おっさんは地味
続きです。
春ですかね?
暖かいです。
俺が店の中を見て回っている間に先客と店主の話は纏まったのか、お互いが皮で作られた巾着袋を交換すると先客は店を後にした。先客が出した革製の巾着袋にはお金が入っていて、店主が出した革製の巾着袋には商品が入っていたのだろう。先客が店から出ていく時に他の客達も後を追うように出て行ったので、先客の護衛だったのかな。
先客やその護衛達がいなくなってしまったので、店の中の客は俺だけになってしまった。俺は目的の物を買うために、カウンターへと近付いて行った。
「いらっしゃい、何か入り用かな?」
店主の爺さんはとても好好爺とは言い難いがそこは流石にプロの商売人、愛想笑いなのだろうが本心を読ませない程度には良い笑顔だ。
「ああ、唐突で済まないが、出来るだけ高品質で大きな魔石か魔法石の在庫は無いだろうか?」
俺の言葉を聞くと店主の爺さんの俺を見る目付きが、少し変わった様に見えた。
「在庫か…有るには有るがお宅の見た目はどう見ても見習いの格好だが、高額な代金を支払えるだけの手持ちは有るのかい?」
「ああ、見た目は気にしないでくれ。なるべく目立たない服装を選んだらこれしか手持ちが無かったのでこんな格好をしているだけだ!」
うーんやはりこの服装は地味すぎたかな?山でも町でも目立たない様に地味な色のローブを選んだのだが、どうも見習い魔法使いにしか見えないらしい。こんなおっさんが見習い魔法使いっておかしいとは思わないのか?もっと俺の存在感とか、立ち居振舞いとかを見て判断出来ない物かね?
「ほう、そうなのかい?確かにどこから見てもいい歳した大人がする格好では無いな、逆に目立つと思うがな」
「そっそうなのか?目立っていたのか俺は…?」
なんか、今この時代の感覚では地味な色のローブ=新人や見習いの認識らしい。もっと材質とか素材感とかを見て判断出来ないのか?このローブの素材は超が付く程希少な素材なのだが…見た目って大事なんだな…!
「まあ、回りからは少し変わったおっさんには、見えたかも知れないな?」
「マジかー!そうなのなら違う服に着替えた方が良いのか?パッと見で豪華そうな服装とかに?」
うーん、人を見た目で判断するとは…初対面なら有り得るかな?しかし、豪華そうなローブとかは持ってはいるが余り好みじゃ無いんだよな…。
「まあ、これはワシの感想なので他の者がどう見るのかは解らんがね!」
「成る程!じゃあ他の者の感想次第で、どうするか決めよう!」
あくまでもこの爺さんの意見なのか?それなら今は気にする必要は無いか。まあ、どう見られようとも俺は俺以外の何者でも無いしな!
「実はあんた、ワシが言った事を余り気にして無いだろう?」
「ははは、バレた?実は余り気にして無いかな!」
年の功か?経験か?なかなか侮れない爺さんだ!俺も別に隠す必要を感じて無いからどうでも良いのだか。それとも鎌をかけられたのか?
「全く何とも図太い御仁だな!」
「まあ、良く言われるから気にはしない事にしている!」
俺にとってはどうでも良い事だ。俺は俺の趣味のために、全力を尽くす事をモットーにしている。一々他人の目を気にしていては、研究や発明それに物造りなんてして居られない。
「はあ、全くワシなんかが口出しする必要も無かったか、とんだお節介だったみたいじゃし!」
「まあ、そう気にするな爺さん、忠告は有り難く覚えておくよ!」
そうだ俺は人の意見を聞ける大人なのだ。それを実行するかどうかはまた別の話にはなるのだか…。
「はあ、それなら良いのだが…」
「それよりも爺さん、俺が言った品は置いているのかい?」
それよりも、俺は買い物に来たんだ。確かに初対面の人族とのコミュニケーションはその人と成りを知るためには大事だが、俺はどちらかと言うと余り人と話すのは得意な方ではないからな。
「有るには有るが、物が物だけにチト値は張るがお前さんに払えるのかな?」
「はっはっはっ気にするな爺さん、こう見えても俺はそれなりに金持ちだから金額の事は気にするな!」
余程この格好が気になるのか?それとも俺が草臥れて見えるのか?もっと俺の内面を見てくれれば良いのにな!
「そうかそれなら良いが、で、どの程度の大きさとかの注文は有るのかい?」
「さっきも言ったが高品質で大きければ問題は無い、有るだけ全て買い取ろう!」
やっと納得してくれたと思って良いのか?一軒目からこれでは先が思いやられるな…。今日はまだあと何軒か回る予定なんだがな…。
「見た目によらずとんだ御大尽様じゃな!」
「まあ、昔はそれなりに稼いでいたし、蓄えもそれなりに沢山有るし、今でも現役で稼ぎ捲っているからな!」
ここは俺が出来る大人という事をアピールしていた方が良いだろう。折角買い物に来たのに、俺の欲しい物を出し渋られでもしたら時間の無駄だからな。
「解ったよそれなら少し待って居てくれ、裏から持って来よう!」
「ああ、待たせて貰うよ」
そう言うと店主の爺さんは店の奥に入って行った。店主の爺さんが戻って来るまで俺は特にする事が無いので、大人しく待たせて貰う事にする。先程この店の商品は一通り見てしまったので、さて何をして待って居ようかな?
そう思って居たら「カラーンコローン」って音が鳴って、店の入り口のドアが開いた。俺が店に入る時には聞こえなかったから外からは聞こえない様になっているのか、それとも店主が店頭に居ない時に鳴るのかは解らない。そう言えば先客が帰る際には鳴らなかったから、後者かな?
と、そんな事を思っていると豪華そうなローブ纏った40代位の男と、その護衛なのだろう腰に剣を佩いた皮の鎧を纏った30代位と20代位の男の3人が入ってきた。
「ん、?店主は奥か?」
40代位の男の目は細く、だからそう見えるのか目付きが悪い印象を受ける。おかっぱっぽい髪型に細長い顔に鷲鼻、更に口には八の字形の口髭を伸ばしていて、態々固めているのか、綺麗に整い過ぎている。いかにも金が掛かっていそうな派手なローブを身に纏い、両手の全ての指には指輪が嵌められておりその指輪に付けられたのは宝石では無く、魔石や魔法石だった。
どう見ても製作や生産系の職人等では無く、魔法を扱う事を生業にしている者なのだろう。
独り言なのか俺に言っているのかは解らないが、俺は最低限の礼儀を弁えているつもりなので一応答えておく。
「ああ、店主の爺さんなら俺が頼んだ物を店の奥に取りに行って貰っているよ」
俺は親切に答えたつもりなのだが、それの何処が気に食わないのか豪華なローブを纏った男の目付きは更に細まり、纏わり付く様な視線で俺を睨め付ける。
護衛の2人も俺と豪華なローブを纏った男との間に立って、見下した様な目で俺を見ている。まあ、所謂類友と、言う奴かな?(死語かな?)
「ん、ん、ん?そんな粗末な物しか身に付けられない者が、この店で買い物をするだと?来る店を間違ったのでは無いのかな?」
…やはり今の世の中では、見た目で人は判断されるのか…!もっと俺の内面的な物を見て、判断出来ないのか?
「…粗末って、そう見えるのか?」
粗末とは初対面でいきなり失礼な奴だな、俺がもう少し若かったらシバキ倒している所だぞ!
…そう言えば俺がまだ若かりし頃、確か成人して少し経って名前が売れ出した頃だったかな?その頃に招聘されたので訪ねた国が有るんだが、その国の何とかって王子が喧嘩を売ってきたっけ?若い俺を見るなり、こんな若造に何が出来るのかとかハッタリやインチキだとか何だかんだとイチャモンを付けてきて、終いには決闘騒ぎになったっけ…。
そしてその国の国王立ち会いの下での決闘で俺が完膚無きまでにボコボコに叩きのめしてやったっけ!その時は頭に血が上っていたので何とも思わなかったが、後になって冷静さを取り戻した時には何という事をしてしまったのだと、滅茶苦茶焦ったのは良い思い出だ。
結局国王からのお咎めも無く、逆に良くやったと褒められたのだった。最近、王子の横暴さが目に余っていたので国王もお灸を据えなければと思っていたそうだ。
その事が切っ掛けになってその国の王族とは件の王子も含め、長らく善き友人として迎えられていたっけ…。
イカンイカン思い出に浸っている場合じぁ無かった。ここはひとつ冷静にならないとな、俺は平和主義者で優しい空気が読める大人だからな。
宜しくお願い致します。




