愛の試練
ヒスイのお品書き
ヒスイ「愛ってなんだろう?
本日のお品書き
・愛の試練
・楽勝?
よく凛お姉ちゃんが言ってるから聞いてみよう!
愛の試練第一、力なくして愛は語れない。
「なんだ?この立て札。要は力を示せってことか?」
西城が捕らわれている?王城の門をくぐると一枚の立て札があった。周りを見回してもこの立て札以外は特に変わったものはなく、長い廊下が続いているだけだった。
「取り合えず西城は上にいるみたいだし、階段を見つけて上がっていくのがいいな」
RPGの定番ともいえるダンジョン攻略法だ。全員いつでも武器を使えるように手にしており、最低限の荷物以外は俺のアイテムボックスに収納している。
「前衛はベイカー、真ん中にアリス、俺が最後尾で進もう。各々無理しない程度に周りを警戒してくれ」
ぶっちゃけ俺の魔力感知があれば警戒はそこまで心配ないとは思うが、今回の相手はあの西城だ。俺の魔力感知も想定した試練を用意している可能性が高い。ゆっくりと進むと広い部屋にたどり着いた長テーブルや暖炉があり、客間や食堂と言った感じの部屋だ。だがそれにしてもやたら広い。学校の体育館ほどの高さと広さがある。
「外から見た限り、ここまで大きな部屋があるようにはみえなかったが」
「おそらくマジックバックと同じ原理で部屋の空間を拡張したんだろう(あいつならそれぐらい簡単にやりそうだ)」
「見てください!奥の脇に上への階段があります。あそこから上に上がれれば」
アリスが階段に近づこうとすると空から大量の魔物が落ちてきた。
「アリス!戻れ!!」
軽い身のこなしで魔物たちを避けるアリス。その種類は様々でウルフ種やスネーク種などの森に住む魔物からバード種にエレメント種などの空を飛ぶもの、さらには水陸を住処とするワニやカバなどに似た種族などもいる。
「力を示せってこいつらを全部倒せってことか!」
入ってすぐに魔物の群れなんてまるでモンスターハウスのような部屋。おそらく西城はそれを元ネタにして作ったのだろう。
「この数だと減退を全体には無理だな。その分を二人のサポートにまわすから各個撃破していってくれ」
春の息吹はすでに発動済み。ベイカーの剣にも一時的な強化魔法を掛ける。アリスの武器は弓とナイフ、装備だけなら狩人などの職をイメージするのだが、やっていることは親譲り。
「四種の矢よ、天地を貫く閃光となれ!」
弓の弦を引くと光の矢がアリスの手に握られていた。魔弓と呼ばれる魔力を矢として打ち出す武器らしい。さらにアリスの周りに4色の矢が宙に現れ、構えていた光の矢と一緒に発射された。
「(伯爵が得意としているエレメントブリットの矢バージョンか。連射数も威力も伯爵の方が何倍も上だけど、あの年で4種の属性魔法を同時展開できるなんてすごすぎ!)」
属性の同時発動は結構難しい。感覚で言えば両手両足全てで違う動きをしているようなものだ。俺は2属性が限界だった。
だが二人とも最初から少々飛ばしすぎな傾向がある。見えている魔物の数はそこ2,30と言ったところだが、倒しても空からどんどん魔物が追加されてきている。魔物一体一体は決して強くはない。だが尽きることのない魔物が相手ではいつか体力的にこちらが負けてしまう恐れもある。
「アリス、この部屋全体を攻撃できる手段はあるか?」
「あることはありますが、準備に無茶苦茶時間が掛かるので今の状態だと難しいかと」
流石に広範囲に攻撃する魔法をポンポン打つことはできないようだ。ならそれを可能にするようサポートするのが俺の役割。
「ベイカーとヒスイで30秒だけ前線を維持してくれ」
ベイカーは前方に炎の壁、ヒスイは別方向に水の壁をそれぞれ作り出し魔物たちの進行を食い止める。
「アリス広域範囲攻撃の準備を」
「はい!我構えるは剛腕の弓」
アリスが詠唱に入った。おそらく何十節もある長い詠唱だろう。イメージと魔力装填の時間づくりにも詠唱は有効な手段ではある。だが、そんな時間を省略できるのならそれに越したことはない。
「魔力強化、詠唱破棄、盾エンチャント」
最初の2つをアリスに向けて、盾は仲間一人一人を守るために展開。
「え?!魔法が完成した!!」
「アリス撃て!!」
「は、はい!アローレイン!!」
上空めがけて放った矢は巨大な魔法陣となり、矢の雨が部屋全体に降り注ぐ。しかも矢は4種の属性を付与しているようで火だるまになったり氷漬けになったり、岩に串刺しになったりと物凄い光景が広がっていた。
「な、な、な、なんなんですか!あの威力は!!」
放った本人が一番驚いている。
「私のアローレインは確かに4種の矢を降らせる魔法ですけど、あんな数と威力を出せたことはありませんよ!それに通常なら25節の詠唱が必要なのにほぼノータイムっておかしいですよ!!」
おかしいと言われるとは心外。ちゃんと既存の付与魔法なのだが。
「威力は単純に魔力強化、詠唱の省略はスペルエンハンスって魔法だ。スペルエンハンスは詠唱速度、つまり滑舌を物凄くよくする魔法とでも思ってくれればいい。両方とも単純に
込められている魔力の差だな」
両方とも数値で言うのであれば一桁の消費魔力だ。だが、俺の付与は単純に10倍は魔力を込めている。もちろんその分効果もあがる。
「ただ単純に魔力を多く込めればいいわけじゃなくて、効果時間や対象を絞ることで体への負担を減らしてるんだ。さっきアリスにしたのはアローレインの一発にだけ付与を掛けて負担を減らしてる。それじゃなきゃあれだけの魔力を送り込んでアリスの体が無事じゃすまない」
付与も過剰に掛けすぎれば体への負担が大きくなり、下手をすれば寿命が縮むなんてこともありえる。現代でいうならドーピングなので危険が全くないといえばウソだ。
「万能なんて呼ばれちゃいるが、付与魔法は決して万能ではないんだ。物や人に付与するにしても付与の限界はある。ベイカーに筋力増加の付与を限界以上に付与すれば内部から筋肉や神経を傷つける。それを正しく見極めるのも付与魔導士の仕事ってことだ」
一度自分に付与を掛けすぎて一時的に魔法が一切使えなくなったときのことを思い出した。師匠がいうにはあまりに強い魔力を使用したための麻痺だと言われた。一時的なものだったが、魔力を司る器官にダメージを与えかねない行為で下手をすれば一生魔法が使えなくなった可能性もあると怒られた。
「でも魔法一発に対してそんな付与をするなんて考えもしませんでした。付与魔法が不人気魔法と言われていたとはいえ、昔からある魔法だったのに誰もその可能性に気づかなかったんですね」
「俺からしたらなんで今まで付与魔法がそこまで不人気だったのかの方が分からんね。歴史的にも付与魔法が廃れていったのはここ百年ぐらいのことみたいだし、誰か付与魔法に恨みでもあったのかねぇ」
付与魔法が役立たずとか無能と呼ばれていたのは以外にもここ百年ぐらいのこと。それより前では後衛の攻撃魔術を使う術者と同じぐらい重宝されていたらしい。師匠も「なんでわざわざ弱くなることをしてるのかしらねぇ」とぼやいていた。
「だが隼人以外から受ける付与魔法は本当に微々たるものだぞ。それでいて自衛もできないからパーティーだと足手まといだと言われる。俺もそこまで極端に思うわけじゃないが、付与魔導士と一緒に依頼を受けるぐらいなら他の職と組む」
確かに付与魔導士は攻撃魔法が得意ではない。使えないことはないだろうが、敵を倒すほどの威力を出せない。魔力量ではなく問題がないので、単純に攻撃魔法のセンスがないのだ。かといって武器を持たせても術師のため筋力がまるで足りない。
「確かに付与魔導士の初期って弱いんだよな。魔力量も少ないし、敵を倒しているわけじゃないから技能が上がるってわけでもないからなぁ」
この世界はゲームにそっくりで敵を倒せば倒すほど強くなる。その理由は敵を倒した時に死体から経験値のようなものが漏れて倒した者に授与されるからだそうだ。だが、ゲームのように均等に振り分けられるわけではなく、敵に与えたダメージに応じて振り分けられるらしい。つまり付与魔導士にとってとても厳しい世界といえる。だが、方法がなくはない。ラストヒットを貰えれば経験値はもらえるのでパーティーならラストヒットを優先してもらえればいい。ある程度実力がつけば、優秀な付与魔法を使うこともできるし、減退などを使えば通常の攻撃魔法を与えた魔導士と同じぐらい経験値がもらえるらしい。
「減退を連射してるだけで経験値がもらえるんだから、むしろ育ちやすい部類なんだけどなぁ。昔はそれが当たり前って師匠も言ってたし」
「それが受け継がれなくて役立たずなんて呼ばれるようになったのかもしれませんね」
思いのほか付与魔導士について語ってしまった。2人の休憩も兼ねてだったので、そろそろ2階へと進む。
2階に上がったところにある立て札には
愛の試練第二、愛する者のことを知ろう。
愛する者ってもしかしなくても西城のことなのか?
「これってどういう意味なんでしょうか?」
アリスもベイカーももちろん疑問に思うのが当然だが、あえて知らないふり。
通路を進むと壁に文字が書かれており奥には3つのドアがある。
「えっと、アフロディーテ商会会長の凛の好物はどれ?
右:ショートケーキ
真ん中:桃
左:肉
ってなんだよこれ!!」
明らかに西城のやつ暴走してやがる。こんなのいくらベイカーでも怪しむに決まってる。
「アフロディーテ商会会長の凛って攫われた人だよな。俺は面識がないからわからねぇな。隼人かアリスは分かるか?」
凄い!なんの疑いもせずに真剣に考えてる!!
「お前この問題みてなんか変だと思わないのか?」
「なんか変なところあったか?単純に凛ってやつの好物を当てればいいだけだろ」
駄目だ。全くこの問題の趣旨が分かってない。もうベイカーはほおっておいて問題を考えよう。
「でもこれ全部西城のやつよく食ってたんだよな」
「私も凛さんと食事したことはありますけど、特に好き嫌いなくバランスよく食事をしていたように思った以外特には」
俺もアリスも答えが分からない。こういうときの定番は間違ったドアを開けたら罠が発動するとかそんな感じだろう。慎重に考えなければ。
「あ、ヒスイのやつドア開けちまったぞ」
「「え?!!」」
俺たちが悩んでいる間にヒスイは肉のドアを開けてしまったらしい。本人はとても楽しそうにしているので、おそらく自分が食べたい物のドアを開けたのだろう。ブッブーと効果音が部屋に響き渡り天井からこれでもかという刃物が降り注いだ。ヒスイにダメージはなかったが本人は大変驚いたのだろう、俺の胸に飛び込んできて(´;ω;`)こんな感じで泣いているようだ。
「よしよし、驚いたな。でも勝手にドアを開けたら危ないから今度からちゃんと俺たちに言ってから言うんだぞ」
俺の周りでも特に純粋で優しいヒスイちゃん。だが生まれてまだ数年しか立ってないベイビーなのでこういうところを見ると純粋に可愛いと思ってしまう。
「でも肉が違うってことは残り2つ、ショートケーキか桃か」
「あの隼人さんちょっと」
アリスが小声で俺に話しかけてきた。
「これってもしかしてベイカーさんが言えば全部当たりになるんじゃないですか?多分全部好物みたいですし、凛さんベイカーさんには甘々なところありますし」
確かにあいつの暴走状態だったらそれもありかもしれない。
「ならこうしてみるか。ベイカーはちなみにどれが好きだ?」
「え?俺!凛ってやつじゃなくて俺の好きな物聞いてどうすんだよ」
「まあまあ、俺たちも西城の好物は知らないから人気があるのが正解かと思ってな」
「でもこの中なら俺は肉だな。でもヒスイが開けてハズレっぽかったぞ」
ピンポンピンポンと効果音が流れ左側にある扉が開いた。
「お!当たりっぽいぞ!!まさかベイカーが当てるとはな」
「え?でもさっき」
「ベイカーさん、急いで先に進みましょう。こうしてる間にも凛さんは悪い人に何されるか分かりませんよ」
アリスがベイカーの背中を押して「ほら急いで急いで」とせかす。
「本当にあれでいいとは、本当にポンコツ状態だな」
ただ唯一納得できない様子のヒスイちゃんが滅茶苦茶怒っている。
「ヒスイには後で肉焼いてやるからな。それで機嫌直してくれ」
しょうがないとまんざらでもない様子のヒスイを抱いて俺も扉に入る。
それからの問題は楽勝だった。ベイカーの答えたものが正解となるように次々と正解のドアが開いてく。
「なんか俺が答えたものばっか正解になってる気がする」
「そ、そんなことないですよ!ベイカーさんのビギナーズラックの勝利ですよ!!」
アリスよ、それはなかなか苦しい言い訳じゃないか。
「そういうもんか。もしかして俺って直観力とかよかったりするのかな?!」
苦しい言い訳でも素直に信じてしまうベイカーに安堵するのだった。
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