ショートショート2:偉大な王様の話
どこからでも読めるショートショート。
【傾向】ほのぼの
むかしむかし。
とても偉大な王様がおいでになりました。
王様のおつとめは、よく食べ、よく眠り、ご機嫌良くお過ごしになることでした。
政治や労働、勉学や芸術などという些末な仕事は、下々の民の役目でした。
しかし、ああ、王様の大慈悲の御心のなんと深く広いこと!
王様はそのような酷い役目を負う民草を哀れに思し召しめし、国中の学者と錬金術師にお命じになったのです。
哀れな民に代わり、つまらぬ仕事をさせるための奴隷を作るように、と。
学者と錬金術師はどのような奴隷がふさわしいか、相談に相談を重ねました。
労働を効率よく行うために、体は大きい方がいいだろう。
我々に仕え、我々を心地よくするつとめには、器用な指先が必要だ。
反逆の考えなど起こさぬよう、賢いが従順で、勤勉だが愚かな脳を。
万一を考えて、ささいな傷でも血を流す、弱く脆い表皮を与えよう。
いくばくかののち、錬金術師の銀のフラスコのうちで、新しい生命体が誕生しました。
それは大変に醜く、見るもおぞましい生き物でした。
けれど、奴隷の見た目など、誰が頓着するというのでしょう。
王様は大変に満足なさいました。
以来、王様のお国では、下賤な仕事は、全てこの卑しい奴隷のものとなったのです。
自分たちを労役から解放してくださった王様に、民は限りない感謝を捧げました。そうして、その時から永遠に、王様の種族は二度と奴隷の役目をすることはなくなりました。
現代では、王様の種族は『ねこ』と呼ばれています。
<おわり>