おっさんは我慢できるよ!
続きです。
暖かくなりましたね。
「ん、ん、ん!粗末では無いのなら見窄らしいと言った方が理解し易いかな?」
待て待て待て、少し落ち着こうか俺!一度深呼吸をしよう!「はい、スーーハーースーーハーー…」…少しだが落ち着きて来た。もう一度深呼吸をしよう「はい、スーーハーースーーハーー…」良し、もう大丈夫だ。俺は我慢出来る、俺は優しい、俺は出来る、俺は…
「何だブツブツ言いやがって、気持ち悪い野郎だな!」
俺が自分を宥めていると護衛の一人がそんな事を言ってきた。明らかに俺を見下した言いようだな。雇い主が雇い主なら雇われる方も雇われる方だな、何と言うか見た目が派手で高価な物を身に付けていたらその者の実力も高いのか?実力も見た目で判断されるのか?
確かに分相応と言う言葉の通り、身分に相応しい立ち居振舞いをしなければならないのだが、俺のこの地味な衣服の素材や技術はとても金額では表す事の出来ない代物なのだが、これを見て理解出来ないので有れば実力もその程度なのだろう。
まあ、そこそこ程度の実力しか持たない者に俺が目くじらを立てる必要も無いか。俺からすれば目の前にいる者達は吹けば飛ぶ程度の存在だからな。
うーん、まともに相手をしていたらダークサイドに堕ちそうだ…適当にあしらって然るべきだな。
「そうか、それは済まなかった。俺は生産職なので魔法を使う者の常識には疎くてね、ご忠告感謝する!」
「ん、ん!解れば良いのだよ!私の様な選ばれた人族の言う事を聞く耳が有るのなら、私達のお陰で生活出来る事に感謝したまえ!」
何だ何だ?えらく横柄だな、魔法使いか魔術師か魔導師か知らないが今の時代はそんなに魔法を使う者が持て囃されているのか?事前に調べてみた時にはそんな事は無かったと思うのだが?
「リグードさんいらっしゃい、先客と交渉中なので少し待って頂けるかな?」
俺が少しモヤモヤしている所に、店主の爺さんが裏の部屋から戻ってきた。ナイスタイミング!?…タイミングが良すぎないか?どっちだ?
「ん、良かろう。店主がそう言うので有れば少しだけなら待つとしよう」
「申し訳ない」
店主の爺さんも何か腫れ物を触るような態度だな。余り関わりたくは無いが商売上関わらずには居られないのかな?
「で、お前さんの注文の品だが…」
店主の爺さんは自分の肩幅より狭い木の箱をカウンターに置くと、中から魔石や魔法石を次から次へと取り出した。空間拡張か次元収納の魔法が掛けられている箱なのだろうが、中から取り出された魔石や魔法石の量を見たところ重量が軽くなっているみたいなので次元収納の類いだろうな。空間拡張と重量軽減の二つ魔法が掛けられている可能性も有るがな。
「取り敢えずこの店に有る在庫で、予約や交渉中では無い品を全て持って来た」
カウンターに並べられたのは約30個程の、魔石や魔法石だ。色とりどりで、どれも色合いが濃くそれでいて鮮やかなので、色にクドさやムラが無い。大きさも握り拳大以上の物ばかりで、それらの中に内包された魔素も濃密で安定しており不純物も見当たらない、質量共に間違いなく一級品だ。
「これはまた、随分と良い物を扱っているな」
「それは半分はワシの趣味で集めた物も含まれているからな、これらの価値と品質が解る者になら売っても良いとは思っているのだが…」
店主の爺さんはチラリとリグードと言うおかっぱ頭をほんの一瞬だけ見てからそう口にした。
価値と品質とわざわざ口にしたのは金額で物の価値を判断する物が居るからなのだろうな。俺の後ろで店の商品の金額を見て、良し悪しを決めながら物色しているおかっぱ頭の様に…。
金額の高い物は良い物で金額の安い物は悪い物、金額が一応の基準にはなるがそれが全てでは無い。安くても良い物は沢山有るし、その逆もまた然り。安くても良い物とは作り手側の努力の結晶なので、俺も使っている物も有るし作り手側にコストを下げる方法の提案をした事も有ったよな。…何だか話がずれて行っているな…。
…何の話だったかな?
ああ、そうだった…確かに仕事と趣味が混同してしまう事は良くある話だ。その逆もまた然り。趣味が仕事になってしまったと言うのも良く聞く話だ。
「おう、全て買わせて貰うぞ!」
俺は元々全て買い取るつもりだったので、現物を見た瞬間に品質や保存状態の良さが見て取れたので即答した。
「…だが物が物だけに、値段は負けられないが良いのか?」
だが店主の爺さんはまさか本当に全てを俺が買い取るとは思っていなかったのか、目を見開き俺を凝視したまま固まっている。
「相場より高く吹っ掛けられたら無理だけど、常識的な価格でなら買うよ」
「…これだけの量を…まさか本当に買い取るのか?」
店主の爺さんの目が点になっているな。これだけの物を集めるだけでも、掛かった労力と時間と金額を考えるとそれは相当な物だったのだろう。
「初めからそう言っていただろ。この魔石と魔法石は全て買い取らせて貰うよ」
「冗談かと思ってこれだけの物を出して来たのだが…」
まさか冗談と思われて居たとはな…初めて来た店だからな、冷やかしか何かと思われたのか?
「何だ何だ俺が冷やかしに見えたのかい?」
「これだけの量だぞ、実際に見せたら引くかと思ったのじゃが…」
引くって…確かに金が有るから魔石や魔法石を買いに来たと言って、「はい、そうですか」って、これだけの物を目の前に出されたら普通の人族なら引くかもな…。俺は事前にこの店の在庫の状況を調べていたから、全くの想定内だったけど。…その事はとてもじゃないが言えないけどな。
「いやいや、買い取るだけの金は持っているって言っただろ!」
「これだけの量になると、領地持ち大貴族か大手商会の財政規模じゃないととてもじゃ無いが買えないし、もし買ったとしてもこれだけの量は個人レベルだと使いきれないぞ」
何だそんな事か領地持ちの大貴族とか大手商会とか、直接では無いが彼らに商品や技術を卸したり売ったりしているし、新たな発明品や既存技術を発展させた物も彼らには卸しているから、そんなこんなで気が付いたら俺に金が入ってくるシステムが出来上がっているんだよな!なぜだ?
「だから金は有るし俺は生産職だから、これくらいの量なら使いきれると思うぞ」
「じゃが、やはりお宅の見た目が見た目だからな!」
おいおい、やはり見た目なのか?これじゃ振り出しに戻ってしまったじゃないか、俺は楽しく買い物をしたいだけなのに…。
「またそれか!やっぱり見た目で判断されるのか…」
「ん、ん、ん、見窄らしい者が店主と揉めるとは、何か因縁でも付けているのかね?」
…何でこう言う時に限って話に混ざって来るんだよ…!やっとおかっぱ頭の存在を忘れかけていたのに…お前さんは大人しく店内の商品でも物色していてくれ!
「…いや、特に揉めてはいないけど、店主と交渉中なので済まないが席を外して貰えないか?」
俺は一応最低限の礼儀は弁えて居るつもりだから、ここは下手に出てみたのだが…。
「ん、ん、中々良さそうな品では無いかね!こんな見窄らしい者よりも、私にこそ相応しい品ではないのかね?」
いやいや、今俺が交渉中って言ったよね…。このおかっぱ頭は最低限の礼儀もなっていないのか?それとも成金は何をしても許される町なのか?
「リグードさん申し訳ないがこの人と交渉しているので、もう少し待って頂けないかな?」
おお、店主の爺さんも言う時には言うな、それは俺に対してもだけど…。
何か段々嫌な予感がして来たのだが気のせいか?おかっぱ頭の目が更に細まりそして顔が少し引き攣って来たし大丈夫か?俺は何か地雷を踏んだのか?それともそれ以外の意思で何か騒動に巻き込まれるのか?
何故か今日は俺の回りにトラブルの気配がしているのだが、俺ってそんなに運が悪かったっけ?
ってか、昼間は暑いですね…。
宜しくお願い致します。




