万能メイドは超強い
俺たちがバーベキューで一息ついたところでタイミングよく報告が入ってきた。
「どうやら王女が向かったのは聖国、それからもう一体高い魔力を持つ者が魔の森方面に向かったらしいわ」
聖国は教会が治める国。創造神を奉る総本山。そして驚いたことに魔の森にも誰かが向かったという報告。
「おそらく四獣の残り一体、コキュートスドラゴンでしょうね。でもどうして魔の森に?」
「あそこにあるものなんて一つしかねーだろ」
森の主であるコクロは腹いっぱいになって眠っていたはずなのだが、あざとく耳だけを動かして答えてくれた。
「当然狙いは俺たちだろうな」
確かに魔の森にあるものといえば聖獣フェンリル。おそらく狙いは聖獣の魔力。彼女の目的は女神ネリスの復活。それには大量の魔力が必要だと言っていた。俺たちSランク冒険者から奪えなかった分の魔力を聖獣で補おうとしているようだ。
「それなら聖国に向かってる理由も説明が付く」
「まさか聖国に聖獣がいるのか?!」
アモスさんが驚くのも無理はない。そもそも聖国が称える神とは創造神ロキ、そして聖獣はこの世界ができたときからこの世界に住む聖なる獣、元をたどればこの世界は聖獣たちが先住民、人間たちが侵略していきたようなものだ。だが、聖獣たちは人間たちを受け入れ共存を受け入れた。そのかわりお互い必要以上の干渉はしないと約束をして。それを良しと思わなかったのが女神ネリスと聖獣王エルシフルだった。ネリスは聖獣たちに世界を返すべきだと異を唱え、エルシフルと共に神に立ち向かった。だが、安寧を求める他の4聖獣とロキが結託してエルシフルを撃ち、ネリスを封印したと言われている。エルシフルを殺さないと言っていたロキは約束を破りエルシフルを殺害。それに怒った4聖獣は神との繋がりを一切断ったという。
「確かに聖獣にとって繋がりを断ったはずの神を最も信仰する聖国に居座るなんて非常識だと思うが、あいつは自分のいるべき場所にいる奴なんだよ」
どこか意味ありげな言い方をするコクロだが、俺としてはあの聖獣がただ変わっているだけだと思っている。聖国がというより気に入った主がたまたま聖国に仕えていたにすぎない。
「だけど聖獣が狙われているならなぜコクロを狙わなかったのかしら?一番近くにいるのはこの子だったのに」
「俺に勝てないと思ったと言いたいが、このメンツと俺を相手にして勝てると思わなかったんだろーぜ。魔の森ならいるのはフェンリルの片割れだけ、舐められたもんだぜ」
「隼人の家にはハイネもロビンもいる。危険はないだろうか」
どうやらリュートさんに修行をつけてもらっていたロビンは家に預けられているようだ。リュートさんが一人だったのでどこかに預けているとは思ったけど、なぜ家主である俺が知らないんだ。
「リュートさんを雇ったときに私が連れて行ったのよ」
俺の心を読んでいるかのように西城が口にする。そうなってくると家にある結界だけだと心配になる。並みの相手なら問題ないだろうがさっき戦った四獣もどきの一体だと考えると心もとない。
「俺は魔の森に行く。残りの配置は西城とサリーに任せて」
「いいえ、あんたは聖国よ」
「そうね、隼人って聖国にいる聖獣の主とも顔見知りなんでしょ。だったらこの中で向かうのはあなたよ」
「それにあいつに会うならあんたが行かないと会えないでしょ。ちなみに私は行かないからね」
聖国は信者の国。部外者でも招き入れてはいるのだが、聖獣の主は教会の中枢に近い人物なのでおいそれと部外者が立ち入れない。
「魔の森には俺が行こう。ハイネとロビンも心配だしな」
「なら私が同行するわ。隼人君が聖国に行くなら情報収集や連絡係として私が言った方が良いでしょ」
リュートさんとビオラさんが魔の森、俺とアモスさんとシンラが聖国。王都に西城とサリー、それにアリスとベイカーが戻ることとなった。
「(べ、ベイカー君と一緒に旅ができるなんてーーーーーーー!!!!!!)」
西城がクネクネしてうざいことになってる。どうせベイカーと一緒にいられるとかそんなことを思ってるんだろうな。
俺たちはコクロたち従魔がいるので移動手段には問題ない。西城も特注の馬車とサリーがいつの間にか手配した馬がいるので大丈夫。リュートさんたちを心配したのだが、ビオラさんが独自の移動手段があると言っていたので問題ないだろう。念のため西城とビオラさんが持っているアイテムボックスに三日分ほどの食料(料理)を入れておいた。食料ぐらい各々で調達できると思うのだが念には念を入れておく。
「リュートさんと西城は料理に手を加え無いこと!もう出来上がってる料理なんだからこれ以上何か入れたりやったりする必要ないからな」
「心配しすぎなのよ。流石に完成品に対して手を加えようとは思わないわよ」
「心外だ」
「2人とも言われっぱなしだな!!」「仕方ないよ2人の料理の腕は壊滅的だからww」
「アモスさんもシンラも人のこと言えないからな!」
2人とも楽観的なところは本当にそっくり。いっそのことこの2人でBL想像してやろうか・・・・・・・・・・アモ×シン・・・・・・・割といいかも。
「へんな事考えてないで行くぞ」
コクロが俺を無理やり背中に乗せると走り出した。多少強引ではあったが、ウチの可愛いコクロからのご褒美だと思えば安いものだ。
「でもコクロはハクトのこと心配じゃないのか?兄妹みたいなもんなんだろ?」
「力が落ちているとはいえ聖獣が獣風情に負けるわけねーだろ。それにあそこにはハクトよりも怖い姉ちゃんがいるからな」
「怖いお姉さんってユーリさんのこと?特に強者な感じはしなかったけど」
シンラは鋭敏な感覚を持っており、相手の力量なんかを見抜くことができるらしい。勘と言ってもいいほどに根拠がないのだが、ビオラさんでも見抜かれてたほどだからその信頼度は高い。
「ユーリは特別だからなぁ。怒りに任せて襲ってきた奴を半殺しにしてる可能性もある」
俺は自信を持っていえる。なぜならあの娘の戦闘能力は異常だから。俺が持つ“万能”という二つ名は本来あの子にこそ相応しいと思っている。
魔の森サイド
平穏な日常を過ごす隼人家。だが一瞬の森がざわつき2人の顔色が変わる。
「ハクトさん。どなたか存じませんが招かれざるお客様がいらしたようですけど、いかがしましょうか?」
「本来なら私がお相手するのが筋ですけど今回の相手は少々厄介なようです。できればユーリ様にお願いしたいのですが問題ありますでしょうか?」
「いいえ、隼人様のお家に招かれざるお客様は不要です。ここは万能メイドである私が完璧な対応でおかえり願います」
メイドと子犬の会話。それだけ聞けば平穏な場面なのだが、なぜか雰囲気がとても重々しい。
「ユーリの姉さん洗濯物たたみ終わったぜ」
「ユーリお姉ちゃん、庭のお掃除も終わりました」
勝気な獣人の少女と華奢な美少年。3,4歳ぐらいにしか見えない2人だが言葉遣いが年相応ではない。
「お二方ともご苦労様でした。ちょっと面倒なお客様がお見えになりましたので、私がお相手してきます。お二人はハクトさんから決して離れないようにしてくださいね」
「変な奴なら俺が倒してやるぜ。リュートさんに鍛えてもらった槍捌きをご覧あれってな」
獣人の少女はどこからか取り出した身の丈ほどの槍を振り回した。とても彼女の年で扱えるような代物ではない槍を手足のように扱っている。
「ロビンさんありがとうございます。私の手に負えない方でしたらその時はよろしくお願いしますね。それではハクトさんよろしくお願い致します」
ユーリは白い子犬に一礼すると玄関に向かって行った。
「なぁハクトさん、ユーリの姉さんって強いのか?」
「そもそも戦えるんでしょうか?」
子供たちが思うのも無理はない。彼女はこの家の主人である隼人に仕える従者、身の回りのお世話をしているイメージしか2人にはない。
「それなら見学しに参りましょう。後学のために解説も交えて差し上げます」
ハクトは子供たちを連れて庭先に移動する。もちろん子供たちに強力な結界を張っているため、被害が起こることは無いだろう。
玄関先ではメイド服姿のユーリとリザードマンに似た獣人らしき男が立っている。
「本日屋敷の主人である隼人様は外出中でございます。申し訳ございませんが、ご用件があるようでしたら日を改めていただけませんでしょうか」
どんな相手であっても失礼のない対応。メイドとしては完璧な所作で相手に物申している。だが獣人は全く反応を示さない。ゆっくりとユーリに近づくと腕を振り上げ持前の鋭い爪を振り下ろしてきた。
「申し訳ございませんが、ご無体なことをなさるということでしたら、この場はお引き取り願います」
間違いなくユーリに振り下ろされた爪は空を切り地面に深い爪痕を残すだけだった。当の本人はいつの間にかリザードマンの後ろに立っている。
「意思があるようにはお見受けできませんので、この場で対処させていただきます」
戦闘態勢に入ったのかリザードマンの様子が変わる。青い鱗を全身に纏い、背中から西洋のドラゴンに似た羽が生え、額から黒い一本角が現れる。無表情だった顔は荒い呼吸を繰り返し、獲物を狙う獣のような恐ろしい表情に変わっている。
「これは凛様がおっしゃっていた四獣の一体、凍土の竜・コキュートスドラゴンですか」
正確にはコキュートスドラゴンの力を一部取り入れた人間だろう。だが、あまりにも強大な力に支配され自我を失っているのだろう。
「それではお掃除を始めさせていただきます」
メイド服のスカートをつまみ上げ一礼した後ユーリの姿が消えた。
「遠き地より、炎獅子の咆哮が響く。ヴォルガニックレオ」
屋根の上に移動していたユーリは素早い詠唱から上位魔法を発動させた。それは炎の獅子。
「すげぇ!!ユーリの姉さんって魔術師だったんだな」
「あんな短い詠唱で物凄い威力。地面が焼けただれてます」
子供たちはド派手な魔法で興奮しているが、ユーリの表情は全く警戒を解いてはいない。氷を司るコキュートスドラゴンの弱点は火、趙火力の魔法なら効果抜群だと思われた。
「やはりこの程度では倒れてもくれませんか」
炎が一瞬で凍り付き、辺りの気温がどんどん下がっていく。
「確かに彼女の攻撃は人間にしては強力なものです。ですがあれでは焼け石に水ですわね」
強力な冷気を操るコキュートスドラゴンは巨大な氷柱を作り出しユーリへと放っている。
「罪を背負いし女傑・ジャンヌ」
ユーリの服装が突然変化する。ゴシック調のメイド服は無骨な鉄製の胸当てと黒を基調としたドレスに変わり、手には細身のレイピアが握られている。
「神よ、汝が罪を業火にて清めましょう」
祈りの体勢をとると先ほどユーリが使った魔法よりも熱量がある業火がコキュートスドラゴンを襲う。
「なんかユーリさんの雰囲気が変わったような。服だけのせいじゃないですよね」
「ハイネ様のおっしゃる通り、あれは彼女のスキルですわね。“役者”というスキルらしいのですけど、私も初めて目にしたスキルですのよ。空想上の人物や歴史上の人物になりきることで本人たちと同種の力を使えるという強力なスキルなのですわ。服が変わるのは仕様らしいですわね。お姉さまが瞬間装着のスキルがあるのではないかと興奮しておりましたわね」
「凛さんいっつもそのスキル欲しいって言ってましたもんね。それにしてもあの姿ってもしかしなくてもジャンヌダルクですよね。隼人さんが教えたのかな」
「ジャンヌダルクって俺らの世界にいた聖女とか呼ばれてたやつだよな。ゲームとかアニメでしか知らないけど」
「確かフランスの百年戦争っていう戦争の功労者だったはず。最後には異端審問に掛けられて若くして火あぶりの刑で処刑されたっていう」
「おそらくお二方の方が詳しいんでしょうけど、そのジャンヌダルクの役を演じているということらしいですわね。主様かお姉さまから教わった伝説の英雄なんかの役も演じられるとか。主様たちがいた元の世界では空想的なお話が多く存在しておりますから、それを吸収している彼女はかなり強力ですわよ」
つまりちゃんと演じることができればユーリはどんな空想的な技も魔法も使えるということ。
「もちろん実物を見て演じるものはまさに本人そのものと言えますのよ」
祈りの体勢を解きユーリの服装が変わる。
「付与魔導士・隼人」
長棍に青い羽織、キツネの面を頭に付けた姿は顔以外隼人そっくりだった。
「あれってハヤトさんだよな!!」
「実物になりきるってまさか!」
「紡ぎしは季節の女神、四季の包容を持て、我らに更なる加護を、仇成す者から力を奪え」
春の息吹、夏の光源、秋の恵、冬の波涛の4種の付与魔法の同時展開。隼人の十八番なのだがあまりに複雑な魔法式と多くの魔力が必要なため隼人以外では唱えることすらできない高等魔法。さらに付与魔法を施した後姿が変わる。
「戦姫・ロザリー」
ド派手な赤いドレスに見覚えのある鉄扇。その姿はアリスの叔母であるトライドル婦人だった。
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