3.床ドン♡ ~同級生からの告白~
「○○さん、手袋貰ってください‼」
「は?」
区の図書館で、私は白い手袋を貰った。
モコモコの、白い手袋。
真夏に、手袋。
しかも、白の子どものアザラシが焼きトウモロコシを食べているという、なんともミスマッチなイラストがプリントされている。
「いや、○○君、真夏に手袋って」
私は、あれかと思ったが黙ってた。
どうせ、私が真夏でも半袖を着ないからか。
冷え性であることの、新手の嫌がらせか……?
そう暗に言われているようで少し腹が立つ。
○○君は、区の図書館で出会った本の虫の同士だ。
中学校は別々。
そして、受験生というのも共通点だった。
進学校の私立高校をお互いに目指している。
きっかけは同じ参考書を手に取ろうとしたこと。
それからの付き合いだが、まだ日は浅い。
「ちょっと来てください」
○○君はいきなり私を立たせると、辞書ばかりが並ぶ陽射しがあまり届かないコーナーに連れていく。
ちょおっとこれは怪しげな……。
眼鏡を上げつつも私は付いて行く。
背中を見ているうちに、私は気付いた。
あれ? と。
背が伸びている気がする……。
出会ってそう日が経ってないのに、○○君は背が伸びた様だ。
男の子って、今が成長期なのかな。
もっと背がのびたら、私なんか見下ろしてしまうんじゃないかな……。
私はそんな雑念に囚われていた。
そして、ふるふると頭を振る。
いいや、私は今が大事な受験生じゃないか、男の子に気を囚われてちゃいかん!
「○○さん下!」
急な○○君の声がした時。
ズルッ、ベターン!
「きゃあっ!」
私は見事に床の何かに滑って転ぶ。
「あ痛たた……」
「大丈夫ですか⁉」
気付くと、○○君の顔が近くにある。
私はスカートにもかかわらず図書館の床に大の字になって倒れていた。
「大丈夫だから」
顔が近い!
そう言おうとした時。
ふと、○○くんが真顔になった。
ドキリとする。
ドン!
気付くと、
「床ドンというやつです」
○○君に床ドンされていた。
「はあっ? 待ってちょっと待って!」
「待ちません」
私は慌てて眼鏡を探す。
さっき滑って転んだ時に吹っ飛ばしたらしい。
私は視力が悪い訳ではない。
所謂真面目を演出するための伊達眼鏡だ。
あともう一つ。
「○○さん、瞳が大きいんですね……」
○○君は初めて気づいた様に言った。
そう。私の伊達眼鏡の理由はもう一つ、このデカい瞳が嫌いだからであった。
「私は嫌いよこの瞳。ってゆうか手退かしてよ!」
「嫌です」
○○君は結構強引な性格の様だった。
ふと怖くなる。
「……すいません。熱くなり過ぎました」
私の顔色を見て取って、○○君が手を退かす。
その場はシーンとなってしまった。
「……○○さん」
「何よ……」
三分くらいだったろうか、静寂が続いた後ようやく○○君が言葉を発する。
「その手袋をして、初詣行きましょう」
「は?」
いきなりで分からなかった。
「好きなんです」
「……はい?」
「床ドンするくらい、好きなんですから! 僕は大真面目です」
一気に言われてしまった。
「顔、真っ赤ですよ」
言われなくても分かる。
「……受験、受かったら付き合ってもいいわよ」
私は、何とかそう言った。
手袋をして、○○君と、初詣。
その時に、神様に願うこととは、何になるんだろうな。
こうして、私の初詣の予定と、未来の彼氏持ちの予定が、決定していた。
お読み下さり、本当にありがとうございます!