はちみつレモンプリン
本日のお品書き
・はちみつレモンプリン
・2つの宝石
「念には念を入れます」
「これは結界魔法か?!」
伯爵様が驚きの声をあげた。
俺が発動したのは“結界魔法”本来なら相手を内部に閉じ込める魔法なのだが、少し工夫すれば大変使い勝手のいい魔法だ。自分の周囲に展開すれば守りの壁としても使えるし、内部の環境をある程度変えることもできる。今回は声が外に漏れないようにするものとこの部屋の外から部屋の中を覗くことができない2種類の効果をもつ結界だ。ただ、魔力消費が大きく1人で使える人間はあまりいない魔法だそうだ。
「遮音と外からの視覚防止、2種類の効果がある結界です。この部屋にのみですが、これで聞かれる心配はないと思います」
2人は俺が結界魔法を使えることに驚いているようだが、それよりもアリスのことを話さなくはならない。
俺はアリスの未来予知のこと、アリスのお兄さんが伯爵様を殺す未来を視たことを話す。
2人とも一言もしゃべることなく、俺の話を聞いてくれた。すべて話終わると大きなため息と共に伯爵様が口を開く。
「あの子は、これまでずっと苦しんでいたのか、あの子の苦しみにも気づかず・・・・・お義母様もおっしゃっていたが、自分の不甲斐なさに反吐がでるよ」
凛々しいイケメンの顔が今は悔しさと不甲斐なさでひどい顔だ。隣に座るトライドル婦人も冷静を装っているが、手に持つ鉄扇がミシミシと音を立てている。相当腹にきているのだろう。
「あまりご自身を責めないでください。それに今大事なのは未来をどう変えるかです」
正直2人とも今そんなことを考える状態でないのは分かってる。だけどアリスの未来予知がいつ起こることなのか分からない以上、今すぐにでも起こる未来である可能性がある。急いで対策をしなくてはならない。
「伯爵様、失礼を承知でお尋ねしますけど息子さんに殺されるような心当たりはありませんよね」
「当然だ。アリスのことで多少言い合いになることはあるが、基本家族円満に過ごしている」
アリスの話からも家族はとても仲がいいのは分かっていた。なら他に伯爵様を殺す動機はなにか。
「トライドル婦人はどうです?もしあなたが2人を争わせるならどのような手を使いますか」
2人のことを良く知らない俺がいくら考えても分かるはずもない。ならこの中でアリスの未来予知に現れていないトライドル婦人ならなにか分かるかもしれない。
「この二人が憎しみ会うということは、まずありえないことね。それは祖母である私が保障いたしますわ。そして2人を争わせることは意外に簡単よ。アリスを殺して、その犯人をロベルトに仕立て上げる。これだけであの子はロベルトを殺しに来るでしょう」
「お義母様!!」
「落ち着きなさいロベルト、これは戦術の一つ。相手(敵)を調べ、何をすれば嫌がるのか、怒るのか、悲しむのかを考えて、行動を予測すること。戦いの基本です」
流石戦姫と呼ばれるだけのお方だ。戦場を視る冷静な判断は歴戦の戦いから学んだものだろう。年季が違いすぎる。
ただ戦術の一つとしても愛する孫娘を殺すなんてよく言えるよな。
「もちろんこれは私が2人の無慈悲な敵となり殺し合いをさせる手段の一つです。ただ、隼人殿も分かる通り私たち家族はアリスを愛しています。あの子になにかあれば私たちだけでなく、私たちが保有する戦力全てを使って犯人を粛清するでしょう」
サラッととんでもないことを口走るなぁ。
でも確かにアリスを使うことは息子さんだけでなく、伯爵様やトライドル婦人にも影響がでる。殺人や誘拐で殺すよう誘導させることもできる。
「あと、単純にお聞きしたいんですけど。2人が本気で戦えば伯爵様は息子さんに負けますか?」
「本気でやりあえば、間違いなく私が負けるだろう」
騎士団長を務めるこの国最強の騎士、対して魔術の名家の当主。魔法戦なら打ち勝てる自身があるとのことだが、息子さんにはトライドル婦人直伝の戦闘術がある。接近戦に持ち込まれれば間違いなく負けるそうだ。
「実力でいえば私とロベルト2人がかりでようやく抑えられるぐらいかしら。あの子はアリス同様努力を惜しまない子だったからね」
孫の成長が嬉しいのは分かるが、手が付けられないほど強くなるのもどうかと思ってしまう。
しかし単純に戦えば伯爵様が負けてしまうなら伯爵様を守るのが一番得策だ。
「なら俺がいつでも伯爵様の護衛ができる状態にしましょう。伯爵様にはこれをお渡ししておきます」
あまり使いたくない手だがアイテムボックスから2種類の宝石を取り出した。
「これは宝石かい?ずいぶん強い魔力を感じるが」
「ええ、“召喚の宝珠”と“身代わりの輝石”というアイテムです」
「「!!!!」」
2人が驚くのも無理はない。このアイテム実はとんでもない代物だ。
召喚の宝珠
宝珠に登録してある人物をどんな距離だろうと一度だけ召喚することが可能。
身代わりの輝石
どんな攻撃でも一度だけ防ぐ石。
どちらも使い捨てのものだが、その効果は破格。片方だけでも国宝級の魔道具だ。
「昔手に入れたものなのですが、使う機会がなくてアイテムボックスに眠っていたものです。是非使ってください」
「し、しかしこれほどの貴重な魔道具、譲り受けるわけには・・・・」
俺としては自分が使う機会のない魔道具なのであげる分には全く問題ない。そもそもこの魔道具、売ろうとしても値段が付けられないほど高価なものなので、買い取ってくれる所もない。そんなこんなでアイテムボックスに入れてそのままのものだ。
「お嬢様のためと思ってもらってください。それにお礼なら凛のやつに言ってやってください、あいつから譲り受けたものですし」
嘘は言っていない。
実はこの宝石は昔俺が作ったものだ。正確にいえば西條が珍しい宝石を手に入れたので、自分用に自衛の魔道具にしてほしいと依頼があった。西條は防御魔法なんかを希望してたみたいなんだが、せっかくなら少し強力なものにしようと色々試していたら元の宝石が変形・変色してしまった。なんとかできたのだが一度きりの使い捨てだが、破格のものができたため西條に自慢げに伝えたら「なんてもん作ってくれてんのよ!こんなの普段から持ってられるわけないでしょ!!」と怒られた。結局そのまま俺がずっと持っている状態だった物だ。
それでも伯爵は「しかし・・・」と渋っていたので、問題が解決したとき俺の欲しい物を下さい。という約束をして宝石を無理やり渡した。
緊急時に関してはこの魔道具でどうにかなるため、こちらも万全の状態で準備しておく必要がある。なので今日は一旦家に帰ることにしようとしたのだが。
お嬢様が最近食欲がないようなので、なにかいいレシピがあったら教えてほしいと執事のセバスさんから聞かれたので、現在厨房を借りて料理を作っている。
食欲がないならあまりおもいものは避けるとして、栄養価があって食べやすいもの。フルーツゼリーとかを考えたがあいにくゼラチンはこの世界でまだ見たことがなかったため、プリンを作ることにした。ただこの世界だと砂糖は高価なため、使うのははちみつを使ったはちみつレモンプリンだ。
まず、レモンの半分を輪切り、半分からレモン汁を絞って、皮の表面をすりおろす。小鍋にはちみつとレモンの輪切り、水、レモン汁を入れて中火で煮詰めてはちみつレモンを作る。
ボウルにガルーダの卵、はちみつ、ミルクを入れよく混ぜてからザルで漉す。漉し終えたらレモンのすりおろしを入れて混ぜ、耐熱の器に入れていく。
底の深いフライパンにプリン液を入れた器を置き、器の半分くらいまでお湯を入れたら、中にお湯が入らないように平たい皿やソーサーで蓋をする(この世界にはラップなんてないからね)あとは20~30分程度蒸してプリンを固めていく。固まったら荒熱をとり、はちみつレモンを上に載せて冷却魔法で冷やせば完成。
カラメルや砂糖を使わないため、甘さは控えめだがはちみつや卵本来の甘さ、なによりレモンの爽やかな風味で食欲がなくてもつるりと食べれるだろう。
伯爵様やトライドル婦人にも好評だったため、レシピを紙に書いて調理長さんに渡しておいた。
「それじゃあ、アリスお嬢様によろしくお伝えください」
念のためアリスにも2種類の宝石を渡してある。もちろん伯爵様経由ではなく、守護獣のピューイ経由でこっそりとだ。伯爵様用に渡しただけでも結構渋られたのに、これ以上渡したら受け取ってもらえないかもしれないからね。幸いピューイは「ありがたい」といって素直に受け取ってくれたよ。
「さて、こっちも色々と準備しないとなぁ」
ちなみに西條に屋敷でのことを説明しようとしたが「あたしはあんたを仲介しただけ、なにがあったか知らないけど、これ以上あたしは首を突っ込む気はないし、あたしの協力が必要になったらその時いいなさい」とさらりと断られてしまった。
まぁあの宝石を渡したことを知られればまた、怒られそうだから助かったけどさ。
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