おっさん薬草店で品定め
続きです。
宜しくお願い致します。
俺は≪カーリッツ薬草店≫の扉を潜った。店の外からでも感じられる、様々な薬草の入り交じった独特の匂い。それが店に入る事でより一層はっきりと感じられる。
一種類や二種類の薬草なら香草の様に爽やかな香りを感じる事も出来るのだが、それが数十種類ともなると爽やかな香り同士の主張が強すぎて、匂いが臭いになってしまう。
薬草や香草の種類によっては臭さを和らげる効果が有るものも有るのだが、これだけ多くの薬草や香草が有ると臭いを和らげるための効果も発揮出来ない。場所や設備を整えられれば出来ない事は無いのだが、そのために掛かる経費を考えると現実的では無いのかも知れない。
薬草店だから需要の多い品は常に仕入れと出荷を行うだろうし、効果な品や珍しい品等は別の保管場所が有るだろうから、俺が気にする事では無いな。
そもそも薬草に携わる事を生業にしている者達は、既に薬草の匂いに対して免疫と言うか嗅覚が麻痺しているだろうしこの周辺の住人達も既に嗅覚が麻痺している可能性が高い。人族とはなかなかに強かと言うか生きて行くためには慣れる事が出来る生き物なので、意外と回りの環境に適応してしまい気にならなくなってしまうことも多分に有る。
店の中は正に薬草店なのだが、やはりメインは乾燥させた薬草で生の薬草は見られない。保存や運搬を考えると薬草を乾燥させるのは常識なのだが、有る特定の薬草や抽出法や抽出する薬効成分によっては生の薬草が必要になって来るのだが、それはこの店もその辺りはプロなので生の薬草は別の保管場所が有る筈だ。
それを待っていない薬草店が有るとすれば、それは乾燥させた薬草を扱う専門店か必要な時に必要な物しか扱わない店くらいだろうか?後者の店は見た事も聞いた事も無いけどな。
店内には同じ薬草でも産地や育成具合や乾燥具合、更には品質等の等級毎や薬草の部位毎に束にされて並べられている。此処は辺境に有る町なので珍しい薬草も多いのだが、やはりメインは常に必要とされている薬草だ。
風邪薬、傷薬、打ち身の薬、火傷の薬、肌荒れや手荒れの薬、下痢止め、下剤、毒消し、鼻づまりの薬、咳止め、頭痛薬等々、町の住人や旅の商人等人族が生きていると様々な病気やトラブルが起こるのだが、基本的にはこれらの薬を1つ作るためには薬草を1種類から数種類を使う訳なのだが、同じ薬草でも生、生乾き、全乾燥等乾燥具合や薬草の部位の違い等で作る事が出来る薬が変わる。そしてその薬草の掛け合わせ方によっても違う薬を作る事が出来るので、薬を作る事を生業にしている者は覚える事も多く更に経験と勘も要求されるので、成り手は多いのだが1人前に成長するまでが長い職業でも有る。
基本的にほぼ必ず必要となる薬草は決まっていてその薬草を取り扱うだけでもそれなりに利益が見込めるが、それ以上を望むとなれば稀に必要となる薬草や珍しい薬草も取り扱わなければ、多くの利益を望むのは難しいだろう。しかしその為にはそれなりの知識が必要にもなって来るのだが。
そして俺が今回買いに来た薬草はそんな基本的な薬草の数々とそれ以外だ。ぶっちゃけ俺の山奥の館の周りに生えている薬草以外なら何でも良い。可能ならこの店の在庫を全て買ってしまっても良いと思っている。…のだが、俺以外のお客が居る状況での買い占めは流石に他のお客から顰蹙を買うだろうな。お客が居なくなるまで待つか、1度店を出るか悩む所だな。
だが思ったよりもお客の回転が早い。カウターで商品を受け取る者もいれば、お金を支払って外に出て行く者達もいる。そうか大量に薬草を買うお客には配達か、店の倉庫で馬車に積み込むシステムだったな。
それならお客の回転が早いのも頷けるが、お客の回転が早いので次から次へとお客がやって来る。しかし薬草店のお客がこんなにも多いのか?皆が皆薬師では無いとは思うが。もしこれだけのお客が全員薬師だったとしら、薬が供給過多になってしまうのではないのかな?各家庭で料理に入れたりして使う事も有るから、一般家庭のお客の可能性も有るかも知れない。一般家庭の人が夜に買い物に出たらの話だけどな。
これでは待てども暮らせども一向にお客は減らないのでは無いのだろうか?一応次に行きたい店も有るので、余り時間を掛けたくは無いのだが…仕方が無いか、品質の余り宜しく無い薬草なら買い占めてしまっても問題は無いだろう。
「済まないちょっと良いかな」
俺は近くに居た店員に声を掛けた。
「はい、何か御用ですか?」
中年の男の店員なのだが、愛想笑いと言うか営業スマイルが良い笑顔で長年商売に携わっている者独特の物腰の柔らかさが感じられる。流石はプロと言ったところか、先程の魔石店では俺の外見について色々と言われたのだがここの店員は笑顔を崩さずその本心を表情には表さない。
「薬草を買いたいのだが…」
何と説明すれば解り易いだろうか?説明の仕方に悩むな。
「はい、薬草ですね。どの様な品をお求めですか?」
俺がお客と解ると店員は笑顔を崩す事は無かったが、一瞬目が細まった様に見えたけど…獲物と間違えている訳では無いよな?
「そうだな…」
俺が頭の中で薬草の名前や種類を選別している間も店員は静かに俺を見つめていて、何だが居心地が悪いって言うかおっさんがおっさんを見つめて誰得だって話だ!頼むから俺を見つめないで欲しい。
「風邪薬、傷薬、打ち身の薬、火傷の薬、肌荒れや手荒れの薬、下痢止め、下剤、毒消し、鼻づまりの薬、咳止め、頭痛薬、毒消し、麻痺消しこれらの薬を作る薬草なら何でも良いから在庫を全て貰えるかな?」
俺が欲しい薬草で作る事が出来る薬の種類を挙げて行くと色々と種類が多すぎて、それこそ一般的に良く使われる薬の大半の名前を言う羽目になった。
「一般的に出回っている薬の材料となる、薬草の在庫全てをですか?」
適当に在庫を全てと言ったのだが、この店の在庫となるとそれはもう膨大な数量となってくる。例えその全ての在庫を買ってしまったとしても俺にはどうとでも出来るのだが、俺の自宅の周りで採れる薬草は必要ない。採ろうと思えば何時でも好きなだけ採れるのだから。
「ああ、但し他のお客の迷惑になりたく無いから、お宅の常連客が買いに来る物は省いて貰っても構わない」
一見で、しかもこの辺りでは見た目の冴えないおっさんが店の商品を根刮ぎ買い占めてしまったら、それこそ噂になるだろうし常連客の商売の邪魔をしてしまったら恨まれる可能性も無くは無い。俺は空気が読めるおっさんなので、余り目立つ事はしない主義なのだ。
「常連様が良く購入される物ですか…常連様が定期的に購入される品が多数有りますがそれ以外で宜しいと言う事ですか?」
辺境だけあって珍しい薬草も採れるし、同じ薬草でも他所よりも薬効成分が高い薬草も採れる。だからこの辺境で薬に加工して売るのか、薬草を乾燥させて売るのか、それとも状態保存の魔法を掛けて採れたての状態で売るのかは、品物を扱う者によって変わってくる。
「そうしてくれ…それに品質も拘らない、腐ってさえいなければ…いや、多少腐っていても良いか…薬草と解る物で有れば多少の傷みや劣化は問題ない」
一般的に出回っている薬用の薬草も、生の状態か乾燥の状態かの二通りに分けられる。特別薬効成分が高い薬草なら状態保存の魔法をかける事も有るのだがコスト面を考えると、基本的に生で売れなければ乾燥させてしまう。その中には傷んでしまう物も出てくるので、若干廃棄される物も出てきてしまうのは仕方が無いだろう。
「品質も拘らないとなりますと、それはもう大変な量となりますが…宜しいのでしょうか?」
中には虫喰や茎や葉が折れてしまった物、誤って踏みつけたり落としてしまった物も有るので、その為に廃棄予定の物も出てくる事も有る。
「想定しているので、それは構わない」
俺が買いに来たのは正にそういった薬草なので、問題は無いのだが…。
「それに…申し上げにくいのですが…傷みや劣化となると…廃棄予定の物も含まれてしまいますが…」
商売人としては廃棄予定の物を品物として扱う事に抵抗が有るのだろう。
「それも問題無い、廃棄予定の物も含めて品質の悪い物を買いたい」
「そうなりますと…私共の倉庫で在庫の状況を確認して頂けると宜しいかと思われますが、倉庫に行かれますか?」
店員は少し考えてから倉庫に行く事を提案してきた。俺的には全く問題無いので、拒否する理由が無い。
「解った、倉庫で在庫を見させて貰えるとこちらも助かるよ」
「解りましたそれでは倉庫にご案内致しますので少しお待ち下さい」
倉庫に行くのに代わりの店員なり引き継ぎなりが有るのだろう、そう言うと店員は一度店の奥に入って行った。
今日は少し冷えますね…。




