不人気ダンジョンと鍛冶屋
「さて、今回のお前さんらの目的はここで自分の武器を持つことと、それについての知識を学ぶ為だってこと。あと冒険者関連の知識講座だってことで合ってるな?」
引戸から中に入った、やはり飲食店のそれとでも言うような風景のカウンター席に座った俺らに、康成は確認するように聞いてきた。
「あぁ、そうなんだが……ここ、本当に鍛冶工房なのか?」
「ええ、飲食店と言われても不自然ではないというか、むしろ工房と言われたほうが不自然です」
麻賀さんの言うことに、小学生三人もコクコクと頷いている。
「そりゃそうだ。ここは鍛冶屋兼食事処だからな」
「はぁ?」
俺は一瞬ワケわからんと思って呟いたが、彼の奥さんの事を思い出して納得した。
「あぁ、そういえばお前の奥さんアレだもんな」
「そういうことだ」
「?つまりどういうことでしょうか?」
俺ら二人の短いやり取りに首を傾げる他の面々に、俺は少しだけ解説することにした。
「葛さんは福島県のダンジョン協会所属の、冒険者指導官であり、そしてBランク冒険者であり、冒険者料理人でもあるんだ」
「冒険者料理人……ですか?」
「簡単に言えば、中規模以上のダンジョンで遠征する際に、冒険者として行動できるスキルを持った戦闘料理人。いわゆるサポーターって呼ばれる冒険者のことです」
冒険者のパーティーは基本的に5~6人で編成されるのだが、それは日帰りや一泊二泊程度で帰れる程度の階層を潜る場合の話だ。
が、それでは攻略できる階層はどんなに優れた冒険者パーティーであっても10階層前後までしか活動できない。よくあるダンジョンに潜る小説やゲームと違って、途中の階層から出入口付近へワープできる装置など存在しないからだ。ゆえに小規模ダンジョンであろうと大規模ダンジョンであろうと、仮に再深部のボスモンスターを倒したとしても、そこから地上へと徒歩で帰還しなければならない。
そのため中大規模ダンジョンのいわゆる深層と呼ばれる階層を攻略する場合、複数のパーティで合同でチームを組んで攻略するのだが、その際に戦闘には極力加わらない代わりに、武器のメンテナンスや料理、ドロップアイテムの確保に夜営地の作成・整備を専門にするパーティ……通称サポーターを加える必要が出てくる。
そしてこのサポーターに含まれるのが『鍛冶師』、『料理人』、『空間収納持ち』、そして『医術者』なわけだが、葛さんはそのなかでも『空間収納』を持った『料理人』であり、普段はダンジョン協会で冒険者に対するマナーやルールについての教官を勤めている女傑なのだ。
「いえいえ、今はダンジョン協会からは抜けてまして……せっかく康成さんのお店と共同ではありますが、自分の料理人としての城を持つことができましたから」
「そうですか……俺が食べたのは1度だけでしたけど、凄い美味しかったのは覚えてます」
「ふふ、そういって貰えると助かります」
おべっかでもなく本当に美味しかった。あの仙台スタンピードで、葛さんが作ってくれたおにぎりと豚汁があったからこそ、俺のような戦うことしかできない人間は、あの地獄のような光景で踏ん張れたのだと思っている。
「せっかくですし、私はこれからお昼の準備しますので、康成さんは皆さんの武器、見繕ってあげてくださいね」
「おう……ついでで悪いが、雲雀を起こしてきてやってくれ」
「ふふ、あの子はお寝坊が過ぎますからね」
葛さんはにこやかに笑いながら住居スペースのほうへと消えていった。
「雲雀ってのは、話していたお前の妹弟子か?」
「おう、訳あって俺らの家に住んでるんだ」
「……『孤児』か?」
力無くおう、と答える親友になにも言えなくなった。
この現代、もう22世紀も中頃となる現代で15歳以下の孤児は日本人口の1%近くに及んでいた。理由は勿論ダンジョンであり、スタンピードのような大規模なものもあれば、普通に活動していた冒険者がダンジョンで亡くなって、結果的に孤児となってしまった子供も存在する。
そしてそうなって両親を失った子供は、孤児院に引き取られるか親戚の家に引き取られるか、だ。その現実は冒険者の誰もが痛いほど知ってるし、そうならないようにと願ってもいる。
なぜなら俺や康成もそういった孤児院上がりの冒険者だし、孤児院の人間は基本、生活のために冒険者になるのが嫌な一般的になっていたからだ。
「……こういう言い方はあれだが、その子が孤児院に行かなくて良かったと、本当に思うよ」
「だな。俺もお前も運良く高校には通えたけど、そうじゃない連中も孤児院上がりには多い。生きるために金を稼ぐために冒険者になるってやつほど、無茶して死んで、結果なにも残らねぇ」
「だから引き取ったのか?」
「半分はそれだな。半分は師匠から頼まれた。自分も病気で先が長くないから、自分の弟子のなかでまともなやつに孫を頼みたいってさ」
手続きが大変だったと宣ってるが、その表情は妹を思いやる兄のような、そんな暖かいものに感じた。
「……ヤス兄ぃ、おはよう」
と、そんなことを思っていたところに厨房とフロアを分ける暖簾をくぐって現れた少女が眠たそうに声をあげると、康成は苦笑いを浮かべる。
「雲雀、お前お客さんもいるのにその格好で出てくるのはどうなんだ?」
真っ白いTシャツにミニジーンズという途轍もなくラフな格好であり、まるで田舎の夏休みに居そうな小学生という出立ちだった。
「どうせこの後調整するのに炉を使うから問題ないでしょ?」
「最終調整に炉は使わないから、せめて上だけでもなんか着てこい」
「ええ~めんどうだな~」
そう鬱陶しそうに言う少女は、ふと唯愛達に気づいたのか視線をそちらに向ける。
「んで、そっちの子達が、アタシの武器を買うの?」
「おう。ついでに挨拶しとけよ」
わかってると答えた少女は三人の近くに寄る。
「火宮雲雀。ヤス兄ぃの妹弟子で、今回貴女達の武器を任された鍛冶屋見習いだよ。もしかしたら貴女たちのパーティに加わるかもしれないから、よろしくねぇ~」
「よ、よろしく」
「こちらこそ」
「よろよろ~って、パーティに入るの?」
挨拶もそこそこ、すぐに言葉に気づいたカメリアが俺に対して聞いてくる。
「コイツに頼まれてな。といっても、彼女は郡山に住んでるから、正式にパーティを組むのはお前達と一緒にダンアカの仙台に通うようになってからだろうがな」
「そうそう~それにアタシは基本肉体戦闘はからっきしだし、後方支援が専門になるけどね」
「そんな人が冒険者になれるの?」
茅音が疑問に思っているが、俺は何となくわかった。
「おい康成、お前この子に魔剣与えてねぇよな?」
一応確認のために聞いてみれば、案の定視線を泳がせやがった。
「身内とは言え、子供に数百万は下らない高級品渡すとか何やってんだよ」
「ち、違うぞ!!俺は魔剣そのものは与えてねぇんだ!!」
「ならなんで視線を泳がせた?事と次第に寄っては……」
「誤解だ!!俺は魔剣そのものは与えてねぇんだよ!!ただ……」
「ただ?」
そこで言葉を詰まらせる親友に冷たい視線を向けてやれば、彼はため息一つして答えた。
「魔剣に使う合成したインゴットの失敗品をな、練習用に幾つか使わせてたら……なんかワケわからねぇヤバいやつ作ってやがった」
「なん……だと?」
まさかのとんでも展開に俺の頭が痛くなったのは言うまでもなかった。




