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1.天界の行政

あらすじにも書きましたが、この小説は今、別で書いているハイファンタジーが行き詰っているので気分転換に以前執筆してほったらかしにしていたものを追記修正したものです。


ある程度書き溜めがあるのでそこそこのペースで投稿できると思います。

 「死んだ?」



 いきなりの宣告に理解が追い付かず、困惑と疑問が混ざった声を上げる男。


 いつの間にか椅子に座っており、周りを見渡すとここが小さな部屋だということが分かった。ただ、なんとなく普通の部屋ではなく、表現が難しいが『妙に慣れ親しんだ感覚があるのに、現実っぽくない。でも夢ではないと断言できる』みたいなチグハグな雰囲気だった。


 目の前にいるおそらく男であろうは言った。おそらくというのは単に顔だけ見て判断したからだ。彼の背中からは純白の大きな羽が三対、頭の上には光輪があり、着ているものもファンタジーの魔法使いが着ているようなローブだがコスプレや作り物には見えなかった。



 「はい、その通りです。享年二十七歳。夭折(ようせつ)をお悔やみ申し上げます」


 「そんな馬鹿な、いや確かに会社帰りに横断歩道を渡っている最中で記憶が途切れてはいるけど……」


 「ええ、信号無視のトラックに轢かれたみたいだね。あ、申し遅れました。私はあなたの担当天使です。

 ここは天界もしくは神界と言われている場所です。まあその天界や神界にもいろいろ種類があるんですが、ここは転生を担当している天界と思ってください」



 あまりにもあっさりとした解説に男は絶句するが天使はそんなこと気にせずに話を続ける。



 「それでですね、あなたには新しい人生を歩んでいただくことになってます。あなたの場合は赤ん坊からやり直すのではなく、生前と同じ身体のコピーにあなたの魂を入れるタイプですね。

 異世界転生って聞いたことありません?」


 「あー、知ってます、いくつか読んだり見たことがあるんで。うーんでも……異世界ですかぁ……」



 なぜだろうか、男は理解しようとしているわけでもないのに話していうる内に自分が死んでしまったという確信が持ててしまった。つまり、とりあえずこの目の前の天使の言うことを聞くしかない。



 「おや? 何か問題でも? 言葉に関しては心配いりませんよ。こちらで大丈夫なように取り計らいますから」


 「いや問題っていうか……」



 天使に問いかけられ男は考え込む。


 男はマニアやオタクと言われる程熱狂的ではないがサブカルチャー好きだ。しかしどちらかというとファンタジーよりはロボットものの方が好みだし、だからといってSFの世界に行きたいわけでもない。そんな世界に行ったって一週間と生き残れる自信がないからだ。

 


 「いやぁ、今までほとんど実家暮らしだったしイマイチ自信ないんですよね、その異世界で第二の人生っていうの。でも同じ世界に転生するってことも出来ないんですよね?」


 「出来ますよ」


 「あーやっぱりね……。……? なんて?」


 「元の世界にも転生できますよ」


 「出来るんかい!」



 予想外の返答に思わず大声を出してしまう。それならば話は簡単、元の世界に転生するだけだ。天使に方法を尋ねると、いったん彼は席を外し奥の部屋に入って行った。数分すると戻ってきたがそ両手には溢れそうなくらいの大量の書類を抱えていた。



 「えーと……同じ世界の同じ国に人間として転生する場合はまずこの申込用紙に前世の個人情報を書いて――」



 言われた通りに住所やら名前やら職業やらを書き込んでいく。なぜか好物や趣味だけでなく初恋の女性の名前や性癖やなんかを書く欄もあり、一瞬手が止まったが厭々ながらも書く。



 「こっちの用紙を“神界市役所”の転生課に持って行って~」


 「神界市役所……」


 「そこで転生助成申請が通ったら“生まれ変わり援助の会”で大まかなシステムの説明を受けて~」


 「生まれ変わり援助の会……」


 「“天界国立心療医院”で精神鑑定を受けて~」


 「天界国立心療医院……」


 「“神界来世スキルアップサービス会社(委託)”で来世のスキルマップや将来設計の作成をして~」


 「神界来世スキルアップサービス会社(委託)……」


 「そのころには精神鑑定の結果が出てると思うからその診断書を持ってもう一回“生まれ変わり援助の会”に言って説明をしてもらって~」


 「いやちょっと待てよ!」



 いっこうに終わりそうにない説明に思わず声を大きくして制止をかける。



 「何でしょうか? まだまだやらないといけないことはありますよ。あ、このあと“天界国立医院”っていうのが出てきますけど“天界国立心療医院”とは別物ですから間違えないでくださいね」


 「まだあるのかよ! しかも紛らわしい……ってそうじゃない! いやそれも一言いいたいけど! それよりなんなんだその行政の悪意と無駄だけを抽出して醸造したような申請手順は! 生まれ変わり援助の会なんて一回目に行ったときに全部説明しておけよ!」


 「ここみたいな低位の天界は大変でね……無駄な作業や部署をたくさん作ることで予算を水増し申請してるんですよ」


 「し、知りたくなかったそんなの……転生って下っ端の仕事だったんだ……」



 がっくりと肩を落とす天使にあまりにも辛気臭いというか世知辛い真実に思わず二の句が継げない男。だが同時に気になることもあった。



 「……ん? ちょっと待てよ。もし同じ世界に転生するとして、その申請って結局全部でどのくらい時間かかるんだ?」



 そう、ここまで複雑になったシステムで速やかに転生が出来るわけがない。生前だって何かしら申請しても一週間一ヶ月、時には一年くらいして忘れてた頃に通知書が来ることだってあった。



 「そうだねぇ、早ければだいたい十神年ってとこかなぁ」


 「十……なんて?」



 十という単語が聞こえた時は正直めまいがしたがそれはまだいい。今の自分は死んでいるんだし気長に待てばいい。だが気になるのはそこじゃない。



 「十神年だよ。ってああごめんなさい。私達が使っている単位じゃ分からないよね。えーっと神年っていうのは私達神族が使ってる単位で、一神年は人間達で言うところの、五十四万年だね。

 異世界転生なら十秒くらいで終わるけど」



 その答えにどう反応したらいいのか分からず、絞り出すように訊ねる。



 「なんで異世界に転生するのと同じ世界に転生するのでそんなに変わるんだ?」


 「異世界に転生するときはクジで引くだけだからね」


 「なんで?」


 「さあ? 昔からの由緒正しい転生方法らしいよ?」


 「捨ててしまえそんな由緒」



 ペッと唾を吐き捨てたくなる衝動を何とか抑えて男は考えた。十神年=五百四十万年、何日になるかは計算したくないほどの時間。


 先ほどから聞いているとこの天界とやらもそこまで居心地のいい場所ではなさそうだ。おそらく娯楽なんてないんじゃないだろうか? いや、あったとしても五百四十万年という人間にとっては永遠といっても過言ではない時間打ち込めるだろうか? 


 一万年どころか千年だって想像できない。しかも早くて十神年なのだ。


 もうこうなっては選択の余地はない。男はゆっくりと口を開いた。



 「……る」


 「え? なんて?」


 「異世界転生……する……」


 「おお! ご理解ありがとうございます。安心してください。そのまま放り出すわけではありません。転生先の神職の方がある程度説明してくれるし、転生者には神からの祝福が与えられます。まずはこちらのくじを引いてもらって、この部屋を出れば晴れて第二の人生開始です。

 転生後は余程のことがない限りこちらからの干渉はありません。というよりできません、かなり高位の存在でなければね。あなたの好きに生きてください。あと、名前ですが生前のものは使えないのでなにか自分で考えてくださいね」


 「うーん……正直なところ天界の行政事情を知った後だとその祝福とやらにも少なくない不安を感じるんだけど……」


 「大丈夫ですって」


 「その自信はいったいどこから来るんだ。この十分で作りました感満載のくじ箱からか?」


 「失礼な、段ボールっていうのはいらない時はたくさんあるのにいざ使おうと思ったら見当たらない困ったやつなんですよ? 探すのに二十分と作成に十分で三十分くらいはかかりました」



 「そういうことを言っているんじゃなくて……」と言いたい気持ちを抑えてクジを引く。こうなったら少しでもマシな祝福とやらを貰うしかない。


 引いたクジは金色だった。規則らしく祝福の内容は転生するまで明かされないらしいが天使が言うには大当たりらしい。 



 「あ、そうだ。確認し忘れていたことがあったんだ。トラックに轢かれた俺の遺体って元の世界に残ってるのか?」


 「遺体ですか? えーと……はい、残ってますよ。お、丁度今火葬されようとしてますね。一緒に見ますか?」


 「見る訳ねーだろ」



 そう吐き捨てながらも一旦はホッとする。信号無視だしトラックの運転手にはなんの感情もないがとりあえず遺体があるなら生命保険が下りるだろう。受取人は両親だ。独身だし親より先に死ぬのはかなりの不孝者だが最低限金銭に関しては迷惑をかけずに済むことになる。


 それと同時に、遺体が残っているなら確かに同じ世界に転生するっていうのは難しいことなのかもしれないな、と無理やり自分を納得させた。


 後ろから「わーすげー燃えてる燃えてる」という呑気な言葉を聞こえてきたので、「二度目の人生が終わったときもあの天使だったら殴ってやろう」などと思いながら扉に向かう。


 眩い光が視界いっぱいに広がり意識が途切れた。




◇◇◇◇◇◇◇◇




 「ふー、長い間この仕事してきたけどあれを引くとはあの人も運が良い」



 いつぶりだろうかあの当たりクジを見たのは。長い歴史の中であの当たりクジ自体は沢山出ているが、今まで転生していった総数から考えると圧倒的に低い確率なのだ。


 説明した通り、一度下界に降りてしまえば余程高位の存在でなければ干渉はできない。たしかにハズレの祝福も存在するが、そんなのに当たるのは救いようのないくらい魂が腐っている悪人だけだ。


 ほぼ全員がそこそこの祝福を貰って転生できるようになっている。


 しかし、その中でもあの大当たりを引いた彼だ。良い人生を送れるだろう。などと思い鼻歌を歌いながら書類を整理しているとハラリと何かが落ちる。


 一枚の紙だった。最重要であることを示すハンコが押されているが見たことないな、と思いつつ手に取り読んでみる。



 「ええーと……なになに……“金クジを引いた場合の転生者への教習”ね。ふむふむ……そのまま転生させてはいけない、転生させる前に必ずバディを選ばせる。ほうほう……必要ならば魔力を増強することを絶対に忘れてはいけない……なぁるほどぉ~」



 そういえば、この仕事に就く前そんないくつかの例外事項を教えられたような記憶もある。この書類に書かれている教習とやらを行わなかった場合、彼がどのような人生を送るか想像して――。



 「やっべ……」



 机の上の『受付中』のプレートを『離席中』に変えることも忘れ、慌てて部屋を飛び出した。

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