Sランクの実力
ヒスイのお品書き
ヒスイ「暇なの暇なの、主たち今頃なにしているのかなぁ
本日のお品書き
・神速
・竜殺し
・黒の揚羽
なんか主の二つ名って地味だよね」
ココさんに棍を突きつけ不審な動きをすればすぐに拘束できるように魔法も準備しておく。
「私の目的はこの町をこんなにした黒幕をこの手で倒すことです。そのためにビオラさんにお願いしてここまで一緒に来たんですから」
「そこを疑っているわけではないですよ。ここが故郷ということも黒幕を倒したいと思っていることも嘘じゃない。それでも俺たちを罠にはめようとしましたよね」
ココさんはビクっと体を震わせる。ビオラさんの部下にしては感情が表情に出すぎている。おそらく根が素直なのだろう。
「ここまであなたの先導で着いてきましたがあなたの案内に迷いが無さすぎる。この通路に入ってから、あなたは一度も俺にもビオラさんにも方向の指示を仰がなかった」
魔力感知で場所が分かる俺や先行して隠し通路を見つけたビオラさんならともかく、中の構造を全く知らないはずのココさんが迷いなく進めるのはおかしい。
「それにこの先に大きな魔力を感じます。隠蔽のスキルで隠してるみたいですけど、ここまで近づけば流石に分かります。あの部屋に俺たちを誘導してどうするつもりだったんですか?」
「し、知らない!!私は、私はただみんなを助けるために・・・・!!!!」
急いで口を手で隠すが遅い。本当に根が素直なのだろう。感情が顔に出すぎてるし、ちょっとつつけばぽろっと喋ってしまう。この人本当にビオラさんのクラン(暗殺クラン)の人なのかなぁ?
「どうやら人質でも取られて従うように命令された感じですかね」
観念したようでココさんは少しづつ事情を説明してくれた。
「ビオラさんと別れて調査をしていたらメッセージを見つけたんです。私がお世話になっていた教会に“Sランク冒険者を連れてこい。逆らえばここに居た人間を殺す”って書かれた紙と地図が」
なるほど狙いはビオラさんだったわけか。そこに更に俺まで来たもんだから二人とも指定された場所に連れて行こうとしたわけか。
「敵はアンデットで私たちを監視していたようで、ビオラさんに相談もできなかったんです。ごめんなさい!でも教会のみんなは家族も同然で」
「別に怒ってないよ。ビオラさんがここを俺に任せてくれたのも君の負担を少しでも減らすためだろうし、悪いのは脅してきた相手側だ」
正直騙されてたと思うほどなにか被害にあったわけじゃないし、ココさんが自分を追い詰める前に白状させることができてよかった。
「問題なのは俺たちをこの先に集めて何をしようとしてたかってことだ。それは聞いてないんだろ?」
「は、はい、とにかくこの先にSランク冒険者を集めろとだけ」
Sランク冒険者という単語が少し気になる。俺とビオラさんがたまたま同じ町にいたからそう表記したのだろうが、もしかしてSランクの冒険者を全て集めることが目的なのか?それなら俺やリュートさんにゆかりのあるロイドさんやアマンダさんに手を掛けたことも、ビオラさんのクラン員に手を掛けたことも説明ができる。もう一人なんて「お菓子あげるよ」って言えば着いてくるような阿保だからなぁ。居場所さえ分かってれば連れてくるのは簡単か。
「リュートさんにはこっちに来ないように連絡した方が良いか」
「あの、大変言いづらいんですけど、その方なら多分この町に来てたと」
な、なんですって!!!!
「え?いつ、だって魔力感知でもそんな気配なかったし、そもそもどうして黙ってた!」
「見つけたのは偶然です。隼人さんたちと会う少し前に町で子供を連れた大柄の男性に会って、目の前にいても全く気配を感じなくて不思議に思ったんですけど、どうやら特殊な魔道具で気配を隠しているらしくて。なにか事情があるようでここで会ったことは誰にも言わないようにって口止めをされて」
なんでそこで口止めをするかねぇ。いや、おそらく犯人はその魔道具を作った張本人だろう。あの人がいいそうなことが頭に浮かぶ。
“あらあら、リュートちゃんたちにはこれを貸してあげるわ。私が作った特別制なのよ。これを使えば隼人ちゃんにもバレずに近づくことができるはず。危ないところを颯爽と現れて隼人ちゃんたちを助けてあげれば演出はバッチリね!”
俺の師匠はなぜかシチュエーションにこだわるタイプなのだ。周りがどれだけ危険になろうとも、その段取りだけは必ず実行してくる。おかげで何度死にそうな目にあったことか (泣)
「もしかしなくてもこの町にSランク冒険者が集めらてる可能性が高い。そうなるとビオラさんでも危ないかも!」
先行したビオラさんが戻ってこないことを考えてもこの先に何かあるのは間違いなかった。敵の思惑にはまるのは癪だが、ここまできたら先に進むしかない。
「ココさんは俺の後ろから着いてきて、なにが起こるか分からないから」
頷くココさんを確認すると急いで通路の先になる部屋に入る。
部屋の中はまさに地獄絵図。部屋は東京ドームかと思うほど広く、3人のSランク冒険者がドラゴンゾンビと対峙しており、部屋の隅では小さな結界で身を守っている2人の子供、さらに結界の中には数人の見知らぬ人が体を震わせている。
「皆!!!」
ハイネとロビンが結界で守っていたのはココさんのご家族、孤児院の子供たちやシスターたちだった。
「「ハヤトさん!危ない!!」」
2人の声が重なって視線を動かすとドラゴンゾンビのブレスが俺たちの方へ放たれていた。
「流動の導きを」
俺たちに放たれたブレスは途中で軌道が逸れて壁に向かって放たれていた。
「隼人君、申し訳ないけどこいつ倒すの手伝ってくれるかしら?」
いつの間にか俺の隣に待機していたビオラさんの力は相変わらずチートだった。
スキル:流動
あらゆる流れを読み取り、その流れを自在に変えることのできる。
ビオラさんの最もチートスキルはこの流動。戦場の流れを読んで最適な運命にたどり着くスキル。つまり戦闘における最適解を導くことのできるスキルなのだ。それに加えてさっきのような攻撃の流れを変えて逸らしたり、事象改変までできるらしい。
「ビオラさんならドラゴンゾンビの性質変えて、倒したりできるんじゃないですか?」
「出来ないこともないけど、あれやると私しばらく動けなくなっちゃうから。奥の手は最後まで取っておくものでしょ」
可愛く言われてしまったが、言っていることはかなりえげつない。聖属性しか効かないアンデットの性質を変化させて、それ以外の攻撃を効きやすくする事象改変を平然とできると言ってしまうこの人が怖い。
「あ、あのビオラさん私・・・」
「ココちゃん今はその話よりもあそこにいる子たちを守ってあげて。あなたの大切な人たちなんでしょ」
「俺からも頼むよ。結界を張っている二人は俺とリュートさんの恩人の忘れ形見だから守ってもらえたら助かる」
俺とビオラさんからの言葉で少しでも罪悪感のようなものが緩和してくれればそれでいい。それに子供たちを守ってほしいのは本心だ。あの結界も師匠が作った魔道具だろうが、いくら強力な魔道具でも使い手の力量に左右される。中身は別世界の人格、見た目は5,6歳の子供なのだから、どこかの高校生探偵でもないかぎり今の状況を維持しておくのは難しいだろう。
ココさんは一瞬瞳を潤ませると力強く頷き子供たちの結界に向かってくれた。
「それじゃあ足止めは私たちがしておくから、止めは任せたよ」
メイド服のいたるところから暗器を取り出してドラゴンゾンビの足止めをしてくれるビオラさん。あのメイド服のどこにそんな暗器を隠しているのか不思議でしょうがない。
「リュートさん!シンラ!!二人ともそいつの足止め頼みますよ!!」
リュートさんは厳つい表情で頷いてくれ、となりで拳を握っている少年は笑顔で手をブンブン振っている。
「はーやーとーさーん!!!お久しぶりでーす!!!!」
それだけならよかったのだが、ものすごいスピードで俺の鳩尾に突っ込んできた。
「ゴッフ!!」
受け止めようとしたのだが、流石に“神速”の二つ名をもつSランク冒険者は捉えられなかった。腹に物凄いダメージを負って、立ち上がるのがつらい。俺の腹にダイブしてきた当の本人はキラキラした目で俺を見ている。わんこが「久しぶりに会った。撫でて撫でて!!」と言っているかの如く、目の前の少年に犬耳とブンブン左右に振れるしっぽの幻が見える。
「シンラも久しぶりだな。修行の旅に出てから会ってなかったが、元気そうでなによりだ」
左右で袖の長さが違うロングコートに手甲、逆立った栗色の髪に人懐っこい空色の瞳。うん、旅に出たのが1年位前だけど何も変わってない。
「隼人さんも元気そうでよかった!まさかこんなところで会えるとは思ってなかったから嬉しいよ!!ねぇねぇ、僕も大っきくなったでしょ!!」
こんな口調と見た目をしているが、こいつはハーフリングと呼ばれる種族で成人をしても人間の半分ほどしか身長が伸びない種族だ。そのためこいつもSランク最年少とはいえ今年で23歳になる立派な大人なのだが。
「お前なぁ。見た目も中身も全く変わってないよ。せっかく旅に出てたなら中身くらい成長してくれよ」
「ぶーぶー、僕だって見た目のことだけを言ったわけじゃないですよ。旅に出て結構強くなったと思いますよ」
自信に満ちた目を向けられちょっと成長を感じる。
「(前は“もっと大きくなります”ってずっと言ってたのにな)」
「二人ともイチャイチャしてないで、リュートさんが一人で足止めしてくれてるんだからさっさと行ってきて」
イチャイチャとは人聞きの悪い。犬とじゃれてるだけだったのだが。
「なら旅の成果を見せてもらおうか」
シンラの頭を撫でてやるとやる気が出たのか拳を握りしめてドラゴンゾンビに向かって行った。二つ名にならって神速で。
「隼人さんにいいとこ見せるぞぁ!!」
シンラの何十倍もある巨体に向かって放たれる小さな拳。だがその威力は山を割り、鉄をも砕くほど。
「ギャーーーーーーーーーー!!」
ドラゴンゾンビの悲鳴が部屋中に響くが俺たち4人はものともしない。
「一応聖魔法の準備をしながらサポートもするけど期待するなよ」
聖魔法発動のために祈りの体勢にはいるが、ストックしておいた付与魔法も同時に発動させる。力、スピード、防御の上昇に各種属性と異常状態の耐性を付与。
「さすが隼人君、それじゃあ大人しくしてもらわないとね」
ビオラさんが手にしたナイフで切りつけドラゴンゾンビの足に傷をつける。さらに目に見えないような細い糸で片足を地面に縫い付ける。
「葬送火」
縫い付けた糸から炎が燃え上がり片足を焼く。上位の火炎魔法かと思う熱量だったが、ドラゴンゾンビの耐久性の前では軽く焼けどを負わせる程度だった。
「うーん、やっぱりこういう敵って私苦手」
彼女の得意とするのは奇襲と速攻、耐久が高い相手や感知能力が長けた者とは相性が悪い。
「なら僕の出番だよね!」
神速のスピードから放たれる拳を何度も体に叩き込んでいく。正直こちらも目で追うことができないほど速い。しかもこいつ魔法の無効化までスキルで持ってるので、魔力を使った攻撃の一切が通用しない。もちろん俺が掛ける付与魔法も例外ではない。さっき掛けた付与もシンラには無効。だが彼にはもう一つ強力なスキルを持っている。
「速度を上げるよ!シルフ!!」
シンラの周りを緑色の玉が飛翔している。彼が使っているのは“精霊使役”、悪魔と同じように別世界の住人である彼らを使役して力を借りる精霊魔法はシンラが持つ魔法の無効化が効かない。つまりあの神速のスピードは精霊シルフによる恩恵なのだ。さらに精霊魔法は通常の魔法と違って、精霊自信が魔法発動を行っているため、魔法の適正が無くても魔法を発動させることができる。
テイルズオブリバースのガスティーネイルの詠唱そのまま使うのはダメですよ
風の刃で作られた爪でドラゴンゾンビの体を抉る、肉が剥がれ血が噴き出すが不死の属性をもつドラゴンゾンビには致命傷にならない。だが、動きは鈍るし体の再生にも時間は掛かる。
「シンラちょっと離れてろ」
接近戦を得意とするシンラは常にドラゴンゾンビの至近距離にいる。ここにいる戦闘員の攻撃ではシンラに多少の被害が出てしまうかもしれない。
「リュートさんは心配性だね。僕なら大丈夫なのに」
「心配はしておらんが、俺の攻撃はお前のスキルでも防御できないものだからな。万が一の保険と思っておいてくれ」
暗黒竜ヴァルハザードを倒し、その能力を引き継いだリュートさんは元々は人間だったらしい、ヴァルハザードを討伐したことで竜人族と呼ばれる伝説の種族になってしまったらしい。竜人族はその高い身体能力と魔力を必要としない様々なスキルを持つがゆえに滅ぼされたとされる伝説の種族。どうやら特殊なドラゴンを倒すことで竜人という種族になれてしまうようだ。
そんなリュートさんの一番の強みは継続戦闘能力。治癒能力や高い防御力のおかげで1週間は戦い続けることができるらしい。全冒険者の中でもトップの防御能力を誇るリュートさんなのに師匠はものの数十分で戦闘不能にしたとか言ってたから、あの人本当に化け物だよね。
「コキュートスブレス!!」
リュートさんが大口を開けて放ったのは物凄い冷気のブレス。アンデット種は火と聖魔法以外には絶対の耐性を持ってるのでこのブレスで倒すことはできないのだが、冷気は一瞬にしてドラゴンゾンビの足と床を縫い付けて動きを止めている。
お返しとばかりにドラゴンゾンビもファイヤーブレスで応戦をしてくるがリュートさんの腕が一瞬にしてドラゴンの鱗に覆われブレスを片手で防ぎ切った。
「あいかわらず物凄い防御力ですね。その防御を崩せる人を見たことが無いですよ」
「実はつい最近ものの数分で崩されてな。俺もまだまだ修行不足と痛感したよ」
ごめんなさい、それうちの師匠です!!
「そんな方がまだ世界にいたなんて、一度お会いしたいものね」
「僕も是非手合わせしてもらいたいです!」
二人とも絶対やめた方が良い。
だが流石Sランク冒険者たちだ。無駄話をしながらでも着実に俺の要望(足止め)を遂行してくれている。俺がちゃんとサポートに回れてればもっと動きやすくできるとは思うのだが、こればかりは役割的に仕方がない。
「準備できたぞ。みんなアンデットドラゴンから離れてくれ」
祈りの時間も十分。俺の信仰心をみせてやろう。
しかし俺の聖魔法が発動することはなかった。理由は簡単、突然アンデットドラゴンが姿を消したからだ。逃げたとかそういうのではなく、転移のような感じでその場から忽然と消えたという言葉が正しい。
「だけどあれだけの巨体を転移させれるなんて一体誰が?」
疑問を巡らせているとパチパチパチパチと拍手の音が部屋中に響く。
「さすが世界に4人しかいないSランク冒険者の皆さんだ。アンデットドラゴン如きでは足止めすら難しい」
突然部屋に現れたのは白衣を着た長身の男。モノクルを着け、ボサボサの髪を無造作に束ねている。その容姿だけなら研究者としてどこにでもいそうなのだが、彼から放たれる雰囲気がどこか気持ち悪い。
「貴殿は一体何者だ?その禍々しい気は一般人ではあるまい」
「それにあなたの流れ、見ているだけで気持ち悪いわ」
「いろんな魔力が混ざり合って気分が悪くなる」
シンラ以外の3人は感知系のスキルや能力があるため、目の前の研究者の異常さが一瞬でわかってしまう。
「さすが“竜殺し”に“死の揚羽”に“万能”お三方とも尋常ならざる雰囲気を感じます。それに“神速”先ほどのお菓子はお気に召していただけましたかな?」
どうやらシンラをここに連れてきたのもこの研究者野郎のようだ。それにしても本当に「お菓子あげるからついておいで」って言われて着いてきたのかこの阿保は!!
「うーん、さっきもらったお菓子なんか嫌な感じがしたから食べるの辞めちゃった。ごめんねおじさん」
「これまた素晴らしい危機感知や直感といった類の能力でしょうか。出された物が危険だと見抜くその感性は素晴らしいです」
ここまで言われればこいつは敵確定だ。ここに集められた訳も分からんが、準備は進めておくに限る。
「世界最高戦力であるあなた方をお待ちしておりました。私の望みのため、あんたがたには贄となっていただきます」
研究者の男の手元が動く。突然振動が部屋全体を揺らし、巨大な4本の柱が部屋の四隅に現れる。あの支柱は不味い!!
「エクスチェンジ!」
いざという時に備えて準備していた位置変化の付与。対象物と自分の位置を入れ替える転移の一種だ。部屋の外に置いてきた小石と俺たち4人+子供たちの結界内にいる人々の位置を入れ替える。しかし、ここで問題が2つ発生した。一つは師匠の用意した結界が強すぎて俺のエクスチェンジすら弾いてしまったこと。もう一つは俺が用意してきた小石の数が明らかに足りないこと。俺が用意した小石の数は6つ、結界内には目視だけで7人の人がいる。もしかしたら隠れてもう2,3人いる可能性を考えると明らかに数が足りない。すでにSランク冒険者の位置変化は完了。あの支柱が起動するまでに結界内の人たちの移動を完了させないとまずい。だが、研究者の男が黙って俺たちの移動を見ていてくれるわけがない。
「展開せよ 神殺しの槍!」
お読みいただきありがとうございます。
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