おっさんはカフェには拘りが有るみたいです
続きです。
宜しくお願い致します。
皆様に楽しんで頂けましたら幸いです。
「お待たせ致しました」
カフェを頼んでソファーに座って待っていると、年齢不詳な女性エルフの給仕が銀色のお盆にカフェを持ってきた。
「ありがとう」
俺が謝辞を述べると、少し表情が和らぎその美しさに花を添える。人族と関わる事に忌避感が無い珍しいエルフで、良い意味でエルフ族らしさが無くて彼女とは初対面でしかも俺はこの店の一見なのだがとても良い印象を受ける。
彼女がテーブルに置いたソーサーに載せられたカップからは芳醇なカフェの香りが立ち昇っている。ストレートが無理な人の為に、動物のミルクと砂糖も一緒に置かれている。
カーリッツ薬草店で出されるカフェは最近の?多分…そうだと思う…流行りのドリップ式と呼ばれる淹れ方で、近年急激に普及していった飲み方の一つだ。カフェの種を細かく粉末状や少し粒が残る様に粉砕して、それをドリッパーと呼ばれる下が細くなったカップとソーサーが合体して底に小さな穴を幾つか開けた器具を使い、布などをドリッパーの内側に敷きそこにカフェの種の粉を適量入れ、その上からゆっくりとお湯を注ぎ濾す様にしながら淹れる方法だ。
「どうぞ、ごゆっくりしていらして下さいませ」
「そうさせて貰うよ」
エルフの給仕が丁寧に頭を下げ、部屋の隅に戻り控えている。その身のこなしや所作は完璧だと思う。
俺はその日の気分で飲み方を変えるのだが先ずストレートのカフェを味わった。カップを口に近づけると炒った事でより一層香ばしくなったカフェの香りと、ほんの僅かに香る木炭が焼かれた時に付く移り香。その香りと共にカフェを一口口に含む。口に含んだ瞬間カフェの種の香りと程好い苦味が口に広がり鼻に抜けて行く。ゆっくりと飲み込むと苦味を追い掛ける様に後から酸味が追い掛けてくる。味わいにくどさなどは全く無く、カフェの香りと苦味と酸味とがお互いの出番を融通し有っていてそれでいてそれらが、主張し過ぎる事も無く正に三味一体な味わいだ。
「良い香りだ、そして旨い!」
全く飾る事の無い本心が無意識に出てしまった。これはこれで魔法を扱う者としては余り他人に心の内を読まれる事は褒められた事では無いのだが、そんな事を忘れてしまう程このカフェは旨かった。
ハッとしてエルフの給仕を見てみると、笑顔で会釈をしてきた。
「有り難うございます」
俺の素直な感想に嬉しさを隠しきれていない様子だ。自分の作った物を他人から良い評価を貰えると、誰でも嬉しいものだ。それが例え発展途上な作品で有っても、褒められる事で更に上を目指す活力に繋がる。彼女は既に高みに居る存在みたいだが、それでも否だからこそ人からの賛辞に彼女は更なる高みへと昇華して行く事だろう。
家の魔道人形達も彼女に負けず劣らずの技術力を持っているのだが、このカフェに限って言えば彼女に軍配を上げざるを得ない。それ程までに俺の人生で一番のカフェの味わいだった。家の魔道人形達にもこの技術を伝授して貰いたいものだ。
ストレートでカフェ本来の香りと味を堪能したので次は違う味わいを楽しませて貰おうと言う事で、テーブルに置かれた動物のミルクをカップに注いだ。限り無く黒に近い茶色の中に白色が混じり、カップの中を侵食していく。カップの中は茶と白が斑になり、お互いの色が溶け合う。そこにスプーンを射し込み軽く一混ぜしてから、スプーンをソーサーに置く。
カップの中は薄い茶色に変化してしまい、先程までの濃い色合いは何処かに行ってしまった。しかしカップからはカフェの香りとミルクの少し甘いような優しい香りが混ざり合い、炭を焼いた様な香ばしさが和らぎカフェの香りもまろやかになった様だ。
動物のミルクを入れたカフェを口に含んでみると、動物のミルクを入れただけなのにカフェの苦味が感じられるのだがミルクを入れる事で優しくまろやかになり少し甘く感じられる味わいに変わっているが、その中にもカフェの香りは充分に感じられる。動物臭さは全く無く、ミルクの甘味だけで全く別の飲み物に化けてしまっていた。
「ミルクとの相性もとても良い」
「有り難うございます」
俺の呟きに律儀に笑顔で返事をしてくれて、おっさんは少し照れ臭いな。本当に人族に対して忌避感が無いと言うか、もしかしたら自分の仕事に誇りを持っているからなのかも知れないが、これだけお客に良い印象を与えられるからこそ給仕としてこの場に居るのだろう。
更に甘味が欲しいのなら砂糖を追加するのだが、ミルクを注いだだけで満足いく物に仕上がったのでこのミルク入りカフェを今は堪能する事にしよう。
俺はミルク入りカフェをゆっくりと味わいながら、今夜と今後の予定について考えを巡らせる。今日はもう一軒回る予定だ。そこがこの町に来た一番の目的で、どうしても外せない場所だった。
俺が使役している鳥や小動物達を使って事前に調べているので、営業時間や店休日は調査済みだ。如何せん食べ物を扱う店なので鳥や小動物達を店内に入らせる事には抵抗が有ったので、店の中の様子までは調べてはいないのだが問題は無いだろう。
薬草も手に入ったし次こそは本命の場所に行くのだが、俺を追っていた面倒な奴らの事も有るのだが…館を出てからの俺って妙にツキに見離されていないか?
勘違いなら良いんだけどな…。
そう言えば俺を追っていた奴らにマーカーを付けたんだった。それを思い出した俺は、マーカーの位置を確認してみる。俺の頭の中にこの町の立体的で細密な地図が浮かび上がる。
俺を追っていた者達のマーカーは、今は1ヵ所に集まっている。そこが奴らの溜まり場なのかアジトなのか、それとも雇い主の家なのかは解らないが近付かない事に越した事は無いだろう。
幸いにして今夜の最終目的地からは離れているので、少なくとも今夜はもう会う事は無いだろう。
カフェを飲みながらそんな事を考えていると、応接室のドアがノックされた。一呼吸置いてエルフの給仕の女性がドアを開くと、ドアの前には俺の買い物に対応してくれた店員が立っていた。
「失礼致します」
俺は静かにカフェを飲みながら、店員の次の言葉を待った。
「お客様商品の準備が整いましたので、お知らせに参りました」
「了解した支払いはここで?」
「お客様が宜しければ、此方でお願い致します」
「ああ、構わない」
そう言うって出された請求書は、相場よりも随分と安い値段だった。はっきり言ってこれで利益が出るのかは、甚だ疑問なのだが…?
「こんなに安くて大丈夫なのか?」
「はい、本来でしたら処分せざるを得ない物まで買い取って頂けますので、処分代分を引かせて頂きました」
それなら納得だな、店側に不利益が出ないのなら俺が気にする必要は無いからな。
「そちらが問題無いのなら、此方としても問題は無しだな」
そう言って俺は薬草の代金を応接テーブルの上に置いた。
「確認してくれ」
「承知しました……確かに丁度お預り致します」
残ったカフェを飲み干した。程好い苦味と酸味そして甘味が喉を流れて行く。
「御馳走様、とても旨かったよ」
そう言って俺は店で飲んだ時のカフェ2杯分の金額を応接テーブルに置いた。
「お粗末様でした」
エルフの給仕の女性は軽く頭を下げて、にこりと笑った。先程までの無表情が嘘だったのかと思える、とても良い笑顔でおっさんは年甲斐も無く一瞬見惚れてしまった。
「では、商品をお渡し致しますので此方へどうぞ」
「ああ、了解した」
俺が店員に連れられて応接室を出る時には、先程の笑顔が嘘だったかの様に無表情に戻り頭を下げて俺が応接室を出て行くのを見送っていた。
何だか良く解らんが、自分の仕事に誇りを持っていて自分の仕事を評価された事へのお礼の笑顔なのか?女心それもエルフの女心など尚更俺には理解出来無いのでそう言う事にしておこう。
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