万能メイド推参
ヒスイのお品書き
ヒスイ「主にはメイドより執事の方が好みなんだろうなぁ
本日のお品書き
・信仰心
・懐かしき貴族
またまたバトルの予感」
半日縄で椅子に縛られてひどい目にあった。部屋の布団でぐったりとしていると西城が言い忘れたことがあると乗り込んできた。
「あの子が明日戻ってくるそうよ。あんたも頑張りなさい」
西城からとんでもない言葉が飛び出してきてしまった。
「あいつが帰ってくる・・・・・・よし、旅に出よう。半年、いや1年は身を隠さないとあいつは諦めない」
そうと決まれば早速準備をしよう。店は閉めて、子供たちは西城とグリに任せて、庭の野菜たちはどうしよう。今日収穫できる分だけ収穫して残りは畑事くりぬいてアイテムボックスに入れるか、蔵もちょっと大変だけど無理やりアイテムボックスに突っ込めばなんとか。
「ここから出ようとしても無駄よ。あの子は地の果てまでもあなたを探しに行くわよ。それに子供たちがいるんだからあの子が戻ってきた方が色々と都合がいいでしょ。諦めなさい」
確かに子供たちのことを思えば彼女が戻ってきた方が色々と都合はいい。だが、俺の平穏はなくなってしまう。
頭を悩ませること数時間、いつの間にか日付が変わってしまった。
「結局なにも対策を思いつかなかった・・・・」
朝食を作りながらため息が出る。ちなみに今日は卵焼きにきんぴらごぼう、川魚の塩焼きというザ・日本の朝食を作り上げる。
「今日は随分手間がかかるものにしたのね。いつもなら煮るだけ焼くだけで大量に作れるものにするのに」
日本食にしたのは理由がある。日本食はこの国で俺しか作ることができない、今のうちに唯一他人に自慢できることを示しておきたかった。
「これから俺の出番はなくなる・・・・俺の仕事がなくなるからな」
そう彼女が来れば今俺が毎日やっている家事はすべて取られてしまうだろう。
「そう言ってくださるのなら修行に出たかいがあったというものです」
店の入り口から聞きなれない女性の声がして恐る恐る見ると思っていた通りの人物が立っていた。
「早かったわね、ユーリ」
「凛様も相変わらずの様子で安心いたしました。ハヤト様、あなたのユーリが戻りました」
ユーリは見事に着こなしているメイド服の裾を持つと丁寧にお辞儀をする。
ユーリは数年前奴隷商人に捕まっていたところを助けたのが縁で俺の従者となった女性だ。年齢は20歳と年下だがしっかり者で努力家だ。見た目も綺麗なブロンドの髪を綺麗にまとめ、物腰柔らかな顔立ちをしており、元居た村でも美人で有名だったとのこと。
「久しぶりだな。もう修行とやらは大丈夫なのか?もし足りないようならあと数年ぐらい」
「いえ、いつまでもハヤト様のお側を離れるわけにはまいりません。奥様たちからもお許しをいただきましたので、これまで以上にハヤト様のお役に立つことができますでしょう」
ユーリは助けた恩として俺の従者になりたいと申し出た。当時も今も従者など持つ気は全くなかったのだが、彼女の熱意と根性に負けて従者になることを許可した。というより「従者にならないのならこの世にいる意味がない」と自殺しようとまでする始末。
実際彼女の働きっぷりは優秀だった。家事全般はこなせるし、冒険者として活動する際の根回しや依頼の管理など事務的な仕事もこなしてくれていた。あまりにも優秀すぎたため、俺の仕事が本当になくなるほど・・・・・冗談じゃなく。
見かねた西城がメイドとして修行をしないかと言って、ある貴族のところに修行に出してから半年が立って戻ってきたというわけだ。
「奥様たちも是非ともご挨拶したいということで外でお待ちいただいております。お通ししてもよろしいでしょうか」
「ああ、好きにしてくれ」
こんなところまでよく来たものだと思ったが入ってきた人物を見るとさらに驚愕する。
「え?!
「ご無沙汰じゃのうハヤト殿」
「今日は家族でお邪魔させてもらったよ」
入り口にいたのはローゼンクロイツ伯爵とトライドル婦人。その後ろには息子で王国騎士団長のクロード、それに妹で未来予知のスキルを持つアリスも一緒だ。
「ハヤトさんお久しぶりです。お邪魔します」
「皆さんようこそお越しくださいました。それよりユーリがメイド修行していた貴族ってもしかして」
「私の所ですわ」
トライドル婦人が不敵な笑みで答える。
「彼女を引き取ることで凛殿とつながりが出来てハヤト殿を紹介していただいたのじゃ。その節は大変世話になったのぅ」
「こちらこそ、うちの従者を預かっていただいてありがとうございます。トライドル婦人の所でしたら、さぞ実りある時間を過ごせたことでしょう」
「ええ、奥様のところで働いているメイドたちも大変優秀で学ぶことが多くございました。それに奥様自らご指導いただいたこともございます。私からも改めてお礼を申し上げます」
トライドル婦人自ら教えることって超怖いんだけど。ここは黙っておこう。
「ユーリは大変優秀だったからこのままうちの屋敷で働いてほしいぐらいよ。ハヤト殿の所が嫌になったら・・・・ふふ、それを言うのは愚問ね」
「さようでございます。私がハヤト様から離れることはございません。この命が尽きるその時まで」
本人にとって誇りあることなのだろう、その言葉から伺える自信は凄いものだ。
「ハヤト殿。私も直接お礼を言いたく、今日は参りました」
騎士団長であるクロードとは確かに直接話したことはない。事件の時も体の負担が大きかったようで俺が屋敷を出るまで眠っていた。
「改めて家族を愛しの妹を助けていただき感謝いたします」
クロードは本当の王子様かと思うほどの美貌と品位を持っている。それは今のお礼の仕草一つからでも分かるほど優雅なものだった。
「いえ、あの件はすでに十分なお礼もいただいてますのでお気になさらず。それよりせっかく来て下さったのですからよろしければ何か食べて行ってください。皆さんのお口に合うものが出せるかは分かりませんが」
「いやいや、隼人君が作ってくれるものは美味なものばかり。ユーリを送り届けるというより私たちは君の料理を楽しみに来たのだからね」
普通の貴族なら家族で魔の森の奥にあるこの場所に来れるわけがないのだが、この家族は特別だ。ヴァルキリーと恐れられるトライドル婦人に魔法の名門貴族当主の伯爵、騎士団隊長のクロードに12歳にして冒険者をやっているアリス。この戦力なら魔の森くらい突破できるだろう。
「それは嬉しいことを言ってくださいますね。では早速何かお作りいたします」
「ちょっと待ってくれないか」
台所に戻ろうとした俺をクロードが止める。
「隼人殿、私がここまで来たのはもう一つお願いがありまして。是非とも一手御指南お願いしたい」
クロードの言葉に顔をしかめようとしてしまうところを何とか堪える。正直こういうのが一番面倒臭い。ベイカーの時もそうだったが戦いを挑まれること自体はそれほど面倒ではない。俺と戦うことで自分に足りないものを知りたい、などと言ってくる輩が面倒なのだ。ただ強くなりたいのなら、新しい魔法やスキルを獲得する手助け(時々付与してしまうこともあるが)をするのだが、戦闘の中でということに関しては全く役に立てない。
そもそも武術や魔法に関して触れている期間はこの世界にいる住人の方が長いのだ。俺がこの世界に来て5年しか立っていないのに、何十年も研究をしている賢者とか言われるから誤解される。魔法も武術も素人に毛が生えた程度しか知識も経験もないのだ。
「技術に関してはクロード様が数段上です。俺の強さはスキルとステータスによるものですから、お教えできることもないでしょう。それでも私と戦いたいと言うのでしたら」
ここは脅しにかぎる。ため込んでいた魔力を一気に解放する。魔力を少しでも感じることが出来る者なら腰を抜かしてもおかしくないほどの圧力。実際アリスは腰を抜かして恐怖で顔がぐしゃぐしゃだ。トライドル婦人と伯爵様は流石というべきか、表情は険しいがしっかりとこちらを睨んで立っている。そしてクロード様はというと。
「あっ・・・・」
一番近くで魔力を感じてしまっているためか恐怖と高濃度の魔力で頭がうまく回っていないようだ。これ以上やると再起不能にしてしまいかねない。
「実力の差ということでしたら、こちらでお分かりいただけたかと思います」
スッと魔力を消すとクロードは硬直していた体制から尻もちをついた。
「怖がらせて申し訳ありません。ですが、格上の者を相手にするときは心したほうが良いでしょう。話を聞かずただ殺戮のためだけに力をふるう輩もおります。私と戦いたいのであればあれに耐えられるようになってからですね」
俺の言葉で悔しそうに顔をしかめるが、こういう誠実なタイプには実力差をはっきりと分からせてしっかりと指導をしてくれる人の元についた方が強くなれる。俺では成長の役に立つことはできないだろう。
「それでは」
「私たちなら合格ということでしょうね」
クロードを納得させて安心したのもつかの間、保護者のトライドル婦人とローゼンクロイツ伯爵がやるき満々だった。
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