不人気ダンジョンと問題児
魔剣や魔防具の一部は意思を持つ。何をオカルト染みた事をと思うかもしれないが事実であり、Aランク以上の冒険者のほぼ全員、武器防具いずれかはそういった意思を持つ武器を所有している。いや、正確に言うなら、そういう意思を持つ武器に選ばれた存在こそがAという階級を与えられる条件といえる。
まぁSランクという存在そのものがイレギュラー存在も当然のように意思持ちの魔剣を当たり前に所持しているが、アイツらに関しては歩く災害のようなものだし、そもそも世界に12人しか存在しない。
日本で有名なところだと、大阪で活躍してる日本ランクスコア……国内でのダンジョンの踏破数、モンスター討伐数などをスコアにしたもの……No.4の冒険者である『五月雨桜』の異名を持つ剣士八重 蕾の『魔刀・枝垂』、同じく日本No.6の『アンタッチャブル』の異名を持つ弓使い黒天院 薊の『魔弓・梓王』なんかは、その類いの魔剣として、能力も込みで色々と有名だ。
が、『枝垂』にしろ『梓王』にしろ、そういう意思を持つ魔剣というのは大概が天然魔剣……ダンジョンでのレアドロップ品である。少なくとも人工の魔剣でそれが意思を持つというのは聞いたことがなかった。
「唯愛、その鞭から変な声とか聞こえたりするか?もしくはなんか変な感じがするとか」
「えっと、声は聞こえないですけど、何となく使い方が分かるというか、初めて持ったのに凄い手に馴染むというか」
「マジか……そうなると色々とやべぇな」
康成が唸るが、俺もそれには同意だった。
「ヤバいって、そんなになんですか。むしろ初心者の私たちには最初からある程度扱えるのなら良いのでは?」
「うんうん、まぁお金の問題は別だけどさ、武器が扱いやすいなら良いことでしょ?」
「あぁ、たしかにそれ自体は悪い話じゃない」
茅音とカメリアの言う通り、お金の問題を抜きにすればそれ自体は悪い話じゃない。意思を持つ魔剣を持つのはメリットがかなり大きいし、何より意思を持つ魔剣というのは扱い続けるほどに成長する。長く使えば使うほど鍛冶屋を泣かせるぐらいの成長を、進化をするという。
それを初心者の唯愛が持つとなれば、彼女の冒険者としての活動をしていくにつれて大切な相棒となるのは間違いない。
問題なのは、
「悪いのは、この鞭を作った人間の方だ」
「雲雀ちゃんがですか?」
「そうだ。これを公表なんてすれば、最低でも国が身柄を押さえられかねないし、下手をすれば世界的に争奪戦が引き起こりかねない。その結果は最悪戦争だよ」
話が飛躍しすぎてると思うだろうが、人工的に意思を持つ魔剣を打てるとなれば、その魔剣のメリットデメリットは差し置いても魅力的な話だ。それが一本打てれば、結果としてAランクの冒険者が一人増えるのとほぼ同義だ。
今現在でAランクの冒険者は世界に1千人程度とされている。アメリカ、EU……EU各国は同盟として冒険者を相互保有する仕組みになっている……、日本、中国、そしてイギリスと多い順に並べるが、一番多いアメリカでも300人前後、日本はおおよそ120人、五つのうち一番少ないイギリスですら約50人と公表されている。
仮にそんな中で、どこかの一国がAランクを次々に量産するかのように増やせるようになれば、間違いなく国家間のパワーバランスが一気に動きかねない。ただでさえ国土が狭く、ダンジョン発生以前よりはマシとはいえ食料やエネルギー資源の多くを輸入で賄う日本がその立場になれば、どうなるかは考えるまでもない。
「この事実は当然隠す必要があるが、一番は同じような武器を作らないのが懸命だと俺は思う」
「あぁ、本当にそうなら良かったと思うんだがな……もう一つあるんだよ」
「……まさか同じのか?」
「いや、そっちのは雲雀が一から全部設計やら調整したワンオフ品だ。それが結果として意思を持ちやがった。鞭と同じでしゃべったりはしないけど」
なにやら不穏なことを言ってる気がすると思っていれば、少女はどこから持ってきたのか分からない大きなケースを取りだし、それをカウンターに乗せてオープンした。
「これが私の武器、特殊複合魔金属製AK-15モデルの7.62ミリ突撃特殊機銃、銘は『ヴァローナ』」
「ガチモンのアサルトライフルかよ!?」
黒く塗られた金属の色はもはやなんと言うべきか。というか、鍛冶スキル持ちなのにハンマーをメインウェポンにしないやつを初めて聞いたわ。
「師匠のモデルガンをベースに、本来なら組み込まれていない単射、三点、一斉射に切替可能な設計、協会が定める銃器規定の装置も内蔵してる。さらに各種様々なインゴットを混ぜ合わせ特殊複合魔金属化した金属を素材にパーツ整形することで、電磁加速方式でモデルにしたAK-15に比べて6割の反動軽減に成功した、私だけの専用の武器だよ」
「かなりのオーバーテクノロジーじゃねえか!?」
切替可能はまだ分かる。ミリオタではないものの、アサルトライフルやサブマシンガンといった銃に、そういった機能がついているものがあるというのは聞いたことがある。
インゴットを混ぜ合わせたというのもギリギリ分かる。さっきの鞭と同じだろう、前例があるから何となくは分かってしまう。
電磁加速方式というのも、頭が痛くなるがこれも分からないわけではない。簡単に言ってしまえばレールガンの原理だ。それを魔剣のインゴットを利用して再現したのだろう。どうやったのかは聞きたくないが。
が、問題なのはいまだに実用レベルの小型化の成功に目処がたってないレールガンをアサルトライフルで、しかもバースト射撃に対応した出力変換を可能にし、さらにモデルの反動を6割も減らす?はっきり言ってチートだ。幾らなんでもオーバースペック過ぎる。
「おい康成、これ真面目に表に出すつもりなのか?中学で?」
「うん、俺だってできるなら嫌だったんだが……雲雀は武器適正無さすぎてな……」
曰く、練習で剣や槍、弓を使わせたところてんでダメだったらしく、下手な小学生にも負ける始末だそうだ。鍛冶屋お得意のハンマーも当然ながらだ。
なら銃はどうなのかというと、これが逆にずば抜けた才能というか、モデルガン片手にサバゲーショップで試しうちさせたところ素人とは思えない好成績を叩きだし、中でもアサルトライフルやサブマシンガンといった、所謂ばら撒くタイプの銃に適正があったという。
「けどほら、普通に冒険者用の銃を買おうにも値段がエグいだろ?」
「まぁ、アサルトライフルやサブマシンガンだと、日本だと安くても数百万後半は当たり前だしな」
「だろ。だからしばらくは無理だって言ったらさ……三週間で自作しやがったんだよ。それも俺の失敗作のインゴットと、練習用にあげたAK-15のサバゲー仕様のモデルガンを素材にしてさ」
「……なんでお前の弟子やってるんだよ」
「俺が聞きたいよ」
どこか遠い目をする康成の言うことも分かるというか、俺が逆の立場だったら同じようになってると思う。
「でもダンアカ通うまでは使わないし、ダンジョンに行くつもりはないから、大丈夫」
「本当にそうしてくれ。切実に」
厄介な問題児だと思いつつ、俺はさて、と立ち上がる。
「康成、予定としては飯を食ったらすぐに行く感じで良いのか?」
「そのつもりだ。武器の調整もしてあるし、荷物はお前の『空間収納』に詰め込めば良いだろ?」
「構わない。どうせお前のバックパックは携帯鍛冶道具でぎゅうぎゅうに詰め込まれてんだろ」
「おう!!」
おう、じゃないんだが。
「まぁいいか。康成、地下の試し斬り用の空間貸してくれ」
「んあ?何に使うんだ?」
「ちょっとした宿題をくれてやることにした。唯愛、こい」
「え、あ、はい!!」
俺の前に来た唯愛に、俺はニヤリと笑う。
「お前にだけの宿題だ……俺の唯一の『技』を教えてやる。それを俺が戻ってくるまでに5割の域まで完成させろ」
ものにできるかは、お前の努力次第だ。




