#1 始まり
その世界には、地上の世界とは別に空中にいくつも浮かぶノアという存在が作り出した”箱舟”があった。空高く浮かび、雲をも凌駕する高度にあるその島々にある財宝、そして謎の現象に興味を示した冒険者と呼ばれし人々は国からの援助を受けどんどんと箱舟へと旅立ったが……誰一人として帰ってくることはなかった。
そして、また一人……今度は何よりも仲間を大切にする勇者が箱舟へと転移していった――
〇 〇 ―― Noe Loading ―― 〇 〇
目を開く、そして次に腕を動かして指を見る。視線を下に下げればさっき転移する前と同じ鎧と剣を持っている。どうやら箱舟に転移したからといって装備品や自分の身体まで変化するということはないみたいだ。
後ろを振り返れば、一緒にここに来てくれた仲間――大盾使いの戦士に斥候、そして魔術師は同じように自分の身体にどこかおかしな点がないか確認しているようだった。
「とりあえず……ここが最初の箱舟みたいだな」
「見る限り、ここは何かの広場のようですね」
転移した場所は、どこか少しだけ発展した街のどこかの広場だった。中央にそれなりに大きい木が植えられたところで、4方向くらいに大きそうな道が続いている。そこから考えるに、どうもここはこの街の中心部に位置するようなところなんだろう。
しかし、それはいいが問題は周囲の環境だ。特になんの問題がないといえばそうだが、いきなり現れた俺たち一団に向けてなんの反応もない。ただ立ち続ける人、ベンチから動かない人、道を歩く人々も特にアテがあるわけでもなくただ機械的に足を動かしているだけのように思える。
まるで感情がないように。
「んで、来たはいんだけども。これからどうすんだ?」
「そこだな」
戦士の言う通り、持ってきた伝承本にもこの先何をした方がいいとかは一切のっていない。なんせ数百年も前の書物だ、昔と今は違うのだろう。ちなみに、その伝承本の最初のページに書いてあることは”ステータスと能力について”といういかにも論文的な記述だ。
「ま、まあここにステータスって書いてるからそのステータスっていうのを見てみようぜ。魔術師、やり方わかるか?」
「いや、知らないわよ」
ステータス、それは言い伝えによれば自身の今もっている能力を数字にして表すというもの。確か数字の値が多いほどその能力が高く、低いほどダメダメということらしい。それはある意味怖いものではある。自分を弱いとは思わないが、それでも低かったら落ち込むものだ。
が、問題発生。なんと仲間の誰一人としてステータスの見方を知らなかったのだ。存在は知っている。概要も知っている。が、見方がわからなければすべてがわからないも同義だ。
「これ、どーすんだ」
「うーん、しょうがない。道行く人に聞いてみよう」
「でもあの人たち話しかけれるのかなぁ。ボクからみたらただ機械的に歩いてるようにしか見えないよ」
斥候の言う通り。聞いてみてまともに返答が返ってくるかなんてわからない。そうして早くも手詰まりになったと悟った瞬間だった。
俺たちが陣取っている広場にある一人の少女が入ってきた。肩まである黒い髪と青い瞳で、お世辞にも言い装備をつけているとは言えなかった。が、周囲のなんとも言えない人々に比べたら足取りは機械的ではなく目にもしっかりとした意思を感じることができた。
初めてまともな人に会ったんだ。これを逃す手はない。
「あ、あの~。ちょっといい?」
「……驚いたわ、この街でまともに話せそうというか、話しかけてくる人がいるなんて」
「自分たち地上の国から来たんだけど、ステータスの見方わかんなくて。よければ見方って教えてもらえる?」
「はぁ……そう。ステータスは【オープン】と開けばすぐに見れる。そこから覚えているスキルや魔法もすぐに見れるだろう」
どうもそこら辺の女性とは違いクールな彼女はそれだけ教えてくれると「じゃあ用事があるから」とすぐにどこか引き返してしまった。言われた通り【オープン】と唱えてみれば目の前に光の薄い板があれば、MENUという文字にステータス、装備品情報などのものが現れた。
表示されているのは職業、HP,MP,STR,VIT,AGI,INT,MEN。HPは0になるとゲームオーバーになり、MPが0になると魔法やスキルは使えなくなるようだ。レベルは1と表示されているから、レベル上げなるものをしてある程度このステータスを上げなければいけないだろう。
「……よし、まずはレベル上げに行こう」
その言葉に仲間3人は同時にうなずく。どうやら弱いままじゃやられてしまうことはわかっているらしい。
こうして俺たちは街を出てモンスターを狩りにいくことにした。