おっさんの隠れ家
続きです。
宜しくお願い致します。
皆様に楽しんで頂けましたら幸いです。
歓楽街を抜けて更に裏の通りへと入ってきた。善良な市民や一般家庭なら既に寝静まっている時間帯なので通りは静まりかえり辺りは暗く、通り過ぎていく建物の窓の隙間から仄かに明かりが漏れる程度で起きている人の気配も殆ど感じられない。
「さすがにこの時間になると裏通りは静かだな…」
更に通りを歩いて行くと仄かに明かりが灯された通りへと出てきた。所謂飲み屋街と言う奴で、庶民的な食堂兼居酒屋や、立ち飲み屋、店の女の子と話しながら酒を楽しむ店やバーの様な静かに酒を嗜む店もある。しかし夜も遅いため殆どの店は閉められているが、まだ営業している店も有った。
「一本路地を入っただけでこの違いか、こっちは流石に人の出入りは有るよな」
飲み屋街を更に進み通りを外れると、真っ暗な通りに出た。しかしながら暗い通りなのに人の気配は多く感じられるので、夜の店が有るのだろう。
「そんなに離れてないのにこんなにも違うとは、ってか良い子は寝てる時間だしな」
通りの建物の中に一軒だけ町中に建てられるには不釣り合いな建物が有る。商業区や倉庫街に建てられる堅牢な石造りの倉庫で、歓楽街の外れとは言えその堅牢な建物は通りの中でひときわ異彩を放っていた。
「おおっ懐かしいな!たかが百年二百年程度でどうにかなる事は無いとは思っていたが、こうして実物を目にしてみると…って解りきった結果だから特に感動も無いか…」
石造りの倉庫は路地側には小さな入り口が一つだけで、入り口以外には石の壁が連なっていた。その入り口も夜の薄暗い中では目立たず、そこに入口の存在を知らなければ入口が有る事には気が付かないだろう。
「入り口も昔のままだし、変わってないな」
しかし俺は勝手知ったる何とやらで、入口の扉を開いて建物に入って行った。建物の中はほんのりと明るい程度に抑えられた薄暗い照明と木の内装とで雰囲気としては休暇に訪れる別荘か山の中に建てられた隠れ家と言えば良いだろうか。床と壁の一部は石造りなのだがその他の床壁天井に木の板が貼られ、天井板の下には太い木の梁が幾本も渡されていた。
「内装もそのままなんだな」
十五人程が余裕を持って座れる長いカウンターが直角に二方に据えられ、カウンターの向こう側にはそれぞれバーテンダーが一人づつ、その後ろには壁一面に色とりどり種類も様々な酒瓶やグラス類が数えきれない程並べられた棚が有る。
「木の風合いが良くなったな、なんか趣が有るって言うかまさしく大人の隠れ家だ」
そして一風変わっていたのが、テーブル席が用意されていない。普通の店なら団体客用にテーブル席が置かれていてもおかしくは無いのだが、この店にはテーブル席が置かれていないと言う事は、団体でもカウンター席に座らせると言う事なのだろう。
「おお、この感じやっぱり落ち着くな」
三十席程有るカウンターなのだが客の数は片手で数える程度で、二人組が一組と後は一人客なのだろう客達は適度に間隔を空けて各々が思い思いの席に座っているので、それは俺の予想でしかないのだが当たろうが外れようが誰も特もしないし損もしないのでどうでも良いだろう。夜も遅い時間なので客が減ったのか繁盛していないのか判断を付けかねる。
他の客達と離れたカウンターの端に空いた席を見付けた俺はその席に座った。
「いらっしゃいませお客様。もし私の記憶違いでしたら申し訳ございませんが、私とお客様とは初対面で宜しかったでしょうか?」
俺が席に座るとすかさず俺が座ったカウンター担当のバーテンダーが俺に話しかけてくる。いちいち客の顔を覚えているのだろうか?本当ならすごいな。客商売の鑑かもしれない。
「そうかもな、この町に来たのは久々だから、昔何度か来た事は有るのだが…そうだ、オーナーは元気かい?」
「オーナーのお知り合いでしたか?これは失礼致しました」
そう言ってバーテンダーは謝罪の言葉と共に軽く頭を下げる。素直なのは良い事なのだが、このバーテンダーはそれとは少し違う気がする。夜の店の店員と言う事なら多少の荒事も慣れているだろうし、さしずめ用心棒も兼ねているのかもな?
「いや、ただの腐れ縁って奴だよ。仲間達と集まっては馬鹿な事ばかりやっていたな…あの頃は若かった…」
「…そうでしたか、申し訳ついでに一言宜しいでしょうか?」
腰が低く感じの良いバーテンダーなのだが何か見過ごせない粗相か何かを俺がしてしまったのだろうか、表情は優しげなのだがその目は笑っていないどこか俺を値踏みでもしているのかの様な冷たさを含んでいる。
「ん?ないだい?」
「こちらの席なのですが実はオーナーの古くからのお知り合いの方のキープ席でして、オーナーの許可無しに他のお客様に座られるのはどうかと思いまして、申し訳ございませんが席を一つずれて頂いても宜しいでしょうか?」
ああ、そう言う事か納得した。そう言う事情ならこのバーテンダーの態度も理解出来るな。職務に忠実なのかオーナーに忠実なのかは俺には解らないが、仕事に対するプライドを感じられる態度だ。
「ああ、それなら大丈夫。この席をキープしているのは多分俺だからな」
「左様でございましたか。私もこの店に勤めて四半世紀になりますがこの席をキープされたお客様にお会いするのは初めてでして、失礼を承知で申し上げますととてもお客様は私より年上には見えないのですが…」
そうなんだよな若作りかどうかはさておき俺の見た目はどう見ても四十代半ば、そしてみすぼらしくは無いがいかにも安物って言うか見習い魔術師っぽい服を身に付けている。それに対してバーテンダーは五十代程のナイスミドルで、身に付けた服装はセンスと品質が共にとても良くバーテンダー本人の所作にも一分の隙も無くビシッとして格好良かった。
こんなおっさんとナイスミドル比べるのも酷だよな…。見た目は完敗だよ、トホホ…。
「それを言ったら余り大きな声で言えないがお宅のオーナーも、お宅よりは若く見えるだろう?」
「…確かにそうですね、それを言われてしまっては私には何も言い返す事は出来ませんね」
そうこの店のオーナーの見た目はかなり…いや否滅茶苦茶若い。若作りとか何とか言うレベルでは無い。それには種族的な理由も有るのだが、俺との付き合いも長く腐れ縁とかそんな言葉では片付けられないそんな仲だった。当然と言ってしまっても良いのか、共通の知り合いも多くこの世界の根本を形作っている存在も共通の知り合いの中に入って居る。
この店のオーナーははっきり言ってこの店には顔を見せる事は滅多に無い、他にも幾つもの仕事を手掛けているのも有るのだが、基本的に軌道に乗った仕事は任せられる者に任せて自分は他の新しい仕事に専念している。
「って事でオーナーを呼んで貰いたいんだがその前に喉が乾いたよ。俺のキープしたボトルが有るのだがそれを出して欲しいんだが?」
「お客様のキープボトルですか?」
俺とは初対面なので、当然この店に俺のキープボトルが有るなんてこのバーテンダーは知るよしも無い。
「ああ、あの棚の角に長年放置されたみたいな小汚いボトルが有るだろう、あそこに素焼きの安っぽい奴が」
「こちらですか?しかしこちらは…」
このバーテンダーはこのボトルが何なのか知っているのだろう、見ず知らずの貧乏臭いおっさんに出す事を躊躇っている。確かに躊躇うよな、初めて会う客が本当に常連なのかキープポトルを持っているのか等など、疑いしか無いよな。
「大丈夫だって…おっさん用って札が付いているだろう」
「はい確かに…しかしこちらはオーナーのボトルですので…」
「だから大丈夫だって、俺がお宅のオーナーにプレゼントしたボトルだから少しくらい飲んでもバレやしないよ!」
「しかし、その判断を私では出来かねますので…」
そりゃそうだよな初めて見た客がオーナーの知り合いだからオーナーのキープポトルを飲ませろって、疑われて当然だよな。さて、旨い酒を呑みたいしこの店には他にも大事な用事が有るのだが、どうしようかね…。
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