言ってなかったけど、そういえば私、そろそろ死ぬらしいです
死神って、知ってますか?
黒い衣に身を包んでる?
そうそう。
全身ガイコツ?
正解。
大きな鎌を持ってる?
当たり~。
人間の魂を狩り取る存在?
ん~、たぶん。
人に死の宣告をして、時期が来たら魂を持っていくやつ。
ピンポンピンポン!だいせいか~い!!
え?
なんで知ってるかって?
だって、いま私の隣にいるんだもん。
え?これ死神だよね?
え?めっちゃ見てくるじゃん。
なんなの?
え?超キモいんですけど!
顔を覗き込まないでよ!
見えてないフリするの大変なんだから!
いやさ、私は普通のJKなわけよ。
で、今日も普通に朝起きて、普通に学校行って、普通に帰ろうとして、普通にホームで電車を待ってたのよ。
そしたら、隣に現れたよね。
黒衣に身を包まれし骸骨が。
目玉はないけど、その奥で何か不気味な光が蠢いてるやつが。
その光が、めっちゃ私をガン見してるんですけどっ!
しかも、何その鎌っ!
デカっ!
重くないの!?それ!
その全身から溢れてる黒いもやもやしたやつなに?
めっちゃキモいよ?
ちょっ!こっちに流さないで!
うわっ!
こはぁ~じゃないよ!
口からも謎のもやもや出さないでよっ!
うわ!くさっ!
逃げたい!
でも、逃げたら見えてるのがバレちゃう。
たしか、こういうのって見えてるのが知られちゃダメなんだよね。
バレたら連れていかれるって聞いたことある。
決めた!
こうなったら徹底的にガン無視決め込んでやる!
JKの意地をナメんなよ!
…………いや、マジでめっちゃ見てくるな、こいつ。
え?なに?
さすがにちょっとムカついてきたんだけど。
これがオヤジとかだったらマジで急所を蹴り上げてるよ。
こいつは、ムリか。
だって骸骨だもん。
でも、骸骨だけでよく動けるなぁ。
てか、筋肉とかないのに動いてる不思議に思いを馳せちゃう私、知性派!
…………どうしよう。
てか、電車遅くない!?
いつもならすぐ来るはずなのにっ!
『お客様にお知らせ致します。
ただいま、車両点検の影響で列車に遅延が発生しております。
現在、10分程の遅れが発生しております。
お急ぎのところ、お客様には大変ご迷惑をおかけしますことをお詫び致します』
ちくしょー!
なんでこんな時にっ!
……いや、これはチャンスだ。
「あ、あー、10分かー。
ちょっとトイレ行ってこよー!」
この際、恥は捨てるよ。
死神と重なるように並んでたおじさんがこっちを見てるけど気にしない。
後ろに並んでたお姉さんがびくってしたけど気にしない。
気にしないんだ、私。
ぐすん。
…………ついてくんじゃねーよ!
え、なに?
なんでついてくんの?この人。
え?人?
いやいや、さすがに個室には入ってこないよね?
てか、それはマジでやめて。
出るもんも出なくなるから。
……あ、そこはドアの外で待っててくれるんだ。
ありがとね。
よし。
これでひとまず漏らす心配はなくなった。
トイレを出たら……あ、こんちはー。
うん、やっぱりいるよね。
ホームへの階段を上がると、うん、ついてくるね。
ホームに並ぶと、うん、ついてくるね。
ぐすん。
死神とホームに並んで遅延している電車を待っていると、前に並ぶJK二人組が楽しそうにおしゃべりしてる。
「ねー、聞いた聞いた?
ホームの死神の話」
「えー、なにそれー」
えー!なにそれー!
こいつやーん!
「なんかねー、ホームに並んでると、突然隣に黒い服を着た骸骨が現れて、めっちゃガン見してくるんだって」
「え、キモっ!」
うん、現在進行形でキモいのよ。
「しかも、途中で並ぶのをやめると、ずっとついてきちゃうんだって」
「えー!こわっ!」
えー!それ私ー!
はいアウトー!
「でね、そのまま一緒に電車に乗っちゃうとねー」
「うんうん」
うんうん
「あ、電車きた」
「あ、ほんとだ」
おい~~~~!!!
そして、無情にもドアが開く。
え、どうする?
乗るべき?
え、てか、続きは?
ねえ、どうなるの?
そんなことを考えてると、ドアが閉まりかける。
「あ、ちなみに、来た電車に乗らないと呪われて死ぬらしいよ」
やべぇーーーー!!!
はぁはぁ。
あ、危なかった。
なんとか間に合った。
あ、うん。
まだ死神さんはいるよ。
今はしゃがみこんでて、膝に手をついて息を整えてる私を下から覗き込んでるよ。
もう勘弁して。
『あの、』
話し掛けてきた~~!!!
『あのー、あなた、ワタシのこと見えてます?』
やばいやばいやばい!
『あ、ワタシ、一応男なので。
女子トイレに入るのは抵抗あったんですけど、人には見えてないとはいえ、さすがに個室は遠慮したんですけど、それでも、やっぱり恥ずかしいですね。
というか、この時間て思ったより混んでるんですね。
ワタシ知らなかったです。
もう帰宅ラッシュが始まってるんですかね。
座りたいのに、こんなに混んでたら無理でしょうね。
はー、肩こる。
なんでこんな大きな鎌をかつがなきゃいけないのか』
いや、めっちゃしゃべるやん!
『あれ?
やっぱり見えてます?』
やべっ!
ガン無視!
『気のせいかー。
ワタシに気付いたなら、その命狩り取れたのに!』
ひいぃぃ~~!
『な~んて言ってみたり』
……おい。
『実際は見える人なんてほぼ皆無だし。
そのせいで独り言は増えるし、嫌になるわー』
知らんし!
てか、結局狩られるのかどうか分からんし!
『は~、しかし困った』
(/ω・\)チラッ。
『困ったなぁ~』
(/ω・\)チラッチラッ。
『誰か助けてくれないかな~』
(/ω・\)チラッチラッチラッ。
……チラチラ見てんじゃねーよ!
『はあ、やっぱり気のせいかかぁ~。
それより、お腹すいてきたなぁ~』
(/ω・\)チラッニヤッ。
え?ガチで怖いからやめて。
『最近なかなか食べられないからなぁ~。
もし見つけたら、頭から丸かじりにしてやるのになぁ~。
やっぱり若いのがいいよね~。
柔らかくてぷりぷりしてて、あ~、思い出したらヨダレが。
…………もう何でもいっか』
ダメ~~!!
よくないよ!
そういうのホントよくない!
ちゃんとルールは守ろう!
ね!
『でも、ルール破ると死神大王に怒られるからなぁ~』
ナーイス死神大王!
『はあ、世知辛い世の中だよ』
それな!
私にこれを押し付けた世の中を恨むわ!
もうダメだ!
次の駅、ドアが閉まるギリギリで降りよう。
この死神はちゃんとドアが開いてから乗ってたし、席が空いてないから座れないって言ってた。
その辺のルールはちゃんと守るはず。
よし、次の駅で降りよう。
『あ、定期落としましたよ』
「え、あ、すいません」
『なんだ、やっぱり見えるんじゃん』
おまえかーー!!
『やっと見つけた。
ワタシが見える人』
やばいやばいやばい!
返事しちゃった!
見えるってバレた!
殺される!!
『あのー、黄泉河駅ってどこですかね?』
「え、あ、次です」
『ありがとうございます!』
「はっ?」
『まったく、死神大王もいじわるだよなぁ~。
見える人に聞いてからじゃないと降りちゃダメなんて。
あいつ、くじで死神大王になったの初めてだから調子のってんだろー』
いや、なに普通にそこで降りようとしてんの。
てか、王様ゲームのノリで死神大王決めんなよ。
『あ、君、ありがとねー』
いや、なに手振ってんの?
私もなに振り返してんの?
『早く釣りしてーなー。
いっぱい釣って、いっぱい食べるんだー。
やっぱり丸かじりだよねー』
あ、もうそのまま降りて行っちゃうんだ。
そういうゲームだったんだね。
あー、そうかー、死神でもそんなことするんだー。
なんか楽しそうだねー。
そうかー。
これが殺意ってやつかー。
また会えないかなー。
おもいっきりぶん殴りたいなー。
あはははは。
ははははははははは。
他人を巻き込むゲームは控えましょうって話。