな」
「何も無ければな」
そういって俺はすぐさま駆け出し、康成もそれに続く。3体のゴーレムもこちらに気づいたのか、その赤く光る点眼が音を立てて輝いて動き出した。
「シッ!!」
まずは近場にいたゴーレムに向けてモーニングスターを投擲する。まっすぐではなく横から回るように動く鎖はゴーレムの左腕を捉え、砂でできた腕を簡単に吹き飛ばした。
「……!!」
腕を吹き飛ばされたゴーレムは何やら叫んでいるが、次の瞬間吹き飛ばされた腕がゆっくりと再生を始める。サンドゴーレムは他のゴーレムと違って、腕や足といったボディがすごく脆いぶん、吹き飛ばしても時間さえ掛ければ再生してしまう。
「けど、修復に回してる間は無防備なんだよ、な!!」
今度は頭を狙ってぶっ飛ばす。サンドゴーレムは再生の途中で頭を吹き飛ばされた場合に限り、魔石を破壊しないでも撃破判定になる。それゆえにその砂の肉体は他のモンスター同様にダンジョンに消えて、あとには魔石と土嚢袋だけが残る。
「一丁あがりってな。さて向こうは」
視線を戦友に向ければ、あちらもあっという間に2体のゴーレムを魔石と砂袋に変えていた。
「お、そっちも終わったか」
「終わったか、じゃねえよ。なんで2体相手にして俺より速く終わらせてんだよ」
「動きがトロいからな」
そうじゃねぇだろ、とツッコミたかったが、こいつにそんなことを言っても無駄だと諦める。
「とりあえずあと17体か」
「おう。まぁ魔石だけってこともあるから単純にはいかねぇけどな」
「それでも徘徊型のモンスターじゃないだけマシだろ。時間さえ掛ければリポップするんだし」
「まぁな。最初はどこのネトゲだって思ったけどな。フロアが大量にあるのは楽だよホント」
郡山ダンジョンにはこういったフロアが大量にある……というより、こういうフロアにしかモンスターが存在しない。最短ルートで攻略しようと考えても、一階層につき必ず三回はモンスター戦をしなければならないのだから、攻略目的の場合面倒でしかないが、逆に言えば素材目的の場合、いちいちモンスターを探し回らなくても良いのだから楽はできる。
「じゃあ正規ルートを外れたところから狩ってくか」
「おう。まぁ集まらなかったら帰りにもう一回来るんだし、なんとかなるだろ」
「そうだと良いけどな」
土嚢と魔石を空間収納に突っ込んだ俺らは、新たなゴーレムを探してエリアを移動するのだった。




